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第09話 面倒な女
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トリスタンの犯した愚行はあっという間に知れ渡る。
それもそうだ。
学園は基本、貴族だけだが貴族もピンキリ。
侯爵家や大公家の子女もいれば親が1代限りの爵位を持つ学園生自身は平民の騎士爵家や準男爵家の子女もいる。
身分差のあり過ぎる「真実の愛」に民衆は盛り上がったが決して手放しに喜んだわけではない。
それでも第1王子トリスタンの相手がメイリーン。
パドマという伯爵家の令嬢を捨ててまで選んだ相手に誰もが驚いた。
「王子様ってあぁいぅタイプが好きなんだな。俺は遠慮したいけどさ」
「蓼食う虫も好き好きって言うだろ。幸せの絶頂に登りつめるまではフィルターかかってるから」
「だよな。そうじゃなきゃメイリーンなんてなぁ」
メイリーンは1年前までは男爵家に住んでいた娘である。その前は子爵家。さらにその前も別の子爵家。
有期契約で貴族の家に住み込んで下働きをする両親の元に生まれた女の子だった。
メイリーンが12、13歳頃まで両親は2~4年の契約で働いていたのだが、ここ最近は1年未満。
現在両親は失職中で使用人の募集があれば面接に出向いているが、日々の生活は週に2、3回ありつける日雇いの荷下ろしなどで稼いでいる。
そうなった原因はメイリーン。
周囲から見れば兎に角手癖が悪い。
そして激しい被害妄想にプラスした虚言癖のある痛い女にしか見えなかった。
面倒なのはメイリーンは盗んだと思っていないし嘘だとも思っていないことである。
トリスタンと付き合う前は破落戸の下っ端と付き合っていたが、その時のメイリーンは「反社の破落戸が喉から手が出るほど欲しがる女」がメイリーンで、下っ端である彼氏は兄貴分やさらにその上に居る男たちにメイリーンを差し出せと言われて葛藤。メイリーンも下っ端の事を愛していて身も心も捧げ‥‥妄想だった。
現実は?と言うとメイリーンが下っ端の男に熱をあげていたのは事実で、男が「金!」と言えば街角に立って客を取り、売り上げを渡していた。
男の上役がメイリーンを取り合う…なんてことはなくむしろ「もっと稼がせろ」と街角ではなく娼館に放り込んで月によって前後するアガリを一定額にしろとハッパをかけていたくらいだ。
両親は真面目に働く人間だったが反社との付き合いがある娘がいるとなると住み込みは出来なくなり、どの家も雇ってはくれなくなった。
メイリーンが生まれる前から夫婦でコツコツと貯めた金はもう底を突いていて現在の住まいは公園の植え込みの中である。
少し前までは破落戸の下っ端とそういう関係にあったが、今度の獲物が第1王子。
今回のメイリーンは「没落貴族に無理やり押し付けられた先王の落とし胤」という設定である。
勿論メイリーンの脳内だけの話だ。
そして住んでいた家はダーズ伯爵家の借りている家で直接話をしたのは入学式が初めてだったがパドマとは幼馴染。しかし昔からメイリーンに嫉妬をしているパドマはメイリーンには優しく声を掛けるように見せかけて嘲笑する女。
それを助けてくれるのが無理やりパドマの婚約者にされたトリスタンで、メイリーンとトリスタンは道ならぬ恋に苦しみながらも幸せを掴む…というのがメイリーンの妄想筋書きだ。
妄想筋書き通りならメイリーンとトリスタンは伯母と甥になる。
メイリーンの妄想ではパドマの婚約者は侯爵家の嫡男のハズだったが、メイリーンに言わせると「対応可能なイレギュラー」である。
会った事も無い幼馴染がパドマなのだからメイリーンの妄想設定は破綻しているのだが、意外にもトリスタンが自分に落ちたので何の問題もないとメイリーンは考えていた。
なのに。
渦中の人となったメイリーンは「ぎりり」と歯ぎしりをした。
「なんでアタシ、スタン様にも置いてかれてんのよ!」
入学式だったため学園生たちは「この日と卒業式だけは」と保護者も馬車を調達し、やってきている。
馬車も豪奢な馬車から、日頃は品物を運ぶ小型の荷馬車に応急に上屋をそれっぽく乗せたものまであるが、歩きで正門を出て行くのはメイリーンだけだった。
「おかしいッ!おかしいッ!おかしいッ!」
ガジガジと爪まで齧るので爪に塗った染料が粉になって口の周りに飛び散りちょっとしたスプラッタ状態。
但し血ではない。
現在開発されている爪に塗る染料は水彩絵の具の延長のようなものなので口に入るのはどうか??とその点は心配だが、水分に触れてしまうと溶け出すのでそれが口の周囲にベタベタとついているだけ。
トリスタンに買ってもらった道化のようなドレスに悪戦苦闘しながら公園の植え込みの中で「陣地」と呼ばれる家に戻っていったのだった。
それもそうだ。
学園は基本、貴族だけだが貴族もピンキリ。
侯爵家や大公家の子女もいれば親が1代限りの爵位を持つ学園生自身は平民の騎士爵家や準男爵家の子女もいる。
身分差のあり過ぎる「真実の愛」に民衆は盛り上がったが決して手放しに喜んだわけではない。
それでも第1王子トリスタンの相手がメイリーン。
パドマという伯爵家の令嬢を捨ててまで選んだ相手に誰もが驚いた。
「王子様ってあぁいぅタイプが好きなんだな。俺は遠慮したいけどさ」
「蓼食う虫も好き好きって言うだろ。幸せの絶頂に登りつめるまではフィルターかかってるから」
「だよな。そうじゃなきゃメイリーンなんてなぁ」
メイリーンは1年前までは男爵家に住んでいた娘である。その前は子爵家。さらにその前も別の子爵家。
有期契約で貴族の家に住み込んで下働きをする両親の元に生まれた女の子だった。
メイリーンが12、13歳頃まで両親は2~4年の契約で働いていたのだが、ここ最近は1年未満。
現在両親は失職中で使用人の募集があれば面接に出向いているが、日々の生活は週に2、3回ありつける日雇いの荷下ろしなどで稼いでいる。
そうなった原因はメイリーン。
周囲から見れば兎に角手癖が悪い。
そして激しい被害妄想にプラスした虚言癖のある痛い女にしか見えなかった。
面倒なのはメイリーンは盗んだと思っていないし嘘だとも思っていないことである。
トリスタンと付き合う前は破落戸の下っ端と付き合っていたが、その時のメイリーンは「反社の破落戸が喉から手が出るほど欲しがる女」がメイリーンで、下っ端である彼氏は兄貴分やさらにその上に居る男たちにメイリーンを差し出せと言われて葛藤。メイリーンも下っ端の事を愛していて身も心も捧げ‥‥妄想だった。
現実は?と言うとメイリーンが下っ端の男に熱をあげていたのは事実で、男が「金!」と言えば街角に立って客を取り、売り上げを渡していた。
男の上役がメイリーンを取り合う…なんてことはなくむしろ「もっと稼がせろ」と街角ではなく娼館に放り込んで月によって前後するアガリを一定額にしろとハッパをかけていたくらいだ。
両親は真面目に働く人間だったが反社との付き合いがある娘がいるとなると住み込みは出来なくなり、どの家も雇ってはくれなくなった。
メイリーンが生まれる前から夫婦でコツコツと貯めた金はもう底を突いていて現在の住まいは公園の植え込みの中である。
少し前までは破落戸の下っ端とそういう関係にあったが、今度の獲物が第1王子。
今回のメイリーンは「没落貴族に無理やり押し付けられた先王の落とし胤」という設定である。
勿論メイリーンの脳内だけの話だ。
そして住んでいた家はダーズ伯爵家の借りている家で直接話をしたのは入学式が初めてだったがパドマとは幼馴染。しかし昔からメイリーンに嫉妬をしているパドマはメイリーンには優しく声を掛けるように見せかけて嘲笑する女。
それを助けてくれるのが無理やりパドマの婚約者にされたトリスタンで、メイリーンとトリスタンは道ならぬ恋に苦しみながらも幸せを掴む…というのがメイリーンの妄想筋書きだ。
妄想筋書き通りならメイリーンとトリスタンは伯母と甥になる。
メイリーンの妄想ではパドマの婚約者は侯爵家の嫡男のハズだったが、メイリーンに言わせると「対応可能なイレギュラー」である。
会った事も無い幼馴染がパドマなのだからメイリーンの妄想設定は破綻しているのだが、意外にもトリスタンが自分に落ちたので何の問題もないとメイリーンは考えていた。
なのに。
渦中の人となったメイリーンは「ぎりり」と歯ぎしりをした。
「なんでアタシ、スタン様にも置いてかれてんのよ!」
入学式だったため学園生たちは「この日と卒業式だけは」と保護者も馬車を調達し、やってきている。
馬車も豪奢な馬車から、日頃は品物を運ぶ小型の荷馬車に応急に上屋をそれっぽく乗せたものまであるが、歩きで正門を出て行くのはメイリーンだけだった。
「おかしいッ!おかしいッ!おかしいッ!」
ガジガジと爪まで齧るので爪に塗った染料が粉になって口の周りに飛び散りちょっとしたスプラッタ状態。
但し血ではない。
現在開発されている爪に塗る染料は水彩絵の具の延長のようなものなので口に入るのはどうか??とその点は心配だが、水分に触れてしまうと溶け出すのでそれが口の周囲にベタベタとついているだけ。
トリスタンに買ってもらった道化のようなドレスに悪戦苦闘しながら公園の植え込みの中で「陣地」と呼ばれる家に戻っていったのだった。
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