どうせ離縁できないしとキレた奥様は推し活をすることにした

cyaru

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第26話  私でも良いんじゃない?

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翌朝、フェルナンドは小さな物音に目が覚めた。

「ハッ!いけない!」

寝台から飛び起きてガウンを羽織り、廊下に出てみる。時刻は朝の5時50分だ。

「コレット様、おはようございます。今日は襟元のワンポイントが可愛いですね」

「奥様!おはようございます。気が付いて頂けました?」

「えぇ。縁取りが良い味を出してるわね。素敵」

「頑張った甲斐がありましたっ!えへへ」

セレナが声をかけているのは厨房の水瓶に水を汲んだりする下働きの女性。名をコレット。セレナが使用人の名前を憶えている事もだが「今日も」という事は毎日きちんと観察をして小さな変化にも気が付いていると言う事だ。

==そりゃ使用人も彼女の事を良く言うはずだ==

点数稼ぎでここまでは出来ない。
女主人の位置にあるセレナが使用人のご機嫌を取る必要もないのだ。


「奥様!今朝も朝食の完食。ありがとうございます」

「あら、オルソン様。今日はリクエストに応えてニンジンの皮もスープにありましたわ。シェフ長にはお礼を申しましたがオルソン様の提案ですわよね?」

「バレましたか。奥様が人参は皮も美味しいって言ってたんで」

「覚えててくださるなんて光栄だわ。今日は良い事がありそうよ」

オルソンは調理場で野菜を洗ったり皮を剥いたりと下準備をするだけの使用人。
気安く話をして、セレナがくすっと笑う。

フェルナンドの胸の奥がチクリと痛みを発した。
胸に手を当ててその痛みが何の痛みなのか。考えたがフェルナンドには答えが出なかった。

==私は、いろいろと間違っていたんだろうな==

部屋に戻ろうとすると掃除道具を両手にしたクリーンメイドに声をかけられた。

「旦那様、こんな時間からどうされました?洗顔係が来なかったのですか?それは申し訳ございません。直ぐにお部屋に向かうように伝えておきます」

「いいんだ。それより…どうして?」

「どうしてとは?」

「君はクリーンメイドだ。洗顔係に伝達をしなくてもいいだろう」

「そうでした。出しゃばった真似を。申し訳ございません」

「良い事だ。謝らなくていい」

「は、はい。失礼致します」

パタパタとクリーンメイドが掃除道具を持って奥に消えていくと使用人たちに見られている事に気が付いた。目が合うと礼をして蜘蛛の子を散らすように使用人は散っていく。

騎士団でも気が付いたことがあれば階級を問わず報告をするのが当たり前だったが聞えてきた使用人の声にフェルナンドはハッとした。

「さっきの聞いた?」

「聞いた。あんな言い方しなくても。気が付いたら声掛けすれば仕事がスムーズって奥様の方がよっぽど知ってるじゃないのよ」

「ホント。騎士団では当たり前だけど旦那様って結局威張りたいだけなのかも」

「あ~。先代様の時は働きやすかったのになぁ。私、もう奥様だけでいいんだけど」

「仕方ないわよ。お顔は良いんだから我慢しなくちゃ」

「それがタイプじゃないのよね~」

「貴女、ゴリラみたいな男性が好きだもんね」

「そう!聞いて!昨日休みだったら鍛錬場に行って絵姿描いてもらったのぉ~。奥様ももう一度メイリーン様の絵姿描いて貰えばいいのに。お話はよくされてるみたいだけど、やっぱり推し活の第一歩は絵姿よ!」

==やはり私が間違っていたんだな==

フェルナンドは部屋に戻り、桶を抱えた洗顔係にこれでもか!と謝罪をされながら顔を洗い、食事を済ませると隊服に身を包み騎士団に出向いて行った。


「メイリーン騎士の絵姿。悪い事をしてしまったな」

今日は鍛錬場に行く用事はないけれど、休憩時間に出向いて絵師にメイリーンを絵姿を描いて貰ってセレナに渡そう。そう考えたのだがフェルナンドは知らなかった。

絵師は男性から「オプション」で依頼を受けると破廉恥なポーズの絵姿を描くのが慣例となっている事に。

女性たちは推しの騎士を描いてもらう時に、出来上がるまで絵師にベッタリで「そこ、もうちょっと目線を上に」など注文をつけるが男性は出来上がったら声をかけてと放りっぱなし。

その上、フェルナンドは国内で知らないものはいないと言われる美丈夫で、人嫌いの女嫌い。
自分の噂をすっかりと忘れて、休憩時間に絵師を探しメイリーンの絵姿を数枚と全てオプションで頼んでしまったフェルナンド。

見物客がざわついたのは当然のことだろう。

「結婚して女の味を知ったから色に狂ったのか?」

「メイリーン騎士ってまだ14歳だろう?犯罪じゃないのか?」

そんな噂をされているとも知らず、出来上がった絵姿を受け取ったフェルナンドは「どれどれ」出来栄えを見て絶句した。

バッと振り返って絵師を見るが、絵師はうんうんと頷くだけ。
広げた絵姿はどれもメイリーンのあられもない姿を妄想で描いたもの。

==こんなの持ってるだけで捕まるぞ!==

セレナにお詫びとしてプレゼントしようと思っただけなのに。
絵姿は即座にフェルナンドの手によって騎士団で割り振られた執務室の暖炉に放り込まれ、永遠の秘密となったのだったが、ふと思った。


「騎士で良いのなら、私でも良いんじゃないだろうか?」

夫が騎士の奥様方は夫の雄姿を絵姿にしている者もいると聞く。

==もしかしてセレナも黙っているだけで私の絵姿を持っている?==

フェルナンドはジュボっと顔が瞬時に真っ赤になった。
火照ったのは顔だけでなく全身が熱い。

慌てて井戸に行き、何度も汲み上げたばかりの冷たい水で顔を洗ったが一向に火照りは収まらない。
そんな時、騎士に声をかけられた。

「暖炉の前で何かされてたようですけど、火の粉でも飛びましたか?火傷は15分ないし20分は冷やした方がいいですよ」

「そうだな…よく冷やす事にするよ。ありがとう」

そう答えたもののフェルナンドは体の外面の冷やし方は知っているが内面の冷やし方は知らなかった。


★~★
誤解のないように。
セレナはフェルナンドの絵姿は持っていない。
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