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cyaru

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第65話  出て行ってくれ~Ah~

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轟轟と燃え上がる炎。

ブランシル辺境伯家の広い庭の一画では大きな穴が掘られ、リュシアンの部屋にあった明らかにゴミであるものがどんどんくべられて灰になっていく。

火力が弱くなると火魔法を使える使用人が魔力を使い更に強い炎に変えていく。
夕方になって半分ほどを燃やし、残りは明日と使用人たちが火の始末をしていると8日連続待ちぼうけを食らわされ、時間を潰すのにダーツバーで過ごしたリュシアンが帰宅した。


「な、何をしているんだ?!」
「何って。ゴミを燃やしているんです」
「ゴミだと?これは俺の私物ではないか!」
「違います。旦那様がリュシアン様にと送って10年。1度も使われる事の無かった品、それから任された書類です」
「書類だったら猶更燃やしてはならんだろうが!」

「何言うてますのん?」使用人はジト目になってリュシアンを見た。

確かに書類は保管義務のある期間もあるし、永久保存になる書類もある。
しかし、今、燃やしていた書類は意味のないものだった。

書類が手元に回ってきたリュシアンはデロアと遊びに行きたいばかりに引き出しの中にしまい込み、届いてない、貰ってないと言い張って結局手を付けず先代辺境伯は別途同じ書類を作り報告書としたり、提出書とした。
同じ内容でリュシアンが決済をすれば良かっただけの書類は先代が何年、何カ月も前に作り直し既に終えている。

近くにあった書類を数枚無造作に掴んだ使用人はリュシアンに差し出した。

「日付をご覧ください」
「日付?」
「えぇ。どれも半年前、2年前などとっくに終わっている書類。しかも!提出用なのでここに今、ある事が摩訶不思議な書類です。ご安心ください。正本は王宮に、副本は旦那様の元に御座いますので」


リュシアンの顔が見る間にカァーっと赤くなった。
すべきことをせず、隠している。それは自覚もあった。赤くなったのは隠していたはずなのに見つけられてしまったことに対してだった。

「か、勝手に執務室に入ったな?誰が引き出しの中を漁っていいと言ったんだ!」
「リュシアン様。おかしなことを言わないでください」
「おかしなこと?」
「もうすぐ花嫁の選定も終わります。リュシアン様に執務は必要ですか?必要ないでしょう?私たちは旦那様、奥様に命じられて不用品を焼却しているんです」
「不用品?」
「えぇ、そこに積まれている木屑。執務机ですよ?私たちは引き出しの中を漁ったのではなく、解体して出来た木製品の残骸に紙などがあったので燃やしているだけです」

リュシアンはハッとして執務机の残骸の元に行くと、引き出しに入れてあった自分の印であったり、宝飾品を探した。

「ない、ないぞ?!印がない!当主であることを示す印がないぞ?!」
「ある訳ないでしょう?印は当主である旦那様がお持ちですから」
「え?」

リュシアンは気が付いた。
さっきから使用人は旦那様と言っているけれど、リュシアンの事はリュシアン様と呼んでいる。

今でも古参の兵士や長く務める下っ端の使用人はリュシアンの父をうっかり旦那様と呼ぶこともあるが、目の前の使用人は間違った呼び名をすることはなかった。
当然だ。リュシアンが当主となってから叔父の元から引き抜いた使用人だから、間違おうにも来た時にはリュシアンが当主だったのだから。

「お前…旦那様と言うのは誰の事を言っているんだ?」
「誰って。旦那様は旦那様ですよ」
「それは、俺か?」

少し間を置いて周囲の使用人から「ぷっ」失笑が漏れた。
目の前の使用人は「当主でない方を旦那様と呼ぶことは御座いません」真面目な顔で言った。

執務机の残骸の後方には見覚えのある柄の布があった。

ハッと上を見上げればリュシアンの部屋がそろそろ暗くなってくる空でも中が見える。

――見える…何故だ?‥‥カーテンがない?!――

リュシアンは慌てて使用人の横を駆け抜けて屋敷に入り、自分の部屋の扉を開けた。

「ど、どういう事だ?!」

部屋の中は伽藍洞。執務机もカーテンもないがないのはそれだけではない。壁紙も床の絨毯も剥がされて糊の後が残る木の板が剥き出し。天井も無くて上階の床が梁の間から見えていた。

静かに隣に並んだ執事はリュシアンに鍵を差し出した。

「これは…なんだ?」
「鍵です」
「見ればわかる!」
「それはようございました。鍵も判らないとなればどう説明をすれば良いかこちらも困ります」
「どこの鍵だと言ってる」
「今ですよね?先ほどはこれは何だと仰ったと思いますが?よぅ御座います。この鍵はリュシアン様がお住まいになる邸宅の鍵です。スペアもここに。複製をされるのであればマザーキーで。管理もご自分でなさってください」
「俺に出て行けと?出て行けと言うのか!」
「遅いか早いかの違いです。玄関までお送りしましょうか?」
「いらん!!」
「左様で。ではこちらをどうぞ」

執事はリュシアンの手にマザーキー1本、スペアキー2本の鍵を握らせると一礼して部屋を出て行った。
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