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第03話 妊婦最強伝説
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「お願い!」と言いたいのだろうが祈りの形に手を合わせて縋る目で見られてもどうしようもない。
マリアナが何かを言わねば引き下がらないだろうとジュエリットに声をかけた。
「婚姻については当主の取り決めに従います。ジュエリットさんでしたかしら?」
「そんな言い方はやめてください。ジュリって呼んでくれていいんです」
「折角ですがそこまでの仲では御座いませんので」
「いいえ。これでも悪いと思っているんです。せめて呼び名だけでも!」
ロミオスも流石にジュエリットの物言いが不味いと気が付いたのか「やめろ」と制するが、ジュエリットとは根柢の部分で何が不味いのか意思疎通は出来ていなかったようだ。
「ジュリ、ダメだって」
「もぉ!大丈夫だってば。あたし、ちゃんと弁えてるわ」
「そうじゃない!ジュリっ」
「何が違うって言うのよ!」
<< 全部だ >>
全員の心の声が一致をするが、ジュエリットは止まらない。
「やめるんだ!」ロミオスはジュエリットの動きを止めようと手を伸ばしたが従者に遮られて僅かに届かなかった。ジュエリットの手は事もあろうか、断りも無しにマリアナの手を握った。
「あたし、本当に別れようと思ったの。でも…自分に向き合った時にどうしてもロミーと別れるのは出来ないって結論になったの。貴女には本当に悪いって思うんだけど…順番で言えば出会いはあたしの方が早いし、そこは貴女も判ってくれるはずじゃない?」
おそらくこの手の女性には何を言っても無駄。
自分の中に最終的な答えがあるので、それ以外の言葉は受け付けてくれないのだ。
マリアナはするりと握られた手を抜いて、表情を消した。
「貴族の婚約はいわば契約。出会いが早い遅いをいい出せばオーストン子爵家も立つ瀬がなくなりましょう。少なくともトレンチ家としては取り決めに従ったのみ」
「だから!それは解ってるの!あたしは一歩引くと言ってるでしょう?」
「1歩でも2歩でもご自由に。但し、ご自身が悪いのだと御認めになっているようですので、ご自身で被る慰謝料については、きっちりとお支払いくださいませ」
ジュエリットは目をぱちくりとしながら「は?」と疑問を口から溢したが、直ぐに我に返った。
「嘘でしょ?!悪いって認めてるのに金を寄越せだなんて!あたし、妊娠してるのよ?」
「だから何だと言うのです?」
わなわなと体を震わせたジュエリットはオーストン子爵の従者に腕を掴まれ、つまみ出されそうになりながらも足を踏ん張るとマリアナを指差し、鬼の形相となって言い放った。
「常識ないんじゃない?平民だからって馬鹿にしてるの?!」
ジュエリットとロミオスは強制的に抓み出されたが、廊下に出されても悪態を吐く言葉は尽きないようで扉を閉じても声だけは聞こえてくる。
「本当に申し訳ない…」
肩を落とすオーストン子爵夫妻だが、20歳も超えた息子を逐一側に置いて見張るなんてことも出来るはずもない。不貞行為も気が付かなかったとなれば仕方がないが、この婚約破棄の慰謝料で屋台骨は大きく傾き伯爵家への陞爵も見送りとなるだろう。
先ほどまで和気藹々と来たる結婚式の事を話し合っていたのに、世界が一変したように空気まで重苦しい。
オーストン子爵夫人は預かったチケットをマリアナに返した。
その手は小さく震えていて、侘びの言葉も唇がかすかに動くだけで聞き取れない。
ロミオスが婿入りの形になるため、通常の嫁姑関係にはならないが実の母娘のような関係で、マリアナの居心地が良いようにと先回して何かと手配をしてくれていただけにマリアナもチケットを受け取るとオーストン子爵夫人を抱きしめてしまった。
常軌を逸脱するような嵐が吹き荒れ、婚約はオーストン子爵家の全面的な有責で破棄となったのだった。
マリアナが何かを言わねば引き下がらないだろうとジュエリットに声をかけた。
「婚姻については当主の取り決めに従います。ジュエリットさんでしたかしら?」
「そんな言い方はやめてください。ジュリって呼んでくれていいんです」
「折角ですがそこまでの仲では御座いませんので」
「いいえ。これでも悪いと思っているんです。せめて呼び名だけでも!」
ロミオスも流石にジュエリットの物言いが不味いと気が付いたのか「やめろ」と制するが、ジュエリットとは根柢の部分で何が不味いのか意思疎通は出来ていなかったようだ。
「ジュリ、ダメだって」
「もぉ!大丈夫だってば。あたし、ちゃんと弁えてるわ」
「そうじゃない!ジュリっ」
「何が違うって言うのよ!」
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全員の心の声が一致をするが、ジュエリットは止まらない。
「やめるんだ!」ロミオスはジュエリットの動きを止めようと手を伸ばしたが従者に遮られて僅かに届かなかった。ジュエリットの手は事もあろうか、断りも無しにマリアナの手を握った。
「あたし、本当に別れようと思ったの。でも…自分に向き合った時にどうしてもロミーと別れるのは出来ないって結論になったの。貴女には本当に悪いって思うんだけど…順番で言えば出会いはあたしの方が早いし、そこは貴女も判ってくれるはずじゃない?」
おそらくこの手の女性には何を言っても無駄。
自分の中に最終的な答えがあるので、それ以外の言葉は受け付けてくれないのだ。
マリアナはするりと握られた手を抜いて、表情を消した。
「貴族の婚約はいわば契約。出会いが早い遅いをいい出せばオーストン子爵家も立つ瀬がなくなりましょう。少なくともトレンチ家としては取り決めに従ったのみ」
「だから!それは解ってるの!あたしは一歩引くと言ってるでしょう?」
「1歩でも2歩でもご自由に。但し、ご自身が悪いのだと御認めになっているようですので、ご自身で被る慰謝料については、きっちりとお支払いくださいませ」
ジュエリットは目をぱちくりとしながら「は?」と疑問を口から溢したが、直ぐに我に返った。
「嘘でしょ?!悪いって認めてるのに金を寄越せだなんて!あたし、妊娠してるのよ?」
「だから何だと言うのです?」
わなわなと体を震わせたジュエリットはオーストン子爵の従者に腕を掴まれ、つまみ出されそうになりながらも足を踏ん張るとマリアナを指差し、鬼の形相となって言い放った。
「常識ないんじゃない?平民だからって馬鹿にしてるの?!」
ジュエリットとロミオスは強制的に抓み出されたが、廊下に出されても悪態を吐く言葉は尽きないようで扉を閉じても声だけは聞こえてくる。
「本当に申し訳ない…」
肩を落とすオーストン子爵夫妻だが、20歳も超えた息子を逐一側に置いて見張るなんてことも出来るはずもない。不貞行為も気が付かなかったとなれば仕方がないが、この婚約破棄の慰謝料で屋台骨は大きく傾き伯爵家への陞爵も見送りとなるだろう。
先ほどまで和気藹々と来たる結婚式の事を話し合っていたのに、世界が一変したように空気まで重苦しい。
オーストン子爵夫人は預かったチケットをマリアナに返した。
その手は小さく震えていて、侘びの言葉も唇がかすかに動くだけで聞き取れない。
ロミオスが婿入りの形になるため、通常の嫁姑関係にはならないが実の母娘のような関係で、マリアナの居心地が良いようにと先回して何かと手配をしてくれていただけにマリアナもチケットを受け取るとオーストン子爵夫人を抱きしめてしまった。
常軌を逸脱するような嵐が吹き荒れ、婚約はオーストン子爵家の全面的な有責で破棄となったのだった。
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