王子殿下にはわからない

cyaru

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第33話  マジョリカの才能

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ルシファーの執務を纏めるだけという作業を任されたマジョリカ。

マジョリカが知り得た秘密をどこかに漏らす心配は全くしていないからこそ重要な書類もマジョリカの手を通っていく。


モンテストは書類と睨めっこをするマジョリカを観察した。

ウェストレスト王国の言語、会話は2か月ほどの移動中に習得し、その後も1冊の辞書と使用人やルシファーたちとの会話で単語を覚え、意味を知り、半年も経たないうちに書くことも完全にマスターしている。

実際のウェストレスト王国の文字に触れてからは3か月ほどだ。

単に侯爵家を出られる喜び、それだけで片付けられるような才能ではない。
人の才能というのは広く浅くが一般的だが、時に算術や天文学、物理学など一部にだけ異常に突出した才能を持つ者がいる。


マジョリカを観察したモンテストはルシファーに言った。

「マジョリカ様は考えている以上に賢いと思いますし、記憶力が半端ない」と。



それはふとした気づきからだった。

離れの地図の置かれていた部屋には離れを建設した当時、この宮を使っていた王子が所蔵している本がそのまま残されている。虫食いだったり経年劣化で普通に読むことも難しい保存状態の本もあるけれど、日常で読める状態の本もある。

マジョリカは文字を覚えると楽しくなって夜遅くまで本を読み耽る事が多くなったのだが、本の内容をほぼ完璧に覚えていたのだ。

「ウェストレスト王国歴771年にバルト港を開港って1000年以上の歴史があるんですね。その当時から湾内の水深は深かったんですか?」

「え?バルト港?随分と古い呼び名を。久しぶりにその名前を聞きましたよ」

「そうなんですか?じゃぁもう使われていない港なのかしら」

「いいえ。ノースレスト王国の船が利用したいと願った港がそうですよ。40年ほど前にペルテス港と名前を変えたんです。名前を変える少し前に大火事がありまして当時の代官ペルテスが鎮火に尽力し、功績をたたえて名前を変えたんです。その時にほとんどが燃えたので港の拡張工事も行われたので新旧入れ替えになった感じですね」

「そうだったんですね。ではこの本に書かれている事で今も通用するのはどのくらいあるんでしょう」


そう言って蔵書を持ってきたのだが、何ページの何処にこんな記述があると内容を覚えていたのである。


試しにモンテストはマジョリカにウェストレスト王国の言語を覚える時に気を付けた事は何か?と問うと少し首を傾げて「共通すること」と答えた。

ノースレスト王国の言語との共通点かと思えば違っていた。

「物の数え方とか、料理に使う食材、道具とか、衣類に関すること、例えば布、針、糸、破れ、繕いとか共通する事に分けて文字を探して覚えました。ペリーさんと話をして発音も。通じたときは嬉しかったです。講師の方はどうしても日常会話は教えてくれましたけど、各々の品の名前までは教えてくれなかったので」

「なるほどジャンル分けをされたと」

「そうなりますね。覚えていくと違う分類でも共通するものがありますでしょう。テーブルクロスとか食事にも布製品にも共通してますし、だけど翌日には忘れちゃってることも多くて、あれ?ここは解ってたはずって何度も繰り返したりしてると覚えちゃってました」

「なるほど。覚えると忘れるを繰り返したと言う訳ですね」

「そうなんです。一度覚えると忘れないお茶でもあるといいんですけどね。えへへ」

モンテストは表情には出さなかったが、マジョリカが無意識に言語を習得する際に覚えやすいとされている事を行っていた事に驚愕した。

そしてまだ片言ではあるが既にサウスレスト王国の言語も所蔵にある本に記載の有る分は読めるようになっていたことには人生最大に驚いた。ただこちらは読めるだけで声に発する人間が近くにいないので話すには至っていない。

ちらりと侯爵家にいた頃にエミリアや、その上の異母姉、そして異母兄が講師に学問を教わっていた時に遠目で見て記号のような文字に「なんだろう?」と興味を持ち、自分も学びたいと思ったが叶わず。

ほぼ独学で自国の文字を書けるようになり、「看板を読んだり、貼り出されている広報を読むのが楽しかった」と言っていた。

好きこそものの上手なりけりと言うがまさにマジョリカがそうだった。


――よくこんな人材を放っておいたものだ――

エフクール侯爵家の目利きのなさにモンテストは溜息を吐く。

「だからこそあんな手紙を送ってきたんだろう」

そう思いつつ、今日もルシファーからの執務整理の書類を手渡しマジョリカがどうやって仕分けをしていくかを静かに眺めた。



ルシファーに報告をした後、モンテストはマジョリカに回す書類を更にレベルアップさせたがいとも簡単に熟していく。

ページごとに整理をするのではなく内容に目を通して時折紙を挟む。
挟まれた紙には「図表も加えた方が解りやすいと思います」と書かれていた。

単にページの順に並べるだけでなく、内容も理解をし、解らない単語が出て来れば辞書で引く。それでも解らなければモンテストに問う。

人に判らない事を判りませんと問えるのも才能の1つだ。
判らない事が自分で判っているからである。



モンテストは思う。
ルシファーとマジョリカがあと10年早く生まれていれば。
ルシファーの出生順が3番目でなくせめて2番目であれば。

マジョリカが隣にいることでルシファーは玉座を手に入れることが出来たのではないか。そう思うのだった。


ウェストレスト王国の騎兵隊が国境を越え、ノースレスト王国の王都に入った頃にはマジョリカの書類整理はもう整理ではなく作成が出来るまでに能力は恐ろしいほどに上がっていた。
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