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cyaru

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第05話  事実だけの記載

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さもありなん。アルベルティナはケーニス伯爵に告げた。

「解りました。家鴨は連れて行く事にしますね」
「ま、待って!!ダメよ!」
「どうしたんだ。エミリア。そんなに声を荒げて」
「そうよ。お姉様。家鴨なんて臭いし…この女と一緒に外に出した方がいいじゃない」

エミリアは慌てだした。それも当然だ。
早馬を出しても1カ月半。徒歩でも馬車旅でも片道3、4か月かかる位置にあるブランシル辺境伯領に家鴨を連れていかれてしまったら家鴨を見せろと言われた時に見せられなくなる。

「何言ってるのよ。お姉様だってコイツが家鴨を勝手に飼いだして臭い、臭いって言ってたじゃない」
「ダメなんだってば」
「どうして?あぁ、脚に金属製の足環があるから?家鴨如きに勿体ないわよね」
「そうじゃないんだってば!あ、あれは…預かってる家鴨なのよ!」
「預かってる?家鴨を?そんなの預ける人っているの?スープ用にくれたんじゃない?」
「なっ?!何言ってるの!兎に角、ダメなんだってば」

事情を知らないソフィアは遠慮なしにエミリアを追い込んでいく。
本当にスープにしてしまったら、聞くところによれば第3皇女王太子妃は帝国にいた時、罪人を罰するのに同じことを罰としたと聞く。

――アツアツのエミリア煮込みが出来るわね。灰汁だらけでしょうけど――

「と、兎に角!連れて行っちゃダメ」
「お姉様。家鴨でしょう?お姉様に預けた人が返してくれって言ったら市場に行って家鴨を買って来ればいいじゃない」


エミリアはハッとした様にソフィアを見た。
先ほどまでの慌てようは何処に行った?顔色に赤みが戻った。

「それもそうね。いいわ。家鴨は連れて行きなさい」

――マジで?いいの?――

アルベルティナは聊か驚きを隠せなかった。同時にエミリアには魔力があるけれどたいしたことはなかったのか?と考えた。

ソフィアに魔力がない事は生まれた時と、5歳、10歳、15歳の節目に教会で行われる鑑定で判明している。エミリアには微力だか魔力があったはず。

第3皇女王太子妃と同等とは言わないが、こんなに解りやすい魔力駄々洩れの足環の魔力も感じないのだろうか?と不思議にすら思った。

魔力を感じないにしても、エミリアに預けたアメリはこの事識別魔法に言及はしなかったのか?とも考えてしまう。

だが、どうでもいい事だ。第3皇女王太子妃が預けた家鴨なのかどうか。アルベルティナは知らない事になっているのだから「見せろ」と言われた時にケーニス伯爵家と筆頭公爵家がどうなろうと知った事ではない。

「では…エミリア様。家鴨は連れて行きますが盗んだと言われては困ります。領界には関所もございますし、家鴨は私に譲渡したと書面を作って下さいますか?盗品を持ち歩いているとなれば遠方まで確認に呼ばれる事もあるやも知れません。都度呼ばれてはケーニス家も困りますでしょう?」

家鴨そのものはその辺にいる家鴨と変わりはない。オスとメスを揃えれば問題ないとエミリアが思い至らないのであればその先に起こりえる出来事もアルベルティナには関係のない事だ。

エミリアがどう返事をするか。
アルベルティナには賭けでもあった。


「いいわ。譲渡書ね?作ってやるわよ。どうせ道中の食料にするつもりでしょ。野蛮な女は考える事まで卑しいわ」


エミリアはパンパンと手を打ち鳴らし、執事を呼ぶと両親や兄、ソフィアのいる前で家鴨をアルベルティナに贈ったと虚偽を書き記す事の出来ない魔法用紙を使って書面をしたためた。

ここまで覚悟を決めたエミリアでも書面に「アメリから預かった」とはとても書けないだろうと考えたアルベルティナの読みは当たった。嘘は書いていない。「家鴨はアルベルティナに譲った」とだけあるので端的な事実だけだ。

――で、もう1つ貰わないといけない書面があるわね――

アルベルティナは心の中だけでほくそ笑んだ。
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