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cyaru

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第10話  責任を逃れろ

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ケーニス伯爵夫人は執事と共に現れたアルベルティナを見て目を見開いた。
そしてソフィアを見るとソフィアは「知らない、知らない」と手を前に出して否定を身振りで示す。

緊急ではあったけれどワンピースを選んだのは夫人とソフィア。一番冴えなくてこんなのを着るだけで恥、そんな型遅れのワンピースを選んだのに布地そのものが繊細で豪奢な絹糸で織り込んだ布に見えるし、透き通るようなショールなんか持ってもいないのに羽織って見えた。

魔力のない夫人とソフィアには魔力のオーラが豪奢なワンピースとその付属品にしか見えていなかった。

対してケーニス伯爵とエミリアの顔色はすこぶる悪い。
多少なりとも魔力のある2人にはぶかぶかで肩も見えている不格好なワンピースを着た傷だらけのアルベルティナが見えていた。

動けない4人にブランシル辺境伯家からの使者はアルベルティナの前に出ると胸に手を当て、礼をした。

「貴女がアルベルティナ様ですか。これはまたなんとも言葉がありませんな」
「遠い所からの迎え。感謝いたします。挨拶は切り上げて参りましょう。先は長いでしょう?ここで時間を取るより車輪を前に進めた方が賢明です」
「左様でございますか。家族の方への挨拶――」
「不要です。先日終わらせたので二度も三度も出来ません」
「承知いたしました。では、馬車にご案内いたします」

「ア、アルベ――」名を呼び掛けたケーニス伯爵夫人を伯爵が腕を掴んで止めた。

「何で止めるのよ」
「よせ。何も言われずに済むなら越したことはない」
「どうしてよ?」

伯爵夫人はアルベルティナが着ているワンピースに見覚えが無く、どこでそんなものを手に入れたのか。もしかすると嫁いできて25年以上になるのにまだ自分の知らない隠し部屋があって、アルベルティナが見つけて盗んだのか?それとも目もかけていないと言いながら夫が買い与えたのではないかと思い、引き戻して聞きだしてやると意気込んだが、ケーニス伯爵は虐待も言える傷をブランシル辺境伯家の使者は見てしまっている。

声を荒げずに去ってくれた方が、屋敷を出た後でどうにかしたんじゃないかと言い逃れが出来るチャンス。ここで変に引き留めて問い詰められる事だけは勘弁してほしかった。


そんなケーニス一家を横目にアルベルティナは使者に「この子も載せていいですか?」と問う。

「ぐわっぐわっ」
「えぇーっと。この子と言うのはこの家鴨たち?」
「そうなんです。置いていくとスープにされちゃうので」
「貴女様が宜しいのならどうぞ。なんでしたら専用に荷馬車を手配もしますが」
「ではお願いします。私も荷馬車の荷台に乗りますので」
「え?御冗談でしょう?」
「冗談ではありません。飛べない鳥といわれてますけど、少しなら飛びますし心配なので」
「で、では、こちらに載せましょう。荷物はどちらに?」
「荷物?」


アルベルティナに荷物はない。
使者は「あれです」とケーニス家の使用人たちが急いで作り上げた荷物の数々を指さした
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