5 / 89
第05話 事実だけの記載
しおりを挟む
さもありなん。アルベルティナはケーニス伯爵に告げた。
「解りました。家鴨は連れて行く事にしますね」
「ま、待って!!ダメよ!」
「どうしたんだ。エミリア。そんなに声を荒げて」
「そうよ。お姉様。家鴨なんて臭いし…この女と一緒に外に出した方がいいじゃない」
エミリアは慌てだした。それも当然だ。
早馬を出しても1カ月半。徒歩でも馬車旅でも片道3、4か月かかる位置にあるブランシル辺境伯領に家鴨を連れていかれてしまったら家鴨を見せろと言われた時に見せられなくなる。
「何言ってるのよ。お姉様だってコイツが家鴨を勝手に飼いだして臭い、臭いって言ってたじゃない」
「ダメなんだってば」
「どうして?あぁ、脚に金属製の足環があるから?家鴨如きに勿体ないわよね」
「そうじゃないんだってば!あ、あれは…預かってる家鴨なのよ!」
「預かってる?家鴨を?そんなの預ける人っているの?スープ用にくれたんじゃない?」
「なっ?!何言ってるの!兎に角、ダメなんだってば」
事情を知らないソフィアは遠慮なしにエミリアを追い込んでいく。
本当にスープにしてしまったら、聞くところによれば第3皇女は帝国にいた時、罪人を罰するのに同じことを罰としたと聞く。
――アツアツのエミリア煮込みが出来るわね。灰汁だらけでしょうけど――
「と、兎に角!連れて行っちゃダメ」
「お姉様。家鴨でしょう?お姉様に預けた人が返してくれって言ったら市場に行って家鴨を買って来ればいいじゃない」
エミリアはハッとした様にソフィアを見た。
先ほどまでの慌てようは何処に行った?顔色に赤みが戻った。
「それもそうね。いいわ。家鴨は連れて行きなさい」
――マジで?いいの?――
アルベルティナは聊か驚きを隠せなかった。同時にエミリアには魔力があるけれどたいしたことはなかったのか?と考えた。
ソフィアに魔力がない事は生まれた時と、5歳、10歳、15歳の節目に教会で行われる鑑定で判明している。エミリアには微力だか魔力があったはず。
第3皇女と同等とは言わないが、こんなに解りやすい魔力駄々洩れの足環の魔力も感じないのだろうか?と不思議にすら思った。
魔力を感じないにしても、エミリアに預けたアメリはこの事に言及はしなかったのか?とも考えてしまう。
だが、どうでもいい事だ。第3皇女が預けた家鴨なのかどうか。アルベルティナは知らない事になっているのだから「見せろ」と言われた時にケーニス伯爵家と筆頭公爵家がどうなろうと知った事ではない。
「では…エミリア様。家鴨は連れて行きますが盗んだと言われては困ります。領界には関所もございますし、家鴨は私に譲渡したと書面を作って下さいますか?盗品を持ち歩いているとなれば遠方まで確認に呼ばれる事もあるやも知れません。都度呼ばれてはケーニス家も困りますでしょう?」
家鴨そのものはその辺にいる家鴨と変わりはない。オスとメスを揃えれば問題ないとエミリアが思い至らないのであればその先に起こりえる出来事もアルベルティナには関係のない事だ。
エミリアがどう返事をするか。
アルベルティナには賭けでもあった。
「いいわ。譲渡書ね?作ってやるわよ。どうせ道中の食料にするつもりでしょ。野蛮な女は考える事まで卑しいわ」
エミリアはパンパンと手を打ち鳴らし、執事を呼ぶと両親や兄、ソフィアのいる前で家鴨をアルベルティナに贈ったと虚偽を書き記す事の出来ない魔法用紙を使って書面を認めた。
ここまで覚悟を決めたエミリアでも書面に「アメリから預かった」とはとても書けないだろうと考えたアルベルティナの読みは当たった。嘘は書いていない。「家鴨はアルベルティナに譲った」とだけあるので端的な事実だけだ。
――で、もう1つ貰わないといけない書面があるわね――
アルベルティナは心の中だけでほくそ笑んだ。
「解りました。家鴨は連れて行く事にしますね」
「ま、待って!!ダメよ!」
「どうしたんだ。エミリア。そんなに声を荒げて」
「そうよ。お姉様。家鴨なんて臭いし…この女と一緒に外に出した方がいいじゃない」
エミリアは慌てだした。それも当然だ。
早馬を出しても1カ月半。徒歩でも馬車旅でも片道3、4か月かかる位置にあるブランシル辺境伯領に家鴨を連れていかれてしまったら家鴨を見せろと言われた時に見せられなくなる。
「何言ってるのよ。お姉様だってコイツが家鴨を勝手に飼いだして臭い、臭いって言ってたじゃない」
「ダメなんだってば」
「どうして?あぁ、脚に金属製の足環があるから?家鴨如きに勿体ないわよね」
「そうじゃないんだってば!あ、あれは…預かってる家鴨なのよ!」
「預かってる?家鴨を?そんなの預ける人っているの?スープ用にくれたんじゃない?」
「なっ?!何言ってるの!兎に角、ダメなんだってば」
事情を知らないソフィアは遠慮なしにエミリアを追い込んでいく。
本当にスープにしてしまったら、聞くところによれば第3皇女は帝国にいた時、罪人を罰するのに同じことを罰としたと聞く。
――アツアツのエミリア煮込みが出来るわね。灰汁だらけでしょうけど――
「と、兎に角!連れて行っちゃダメ」
「お姉様。家鴨でしょう?お姉様に預けた人が返してくれって言ったら市場に行って家鴨を買って来ればいいじゃない」
エミリアはハッとした様にソフィアを見た。
先ほどまでの慌てようは何処に行った?顔色に赤みが戻った。
「それもそうね。いいわ。家鴨は連れて行きなさい」
――マジで?いいの?――
アルベルティナは聊か驚きを隠せなかった。同時にエミリアには魔力があるけれどたいしたことはなかったのか?と考えた。
ソフィアに魔力がない事は生まれた時と、5歳、10歳、15歳の節目に教会で行われる鑑定で判明している。エミリアには微力だか魔力があったはず。
第3皇女と同等とは言わないが、こんなに解りやすい魔力駄々洩れの足環の魔力も感じないのだろうか?と不思議にすら思った。
魔力を感じないにしても、エミリアに預けたアメリはこの事に言及はしなかったのか?とも考えてしまう。
だが、どうでもいい事だ。第3皇女が預けた家鴨なのかどうか。アルベルティナは知らない事になっているのだから「見せろ」と言われた時にケーニス伯爵家と筆頭公爵家がどうなろうと知った事ではない。
「では…エミリア様。家鴨は連れて行きますが盗んだと言われては困ります。領界には関所もございますし、家鴨は私に譲渡したと書面を作って下さいますか?盗品を持ち歩いているとなれば遠方まで確認に呼ばれる事もあるやも知れません。都度呼ばれてはケーニス家も困りますでしょう?」
家鴨そのものはその辺にいる家鴨と変わりはない。オスとメスを揃えれば問題ないとエミリアが思い至らないのであればその先に起こりえる出来事もアルベルティナには関係のない事だ。
エミリアがどう返事をするか。
アルベルティナには賭けでもあった。
「いいわ。譲渡書ね?作ってやるわよ。どうせ道中の食料にするつもりでしょ。野蛮な女は考える事まで卑しいわ」
エミリアはパンパンと手を打ち鳴らし、執事を呼ぶと両親や兄、ソフィアのいる前で家鴨をアルベルティナに贈ったと虚偽を書き記す事の出来ない魔法用紙を使って書面を認めた。
ここまで覚悟を決めたエミリアでも書面に「アメリから預かった」とはとても書けないだろうと考えたアルベルティナの読みは当たった。嘘は書いていない。「家鴨はアルベルティナに譲った」とだけあるので端的な事実だけだ。
――で、もう1つ貰わないといけない書面があるわね――
アルベルティナは心の中だけでほくそ笑んだ。
1,396
あなたにおすすめの小説
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
月夜に散る白百合は、君を想う
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢であるアメリアは、王太子殿下の護衛騎士を務める若き公爵、レオンハルトとの政略結婚により、幸せな結婚生活を送っていた。
彼は無口で家を空けることも多かったが、共に過ごす時間はアメリアにとってかけがえのないものだった。
しかし、ある日突然、夫に愛人がいるという噂が彼女の耳に入る。偶然街で目にした、夫と親しげに寄り添う女性の姿に、アメリアは絶望する。信じていた愛が偽りだったと思い込み、彼女は家を飛び出すことを決意する。
一方、レオンハルトには、アメリアに言えない秘密があった。彼の不自然な行動には、王国の未来を左右する重大な使命が関わっていたのだ。妻を守るため、愛する者を危険に晒さないため、彼は自らの心を偽り、冷徹な仮面を被り続けていた。
家出したアメリアは、身分を隠してとある街の孤児院で働き始める。そこでの新たな出会いと生活は、彼女の心を少しずつ癒していく。
しかし、運命は二人を再び引き合わせる。アメリアを探し、奔走するレオンハルト。誤解とすれ違いの中で、二人の愛の真実が試される。
偽りの愛人、王宮の陰謀、そして明かされる公爵の秘密。果たして二人は再び心を通わせ、真実の愛を取り戻すことができるのだろうか。
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
7歳の侯爵夫人
凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。
自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。
どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。
目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。
王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー?
見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。
23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。
年増令嬢と記憶喪失
くきの助
恋愛
「お前みたいな年増に迫られても気持ち悪いだけなんだよ!」
そう言って思い切りローズを突き飛ばしてきたのは今日夫となったばかりのエリックである。
ちなみにベッドに座っていただけで迫ってはいない。
「吐き気がする!」と言いながら自室の扉を音を立てて開けて出ていった。
年増か……仕方がない……。
なぜなら彼は5才も年下。加えて付き合いの長い年下の恋人がいるのだから。
次の日事故で頭を強く打ち記憶が混濁したのを記憶喪失と間違われた。
なんとか誤解と言おうとするも、今までとは違う彼の態度になかなか言い出せず……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる