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食えないタヌキ
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この回は第三者視点です
★~★
アルフォンソの仕事はアドリアナを預かったからと言って内容が変わるわけではない。そもそもでアドリアナを預かる事はレオンも知らなければ騎士団も知らない。
騎士団には暴行については報告書もあげておらず、内々で処理をした事になっている。
「アル、最近えらく機嫌がいいな」
「そうでしょうか。いつもと同じですが」
「知らないとでも思っているのか?後で困る事になるぞ」
書類を驚異的なスピードで片付けながらレオンはアルフォンソに目もくれずに話しかけた。
アルフォンソも持ち場に立ったまま真っ直ぐに前を見てレオンを見ずに答える。
1つ、2つと書類の山が低くなり、レオンの片付けた書類は国王に運ばれていく。2時間もすれば視界が開けてレオンもつかの間の休憩に入る。
次の書類が運ばれてくるまでの間にレオンは引き出しから書類を取り出し、アルフォンソに「こいこい」と手招きをした。
「御用の際は手招きではなく声でお願いいたします」
「アルは固いね。ま、特別サービスだから目を通しておくと良い」
そう言って取り出した書類をそのままアルフォンソに「はい」と手渡した。
「拝見いたします」
アルフォンソが文字に目を走らせている間も、レオンは口を休める事をしない。
「不要かと思ったが念のため調べて置いた。なかなかの阿婆擦れだな」
「そのようですね。これではパルカス侯爵家も2年…持つでしょうか」
「持たせなきゃいけないんだろう?3年待つ男が何を言ってるんだか」
アドリアナは元々パルカス侯爵家の本宅では生活をせず、パルカス侯爵家の執務も行わない。離縁ありきで結婚となっているのだから覚えても仕方がない事もあるが一番の理由は知られては困る事もそれぞれの家にはあるからである。
レオンの報告書にはパルカス侯爵家の本宅にソフィーリアをブラウリオが呼び寄せ、一端の侯爵夫人気取りのソフィーリアの動向が記されていた。
「執務を覚える気はないだろうとは思っていたが嘆かわしい事だ」
「パルカス侯はどうされるおつもりでしょう」
「余生を過ごすに丁度の財産だけを領地に移している。一昨日だったか。第一陣の荷馬車が出た。いい年だから息子に爵位を譲り、悠々自適な隠居生活を楽しむんだろう」
「ですが、それではパルカス侯が一番嫌がる形になるのでは?」
パルカス侯爵が実弟など親族ではなくブラウリオに爵位を継がせたかった事は明白だが、報告書の数字はたった2カ月ほどで侯爵家の屋台骨が危険な状態になりつつあるとあり、相当のテコ入れを現状で行なわなければアルフォンソの読み通り2年も持たずに落ちぶれてしまう事が伺えた。
「老害ってのは鯔の詰まり自分が良ければ後はどうだっていいって事だ。パルカスは自身は侯爵という身分で役を降りる。その役を引き継ぐのは血を分けた息子。そこまでがステイタスと考えている。息子の代で侯爵家がどうなろうと知った事ではない。捨てたものを拾うほど矜持は落ちぶれてもいないだろうからな」
「あれほどに執着していたのに随分あっさりと見切るのですね」
「息子のうちは世話をするさ。だが、息子もいずれは親より嫁になる。それ以降執着をするのは父親ではなく母親だが侯爵家は夫人に発言権がない。夫に従わねば食う事もままならないとなれば息子に頼るだろうが、その息子は阿婆擦れに骨抜きにされている。寄生虫の手本のような夫人もブラウリオはもう見限っている。そうでなければ今頃必死になって読み書きから教えているはずだ」
「70も近くなったというのに憐れですね」
「おぃおぃ…随分楽観視しているが、さっきも言っただろう。カレドス伯爵家の娘。早いところ手を切れ。後で困る事になると言うのは、息子の代になった時に侯爵家は大赤字。だが支出は止まらない。どうすると思う?」
ニヤッと笑うレオンだったがアルフォンソも考えるほどでもない。
時期を待たずしてブラウリオはカレドス伯爵家に支援金を返済しろと言い出すのは目に見えていた。元々の案ならアドリアナが住まうのは侯爵家所有の屋敷。しかし今はロカ子爵家で面倒をみている。
「溺れる者は藁をもつかむ。夫婦関係を早々に破綻させたのはカレドス伯爵令嬢側とするだろう。それを囲っているお前にも火の粉が飛ぶ。だから早いところ縁を切れ。それが身を守る最善の策だ。言っておくがこれは ”いとこ”だからわざわざ教えてやっているんだ。他人だったらとっくに私もお前を見限っている」
「でしょうね。殿下は泥船に乗った愚か者が沈んでいくのを笑って見送れる人ですから」
「褒めて…はないよな?」
「いえ。国を統べるに必要な心得ですので、感服しておりますよ」
「ハッ。”いとこ” 殿は何時から食えないタヌキになったかな」
「タヌキでもキツネ‥‥ん?タヌキ?…タヌキ…」
思案顔になったアルフォンソ。
アルフォンソも現パルカス侯爵はいずれ引退をするだろうが、ブラウリオが考えそうな事だとブラウリオについてはレオンと意見の一致を見たが、その程度なら織り込み済み。
起こした家は子爵家だが実質の内容は現在のパルカス侯爵家よりも発言力や財力もあるのでどうとでも出来ると考えていた。
そんな事よりも何かが閃きそうだったのだ。
レオンが何度呼びかけても上の空で勤務時間の間ずっと何か考え事をしてしまう状態となってしまった。
相手にしてもらえなくなったのもあるが、レオンはアルフォンソがすっかり変わってしまった原因でもあるアドリアナを一度見に行ってみようと思った事だった。
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アルフォンソの仕事はアドリアナを預かったからと言って内容が変わるわけではない。そもそもでアドリアナを預かる事はレオンも知らなければ騎士団も知らない。
騎士団には暴行については報告書もあげておらず、内々で処理をした事になっている。
「アル、最近えらく機嫌がいいな」
「そうでしょうか。いつもと同じですが」
「知らないとでも思っているのか?後で困る事になるぞ」
書類を驚異的なスピードで片付けながらレオンはアルフォンソに目もくれずに話しかけた。
アルフォンソも持ち場に立ったまま真っ直ぐに前を見てレオンを見ずに答える。
1つ、2つと書類の山が低くなり、レオンの片付けた書類は国王に運ばれていく。2時間もすれば視界が開けてレオンもつかの間の休憩に入る。
次の書類が運ばれてくるまでの間にレオンは引き出しから書類を取り出し、アルフォンソに「こいこい」と手招きをした。
「御用の際は手招きではなく声でお願いいたします」
「アルは固いね。ま、特別サービスだから目を通しておくと良い」
そう言って取り出した書類をそのままアルフォンソに「はい」と手渡した。
「拝見いたします」
アルフォンソが文字に目を走らせている間も、レオンは口を休める事をしない。
「不要かと思ったが念のため調べて置いた。なかなかの阿婆擦れだな」
「そのようですね。これではパルカス侯爵家も2年…持つでしょうか」
「持たせなきゃいけないんだろう?3年待つ男が何を言ってるんだか」
アドリアナは元々パルカス侯爵家の本宅では生活をせず、パルカス侯爵家の執務も行わない。離縁ありきで結婚となっているのだから覚えても仕方がない事もあるが一番の理由は知られては困る事もそれぞれの家にはあるからである。
レオンの報告書にはパルカス侯爵家の本宅にソフィーリアをブラウリオが呼び寄せ、一端の侯爵夫人気取りのソフィーリアの動向が記されていた。
「執務を覚える気はないだろうとは思っていたが嘆かわしい事だ」
「パルカス侯はどうされるおつもりでしょう」
「余生を過ごすに丁度の財産だけを領地に移している。一昨日だったか。第一陣の荷馬車が出た。いい年だから息子に爵位を譲り、悠々自適な隠居生活を楽しむんだろう」
「ですが、それではパルカス侯が一番嫌がる形になるのでは?」
パルカス侯爵が実弟など親族ではなくブラウリオに爵位を継がせたかった事は明白だが、報告書の数字はたった2カ月ほどで侯爵家の屋台骨が危険な状態になりつつあるとあり、相当のテコ入れを現状で行なわなければアルフォンソの読み通り2年も持たずに落ちぶれてしまう事が伺えた。
「老害ってのは鯔の詰まり自分が良ければ後はどうだっていいって事だ。パルカスは自身は侯爵という身分で役を降りる。その役を引き継ぐのは血を分けた息子。そこまでがステイタスと考えている。息子の代で侯爵家がどうなろうと知った事ではない。捨てたものを拾うほど矜持は落ちぶれてもいないだろうからな」
「あれほどに執着していたのに随分あっさりと見切るのですね」
「息子のうちは世話をするさ。だが、息子もいずれは親より嫁になる。それ以降執着をするのは父親ではなく母親だが侯爵家は夫人に発言権がない。夫に従わねば食う事もままならないとなれば息子に頼るだろうが、その息子は阿婆擦れに骨抜きにされている。寄生虫の手本のような夫人もブラウリオはもう見限っている。そうでなければ今頃必死になって読み書きから教えているはずだ」
「70も近くなったというのに憐れですね」
「おぃおぃ…随分楽観視しているが、さっきも言っただろう。カレドス伯爵家の娘。早いところ手を切れ。後で困る事になると言うのは、息子の代になった時に侯爵家は大赤字。だが支出は止まらない。どうすると思う?」
ニヤッと笑うレオンだったがアルフォンソも考えるほどでもない。
時期を待たずしてブラウリオはカレドス伯爵家に支援金を返済しろと言い出すのは目に見えていた。元々の案ならアドリアナが住まうのは侯爵家所有の屋敷。しかし今はロカ子爵家で面倒をみている。
「溺れる者は藁をもつかむ。夫婦関係を早々に破綻させたのはカレドス伯爵令嬢側とするだろう。それを囲っているお前にも火の粉が飛ぶ。だから早いところ縁を切れ。それが身を守る最善の策だ。言っておくがこれは ”いとこ”だからわざわざ教えてやっているんだ。他人だったらとっくに私もお前を見限っている」
「でしょうね。殿下は泥船に乗った愚か者が沈んでいくのを笑って見送れる人ですから」
「褒めて…はないよな?」
「いえ。国を統べるに必要な心得ですので、感服しておりますよ」
「ハッ。”いとこ” 殿は何時から食えないタヌキになったかな」
「タヌキでもキツネ‥‥ん?タヌキ?…タヌキ…」
思案顔になったアルフォンソ。
アルフォンソも現パルカス侯爵はいずれ引退をするだろうが、ブラウリオが考えそうな事だとブラウリオについてはレオンと意見の一致を見たが、その程度なら織り込み済み。
起こした家は子爵家だが実質の内容は現在のパルカス侯爵家よりも発言力や財力もあるのでどうとでも出来ると考えていた。
そんな事よりも何かが閃きそうだったのだ。
レオンが何度呼びかけても上の空で勤務時間の間ずっと何か考え事をしてしまう状態となってしまった。
相手にしてもらえなくなったのもあるが、レオンはアルフォンソがすっかり変わってしまった原因でもあるアドリアナを一度見に行ってみようと思った事だった。
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