殿下、今回も遠慮申し上げます

cyaru

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2回目の人生

レクシーの大誤算(※読み飛ばし推奨な記述有※)

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★~☆~☆


部屋の中に幾つも置かれた香皿は少なくなれば継ぎ足され絶えることなく煙が登る。

「母上、壊れてしまいました」

6歳になる息子が母に話しかける。厳しく育て過ぎたのかも知れない。
後悔をすると同時に息子の指さす壊れたという玩具を口の堅い従者に運んでもらう。
今はそう簡単に【廃棄】出来ないのである。

今まで【廃棄】してきた沼から部分的に発見された息子の【玩具】が騒ぎになっている。
連日騎士団や、調査団が来てしまい仕方なく地下に運んでもらっているが臭いが酷い。
臭いを誤魔化すために幾つもの香を焚かねば気がおかしくなりそうだった。






10年ほど前に夫を亡くしたレクシーは王妃の専属侍女だった。
大恋愛の末に結ばれた夫は騎士。真面目で誠実、レクシー1人を愛してくれた。

子爵家の娘であったレクシーは兄弟姉妹も多かったため地方の40歳以上年の離れた領主の元に嫁がされるという話が出た。王家主催の夜会で王妃の元にいるレクシーを見初めたのだと言われた。

その話を聞いた騎士の夫は平民だったが幼い頃からコツコツと貯めた金を持参し、レクシーを娶ってくれた。

「お金で買うような真似をしてすまない」

夫はそう言ったが、そうしてもらわなければ二進も三進もいかなかったのはレクシーだった。
全財産をはたいてしまった夫は金になるからと遠征に出かける。
そして何回目かの遠征で命を落としてしまった。結婚して1年目の事だった。

彼以上に愛せる人などいない。レクシーは生涯を亡き夫を想い偲ぶ事を心に決めて王妃の侍女として定年まで働く事にした。

レオン殿下が生まれて10年間、何度も王妃は妊娠はするものの継続する事が出来ない。
3回目、4回目の流産のあと、少し間を開けたものの5回目、6回目も流産をしてしまった。
その度に王妃の手を握り、励まし労わってきた。

7年前、王妃はレクシーの前に膝をついて懇願をした。

「お願い。わたくしの代わりに…陛下の子を産んでほしいの。立場は夫人ではなく側妃とする。一人でいいの。このままではレオン1人。陛下が板挟みで倒れてしまうの。お願いよレクシー」

亡き夫以外の男性に抱かれるなど、どんなに眉目秀麗であろうと金持ちであろうと嫌だった。
体が穢されてしまう。子を身籠れば体内から穢されてしまう。そう思った。

しかし3,4か月の間毎日王妃から涙ながらに懇願をされてレクシーは折れてしまった。
亡き夫への愛は変わらない。だが王妃への忠誠心も深かった。
心無い貴族から役立たずと陰口を叩かれ、主である王妃は泣いて暮らしているのを知っているからである。

「生まれた子は財産を持たせて臣籍降下させる」事を条件に側妃となった。

やみくもに抱かれても受胎する確率は悪い。レクシーは産婆や御殿医を交えて確率の高い日を選ぶ。
その日に備えて食事も変えて受胎しやすいとされる体にしていく。
1回目、2回目。抱かれるのは屈辱だった。
決して娼婦や獣のような扱いをされたわけではない。体位など一般的なものだった。
だが、月のものが来てしまうと絶望感とまたかと思う恐怖感、屈辱感に襲われた。

3回目の房事が終わり2か月と少しが過ぎたころ、だるさや微熱が続いた。
そして悪阻が始まる。妊娠したかと思うとようやく凌辱されるような経験をしなくていいと思う気持ちと、これから腹の中で亡き夫ではない男の子供が大きくなるかと思うと羞恥と嫌悪に襲われた。

やっと生まれたのは男児でアレクセイと名付けられた。
レクシーは生まれたばかりの我が子を見て絶望をした。自分と同じものが何一つないと感じたのだ。
髪の色も瞳の色も自分ではなく陛下と同じ。王族は証を持って生まれるとは聞いていたがこれほどとは思わなかった。

異変を感じたのは2歳を過ぎた頃からだった。蟻やカタツムリ、バッタ…庭園にいる虫を見ているだけか、男の子なら興味もあるだろうと思っていたら違っていた。
その対象はどんどんと大きなものになっていく。部屋で大人しく遊んでいると思ったら小動物を【気持ちいい】と【息子なりの愛で方】にレクシーはその場に卒倒してしまった。

亡き夫ではない男に抱かれ、穢されたと感じた自分が悪かったのだ。
大きくなっていく腹に羞恥や嫌悪を抱いた自分が悪かったのだと自分を責めた。
矯正をしようと思い、厳しく育てると息子は更に歪んでしまった。

座学はどの講師も【この年齢では考えられない】【神童では】と言うほど出来が良かったが、講師の知らない部分はもう【人】ではなかった。

4歳になる少し前、癇癪を起こして侍女を傷つけてしまった。それを転機にアレクセイの興味は【人間】となった。その欲望を手助けしたのはアレクセイの父親である国王。

レクシーが知らぬ間に、犯罪者で処刑が決まったものを【玩具】として国王はアレクセイに与えた。
半年ほどは遊ぶだけであったが、5歳を前にした頃【部分的な収集】を始める。
悍ましく人としてあり得ない、壊れている、狂気の沙汰だと父親である国王に【玩具】を与える事を止めてくれ、【集める】のを叱ってくれと懇願するが、王族として人の上に立つ時に気持ちの上で必要な事だと一蹴される。
アレクセイが望むままに国王は【玩具】を与え続けた。


悩んだレクシーは何度も夜中にアレクセイの首に指をかけ、我が子を先に、そして自分も自死しようとした。
だが、寝ている我が子の寝顔は天使そのもので、毎回心が折れる。

アレクセイに手をかける度、父親である国王に何度も叱責を受けた。レオンに何かあった時の子供だ、臣籍降下をすればこのような事は出来なくなるからと諭された。

それだけではなくレオンの婚約者であるヴィオレッタがレオンと距離を取ったようで困っている、このままでは公務も碌に出来ないレオンが即位するのに支障が生じると国王が呟く。

レオンが即位出来ない時は‥‥と考えるとレクシーはその原因を何とかせねばと動いた。
もしかすればレオンもアレクセイのような常識を超えた【闇】を持っているかも知れない。その反動で考えなしなのかも知れないが、アレクセイは明らかに常軌を逸脱している。些細な事でも知られるわけにはいかない。
何が何でも臣籍降下をさせなければならない、そしてそうなった時は刺し違えてでも命を絶たねばと考えた。

しかしヴィオレッタは既に王太子妃教育も終えていて登城する事は滅多にない。
城の従者たちも【殿下も側近候補も侯爵令嬢に距離を取っている】という話を立ち聞きしたレクシーは側近候補に問うた。
【何故殿下は婚約者を愛称で呼ばないのか】【何故殿下の公務を手助けしないのか】
【どうしてあなた達は彼女と距離を置くのか】と。

しかし、習い事をしてて忙しいのと、殿下はウッカリ者だから公私の区別をするためではと返される。
そう言われてしまうと確かにレオンは正直出来が良いとは言えない。
失言を失言と思わずに平気で口にしてしまい、後先の事を考えない。

このままではヴィオレッタが本当に婚約者から降りるのではと兄のエヴァンスを説得しようと試みた。
しかし思った以上にコルストレイ侯爵家はガードが固い。

悩んだ挙句に遠戚の令嬢を呼びよせた。
レクシーの目的はアレクセイとアンジェを婚約させ、レオンの焦りを促すためである。
レオンが焦ってヴィオレッタとの距離を詰め、結婚を前倒ししてくれればそれで良かった。

浅はかな考えだったのは否めない。
ゲパン伯爵は令嬢を確かにレクシーの元に寄越してきた。教育も程々にされていて少し年齢は離れているが姉弟のように近い距離でレオンを煽ってくれればそれで良かった。

それを知った国王は「今じゃないだろう。何てことをしてくれたんだ」とレクシーを叱責した。
何がいまではないのだ?とレクシーは困惑をする。今でなければヴィオレッタとレオンの距離が離れる一方ではないか!

なんとかせねばと離宮でアレクセイも交えて茶会をとレオンを通じてヴィオレッタに誘いを頼むがヴィオレッタが離宮に来ることはなかった。

それどころか、アンジェはアレクセイを放っておいてレオンと出かけてばかりいる。
一晩話をしていただけだと明け方離宮に帰って来たときは頭を抱えた。

「アレクセイと一緒に遊んだり勉強をして頂戴。ひとりにしないで」

何度もアンジェに言って聞かせるが、気がつけばアレクセイは一人部屋に籠って【玩具】で遊んでいる。

「アレクセイと一緒にいないのならイストンに戻ってもらうわよ」と言うとアレクセイと一緒にいると約束をしてくれたが、やはりレオンとばかりでアレクセイは部屋で遊んでいた。

「年が近い子のほうが良かったのかしら」と言うとアンジェは口を尖らせて部屋に籠ってしまった。




そして、今レクシーは驚くほど強い力で国王に殴られ床に吹き飛んだ。
コルストレイ侯爵夫妻がレオンとヴィオレッタの婚約解消を申し出てきたという。
その原因はアンジェ。

「なんという阿婆擦れを連れて来てくれたんだ!あの女と同じじゃないか!」

あの女?レクシーは殴られた頬を押さえて考えたが、誰の事を言ってるのか判らなかった。
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