１６番目の候補者

第07話 スレちゃったのかな

必要なものは手に入れた。
アルベルティナが小屋に戻ろうとするとケーニス伯爵夫人がアルベルティナに向かって言った。


「気に入ってもらえたら？の話だけど、その時は身一つで嫁いでくれればいいそうよ？良かったわね？」

ニヤリと笑うケーニス夫人の指には５本の指に２重になって指輪が光っていた。

――ナックルダスターの新製品？随分と柔そうだけど――

誰かを殴る時は武器になりそうだなとしか思えない指輪の数。
衝撃で取れてしまう石よりも、既に石がどこかに飛んでしまった台座だけの方が攻撃力はあるのにな？とアルベルティナは思ってみる。

ケーニス伯爵家の使用人はゼルバような人ばかりではない。
雨が降ったり、雪が降ったり、単に面倒だなと主に言いつけられた買い物をアルベルティナに押し付けて来る使用人だっていた。

極悪人とか破落戸とか呼ばれる嫌われ者でも何故かアルベルティナには優しかったものだ。
単に虫の居所か良かっただけかも知れないが。

彼らが暴れる時の武器から比べれば随分と大人しいと感じてしまう。

――私って、スレちゃったのかな？――

そう思ってみるも、指輪だって無料ではない。あれだけ指でギラギラに光っていれば、きっと花嫁選びに手を挙げたことで支払われた準備金は使い込んでしまって、返せなくなった。でもエミリアもソフィアも嫁ぎたくないと言う。

無い袖は振れないけれど、金も返せないとなると飛んだ赤っ恥なのでアルベルティナに白羽の矢を立てた、そんなことだろうとアルベルティナは溜息が出そうになった。

――ま、いいわ。自由になれる日が早くなったんだもの――

誕生日を目前にしてアルベルティナの希望の光は簡単に吹き消される蝋燭の炎のように消えたが、辺境伯領まで歩いていけと言われて光は再燃した。

手に入れた２つの書類を大事に抱えてアルベルティナは家族とも思いたくない家族に頭を下げて部屋を出て小屋に向かった。