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言葉が届かない2人
「皆さま!お騒がせしてしまい申し訳ございません。このような場でないとダメだと仰っているのですから卒業生でもありますし‥‥壇上から失礼を致します。陛下、学園長よろしいでしょうか」
折り込み済だったのか、それともこの場を楽しもうという悪い趣味なのか。
ティフェルの言葉に国王も学園長も静かに頷いた。
国王も動こうとした護衛の騎士を「待て」と窘める。
カインはエルネストに掴まれたままティフェルを縋るような目で見た。
「ペルデロ様、どのようなお話で御座いましょうか」
「全部俺が悪かった。許してくれ。お願いだ」
「謝られることは何も御座いませんし、許すも何も該当する事が御座いません」
「機嫌を直してくれよ。謝っているじゃないか。判ってるんだ。君は伯爵家の令嬢で父親や格上の公爵家には逆らえなかったんだろう?でももう大丈夫。俺は目が覚め――」
「カイっ!」
遅れて扉から入って来たのはシェリーだった。罪人のように後ろ手で押さえられているカインを見ると「きゃぁぁ!」と声をあげて走り寄り、エルネストに向かって体当たりをしてきた。
しかし、当たる事は出来たがエルネストはビクともしない。
反動で尻もちをついてしまった。
それを騎士科の生徒が押さえつけ、立たせるとカインの隣に並ばせた。
「こんな所まで、ティフェル!貴女には人の心が判らないの!?」
誰もが首を傾げた。ティフェルは元々そこで答辞を読もうとしただけで乱入したのはどちらなのか。
しかし、訳の分からない事をシェリーが言うのを知っている者達は通常運転だと判っている。
驚いているのはそれを知らない大多数だということだ。
「ペルデロ様、奥様はお迎えに来られたのでは?」
「違う!こんな醜女はもう離縁する事にしたんだ。フェルだってこんな醜男は嫌だろう!」
「ペルデロ様、仰っている意味がよく判りませんわ。人の見た目など取るに足らぬもの。誰も…人もですか犬も猫も熊も…その皮と肉が無くなり髑髏となれば見た目の醜悪など関係ありません。人として大事なのは中身です。わたくしの名をその口から聞きたくない、好きなのだと愛を乞われた女性に対し何という言い草なのです。貴方の気持ちはそんなに軽いものなのですか!その言葉も軽いものなのですか!」
「違う!俺はティフェルの全てを愛している。11年間、いやあの女に惑わされたがちゃんと気が付いた!ずっと見た目だけじゃなく中身も…ティフェルを愛しているんだ。こんな臭くて汚い女など足元にも及ばない程に!」
事も有ろうかカインは「臭くて汚い女」という言葉をシェリーに向かって吐いた。
「そんなっ!カイは愛してるって言ったじゃない!全部が好きだって!可愛いって!」
「それが間違いだった!お前なんか肥溜めの方がまだいい匂いがすると思うほどだ!」
「黙らっしゃい!」(バンっ)
言い合いをまた始めそうな2人に答辞の原稿を置いた机を叩いたティフェル。
「汚いというのならばなぜ毎日湯あみをさせる生活になる努力をしないのです!臭いというのなら原因を取り除けばよいのでしょう!何故それをしないのですか!」
「そ、そうよ!わたくしが臭ってしまうのは病気だからよ!知ってるでしょう!カイッ!」
「違います!シェリーさん。貴女の病気は蓄膿症とあとはおそらく怠慢からくる歯周病や口腔内の雑菌が原因のものです。生活を改めきちんと治療を受ければ良いだけです。わたくしといる間も片方の薬はいつも捨てておられたでしょう?あの薬を開発するのにどれだけの人が尽力したと思っているのですか」
「どうして苦い薬を飲まなきゃいけないのよ!知らないからそんな簡単に言えるのよ!それにわたくしからカイを取らないで!カイはわたくしの全てなの!愛しているのよ!奪わないで!」
「ご心配は無用ですわ。わたくし頂き物は吟味いたします。頼まれてもお断りですわ。
何を言っても無駄なようですから…まずペルデロ様、あなたには既に奥様が居られます。あなたは貴族の結婚を何だと思っているのです?たった2カ月で心変わりするなど恥を知りなさいませ。わたくしがあなたに向ける気持ちは一切ありません。愛も恋慕もなければ憎悪も何もありません。あなたにあるのは【無関心】とう事だけです。人は見た目は関係ありません。わたくしがエルネスト様の元に嫁ぐのはその純粋なお心に生涯を捧げ、寄り添いたいと思ったからです」
無関心とエルネストに対する気持ちを言い切られてカインは「そんなはずは…」と呟き始めた。
「それからシェリーさん。貴女は病院に行くことをお勧めするわ。病気を治しながらその怠け癖も侯爵家の指導で叩きなおして頂くとよろしいですわ。代が変われば侯爵夫人。その立場に立つ者に甘えなど許されないのです。侯爵家となれば領民も多くその者達の命も預かるのです。夫を慕う気持ちがあればそのくらいは貴女にとってさほど問題ではないでしょう?」
「本当に…カイを取らない?約束してくれるの?」
「はぁ~…いらないと申し上げましたがそれも理解していらっしゃらないの?」
どうやらシェリーが判ったのはティフェルはカインを望んでないという事だけのようである。
ティフェルがチラリと国王を見ると、ニヤリと笑った国王が立ちあがった。
後ろからバタバタと音がして侯爵夫妻が会場に入り、押さえられている2人を見て愕然となる。
「丁度侯爵も到着か。遅れるにも程と言うものがあるが…まぁいいだろう。
ペルデロ侯爵家カイン、並びにシェリー。お前たちの離縁は儂と王太子、そしてその次の治世となっても認めることはない。死ぬまで仲良く真実の愛を貫くがいい。儂は民を愛しておるからな。その真実の愛は広く貴族だけでなく民にも知らしめることにしよう」
「お、お待ちくださいっ!それではあの娘は未来永劫…離縁は叶わぬと?」
侯爵は投資した金が手に入ればシェリーは離縁させるつもりだった。
シェリーに教育など到底無理な話である。
「侯爵、お前もこれで安泰だな。せいぜい儂の邪魔にならぬよう‥‥侯爵という肩書だけにならぬようこれからも励んでくれ。妻が居るのに他の女性に離縁するからと手を差し出す愚かな息子も教育のし甲斐があってボケる暇もないな。羨ましい事だ」
国王の護衛で付いていた騎士がやっと制限を解かれ、カインとシェリーを連行しようとした。
「なっ!何をするっ」
項垂れて消沈していたと思われたカインが突然騎士の帯剣していた剣を奪った。
国王の護衛はいつ何時も剣を抜けるようにストッパーとなる楔がない事を知っていたカインは素早く剣を奪うとブンと剣を振った。
刃先がエルネストの目の前をかすめていく。
シェリーは当たりはしなかったものの立ったまま失禁をしてしまった。
斬られたかと思ったティフェルは思わず息を飲みこんで壇上から飛び降りようとした。
カインは剣を振り回し、女子生徒の1人の腕を掴むと首筋に剣を当てて壇上に近づいていく。
「フェル、来るんだ」
壇上から降りて自分の隣に来いというカインにティフェルは半歩引いて首を縦に振った。
「行きますから‥‥その生徒を放してくださいませ」
ティフェルはカインの方を向いているが視線の焦点はその後ろにある。
静かに頷くエルネストに目だけで頷いた。
「少し高さがあります。手を貸して頂けますか」
ティフェルの言葉にカインは拘束したばかりの女子生徒を突き飛ばし壇上のティフェルに手を出そうとしたその時を狙って。エルネストは護衛の騎士から借りた剣を振り下ろした。
ゴッ!!「グワァァ!」
背後からのエルネストは剣の柄で思い切りカインの利き手、剣を持っているほうの肩を砕く。
堪らず落とした剣を振り向きざまに左手で拾い上げたカインは円弧を描くように剣を振った。
「貴様…背後からなど卑怯じゃないか!」
「勝手に人の剣を抜いて、あまつさえ女子生徒を人質のように拘束したお前が言うか?」
「俺は良いんだ!」
「何がいいのか判らんが背後からの攻撃は肩の骨を砕いただけだ。安心しろ」
「グゥ…なんだとっ!」
「前を向いた相手だったら、斬ってもいいってことなんだろう!」
言葉が終わると同時に振り下ろされた剣は、カインの持っている剣の柄に当たりガン!とした音と同時にそのまま滑って壁に刺さった。
「このままスライスしてやってもいいが、いちおう愛する妻の卒業答辞を聞きたいんでね。お前の穢れた血で折角の卒業式をこれ以上壊されたくないっていう俺の我慢を知ってくれ」
カインは騎士に腕を掴まれると、やっと肩を砕かれた痛みに意識が向いた。
「うわぁぁ!痛いっ!何とかして!痛い!フェルっ!何とかしてくれ!」
「バカか。牢で嫁にでも【痛いの痛いの飛んでけ~】ってしてもらえ」
「フガァァ!!痛い~!嫌だ!フェルじゃないと嫌だぁ!!」
カインが騎士に連行されていく。エルネストは騎士を呼び止めカインのブレザーを脱がした。
「そこの染みをそのブレザーで覆って置いてくれ」
シェリーが作ったシミにカインのブレザーがかけられる。
「ま、本人の代わりにブレザーが出席って事でいいだろう」
借りていた剣を騎士に戻すと何故か騎士の顔が赤くなっている。
思わぬところに恋のライバルが出現したかと思ったティフェルだったが…。
「もしかして隣国のリーペル公爵家にいた黒騎士って…あなた様では?」
「まぁ…甲冑は黒かったがそう言われているとは初耳だな」
「僕っ!ファンなんです。あ、握手してもらえますか!?」
「構わないが…もう手を洗わないとか不潔な事はしないでくれよ」
「バレましたか…じゃ、ハンカチにサイン…良いですか?!」
「まぁ、それくらいなら」
「やったぁ!これからは兄貴って呼ばせて頂きますっ」
ピョンピョンとウサタンパペットのように飛び跳ねて先に出た騎士を追いかけていく騎士。
「兄貴は了承していないんだが…」
エルネストはポツリと呟いた。
「で、では‥‥再開しても…よろしい??…でしょうか」
国王と学園長に向かって「いいですかね?」と問いたげな司会の女子生徒。
国王と学園長は椅子に座ると大きく頷いた。
再会された卒業式。ティフェルの答辞も無事に終わり花びらのシャワーが降る中、卒業生が退場した。
ガタガタと使用した椅子を片付けに来た業者たち。
ポツンと置かれたブレザーに首を傾げる。
「隣国の海兵隊の卒業式では帽子を投げるのは聞いた事があるがブレザー?」
「しかも一人だけか‥‥隣国かぶれってやつかな」
「ま、一応落し物って事で2週間保管だな」
「卒業したらもういらないから取りに来ないかも知れないな」
「布地は良いのになぁ。保管期限が切れたら洗って売りに出すか」
「やめとけ。お貴族さんのだからな。規定通り燃やすのが一番だ」
その後、2週間経っても引き取り手がなかったブレザーは焼却処分になったのだった。
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