アメイジングな恋をあなたと

cyaru

文字の大きさ
23 / 41

もう1つの現実

しおりを挟む
ガタゴトと揺れる馬車に本日は乗車しております。

何処に向かっているかと申しますと、国営の孤児院と併設している職業斡旋所で御座います。
目的は慰問で御座います。

国営ですので孤児院と言っても民間の運営している孤児院よりも食べ物などは充実しておりますし、成長すれば仕事も斡旋してくれるのです。

とは言っても、人を雇いたい商会も人員募集の為に費用は割けません。
なので国営の職業斡旋所と言っても求人が少ないのがネック。掲載をするのに1か月30万も必要となれば少々怪しげな求人と隣り合わせになっても1万程度ですむ求人商会や、貼り紙をしたほうが安く済みます。

カレドス家も人材は欲しいのですが、技量が伴わないと扱うのが薬なので「このくらい」という曖昧さでは困るのですが、なにか策はないかと考えている所に今回の慰問の話が持ち上がりました。

本来なら第3王子殿下がご夫妻で向かわれるのですが、現在第3王子妃は悪阻の真っ最中。初めてのお子様と言う事もあり、第3王子殿下まで右往左往してしまう始末。

そこで代役を任されたのがレオン殿下で御座いましたが、レオン殿下も超多忙。
お母様が元王女でもありロカ公爵家に臣籍降嫁された縁もあって、ロカ公爵家が代役となったのです。

「じゃぁ俺が行く」と手を挙げられたのがアルフォンソ様。
子爵家を興しながらもご実家の公爵家を手伝っておられるのです。


「もうすぐ到着するが、国営と言っても周辺の治安はあまり良くない。遠くに行かないように」
「判りました。私は子供たちに何をすれば?」
「そうだな…子供たちにというよりも、私が院長と話をしている間に子供たちが使っている部屋を女性の目線で見て必要、不必要を判断して欲しい。そこに忖度は要らない」
「ですが、私は育児をした事が無いのでお力になれるかどうか」


しかし、孤児院に到着をしてみて、どうしてアルフォンソ様がここに連れて来たのか。判った気がいたしました。

孤児院の中は物は多くありませんが足らない訳ではなくむしろ充実しておりました。
よく視察や慰問の時だけ子供たちにそこそこの服を着せたり、前夜に体を拭いたりと付け焼刃で行なう施設もあるのですが、流石に国営とあって子供たちの肌つやも良いですし、肉付きもあります。

部屋の中も急いで掃除したところで染みついた香りまでどうにかなるものではないのですが、不快な香りがする事もなく清潔に保たれておりました。

ただ、問題はそこで働いている人たち。

何処かで見た気がしたと思ったらパルカス侯爵家で働いていた使用人さんが多くいたのです。

「ロカ子爵様の口利きで働いているんです。紹介状もなく解雇された私達は本当に助かりました」
「なんですって?解雇?紹介状もなく放り出されたというのですか?」
「そうなんです。旦那様と奥様は若様に見切りを付けられ、間もなく爵位譲渡となるでしょうか、その後は領地に向かうと」
「聞いてください。酷いんです。領地に行く使用人は単身で行ける者のみって言うんですよ。家族を置いて往復で数か月もかかる遠方に行けるわけないじゃないですか」


それ以前にたった半年ほどですのにパルカス侯爵家の使用人は半分以下となり、給料は同じなのに仕事量は倍以上。日勤しか出来ない使用人は要らないと即日解雇されたと言います。

「若旦那様はお連れ様と買い物三昧なんです。王都の屋敷に残っても旦那様達が領地に向かわれた後は賃金の支払いが滞りなくあるかどうかも怪しいんです」

「どういうこと?」

「私達も噂でしか知りません。~だろうという推測の域は出ませんが若旦那様は執務をしないのです。なので経営は旦那様が手を引けばあっという間に傾きます。以前は全額後払いで品を卸していた納入商会も月間の上限を決めたとも聞きますし…辞めるのなら早い方がいいと思っていた所に領地には単身とかいい出して」

「自己都合で退職になると退職金とかの支払いもあるからでしょうけど…全員解雇ですよ。だから退職金も一切出なかったし紹介状もなかったんです」

孤児院で世話係や給仕、清掃の仕事にはありつけたけれど給料は以前の半分ほど。ダブルワークで夜には酒場で皿洗いなどをしてなんとか食いつないでいるけれど、体を壊したら一家が路頭に迷う危機。


パルカス侯爵家の使用人と言えどもう関係が切れているのなら、彼らにカレドス家の仕事を手伝って貰ったらどうかと私は考えたのです。

彼らのスキルは決して低くはなく、勤めた家が悪かっただけ。
申し訳ないけれど、パルカス侯爵家の経営がどんなに悪くても私は口出しも手出しも出来ないのです。そういう契約なので。


幸いにもカレドス家の経営は右肩上がり。2回目の支援金が支払われるのはまだ先なので資金を貯めて事業の手を広げ、2回目の支援金支給は断ろうと両親とも話をしたばかり。

既に支援されているお金は3年の結婚期間が終われば支払いをする必要がないのであと2年!っと考えていたのです。

彼らを雇えないか。慰問を終え馬車に乗り込むとアルフォンソ様が遅れて乗車されます。


「どうだった?」
「慰問と言いながらも彼らと会わせるためだったのですね」
「騙した形になり申し訳ない。だが大事な事なので知っておいて欲しかったんだ」

大事なのは元使用人の彼らもですが、私もだとアルフォンソ様が仰います。
私は、身の回りが平穏で仕事も順調だったので気が付かなかったのです。


「経済的に困窮した者は、取れるところから取ろうとする。直ぐではないがその時は近いと覚悟した方がいい」
「その時?と申しますと」
「当主交代をすれば先代の契約内容も変更しようと動き出す可能性がある。3年待たずに支援金は請求をされる可能性もあるという事だ」
「しかし契約が!」
「契約というのは状況に応じて見直しもするものだ。当主交代という大きな出来事があるのだから、見直しで夫婦は一緒に住むべきと言い出す可能性もある」「
「そんな!別居はパルカス侯爵家の言い出した事で!」
「だから余計に面倒なんだ。その点に於いてパルカス侯爵家が譲歩すると言い出すかも知れない。一緒に住んでいない場合は支援金の返済を求めてくる可能性もあるという事だ」


見落としていた可能性。
アルフォンソ様は私にもう1つ、見る必要のなかった現実を見せてくださったのでした。
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

全てから捨てられた伯爵令嬢は。

毒島醜女
恋愛
姉ルヴィが「あんたの婚約者、寝取ったから!」と職場に押し込んできたユークレース・エーデルシュタイン。 更に職場のお局には強引にクビを言い渡されてしまう。 結婚する気がなかったとは言え、これからどうすればいいのかと途方に暮れる彼女の前に帝国人の迷子の子供が現れる。 彼を助けたことで、薄幸なユークレースの人生は大きく変わり始める。 通常の王国語は「」 帝国語=外国語は『』

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

良いものは全部ヒトのもの

猫枕
恋愛
会うたびにミリアム容姿のことを貶しまくる婚約者のクロード。 ある日我慢の限界に達したミリアムはクロードを顔面グーパンして婚約破棄となる。 翌日からは学園でブスゴリラと渾名されるようになる。 一人っ子のミリアムは婿養子を探さなければならない。 『またすぐ別の婚約者候補が現れて、私の顔を見た瞬間にがっかりされるんだろうな』 憂鬱な気分のミリアムに両親は無理に結婚しなくても好きに生きていい、と言う。 自分の望む人生のあり方を模索しはじめるミリアムであったが。

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

真実の愛は、誰のもの?

ふまさ
恋愛
「……悪いと思っているのなら、く、口付け、してください」  妹のコーリーばかり優先する婚約者のエディに、ミアは震える声で、思い切って願いを口に出してみた。顔を赤くし、目をぎゅっと閉じる。  だが、温かいそれがそっと触れたのは、ミアの額だった。  ミアがまぶたを開け、自分の額に触れた。しゅんと肩を落とし「……また、額」と、ぼやいた。エディはそんなミアの頭を撫でながら、柔やかに笑った。 「はじめての口付けは、もっと、ロマンチックなところでしたいんだ」 「……ロマンチック、ですか……?」 「そう。二人ともに、想い出に残るような」  それは、二人が婚約してから、六年が経とうとしていたときのことだった。

その言葉はそのまま返されたもの

基本二度寝
恋愛
己の人生は既に決まっている。 親の望む令嬢を伴侶に迎え、子を成し、後継者を育てる。 ただそれだけのつまらぬ人生。 ならば、結婚までは好きに過ごしていいだろう?と、思った。 侯爵子息アリストには幼馴染がいる。 幼馴染が、出産に耐えられるほど身体が丈夫であったならアリストは彼女を伴侶にしたかった。 可愛らしく、淑やかな幼馴染が愛おしい。 それが叶うなら子がなくても、と思うのだが、父はそれを認めない。 父の選んだ伯爵令嬢が婚約者になった。 幼馴染のような愛らしさも、優しさもない。 平凡な容姿。口うるさい貴族令嬢。 うんざりだ。 幼馴染はずっと屋敷の中で育てられた為、外の事を知らない。 彼女のために、華やかな舞踏会を見せたかった。 比較的若い者があつまるような、気楽なものならば、多少の粗相も多目に見てもらえるだろう。 アリストは幼馴染のテイラーに己の色のドレスを贈り夜会に出席した。 まさか、自分のエスコートもなしにアリストの婚約者が参加しているとは露ほどにも思わず…。

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

処理中です...