あなたの愛は深すぎる~そこまで愛してもらわなくても~

cyaru

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第08話   どれにしようかな

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無事に婚約も破棄となりオーストン子爵家からは多額の慰謝料も支払われた。
オーストン子爵は自ら参列をしてくれる予定だった人々の家に行き、頭を下げたと聞く。

トレンチ侯爵はオーストン子爵のこの先向かうであろう実弟の屋敷に元々オーストン子爵が行っていた事業を買い取った貴族から買い直し、従者に権利書を持たせ走らせた。

「あり過ぎても我が家は困るし、慣れた人がやるのが一番事故も問題もないからね」
「貴方は本当にお人好しね」
「だってこれ以上仕事が増えたら君との時間が無くなるじゃないか」


政略結婚だが幼馴染だった両親は子供が見ていても今だに恋愛中。
妻へは毎日愛の言葉は欠かさないし、用件が終われば真っ直ぐに屋敷に帰ってくる。
ちなみに年齢は夫人の方が3歳年上。夫人曰く「甘えん坊」とのことである。


家の中は良いのだが、マリアナにとって外の世界はここ数日で一変した。
婚約を破棄する事が決まった時から数日はそうでもなかったが、正式に書面を交わしロミオスが放逐をされ1週間ほどだっただろうか。

その頃からマリアナについて良からぬ噂が流れ始めていた。

元々マリアナには長兄のヘブリデス、次兄のサウスサンドという超絶美丈夫な兄がいる。今は長兄は結婚をしているし、次兄は隣国の王女が再来年には輿入れをする。
相手が決まるまでは国中の令嬢が2人の兄を巡って争奪戦をしていた。

マリアナも兄に会いたいという令嬢達に囲まれて都合よく使われてもいたし、兄と一緒に住んでいるというだけでやっかみも受けた。

最悪だったのは2人の兄の婚約が決まった時である。

「わたくしの事を姉にしたいと言ってくださってなかったの!」

そんな約束はした覚えもないが、お相手に選ばれなかった令嬢からは嫌がらせを受けたこともあった。その時の再来かと思われたが流れる悪評は全てマリアナのものとされていた。

「平民を殴ったんですって?淑女にあるまじき行為ですわよ?」
「殴った?そんな事していません」
「あら?でも大怪我をしたそうよ。しかも妊婦だったそうじゃない」
「していません。ありもしない事を言わないでくださいませ」

「元婚約者の家の財産狙いだったんでしょう?」
「聞いたわ。何もかも奪い取って捨てたんですって。しかも有責で」
「侯爵令嬢がそんな事を企むなんて世も末ね」
「お金の為なら婚約破棄で傷物になるのも厭わないなんて。おぉ怖い」


いつの間にかマリアナが策略しオーストン子爵家を嵌めて財産を奪い取った。とまで言われる始末。数年前にポンジ・スキーム投資詐欺で多くの貴族が没落した事もあり、マリアナがそれを真似て詐欺を働いている。そんな噂も流れるようになってしまった。

仲が良かった友人の令嬢も半数が距離を取るようになり、茶会に呼ばれても針の筵。早く時間が経つのを待つだけの苦痛な時間となった。

暇な令嬢達にとってはマリアナの話題は甘い菓子よりも更に甘美なネタ。
流行りの歌劇は貴族の子息が平民の女性と真実の愛を貫き、子息と婚約中の貴族令嬢がそれを邪魔する。ラストには国外追放になったり、家が落ちぶれたりするのが貴族令嬢のセオリーだった。

2人の恋路を本当に邪魔したのかは問題ではない。貴族子息のロミオスと平民のジュエリット。この2人が結果的に結ばれるのだから、令嬢達の空想話の中でマリアナは嫉妬に狂った令嬢だと決めつけられてしまう事もあった。

空想の中で留めておいてくれればいいが、時に空想と現実が一緒になってしまう令嬢もいる。

涙ながらに「貴女がこんな酷い人だったなんて!」と言われてしまった日は、否定をしても聞く耳を持ってくれず、泣いている令嬢に「大丈夫?」と声をかけてくる令嬢も一緒になってマリアナを糾弾する。

想像力豊かなのは結構だが、マリアナにしてみると堪ったものではない。




「お嬢様、気にしちゃだめです」
「解ってるわ。でも…こうも毎回だと疲れちゃうわ」

噂が鎮まるのを待つしかない。
貴族は他家の醜聞は大好物で次々に花を渡り飛ぶ蝶のように食いついてくる。新しい噂が流れればそちらに食いつくのだから時間の経過をただひたすら息を殺して待つしかなかった。

その噂が無くても婚約破棄となれば例え相手が有責であっても新しい縁談は良いものは望めなくなる‥‥かと思いきや、マリアナがフリーになったと見るや毎日大量の釣り書きが持ち込まれた。

両親が不在の際は家令や執事が対応をしているが、少ない日で20件、多い日には50件近く釣り書きが持ち込まれる。

マリアナと結婚すれば侯爵家が後ろ盾となる子爵家が興せるのだから継ぐ家もない次男以降の子息には婚約破棄で傷物であるなど全く関係ない。

年齢は下が生後3カ月、上は一度も結婚をした事がない男性に限れば58歳、一度結婚して離縁や死別となる男性の最高齢は72歳。気分が悪くなりそうだった。

中には流れる噂を真に受けて「私には取られる資産もありませんが」と堂々と言い放つ者もいる。

「修道院じゃお兄様に迷惑もかけてしまうわね」
「お嬢様!修道院なんてそんな事言わないでください!」
「解ってるけど」
「噂なんかみんな直ぐに忘れます。気にしない事です」


そうはいっても渦中の人となれば心に余裕もなくなってしまう。

――どこか王都から離れたうんと遠いところとか…ないかな――

気丈に振舞っていても気持ちは滅入ってしまう。侍女の言う通り噂は時間が経てば収まる。しかし厄介な事もあって何かのキッカケがあればまた再燃してしまうのだ。


マリアナは幾つも積み重なって背丈よりも高くなった釣り書きの山を見て溜息を吐いた。

「なんだかなぁ…もうお嫁に行っちゃおうかな」

両親は何時までも家にいれば良いと言うが、次兄が結婚し隣国の王女がここに輿入れをすればそうもいかない。かと言って1人暮らしは危険すぎるし少しでも良縁をと探してくれてはいるが、国内の優良物件と呼ばれる子息が20歳を過ぎてフリーでいるとは思えない。

年齢も1桁で婚約者が出来るのが普通である。

積み重なった釣り書きの角をトントンと軽く叩いて飛び出した部分を押し込んでいるとぐらりと揺れた。

「うわっ!!!わわわっ!!」
「お嬢様っ!!」

バタバタバタ!!バサササー

「アハハ‥‥フハハハ…」
「お嬢様?何処かお怪我を?」

1つが倒れると隣の山にも影響が出て幾つもあった釣り書きの山が総崩れしてしまった。
なんだかそれがおかしくてマリアナは笑いだしてしまった。

そしてばらばらに積み重なった釣り書きに「えいっ!!」手を入れて動く範囲をゴソゴソ。

「これ!この人に決めたわ!!」

埋もれた釣り書きの山の一番下にあった1冊を引き抜くとマリアナは早速ページを捲った。

「トラフ伯爵家???聞いた事ないわね…ケルマデック様…え?これが?!」

釣り書きに添えられていた絵姿。
何故か耳はあるのに頭頂部の少し下がった部分にも耳が描かれている。
それが仔犬がシュンとしている耳の形に似ていてマリアナは胸がキュンとなってしまったのだった。

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