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第09話 言えないのよ~
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持って行く荷物は家鴨だけ。
ツタで編んだロープを2羽の家鴨に括りつけたアルベルティナはゼルバ達と最後の別れの挨拶を済ませるとリード代わりのツタを握り裏口からケーニス家を出ていくために小道を歩いていた。
「何してるんですか!こっちです。急いでください」
息を切らし、小道の向かいから走ってきたのはケーニス伯爵の子飼いで執事の男だった。
心配せずともサツキの植え込みが切れている個所から右に向かえば裏口までのショートカットが出来る。本宅まで行きゃしないわよとアルベルティナは執事を睨んだ。
アルベルティナには正門の利用は禁止されていたし、本宅に足を踏み入れたのも迎え入れられた時と昨日だけ。アプローチすら歩くことを許されなかったのだ。
「いいから!早く」
「何なんです?私はそちらの言う通りに最後であっても言われた事を守っているんですよ?」
「言い訳は良いから!ブランシル辺境伯家から迎えが来てるんですよ」
「は?」
執事の慌てぶりからすると、ケーニス伯爵夫妻もブランシル辺境伯家から迎えが来るとは思いもしていなかったのだろう。
無理やり手を引かれて本宅の勝手口から屋敷の中に入ると蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「こっちに来るんだよッ!」
「何するんですか!」
「着替えるんだよ!ソフィア様がワンピースをくださったんだ。さっさとしなッ!」
家鴨を繋いでいたツタにナイフを入れられ、切られてしまうと使用人はアルベルティナの腕を掴んで奥の部屋に連れて行こうとした。
「やめてください!」
アルベルティナは使用人の手を振り払った。
同時に使用人は振りはらわれた手を大きく振りかぶった。
「何してるんだ!叩いたことが判ったらどうするんだ!」
執事の言葉にハッとした使用人は行き場を無くした振りかぶった手をゆっくりと下ろし、アルベルティナを睨んだ。
「大人しく着替えてください。その身なりでは使者の方に引き渡せません」
「罪人みたいな言い方ね。ま、貴方達にはそう見えていたんでしょうけど」
「解っているならお早く。あまり待たせる事も出来ません」
抗ったところで手足の自由を奪われて運ばれるだけ。
アルベルティナは着替えをすると言われた部屋に向かい、ソフィアが要らないと言ったワンピースに着替えをさせられた。
「まずい。これじゃ…」
着替えの終わったアルベルティナを見て使用人たちは顔色を悪くした。
それもそのはず。襤褸でもほぼ全身を隠していたアルベルティナが入浴後のように綺麗でないのは仕方がないにしても、栄養過多で5LサイズのソフィアのワンピースはSSサイズのアルベルティナには大きすぎた。
肩は出てしまっているし、スカートの丈も不自然極まりない。
半袖が7分丈になっているし、なにより肌の露出が増えてしまったが見える肌にはエミリアやソフィア、そして使用人たちが気の向くままに殴る蹴るをした暴行の痕跡がはっきりと残って見えていた。
別の服に着替えさせようにもエミリアはソフィアよりも肉付きが良いのでさらに大きなサイズになるし、今からアルベルティナのサイズにお直しをしていたら、いい加減待たせているブランシル辺境伯家から迎えを更に待たせることになる。
「良いんじゃないの?ケーニス家であなた達にやられた傷跡だと言えばブランシル辺境伯家の使者の方も納得してくれるのでは?まさか…ケーニス家の方々がやったんだとは言えないでしょう?」
アルベルティナが言えば使用人たちは顔を見合わせた。
確かにアルベルティナがそう言えば使者は納得するだろうが、当然のその責任はケーニス伯爵夫妻が負う事になる。使用人が令嬢に暴力をふるうなんてあり得ないし、知りませんでしたでは通用しない。
かと言って「エミリア様とソフィア様がやってました」なんてもっと言えない。
「あの…お坊ちゃまの服を着せてはどうでしょう?男性用なら肌も隠れますし」
恐る恐る使用人は執事に1つの提案をしたが、「馬鹿を言うな」と一蹴された。
ケーニス家の兄姉でアルベルティナを最も嫌っているのが嫡男だ。
不要になった服ですらアルベルティナにやるくらいなら屋根裏のネズミの寝床にした方がマシ。責任がアルベルティナにあるかないかは別にして「不貞行為の末に生まれた子供」である事を毛嫌いしているのだ。
「何をしてるんだ!まだ用意できないのか!」
ケーニス伯爵の怒号が廊下を伝って聞こえて来た。
「いいわ。隠せばいいんでしょう?」
こんなところで時間を食うよりもさっさとケーニス家を出て行きたいアルベルティナは自分自身の体に魔法をかける事は出来ないが、着せられたワンピースに魔法をかけた。
「え?‥‥消えて…る?」
「これでいいでしょう?待たせるのはもう限界なんじゃないの?」
使用人も執事も声を失った。
明らかにサイズオーバーしているワンピースはアルベルティナのサイズに見えるし、薄いヴェールを纏ったように見えるアルベルティナの肌は傷1つなく透き通った肌に見えたからである。
ツタで編んだロープを2羽の家鴨に括りつけたアルベルティナはゼルバ達と最後の別れの挨拶を済ませるとリード代わりのツタを握り裏口からケーニス家を出ていくために小道を歩いていた。
「何してるんですか!こっちです。急いでください」
息を切らし、小道の向かいから走ってきたのはケーニス伯爵の子飼いで執事の男だった。
心配せずともサツキの植え込みが切れている個所から右に向かえば裏口までのショートカットが出来る。本宅まで行きゃしないわよとアルベルティナは執事を睨んだ。
アルベルティナには正門の利用は禁止されていたし、本宅に足を踏み入れたのも迎え入れられた時と昨日だけ。アプローチすら歩くことを許されなかったのだ。
「いいから!早く」
「何なんです?私はそちらの言う通りに最後であっても言われた事を守っているんですよ?」
「言い訳は良いから!ブランシル辺境伯家から迎えが来てるんですよ」
「は?」
執事の慌てぶりからすると、ケーニス伯爵夫妻もブランシル辺境伯家から迎えが来るとは思いもしていなかったのだろう。
無理やり手を引かれて本宅の勝手口から屋敷の中に入ると蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
「こっちに来るんだよッ!」
「何するんですか!」
「着替えるんだよ!ソフィア様がワンピースをくださったんだ。さっさとしなッ!」
家鴨を繋いでいたツタにナイフを入れられ、切られてしまうと使用人はアルベルティナの腕を掴んで奥の部屋に連れて行こうとした。
「やめてください!」
アルベルティナは使用人の手を振り払った。
同時に使用人は振りはらわれた手を大きく振りかぶった。
「何してるんだ!叩いたことが判ったらどうするんだ!」
執事の言葉にハッとした使用人は行き場を無くした振りかぶった手をゆっくりと下ろし、アルベルティナを睨んだ。
「大人しく着替えてください。その身なりでは使者の方に引き渡せません」
「罪人みたいな言い方ね。ま、貴方達にはそう見えていたんでしょうけど」
「解っているならお早く。あまり待たせる事も出来ません」
抗ったところで手足の自由を奪われて運ばれるだけ。
アルベルティナは着替えをすると言われた部屋に向かい、ソフィアが要らないと言ったワンピースに着替えをさせられた。
「まずい。これじゃ…」
着替えの終わったアルベルティナを見て使用人たちは顔色を悪くした。
それもそのはず。襤褸でもほぼ全身を隠していたアルベルティナが入浴後のように綺麗でないのは仕方がないにしても、栄養過多で5LサイズのソフィアのワンピースはSSサイズのアルベルティナには大きすぎた。
肩は出てしまっているし、スカートの丈も不自然極まりない。
半袖が7分丈になっているし、なにより肌の露出が増えてしまったが見える肌にはエミリアやソフィア、そして使用人たちが気の向くままに殴る蹴るをした暴行の痕跡がはっきりと残って見えていた。
別の服に着替えさせようにもエミリアはソフィアよりも肉付きが良いのでさらに大きなサイズになるし、今からアルベルティナのサイズにお直しをしていたら、いい加減待たせているブランシル辺境伯家から迎えを更に待たせることになる。
「良いんじゃないの?ケーニス家であなた達にやられた傷跡だと言えばブランシル辺境伯家の使者の方も納得してくれるのでは?まさか…ケーニス家の方々がやったんだとは言えないでしょう?」
アルベルティナが言えば使用人たちは顔を見合わせた。
確かにアルベルティナがそう言えば使者は納得するだろうが、当然のその責任はケーニス伯爵夫妻が負う事になる。使用人が令嬢に暴力をふるうなんてあり得ないし、知りませんでしたでは通用しない。
かと言って「エミリア様とソフィア様がやってました」なんてもっと言えない。
「あの…お坊ちゃまの服を着せてはどうでしょう?男性用なら肌も隠れますし」
恐る恐る使用人は執事に1つの提案をしたが、「馬鹿を言うな」と一蹴された。
ケーニス家の兄姉でアルベルティナを最も嫌っているのが嫡男だ。
不要になった服ですらアルベルティナにやるくらいなら屋根裏のネズミの寝床にした方がマシ。責任がアルベルティナにあるかないかは別にして「不貞行為の末に生まれた子供」である事を毛嫌いしているのだ。
「何をしてるんだ!まだ用意できないのか!」
ケーニス伯爵の怒号が廊下を伝って聞こえて来た。
「いいわ。隠せばいいんでしょう?」
こんなところで時間を食うよりもさっさとケーニス家を出て行きたいアルベルティナは自分自身の体に魔法をかける事は出来ないが、着せられたワンピースに魔法をかけた。
「え?‥‥消えて…る?」
「これでいいでしょう?待たせるのはもう限界なんじゃないの?」
使用人も執事も声を失った。
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