16番目の候補者

cyaru

文字の大きさ
1 / 89

第01話  食生活の劇的改善

しおりを挟む
「グワッグワッ」
「はいはい。ちょっと待ちなさいってば!」

今日もケーニス伯爵家の敷地の端にある小さな小屋の周辺でアルベルティナは家鴨アヒルの世話をしていた。

「ティナ。今日も大変だなぁ」
「ゼルバさん。おはようございます」
「ほれ、昼飯だ。今日は午後から雨になりそうだから洗濯物は干すなよ」
「ゼルバさんの空読み天気予報は当たるものね。今日は部屋干しにするわ」


ゼルバはケーニス伯爵家お抱えの庭師。あと2年で70歳になるが先々代夫人から庭の一画を命ある限りと任されているので老体に鞭打って庭木の世話をしている。

ゼルバは妻のマリーが作ったアルベルティナ用の弁当を差し出した。

「わぁ。ブロッコリー入り!?奮発してくれてるぅ♡」
「今が収穫でな。庭に腐るほどあって食べ飽きたよ」
「じゃぁ収穫を手伝いに行くわ。マリーさんも大変でしょう?お駄賃は現物支給で!どう?」
「マリーが喜ぶよ。来られる日を教えてくれ。その日はシチューをご馳走しよう」
「やった!マリーさんのシチュー大好きなの」
「それから、執事のディックからだ」

担いでいた麻袋をドサッと下ろすとアルベルティナは駆け寄ってきて麻袋の口を結んでいた紐を解く。麻袋の中身は立派な食材。ニンジンやリンゴ、雑穀が詰め込まれている。

紙に包まれているのはパンだったりチーズだ。

家鴨アヒル様、様ね。食生活の劇的改善だわ」

喜んでいるアルベルティナを見てゼルバはいつもの事だが悲しくなった。
本宅からアルベルティナのために何かが支給されたことはない。

アルベルティナはケーニス家で飼われているに等しい扱いを受けているが、家畜や愛玩動物は世話もしてもらえるし餌も貰える。アルベルティナは寝床があるだけの家畜以下の扱いだった。

麻袋の食料は家鴨アヒルの餌、という名目で運ぶことが許されている。

家鴨アヒルはケーニス家の第2子にして長女のエミリアが筆頭公爵家のお嬢様アメリから押し付けられたもの。

そのアメリも王太子妃になった帝国の第3皇女から下賜されたのだが家畜の世話が出来る筈も無く取り巻きのエミリアに押し付けた。

伯爵家に過ぎないエミリアも公爵家のお嬢様アメリから「飼え」と言われれば飼うしかなかったが、エミリアだって家鴨アヒルの面倒を見られるはずも無く、アルベルティナに押し付けた。

俗にいうたらい回しだ。

家鴨アヒルが早々に死んでしまったとなれば強大な力を持つ帝国の第3皇女にして王太子妃の逆鱗に触れてしまうし、庭の雑草を食べさせていますなんて口が裂けても言えないので、家鴨アヒル用に人間も食べられる食材が届けられるようになった。

使用人たちは明らかに家鴨アヒルは食べない食材も一緒にアルベルティナに運べるようになったのである。
しおりを挟む
感想 88

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

月夜に散る白百合は、君を想う

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。 彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。 しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。 一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。 家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。 しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。 偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~

塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます! 2.23完結しました! ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。 相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。 ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。 幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。 好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。 そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。 それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……? 妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話 切なめ恋愛ファンタジー

7歳の侯爵夫人

凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。 自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。 どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。 目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。 王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー? 見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。 23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。

年増令嬢と記憶喪失

くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」 そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。 ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。 「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。 年増か……仕方がない……。 なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。 次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。 なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……

処理中です...