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25:昂ぶりは最高峰エベレスト★最終話
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アーカンソー公爵家に住まいを移したわたくし。
言葉を返すのは当然なのですが、先ずは行動。待たせていた同居を開始するのです。
ちょっとしたサプライズですが喜んでくださると嬉しいな。
部屋に案内をされるまでは、数歩進んで足が止まる。
その繰り返しで御座いました。
3階がバルタザール様とわたくしの居住スペースになるのですが何故か階段の踊り場で目を疑ってしまいました。
案内をしてくださる侍女さんが申し訳なさそうに【上をご覧ください】と言うのです。
なんだろうと見上げてみると…。
「ヒュッ!!」
どうして格子天井一面にわたくしの肖像画が?!
聞けば絵を貼っているのではなく、絵師を呼び天井面に直接描いたのだとか。
「坊ちゃまは宗教画と申されております」
「宗教画…って」
「では、神々の通路の先がお部屋で御座います」
「かっ!神々の通路?」
「坊ちゃまはそう名付けられておりました」
神々の通路。それは単なる廊下と言えば廊下。
折角の美しい庭を塞いでしまったショーケースが廊下の片面にビッチリ!
ショーケースの中には過去、わたくしが着られなくなったワンピースやドレスが小物や靴もセットになって飾られているのです。
「あの、このケースに付いている小窓はいったい何を?」
「ケース内に充満した香りを吸い込み、肺を浄化させると申されておりました」
「余計に咽込みそうな気がしますが」
そう思い、小窓に手を触れようとした瞬間。
「いけません!危険です」
「危険?」
「坊ちゃまが中の空気を吸い込み過ぎて負圧になっているのです」
――どんな肺活量なの?!――
「申し訳ございません。これらを撤去して頂けますか?」
「撤去?!ですが坊ちゃまが…」
「そうでございますわね。判りました。バルタザール様にはお戻りになられたらわたくしからお話を致しますので、撤去の方向性で業者を手配して頂けるとありがたいですわ」
「畏まりました。私どもも庭が見えず、暗いので困っておりました」
そうですわよね…この廊下、夜はサスペンスドラマのランプを片手に歩いているその背後に迫るなにか!を彷彿させますものね。小さな音にもビックビクになってしまいますわ。
そうして案内をされたわたくし用の部屋に到着した時に、バルタザール様のご両親がいらっしゃったのです。
「さぁ、今日からこの部屋を存分に使って頂戴」
「安心してくれたまえ、鍵は全て付け替えた上に3連式。廊下からの入り口はスマートロック、バルコニーのクレセントキーの下にも開閉補助鍵をつけた」
そこまでして頂くと今度は物理的に壁を破壊する行動に出そうな気が致します。隣室に扉なしで行き来できる穴が開いてしまう可能性が高いですわね。
低コストが売りなのに冬場の暖房で吹き抜けを玄関に設けたばかりにファンをつけねばならなくなって結果的に建設費も後の電気代もコストアップするデザイン系建売住宅のようですわ。
吹き抜けはオサレに見えるけれど掃除もし難いのよね。3年経って蜘蛛の巣が天井に見えると萎えちゃいますの。
「あの子が通常業務に戻れば別邸に移っても構わないからね?お願いだから月に一度の資源ごみに出さないでやって欲しいわ。リーゼさん以外にはリサイクルも出来ない息子なの」
――もしかすると業者が回収前にパクっていく方がおられるかも?――
ジュリアス殿下が見つかったとの知らせがアーカンソー公爵家にもたらされたのは引っ越しをして1週間後で御座いました。
ここから忙しいのはご当主であるお爺様と次期当主のお義父様のみ。
やっと解き放たれた野獣、いえバルタザール様が公爵家に戻られたのです。
「お帰りなさいませ。無事のお戻り、何よりですわ」
「ロ、ロティ…どうしてここに?!」
腰に帯剣した剣を従者に渡そうとしていたバルタザール様ですが、ゴトン!とご自分のつま先の上に落とされております。
「痛ったい!!痛い!小指の上にツバがぁぁ!!」
――つま先に保護材のある安全靴では御座いませんの?――
「痛いけど!こんなところにロティがっ!これは夢なのか?!誰か俺を抓ってくれ」
痛みであれば十分に足の小指に感じていらっしゃるでしょうに、更なる痛みを要求されるとは。年下の美丈夫はいろんなところで可愛さを演出するものですわ。
では、遠慮なく頬を抓らせて頂きましょう。
きゅっ!
「ファァァ!こそばゆい!」
――えっ?頬の皮がわたくしの指で半回転しておりますが――
さらに、キュキュキュ!
「ぬあぁぁ!!辛い勤務の後にこんなご褒美があるなんて知らなかった!」
――わたくしも、こんな事でここまで喜んで頂けるとは思いませんでした――
もしや、ディートリヒ様はオムツで御座いましたが、バルタザール様は痛みを伴う系が性癖でいらっしゃるの?新たな扉を開いてしまった?いいえ…開かれた扉にわたくし迷い込んだ?
「ハァハァ…これは現実なのか…だとしたら目が覚めなくてもいい!」
「現実なので起きていらっしゃいますよ」
「起きている?!じゃぁもう寝なくていい。今日から俺は睡眠を捨てる!」
「それは色々体に不調をきたしますので、お止めください」
「ロッティーッ!!」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられておりますが、タップするほどでは御座いません。どこまでもお優しいバルタザール様の耳元でそっと囁きます。
「バルタザール様、長くお待たせを致しました。改めて本日より末永くお側に置いてくださいませ」
「うん…うん…側にしか置かない…うん‥んぐっ‥うん」
で、有言実行でございましょうか。
従者に「俺、近衛隊辞めるから」と伝えられ、近衛隊を退団されると仰るのです。
「だ、だめです。お仕事はちゃんとして頂かないと」
「仕事なんかしていたら誰がロティの警備をするんだ。他の者に任せる事なんて絶対に出来ない。これだけは譲れないまさに絶対防衛線だ。言ったじゃないか。末永く側にと!」
――わたくし、基本が自宅警備員なので大丈夫です!――
「それは仕事を辞める事とは関係御座いませんでしょう?」
「あるあるある!!マールノウチのOL100人に聞いてもあるって言うぞ!」
――新橋のサラリーマンなら言わないと思います――
しかし、本当に近衛隊を辞めると言ってきかないバルタザール様。どうやら留守の間にわたくしが実家に戻るのを警戒されている模様で御座います。
「何処にも行きませんよ。3階のお部屋に引っ越しも終わっております」
「ほっ本当に?!では奥の院も見てしまったのか?」
――は?奥の院?初耳でございますが――
周りを見渡すと、お爺様が顔を反らせます。義両親も顔を反らせます。
使用人さんも突然天井や床が気になりだしたご様子。
――何があるの?!誰かヒントを頂戴っ!――
ですが、動きを見せる方がいらっしゃいません。
目の前のバルタザール様以外は。
「バルタザール様。奥の院にご案内くださいませ」
「いいのか?」
「だって、そこはまだ見ておりませんし気になります」
わたくしは気が付かなかったのです。
バルタザール様の目がキラっと光った事に。
3階の一番奥、突き当りの部屋に案内をして頂き、扉を開けました。
ガチャリ‥…(え?これは…)‥‥ガチャリ。
「確認が終わりました。バルタザール様1階に戻りましょう」
「ここまで来て戻すと思うのか?俺の昂ぶりは最高潮を迎えているのに」
――昂ぶり…(下方をちらり)エベレスト登頂成功だわ――
ゴクリ…何故かわたくしの背の側からすっぽりと体を包み込むバルタザール様はもう一度「奥の院」の扉を御開帳されるとグイグイと押し込むのです。異常なほどに鼻息が荒くなっておられます。
「もう逃がさない。闇落ち寸前までを幾度となく繰り返した俺を受け止めてくれ」
「闇落ち…なんのカミングアウトですの」
「大丈夫だ。この日のためにロティ専用に肉体改造した。その結果がこの怒張だ!空前絶後のぉぉ~超絶怒涛のこの角度!ジャァスティスッ!!」
――それ、生理現象です。一定年齢に達した殿方の哀しい性――
「先ずは一緒に湯を浴びよう。隅々まで俺を堪能してくれ」
非常に危険な状態になっております。こうなっては仕方が御座いません。
秘め事秘話での伝聞、大人の恋愛小説、官能小説で得た知識を総動員ですわ。
「こんな事でわたくしが喜ぶと思っていて?」
「え・・・」
「調教部屋をモチーフにしたとは言え、フッ。わたくしが満足するとでも?」
「ロティ…これでは満足しないと?」
「そこにお座り!ザック!」
「ハグッ!!ザック…ザックと俺の事を…今、呼んだのか。心臓が裂けた気がする」
「口答えは宜しい。お座りッ!」
素直に従うバルタザール様。
恍惚とした表情になっておられるのは、この際不問に致しましょう。
食事もせずに「奥の院」でバルタザール様に女優いえ女王になり切ってお説教をする。
それがわたくしたちの本当の結婚生活の始まりで御座いました。
お説教の後は皆さまとお食事。
勿論、その日の夜にはパクリ♡と食べられてしまい翌朝起き上がる体の節々が痛いですわ。
それよりも「奥の院」で寝台や壁に取り付けられた拘束具の出番は御座いません。奥の院も撤去の手配を早々にせねばなりませんが、未使用でも買い取ってくれる業者はあるのかしら?
ですが、ですが!目が覚めると隣で眠っている若い夫。
クゥゥ!美丈夫の寝顔なんて眼福!と思っておりましたら…。
「朝起きたら隣にロティがいるなんて…俺、もう壊れてもいい」
――色々と痛んでいるようなので修復が必要だと思いますよ?――
わたくしも日頃の運動不足を痛感しております。筋肉痛が忘れた頃にやってこない事を祈りたい気分ですわ。そんなわたくしの隣で枕に顔を埋めながらバルタザール様が仰います。
「ロティ。もう一度呼んでくれないか?」
「お名前ですの?ザック?」
「ニャハー!最高だ。もう他には何もいらない。ロティ以外は何も要らない。俺、絶対に浮気なんかしない。いっぱい子供作ろう。師団が編成できるくらいに」
――わたくし、マンボウではないので無理です――
俯き、体をグニグニと捩じりながら悶える美丈夫。
これもまた眼福。
「俺は幸せ過ぎてバカになったのか?もうこんなに復活した」
「多分、毎朝の現象かと思われます」
バルタザール様の瞳がキラっと光りました。
ゾクッ!!
身の危険を知らせるエマージェンシーランプが頭の中で回転を始めます。
「体力の限界!」と引退したスーモ・レスラーの気持ちがよく判ります。
16歳の体力に付き合える25歳では御座いませんの。ガバリと体を起こすわたくし。
「ロティ、何処に行くんだ」
「何処って…起きるので―――ぐえっ!」
わたくしの上に乗っかるバルタザール様。細身の癖に重いっ!!
「重い!重いですわ!どいてくださいませぇぇ」
「俺の愛の重さを解って貰うまではどかない!」
妻なのに婚約者という面倒な状況もすんなり受け入れてくれ、そして今も変わらずわたくしだけを愛してくださるバルタザール様。屋敷にはレベッカもオリヴィア様も遊びに来て下さいます。
年の差がある事で、「へぇ」と思う事も多く新鮮で御座います。
そして見えない愛の重さと物理的な体重という重さを感じる日々。
「俺はロティに翻弄されてばかりだ。いい夫でありたいと思っているのに出来ているだろうか」
膨らみを持ったわたくしのお腹を撫でながら19歳で父となるバルタザール様が呟きます。
――わたくしの方がバルタザールに翻弄されておりますわ――
Fin
☆~☆
注1)犯罪です。目撃したら手を出さず110通報を。
☆~☆
拙い話にお付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
こちらの話はバルタザールとリーゼロッテの話です。
「ジュリアス殿下は何故?どうしてそうなった?!」は今後公開になる話となります。
温度差が激しいのと、R指定をしますのでこの話と分けました。ご了承ください。
ジュリアスの話は2月、若しくはコメント欄を閉じて1月とするか考え中です。
このあと、コメントの返信を致します。
まだかな~とお待たせをすると思いますが、非承認ご希望以外は返信を致しますので待って頂けると嬉しいです。(*^▽^*)/
言葉を返すのは当然なのですが、先ずは行動。待たせていた同居を開始するのです。
ちょっとしたサプライズですが喜んでくださると嬉しいな。
部屋に案内をされるまでは、数歩進んで足が止まる。
その繰り返しで御座いました。
3階がバルタザール様とわたくしの居住スペースになるのですが何故か階段の踊り場で目を疑ってしまいました。
案内をしてくださる侍女さんが申し訳なさそうに【上をご覧ください】と言うのです。
なんだろうと見上げてみると…。
「ヒュッ!!」
どうして格子天井一面にわたくしの肖像画が?!
聞けば絵を貼っているのではなく、絵師を呼び天井面に直接描いたのだとか。
「坊ちゃまは宗教画と申されております」
「宗教画…って」
「では、神々の通路の先がお部屋で御座います」
「かっ!神々の通路?」
「坊ちゃまはそう名付けられておりました」
神々の通路。それは単なる廊下と言えば廊下。
折角の美しい庭を塞いでしまったショーケースが廊下の片面にビッチリ!
ショーケースの中には過去、わたくしが着られなくなったワンピースやドレスが小物や靴もセットになって飾られているのです。
「あの、このケースに付いている小窓はいったい何を?」
「ケース内に充満した香りを吸い込み、肺を浄化させると申されておりました」
「余計に咽込みそうな気がしますが」
そう思い、小窓に手を触れようとした瞬間。
「いけません!危険です」
「危険?」
「坊ちゃまが中の空気を吸い込み過ぎて負圧になっているのです」
――どんな肺活量なの?!――
「申し訳ございません。これらを撤去して頂けますか?」
「撤去?!ですが坊ちゃまが…」
「そうでございますわね。判りました。バルタザール様にはお戻りになられたらわたくしからお話を致しますので、撤去の方向性で業者を手配して頂けるとありがたいですわ」
「畏まりました。私どもも庭が見えず、暗いので困っておりました」
そうですわよね…この廊下、夜はサスペンスドラマのランプを片手に歩いているその背後に迫るなにか!を彷彿させますものね。小さな音にもビックビクになってしまいますわ。
そうして案内をされたわたくし用の部屋に到着した時に、バルタザール様のご両親がいらっしゃったのです。
「さぁ、今日からこの部屋を存分に使って頂戴」
「安心してくれたまえ、鍵は全て付け替えた上に3連式。廊下からの入り口はスマートロック、バルコニーのクレセントキーの下にも開閉補助鍵をつけた」
そこまでして頂くと今度は物理的に壁を破壊する行動に出そうな気が致します。隣室に扉なしで行き来できる穴が開いてしまう可能性が高いですわね。
低コストが売りなのに冬場の暖房で吹き抜けを玄関に設けたばかりにファンをつけねばならなくなって結果的に建設費も後の電気代もコストアップするデザイン系建売住宅のようですわ。
吹き抜けはオサレに見えるけれど掃除もし難いのよね。3年経って蜘蛛の巣が天井に見えると萎えちゃいますの。
「あの子が通常業務に戻れば別邸に移っても構わないからね?お願いだから月に一度の資源ごみに出さないでやって欲しいわ。リーゼさん以外にはリサイクルも出来ない息子なの」
――もしかすると業者が回収前にパクっていく方がおられるかも?――
ジュリアス殿下が見つかったとの知らせがアーカンソー公爵家にもたらされたのは引っ越しをして1週間後で御座いました。
ここから忙しいのはご当主であるお爺様と次期当主のお義父様のみ。
やっと解き放たれた野獣、いえバルタザール様が公爵家に戻られたのです。
「お帰りなさいませ。無事のお戻り、何よりですわ」
「ロ、ロティ…どうしてここに?!」
腰に帯剣した剣を従者に渡そうとしていたバルタザール様ですが、ゴトン!とご自分のつま先の上に落とされております。
「痛ったい!!痛い!小指の上にツバがぁぁ!!」
――つま先に保護材のある安全靴では御座いませんの?――
「痛いけど!こんなところにロティがっ!これは夢なのか?!誰か俺を抓ってくれ」
痛みであれば十分に足の小指に感じていらっしゃるでしょうに、更なる痛みを要求されるとは。年下の美丈夫はいろんなところで可愛さを演出するものですわ。
では、遠慮なく頬を抓らせて頂きましょう。
きゅっ!
「ファァァ!こそばゆい!」
――えっ?頬の皮がわたくしの指で半回転しておりますが――
さらに、キュキュキュ!
「ぬあぁぁ!!辛い勤務の後にこんなご褒美があるなんて知らなかった!」
――わたくしも、こんな事でここまで喜んで頂けるとは思いませんでした――
もしや、ディートリヒ様はオムツで御座いましたが、バルタザール様は痛みを伴う系が性癖でいらっしゃるの?新たな扉を開いてしまった?いいえ…開かれた扉にわたくし迷い込んだ?
「ハァハァ…これは現実なのか…だとしたら目が覚めなくてもいい!」
「現実なので起きていらっしゃいますよ」
「起きている?!じゃぁもう寝なくていい。今日から俺は睡眠を捨てる!」
「それは色々体に不調をきたしますので、お止めください」
「ロッティーッ!!」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられておりますが、タップするほどでは御座いません。どこまでもお優しいバルタザール様の耳元でそっと囁きます。
「バルタザール様、長くお待たせを致しました。改めて本日より末永くお側に置いてくださいませ」
「うん…うん…側にしか置かない…うん‥んぐっ‥うん」
で、有言実行でございましょうか。
従者に「俺、近衛隊辞めるから」と伝えられ、近衛隊を退団されると仰るのです。
「だ、だめです。お仕事はちゃんとして頂かないと」
「仕事なんかしていたら誰がロティの警備をするんだ。他の者に任せる事なんて絶対に出来ない。これだけは譲れないまさに絶対防衛線だ。言ったじゃないか。末永く側にと!」
――わたくし、基本が自宅警備員なので大丈夫です!――
「それは仕事を辞める事とは関係御座いませんでしょう?」
「あるあるある!!マールノウチのOL100人に聞いてもあるって言うぞ!」
――新橋のサラリーマンなら言わないと思います――
しかし、本当に近衛隊を辞めると言ってきかないバルタザール様。どうやら留守の間にわたくしが実家に戻るのを警戒されている模様で御座います。
「何処にも行きませんよ。3階のお部屋に引っ越しも終わっております」
「ほっ本当に?!では奥の院も見てしまったのか?」
――は?奥の院?初耳でございますが――
周りを見渡すと、お爺様が顔を反らせます。義両親も顔を反らせます。
使用人さんも突然天井や床が気になりだしたご様子。
――何があるの?!誰かヒントを頂戴っ!――
ですが、動きを見せる方がいらっしゃいません。
目の前のバルタザール様以外は。
「バルタザール様。奥の院にご案内くださいませ」
「いいのか?」
「だって、そこはまだ見ておりませんし気になります」
わたくしは気が付かなかったのです。
バルタザール様の目がキラっと光った事に。
3階の一番奥、突き当りの部屋に案内をして頂き、扉を開けました。
ガチャリ‥…(え?これは…)‥‥ガチャリ。
「確認が終わりました。バルタザール様1階に戻りましょう」
「ここまで来て戻すと思うのか?俺の昂ぶりは最高潮を迎えているのに」
――昂ぶり…(下方をちらり)エベレスト登頂成功だわ――
ゴクリ…何故かわたくしの背の側からすっぽりと体を包み込むバルタザール様はもう一度「奥の院」の扉を御開帳されるとグイグイと押し込むのです。異常なほどに鼻息が荒くなっておられます。
「もう逃がさない。闇落ち寸前までを幾度となく繰り返した俺を受け止めてくれ」
「闇落ち…なんのカミングアウトですの」
「大丈夫だ。この日のためにロティ専用に肉体改造した。その結果がこの怒張だ!空前絶後のぉぉ~超絶怒涛のこの角度!ジャァスティスッ!!」
――それ、生理現象です。一定年齢に達した殿方の哀しい性――
「先ずは一緒に湯を浴びよう。隅々まで俺を堪能してくれ」
非常に危険な状態になっております。こうなっては仕方が御座いません。
秘め事秘話での伝聞、大人の恋愛小説、官能小説で得た知識を総動員ですわ。
「こんな事でわたくしが喜ぶと思っていて?」
「え・・・」
「調教部屋をモチーフにしたとは言え、フッ。わたくしが満足するとでも?」
「ロティ…これでは満足しないと?」
「そこにお座り!ザック!」
「ハグッ!!ザック…ザックと俺の事を…今、呼んだのか。心臓が裂けた気がする」
「口答えは宜しい。お座りッ!」
素直に従うバルタザール様。
恍惚とした表情になっておられるのは、この際不問に致しましょう。
食事もせずに「奥の院」でバルタザール様に女優いえ女王になり切ってお説教をする。
それがわたくしたちの本当の結婚生活の始まりで御座いました。
お説教の後は皆さまとお食事。
勿論、その日の夜にはパクリ♡と食べられてしまい翌朝起き上がる体の節々が痛いですわ。
それよりも「奥の院」で寝台や壁に取り付けられた拘束具の出番は御座いません。奥の院も撤去の手配を早々にせねばなりませんが、未使用でも買い取ってくれる業者はあるのかしら?
ですが、ですが!目が覚めると隣で眠っている若い夫。
クゥゥ!美丈夫の寝顔なんて眼福!と思っておりましたら…。
「朝起きたら隣にロティがいるなんて…俺、もう壊れてもいい」
――色々と痛んでいるようなので修復が必要だと思いますよ?――
わたくしも日頃の運動不足を痛感しております。筋肉痛が忘れた頃にやってこない事を祈りたい気分ですわ。そんなわたくしの隣で枕に顔を埋めながらバルタザール様が仰います。
「ロティ。もう一度呼んでくれないか?」
「お名前ですの?ザック?」
「ニャハー!最高だ。もう他には何もいらない。ロティ以外は何も要らない。俺、絶対に浮気なんかしない。いっぱい子供作ろう。師団が編成できるくらいに」
――わたくし、マンボウではないので無理です――
俯き、体をグニグニと捩じりながら悶える美丈夫。
これもまた眼福。
「俺は幸せ過ぎてバカになったのか?もうこんなに復活した」
「多分、毎朝の現象かと思われます」
バルタザール様の瞳がキラっと光りました。
ゾクッ!!
身の危険を知らせるエマージェンシーランプが頭の中で回転を始めます。
「体力の限界!」と引退したスーモ・レスラーの気持ちがよく判ります。
16歳の体力に付き合える25歳では御座いませんの。ガバリと体を起こすわたくし。
「ロティ、何処に行くんだ」
「何処って…起きるので―――ぐえっ!」
わたくしの上に乗っかるバルタザール様。細身の癖に重いっ!!
「重い!重いですわ!どいてくださいませぇぇ」
「俺の愛の重さを解って貰うまではどかない!」
妻なのに婚約者という面倒な状況もすんなり受け入れてくれ、そして今も変わらずわたくしだけを愛してくださるバルタザール様。屋敷にはレベッカもオリヴィア様も遊びに来て下さいます。
年の差がある事で、「へぇ」と思う事も多く新鮮で御座います。
そして見えない愛の重さと物理的な体重という重さを感じる日々。
「俺はロティに翻弄されてばかりだ。いい夫でありたいと思っているのに出来ているだろうか」
膨らみを持ったわたくしのお腹を撫でながら19歳で父となるバルタザール様が呟きます。
――わたくしの方がバルタザールに翻弄されておりますわ――
Fin
☆~☆
注1)犯罪です。目撃したら手を出さず110通報を。
☆~☆
拙い話にお付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
こちらの話はバルタザールとリーゼロッテの話です。
「ジュリアス殿下は何故?どうしてそうなった?!」は今後公開になる話となります。
温度差が激しいのと、R指定をしますのでこの話と分けました。ご了承ください。
ジュリアスの話は2月、若しくはコメント欄を閉じて1月とするか考え中です。
このあと、コメントの返信を致します。
まだかな~とお待たせをすると思いますが、非承認ご希望以外は返信を致しますので待って頂けると嬉しいです。(*^▽^*)/
応援ありがとうございます!
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みんなの感想(94件)
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こんばんは_(._.)_
夜分遅くに申し訳ありませんO(><;)(;><)O
いつも楽しく読んでいます。
いつもテンポ良く更新してくださるので他の癒され度合い高いです♡
番外編書いてほしいです☆
コメントありがとうございます。<(_ _)>
夜分遅くっ?!いやいや…ワシ、実はこのコメントを頂いのに気が付いたのが午前3時半でしてね…。
返信しちゃうとお知らせ通知?みたいなのがスマホでピロン♪っと鳴ったら安眠妨害?!
っと((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル
お日様のある時間帯に返信をしております(*^-^*)>
夜は大抵起きてます…まぁ昼間も起きてます…。
時間に関わらず、コメントを頂くと\(^▽^)/ブラボー っと喜ぶワシ♡
返信をする機会を与えてくださってありがとうですよぅ~。なので気にせずにジャンジャン!!お声を頂ければ感謝の極み~♡
待てないワシ。幾つか他の作者様のお話は読んでいるんですけども「えっ?!もう待てになっちゃうの?」っとジレジレ…ジレジレ…。更新されるのが明日の〇時と判っていてもジレるんですよ~(;^_^A
なので出来るだけ素早く終わらせようと、日に何度も更新しちゃうんですけどもストレスフリーで読んで頂けているとのお言葉にワシが癒される~♡ありがとうですよぅヾ(@⌒ー⌒@)ノ
番外編…ゲスが出てきますが話に出て来ていたジュリアスの話は公開になっております。
ただそっちはバルタザール出て来ないんですよねぇ…。(;^_^A
そうだ!別の話に変態騎士アルベルトっていうバルタザールとどっこいどっこいな変態がいるんですよ。
そちらも奥様のエトワール夫人をベロッベロに好き過ぎる変態なんですけども、コラボさせてみる??
あ…でも変態色が強く出過ぎてアウト???
そうだなぁ…お兄ちゃんの恋話でも作ってみようかな。そうすれば登場する機会も多くなりそう。
考えてみますね(*^-^*)
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました。<(_ _)>
ん?作者、広島か島根人か?
コメントありがとうございます。<(_ _)>
順番に47都道府県を問われていくと何処かで嘘吐きにならないといけなくなるので(;^_^A
日本のどこかと思って頂ければ。<(_ _)>
ご達筆ですね!一気に読めました。
いつもながらお見事な腕前。
ところで以前の近況にありましたが作者様は鹿児島ご出身の方でしょうか?
実は私も鹿児島父と韓国の母を持っておりまして、自分は東京住まいですがなんだか懐かしさを覚えました。本年もご健康でいてください。
コメントありがとうございます。<(_ _)>
達筆?!いやいや…まだほど遠いレベルでモゴモゴしておりますよ~(*ノωノ)ハズカシ
楽しんで頂けて何よりです(*^-^*)
鹿児島県はワシからすると大都会でございますよ!
何と言っても夢の超特急!新幹線が走っているではあ~りませんかヽ(^o^)丿
九州新幹線に乗車経験がなかった田舎者でございますが!昨年の12月!遂に!遂に乗車致しました~!!
(ワーワー!!ヒューヒュー!!)
と言っても1駅…2駅だったかな…(;^_^A
有〇高専のデザコンに行った時に乗車したんですよ~。撮り鉄でも乗り鉄でもないですけども興奮しましたよ~ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
ワシはよく男じゃないか?と言われるんですが薩摩隼人じゃないので鹿児島ではないのです(*^人^*)ゴメンネ
出張してる時は竹〇というとんかつ屋さんによく出没致します(*^-^*) あ、開〇亭も♡
地元でもとんかつは食べるんですけど、本場は違いますねぇ‥。食べきっても胃もたれしない(年齢が!泣)
西日本というくくりでは…(n*´ω`*n)一緒で御座るよ♡
最後になりましたが、
新年あけましておめでとうございます。
このウサギ年がミリオン様にとって更なる飛躍の年、有益な年となりますよう(*^人^*)
ラストまでお付き合いいただきありがとうございました。<(_ _)>