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第08話 ハイエナたち
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小屋に戻ればちょっとした騒ぎになっていた。
アルベルティナだって腐ってもケーニス伯爵家のお嬢様だ。
ブランシル辺境伯家に向かうとなればエミリアやソフィアのように持って行けないくらいの荷物があるだろうと思ったのか、我先に金目の物を奪ってやろうとする使用人と、ゼルバ達のようにアルベルティナに良くしてくれた使用人が小競り合いをしていた。
「入れなさいよ!なんでこんな女を庇うのか、やってる事の意味が解らないわ」
「仮にもお嬢様の部屋に無断で立ち入ろうとしているお前の気が知れない。今まで1度も掃除すらしに来なかったじゃないか」
「存在がゴミなのにお嬢様モドキを捨てたらこのボロ小屋には何も残らないからよ!」
「お前達には心って物がないのか!仮にもお嬢様なんだぞ?破落戸でもそんな悪態はつかないぞ」
野獣となって金目の物をいち早く手にしたい人間に常識など聞こえない。
面倒になったアルベルティナは「はぁ」溜息交じりの息を吐き出し、声をあげた。
「いいわ!ゼルバさん。みんな。ありがとう。小屋にあるもので欲しいものがあるなら持って行っていいわ」
アルベルティナがそう言えば7、8人がわっと小屋の中に突入したものだから壊れかけて2つある丁番の1つが外れていた入り口扉は取れてしまった。
「ティナ。良いのかい?」
「いいわ。全部持って行ってくれたら片付けもしなくて済むもの」
アルベルティナは腕組をして中に押し入った使用人たちが何を見つけてくれるのか楽しみでもあった。
父親のケーニス伯爵には宝飾品は1度も貰ったことがない。
貰ったことがあるのはビンタと罵声くらいだ。
伯爵夫人からは軽蔑し汚いものを見る眼差しと、鼻を抓んで「あぁ臭い」の捨てセリフ。
エミリアなど異母兄姉からも父と同じくビンタだったり、竹鞭で叩かれた愛の鞭。
形になるような贈り物は一度も貰った事がないのだから、「何にもないじゃないか」と使用人たちが小屋の中をひっくり返す姿は憐れに見えた。
「何よこれ。寝台…って木箱を並べてるだけじゃない!」
「シーツも継ぎ接ぎだらけだ」
「うわっ。この服…こんなの着る奴今時いねぇよ」
彼らだってアルベルティナがどんな扱いをされているかはよく知っている。
それでも宝石の1つや2つはあるはずと考えての行動だったようだが、収穫物が全く見当たらないどころかタダでやるよと言われてもお断りする品ばかりの小屋の中からはコソコソと出てくると、唯一の収穫物である家鴨用の餌が入れられた麻袋を手に本宅に去って行った。
「なんだ!あいつら。謝りもしないのか!」
憤るゼルバだったが、遠目にケーニス伯爵の子飼いの執事がこの様子を見ていた。
――やばっ!私を庇うようなことしてたの。見られてた?――
アルベルティナは背中に冷や汗が伝ったが、執事は何も言わず、こちらに来ることも無く去って行った。
「あ~」
小屋の中に入ったアルベルティナはその言葉しか出なかった。
持っていってくれていいのにひっくり返し、引っ掻き回しただけで何も持って行かなかったので小屋の中は竜巻でも通り過ぎたような状態。
「夜は窓を開けておくから泊まりにおいで」
情けないなとアルベルティナは思った。
庶子で主が認めたくなくてもアルベルティナはケーニス伯爵家の娘なのに、使用人の部屋にですら廊下からの扉ではなく、外に面した窓からコソコソと出入りをせねばならないなんて。
――でもそうしないと彼女が罰を受けてしまうのよね――
2晩だ。
それでこのケーニス家とは縁が切れる。
アルベルティナは女性使用人の言葉に甘える事にした。見つからないように真夜中に訪れて夜が明ける前に部屋を出る。たった数時間であっても安心して横になり、目を閉じる事が出来るのだから。
庇ってくれた使用人たちも仕事をせねば何を言われるか解らず持ち場に戻って行くとアルベルティナは1人で腕まくりをし、寝台にしていた木箱をひっくり返すと散乱したゴミにしか見えない今までの財産を詰め始めた。
全て捨てるのだから選別も必要のない片づけは1時間もあれば木箱に収まり、掃き掃除まで含めれば2時間で終わった。
掃除よりも時間が掛かったのはこれらを燃やすために庭に穴を掘ったこと。
アルベルティナは一番燃えやすそうな木箱に入れた衣類に火を放った。
アルベルティナには衣類でもケーニス家の下女が見れば使用済みのウェスにしか見えない布切れはあっという間に燃え上がった。
アルベルティナだって腐ってもケーニス伯爵家のお嬢様だ。
ブランシル辺境伯家に向かうとなればエミリアやソフィアのように持って行けないくらいの荷物があるだろうと思ったのか、我先に金目の物を奪ってやろうとする使用人と、ゼルバ達のようにアルベルティナに良くしてくれた使用人が小競り合いをしていた。
「入れなさいよ!なんでこんな女を庇うのか、やってる事の意味が解らないわ」
「仮にもお嬢様の部屋に無断で立ち入ろうとしているお前の気が知れない。今まで1度も掃除すらしに来なかったじゃないか」
「存在がゴミなのにお嬢様モドキを捨てたらこのボロ小屋には何も残らないからよ!」
「お前達には心って物がないのか!仮にもお嬢様なんだぞ?破落戸でもそんな悪態はつかないぞ」
野獣となって金目の物をいち早く手にしたい人間に常識など聞こえない。
面倒になったアルベルティナは「はぁ」溜息交じりの息を吐き出し、声をあげた。
「いいわ!ゼルバさん。みんな。ありがとう。小屋にあるもので欲しいものがあるなら持って行っていいわ」
アルベルティナがそう言えば7、8人がわっと小屋の中に突入したものだから壊れかけて2つある丁番の1つが外れていた入り口扉は取れてしまった。
「ティナ。良いのかい?」
「いいわ。全部持って行ってくれたら片付けもしなくて済むもの」
アルベルティナは腕組をして中に押し入った使用人たちが何を見つけてくれるのか楽しみでもあった。
父親のケーニス伯爵には宝飾品は1度も貰ったことがない。
貰ったことがあるのはビンタと罵声くらいだ。
伯爵夫人からは軽蔑し汚いものを見る眼差しと、鼻を抓んで「あぁ臭い」の捨てセリフ。
エミリアなど異母兄姉からも父と同じくビンタだったり、竹鞭で叩かれた愛の鞭。
形になるような贈り物は一度も貰った事がないのだから、「何にもないじゃないか」と使用人たちが小屋の中をひっくり返す姿は憐れに見えた。
「何よこれ。寝台…って木箱を並べてるだけじゃない!」
「シーツも継ぎ接ぎだらけだ」
「うわっ。この服…こんなの着る奴今時いねぇよ」
彼らだってアルベルティナがどんな扱いをされているかはよく知っている。
それでも宝石の1つや2つはあるはずと考えての行動だったようだが、収穫物が全く見当たらないどころかタダでやるよと言われてもお断りする品ばかりの小屋の中からはコソコソと出てくると、唯一の収穫物である家鴨用の餌が入れられた麻袋を手に本宅に去って行った。
「なんだ!あいつら。謝りもしないのか!」
憤るゼルバだったが、遠目にケーニス伯爵の子飼いの執事がこの様子を見ていた。
――やばっ!私を庇うようなことしてたの。見られてた?――
アルベルティナは背中に冷や汗が伝ったが、執事は何も言わず、こちらに来ることも無く去って行った。
「あ~」
小屋の中に入ったアルベルティナはその言葉しか出なかった。
持っていってくれていいのにひっくり返し、引っ掻き回しただけで何も持って行かなかったので小屋の中は竜巻でも通り過ぎたような状態。
「夜は窓を開けておくから泊まりにおいで」
情けないなとアルベルティナは思った。
庶子で主が認めたくなくてもアルベルティナはケーニス伯爵家の娘なのに、使用人の部屋にですら廊下からの扉ではなく、外に面した窓からコソコソと出入りをせねばならないなんて。
――でもそうしないと彼女が罰を受けてしまうのよね――
2晩だ。
それでこのケーニス家とは縁が切れる。
アルベルティナは女性使用人の言葉に甘える事にした。見つからないように真夜中に訪れて夜が明ける前に部屋を出る。たった数時間であっても安心して横になり、目を閉じる事が出来るのだから。
庇ってくれた使用人たちも仕事をせねば何を言われるか解らず持ち場に戻って行くとアルベルティナは1人で腕まくりをし、寝台にしていた木箱をひっくり返すと散乱したゴミにしか見えない今までの財産を詰め始めた。
全て捨てるのだから選別も必要のない片づけは1時間もあれば木箱に収まり、掃き掃除まで含めれば2時間で終わった。
掃除よりも時間が掛かったのはこれらを燃やすために庭に穴を掘ったこと。
アルベルティナは一番燃えやすそうな木箱に入れた衣類に火を放った。
アルベルティナには衣類でもケーニス家の下女が見れば使用済みのウェスにしか見えない布切れはあっという間に燃え上がった。
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