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12:バカップル誕生、知ったのは年齢差ではなく格差
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苦肉の策として、バルタザール様は書類上は現状維持で実質の関係性を「婚約」としてはどうかと仰いました。
「婚約者として…俺を知る時間と考えてくれないだろうか」
「お互いではなくどうして「俺」限定ですの?」
「俺の驕りが招いた事だ。これから俺は変わる。行動報告書を読むだけでなく、報告書にない心も読めるように鍛錬を重ねる事を誓う」
「行動報告書?!何の事ですの?」
「引かない、嫌いにならない、別れないと明言してくれれば教える」
――不穏なナイナイ三拍子…何故目を反らせますの?――
わたくしにとって不利な条件を提示された気が致しますが、飲まなければ教えて頂けないようで御座います。
「判りました。その条件を飲みますわ」
二パっと微笑まれるバルタザール様。
やはり「あざと可愛い」を操る達人で御座いました。
「22歳からの3年間、ロティの全てを調査させるべくつけた護衛から上げられる報告書だ。1日について24時間分しかないのが玉に瑕だ。婚約、婚姻の宣誓書に署名する際、マクベル伯爵には謝罪をしたが大変驚かれていた事に俺も驚いた。ついでに父上と母上から叱責をされた」
――それは誰を褒めればいいのかしら。護衛さん?――
そもそも「護衛」がトッピング的な気がするのは気のせいなので御座いましょうか。
「1日って24時間しか御座いませんわよね?」
「そうなんだが…去年の【うるう秒】の1秒だけ報告がない」
すん‥‥窓から見える緑が癒しに見えるのは気のせいかしら。
知らない間に護衛までついていたとは。わたくし全然気が付きませんでしたわ。まぁお父様も公爵ご夫妻も存じなかったのですから、わたくし如きが知れる筈が御座いません。
「何をしてもいい。ただ…年齢の事はもう気にしないで欲しい。年上だから年下だからではなく…お願いだから俺を頼って欲しい。俺はリーゼロッテだから妻に望んだ。他の誰ではダメなんだ。不甲斐ない行動をした事を肝に銘じ、同じ轍は二度と踏まない。リーゼロッテという女性を唯一無二として愛している」
何という事なの?!
バルタザール様は本当にわたくしの事が好きなのだと仰るのです。
「では、わたくしから…宜しいでしょうか?」
「何でも言ってくれ」
真っ直ぐ濁りのない瞳の中に映るわたくし。意を決したのです。
「わたくし、今までが受け身で流される生き方だったのです。過去の婚約も家から出られるのならいい、爵位を継いでもどうせお飾り。どうでもいいと思っておりました。バルタザール様は本当に優しくて…今まで添え物でしかなかったわたくしを大事にしてくださる言葉に…自分だけを見て欲しい、自分だけを大事にして欲しいと‥思ってしまったのです」
「当たり前の感情だ。それを我慢させていた時間が俺の後悔でもある」
「ありがとうございます。わたくし、年齢などで卑屈になるのをやめます。バルタザール様にもっと愛されるよう‥やってみます。でも逃げてしまう自分が出る事もあると思うのです。堂々と隣にいられるようになれば…」
「ロティっ!結婚してるけど結婚しよう!」
この時、わたくしは何もわかっておりませんでした。
数年後、この選択によってバカップルという分類をされてしまう事に…。
ところで…で御座いますが感じたデジャ・ヴ。
行動報告書の事もですが、バルタザール様がわたくしの事をご存じだったのは意外で御座います。てっきりお父様が公爵様に無理を言ったのか、何か共同事業でも始めるからなのか。
それで結ばれた婚約だと思っていたのにどうやら違うよう。
「今の俺があるのはロティのおかげなんだ」
「わたくしの?!」
出会いはギュギュっと5年前まで遡ると仰るバルタザール様。
そんな頃に出会っていた?
――まさかわたくし、11歳の少年に不適切な事を?――
「全てが嫌で不貞腐れていた時、ロティにすくわれたんだ」
すくわれた?そう言えば庭の池に放した金魚は市井のカーニバルの日、夜店でオリバーとすくった気が致します。夜店の金魚は翌朝になると半数以上が儚くなるのです。
なので「金魚救出隊」をオリバーと結成し夜店の金魚を掬いまくっていた時期が御座います。難点は数が打てない事で御座いました。わたくしもオリバーも資金難で御座いましたもの。
ですので、オリバーと2人。ポイが破れて輪っかだけになっても輪っかで掬うように見せかけてほとんどカップで金魚を掬っておりました。
――ポイの魔術師と自称していたのをご存じなの?――
えぇ。ポイが破れてからが勝負ですもの。魔術師ですわ。
「違う。金魚を掬った事はない。俺はウナギだった」
まさか!1回銅貨1枚の金魚すくいではなく、1回銅貨5枚のウナギ?!
クァァ!!公爵家と伯爵家の違いを見せつけられたようですわ。
「あとは、ピヨッコだな」
なんと!大きくなるとほぼ100%が雄鶏に成長するという疑惑のピヨッコ?!
間違いなく早朝の新鮮な卵は手に入らないのに!
「隣の侯爵家の侯爵夫人がオス同士でも薄い本では愛が語られ、ヒート状態になるというものだから。6歳の俺は信じていたんだ。朝になれば卵がある事に。だから大人買いでピヨッコを買い占めて…フッ。今では領地で種馬ならぬ種鶏として繁殖に成功し数代目の代替わりをしている」
アルファ(α)、ベータ(β)、オメガ(Ω)を6歳の少年にレクチャーする侯爵夫人。何というカオス!!6歳と言えば10年前。何てこと。楽〇イーグルスの優勝からも、トキー・オゴリーンの招致決定からも!もう10年経ってるなんて!これが本当の「じぇじぇじぇ」じゃないの!
問題はそこではないの。
「店員さん、ここからここまで」のような爆買いをするのではなく、ピヨッコをヒート目当てに全て買い占めるなんて。お子様世代にはビックリマンチョコかライダーチップス、黒の閉じ紐で縛られた袋入りアイドルブロマイドを大人買いより腐女子には夢があるわ。
くっ!そんなお金があるなら「おやつならこれを食べなさい。顎が鍛えられるわ」とお母様に教えられたヨッチャンイカに竹串に刺さった帆立タラを買い占めたのに!!
いいえっ!だめよ。あれは怪しいオレンジの液体で手がベトベトになるのよ。
それならば白いザラメの付いたドングリ飴を瓶ごと買ったのに!
今からでも遅くないわ。
お日様に温められて融合すると取り出し口から物理的に出る大きさじゃなくなる、重さはあるのに音がしない。お子様が戦慄する瞬間を演出してきたのに、あと約10日後の廃業で既に生産中止になったサクマ式ド〇ップ(通称赤缶)を買い占める事だって出来る!オリバーを弟なのに兄役に抜擢して演じてきたホター・ルグレイヴは泥だんごだけじゃ心に刺さらないのよ!
公爵家ともなるとお子様の小遣いも侮れない事を知ったわたくし。
ジェネレーションギャップではなく格差社会を知ったのですわ。
「俺は井戸でロティに救われた。あの日のロティの膝の温かさとほのかに香る甘い香り。今でも目を閉じれば香りすら思い出す事が出来るんだ」
「あ!」
「思い出してくれたか?!」
えぇ。思い出しました。あの日井戸に行った理由も。
真実を告げてもいいのかしら?夢を壊す事になるのではないかしら。
あの日、オリバーに昼食を届けて第二…いえ第三騎士団だったかしら?団長さんのお部屋でリ〇ップという育毛剤の瓶をひっくり返してしまって服にバシャっとかかってしまったのです。
オリバーに水を汲んでもらって…正直に言いましょう。傷は浅い方がいいですもの。
「バルタザール様。あの日の香りは…育毛剤ですわ」
「え・・・・」
驚かれるバルタザール様。真実を知って現実逃避をされておられます。
道理で泣き虫になったバルタザール様にデジャ・ヴを感じたはずですわね。
膝抱っこは出来ません。もう体格は逆転をしてしまいましたものね。
される側としては抵抗感を感じるお年頃ですわ。
両手を広げて「今度は俺が」と申されておりますが某一部分が山頂を制覇した模様。
――シフトレバーは不要――
秘め事秘話で、前後左右、そして回転という【あそび】を持たせた機能を搭載されたバルタザール様。
そっと目を反らせます。
「なんて遠くの緑は目に優しいのかしら」固辞って大事だわ。
「婚約者として…俺を知る時間と考えてくれないだろうか」
「お互いではなくどうして「俺」限定ですの?」
「俺の驕りが招いた事だ。これから俺は変わる。行動報告書を読むだけでなく、報告書にない心も読めるように鍛錬を重ねる事を誓う」
「行動報告書?!何の事ですの?」
「引かない、嫌いにならない、別れないと明言してくれれば教える」
――不穏なナイナイ三拍子…何故目を反らせますの?――
わたくしにとって不利な条件を提示された気が致しますが、飲まなければ教えて頂けないようで御座います。
「判りました。その条件を飲みますわ」
二パっと微笑まれるバルタザール様。
やはり「あざと可愛い」を操る達人で御座いました。
「22歳からの3年間、ロティの全てを調査させるべくつけた護衛から上げられる報告書だ。1日について24時間分しかないのが玉に瑕だ。婚約、婚姻の宣誓書に署名する際、マクベル伯爵には謝罪をしたが大変驚かれていた事に俺も驚いた。ついでに父上と母上から叱責をされた」
――それは誰を褒めればいいのかしら。護衛さん?――
そもそも「護衛」がトッピング的な気がするのは気のせいなので御座いましょうか。
「1日って24時間しか御座いませんわよね?」
「そうなんだが…去年の【うるう秒】の1秒だけ報告がない」
すん‥‥窓から見える緑が癒しに見えるのは気のせいかしら。
知らない間に護衛までついていたとは。わたくし全然気が付きませんでしたわ。まぁお父様も公爵ご夫妻も存じなかったのですから、わたくし如きが知れる筈が御座いません。
「何をしてもいい。ただ…年齢の事はもう気にしないで欲しい。年上だから年下だからではなく…お願いだから俺を頼って欲しい。俺はリーゼロッテだから妻に望んだ。他の誰ではダメなんだ。不甲斐ない行動をした事を肝に銘じ、同じ轍は二度と踏まない。リーゼロッテという女性を唯一無二として愛している」
何という事なの?!
バルタザール様は本当にわたくしの事が好きなのだと仰るのです。
「では、わたくしから…宜しいでしょうか?」
「何でも言ってくれ」
真っ直ぐ濁りのない瞳の中に映るわたくし。意を決したのです。
「わたくし、今までが受け身で流される生き方だったのです。過去の婚約も家から出られるのならいい、爵位を継いでもどうせお飾り。どうでもいいと思っておりました。バルタザール様は本当に優しくて…今まで添え物でしかなかったわたくしを大事にしてくださる言葉に…自分だけを見て欲しい、自分だけを大事にして欲しいと‥思ってしまったのです」
「当たり前の感情だ。それを我慢させていた時間が俺の後悔でもある」
「ありがとうございます。わたくし、年齢などで卑屈になるのをやめます。バルタザール様にもっと愛されるよう‥やってみます。でも逃げてしまう自分が出る事もあると思うのです。堂々と隣にいられるようになれば…」
「ロティっ!結婚してるけど結婚しよう!」
この時、わたくしは何もわかっておりませんでした。
数年後、この選択によってバカップルという分類をされてしまう事に…。
ところで…で御座いますが感じたデジャ・ヴ。
行動報告書の事もですが、バルタザール様がわたくしの事をご存じだったのは意外で御座います。てっきりお父様が公爵様に無理を言ったのか、何か共同事業でも始めるからなのか。
それで結ばれた婚約だと思っていたのにどうやら違うよう。
「今の俺があるのはロティのおかげなんだ」
「わたくしの?!」
出会いはギュギュっと5年前まで遡ると仰るバルタザール様。
そんな頃に出会っていた?
――まさかわたくし、11歳の少年に不適切な事を?――
「全てが嫌で不貞腐れていた時、ロティにすくわれたんだ」
すくわれた?そう言えば庭の池に放した金魚は市井のカーニバルの日、夜店でオリバーとすくった気が致します。夜店の金魚は翌朝になると半数以上が儚くなるのです。
なので「金魚救出隊」をオリバーと結成し夜店の金魚を掬いまくっていた時期が御座います。難点は数が打てない事で御座いました。わたくしもオリバーも資金難で御座いましたもの。
ですので、オリバーと2人。ポイが破れて輪っかだけになっても輪っかで掬うように見せかけてほとんどカップで金魚を掬っておりました。
――ポイの魔術師と自称していたのをご存じなの?――
えぇ。ポイが破れてからが勝負ですもの。魔術師ですわ。
「違う。金魚を掬った事はない。俺はウナギだった」
まさか!1回銅貨1枚の金魚すくいではなく、1回銅貨5枚のウナギ?!
クァァ!!公爵家と伯爵家の違いを見せつけられたようですわ。
「あとは、ピヨッコだな」
なんと!大きくなるとほぼ100%が雄鶏に成長するという疑惑のピヨッコ?!
間違いなく早朝の新鮮な卵は手に入らないのに!
「隣の侯爵家の侯爵夫人がオス同士でも薄い本では愛が語られ、ヒート状態になるというものだから。6歳の俺は信じていたんだ。朝になれば卵がある事に。だから大人買いでピヨッコを買い占めて…フッ。今では領地で種馬ならぬ種鶏として繁殖に成功し数代目の代替わりをしている」
アルファ(α)、ベータ(β)、オメガ(Ω)を6歳の少年にレクチャーする侯爵夫人。何というカオス!!6歳と言えば10年前。何てこと。楽〇イーグルスの優勝からも、トキー・オゴリーンの招致決定からも!もう10年経ってるなんて!これが本当の「じぇじぇじぇ」じゃないの!
問題はそこではないの。
「店員さん、ここからここまで」のような爆買いをするのではなく、ピヨッコをヒート目当てに全て買い占めるなんて。お子様世代にはビックリマンチョコかライダーチップス、黒の閉じ紐で縛られた袋入りアイドルブロマイドを大人買いより腐女子には夢があるわ。
くっ!そんなお金があるなら「おやつならこれを食べなさい。顎が鍛えられるわ」とお母様に教えられたヨッチャンイカに竹串に刺さった帆立タラを買い占めたのに!!
いいえっ!だめよ。あれは怪しいオレンジの液体で手がベトベトになるのよ。
それならば白いザラメの付いたドングリ飴を瓶ごと買ったのに!
今からでも遅くないわ。
お日様に温められて融合すると取り出し口から物理的に出る大きさじゃなくなる、重さはあるのに音がしない。お子様が戦慄する瞬間を演出してきたのに、あと約10日後の廃業で既に生産中止になったサクマ式ド〇ップ(通称赤缶)を買い占める事だって出来る!オリバーを弟なのに兄役に抜擢して演じてきたホター・ルグレイヴは泥だんごだけじゃ心に刺さらないのよ!
公爵家ともなるとお子様の小遣いも侮れない事を知ったわたくし。
ジェネレーションギャップではなく格差社会を知ったのですわ。
「俺は井戸でロティに救われた。あの日のロティの膝の温かさとほのかに香る甘い香り。今でも目を閉じれば香りすら思い出す事が出来るんだ」
「あ!」
「思い出してくれたか?!」
えぇ。思い出しました。あの日井戸に行った理由も。
真実を告げてもいいのかしら?夢を壊す事になるのではないかしら。
あの日、オリバーに昼食を届けて第二…いえ第三騎士団だったかしら?団長さんのお部屋でリ〇ップという育毛剤の瓶をひっくり返してしまって服にバシャっとかかってしまったのです。
オリバーに水を汲んでもらって…正直に言いましょう。傷は浅い方がいいですもの。
「バルタザール様。あの日の香りは…育毛剤ですわ」
「え・・・・」
驚かれるバルタザール様。真実を知って現実逃避をされておられます。
道理で泣き虫になったバルタザール様にデジャ・ヴを感じたはずですわね。
膝抱っこは出来ません。もう体格は逆転をしてしまいましたものね。
される側としては抵抗感を感じるお年頃ですわ。
両手を広げて「今度は俺が」と申されておりますが某一部分が山頂を制覇した模様。
――シフトレバーは不要――
秘め事秘話で、前後左右、そして回転という【あそび】を持たせた機能を搭載されたバルタザール様。
そっと目を反らせます。
「なんて遠くの緑は目に優しいのかしら」固辞って大事だわ。
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