16番目の候補者

cyaru

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第66話  16番目がいたなんて

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そのまま引き下がれる訳もないリュシアンは父親の部屋の扉を蹴って開けた。

「父上!これはどういう事です?意味が解らない」
「散々考える事を放棄してきたんだ。今更考える必要が何処にある」
「うっ…ですが!父上の言う事を聞いて女どもと会ってるんですよ?くだらない時間と思っても逃げる事もせず!」
「本来の役目から何年逃げて来た。そこへ2か月と少し我慢をする時間が出来たところで埋め合わせになるとでも思っているのか?」

ブランシル辺境伯はリュシアンが手に握り、隙間から見える鍵に「貰ったのなら出て行け」静かに告げた。

家の場所は解っている。
リュシアンが選ばれた令嬢の1人を妊娠させ、男児が生まれた後でデロアと過ごす終の棲家だ。

家のために子供を作る事は務めと判っていてもデロアとの子供は認めないと取りつく島も無かった。リュシアンが提案を受け入れた時、辺境伯夫妻はかなりの譲歩をしてくれた。

値段を気にせずに好きな家を買ってやると言われ、辺境領の生活が便利であることは解っていたけれど子供が成人をすれば追い出される腰掛当主と言われるのが嫌で、副王都に大きな屋敷を買ったのだ。

王都にしなかったのは距離があるからで、かなりの金は持たせてくれるけれど金は使う事は出来ても得る術を知らないリュシアンは金が無くなった時に気軽に無心に行ける距離である副王都を選んだ。

鍵を取り上げられていたのは約束を履行せず、リュシアンとデロアが副王都に移り住んで好き放題をする事を懸念していたからだった。


「父上!花嫁はまだ選ばれていないし、子供だって生まれてもいない。どうして今、追い出すんだよ!」
「必要がないからだ。何度も言わせるな。もう選ばなくていいと言ったのはお前じゃないか。だから選ぶのはやめたんだ。その証拠に…ここ数日の間にお前に会ってくれた令嬢は居たのか?」

リュシアンは返答に困った。
もう選ばなくていい。リュシアンの心にいるのはまだ名前も知らない女性だ。
だからと言って、言われた事を疎かにはしていない。

確かに朝起きるのはギリギリだし、父の執事が叩き起こして、無理やり馬車に押し込まなかったら時間には遅れてしまっていた事は認める。

――要は結果だ。俺は会いに行ったし、彼女たちの思うままに買い物なりに付き合ったんだ――

返事がそっけなくなるのは仕方がない。選ぶ可能性は微塵もないのに優しくしてストーカーでもされたら堪ったものじゃない。冷たい態度を取るのはリュシアンなりの気遣いだ。

だがここ数日、確かに彼女たちは変わった。
以前は出迎えてくれたのに、「体調不良」「気分がすぐれない」と断られるし、中には「数日後に雨なので」と意味不明な理由で会うのを断ってきた家もある。

仕方なくダーツバーで時間を過ごしていたら外をキャッキャ騒ぎながら使用人たちと買い物を楽しむ彼女たちの姿があった。

「どういう事だ?」と声を掛けるよりも、選ばれなかった時にしつこくして来たらその事を瑕疵として断罪してやるつもりだった。


「答えられないならもういい。3度も約束を破ったんだ。継続は無理だろうからな」
「え?3度?2回ですよ。確かに始まってすぐの初日、その翌日は行きませんでした。それは認めます。でも以降はキッチリと役割を果たしています!父上の執事に問うてください!父上の執事なんだから嘘は言いませんよ」

言い返したリュシアンに辺境伯は執事に向かって目くばせをし、16番目の候補者であるアルベルティナの書類を見せた。

「は?16番目?知りませんよ!」
「知らないのか?だが…16番目の令嬢、そしてその令嬢だけは遅れて来たから街はずれの小さな家である事、会うのは3カ月の間で1度だけある先月の31日。お前も了解したと印を押して返事をして来たじゃないか」
「だったら!今日も予定があると言ってくれれば!」
「たわけ!前の日の夜からデロアを引き込み、昼まで寝ておっただろうが!31日に予定がないなど誰が言ったんだ」

覚えがないわけではない。
30日の夜は帰り道にデロアと会い、そのまま翌日の昼まで寝ていた。
31日に予定がないと思っていたのはリュシアンだけで確認もしなかった。

もう一度渡された書類を見てリュシアンはハッとした。

「こ、この家の所在って…」
「どうした?幾つも家はあるが他家の人間に自由に使わせて良い大きな家はもう空きがない。この娘は小さな家で良いと言ってくれたんだ。待っていてくれたそうだが連絡もしなかったとはな」

父親の言葉は耳に聞こえては来るが頭の中に留まらず抜けていく。
心臓が嫌な拍動を叩き出す。

候補者たちに会った後、毎日寄っていた家がここに書かれている住所。

「この女性…タイタンの…」
「タイタン?あぁ。護衛を頼んでいたがな」
「護衛っ?!」

リュシアンは居ても経ってもいられず部屋を飛び出した。
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