お前は保険と言われて婚約解消したら、女嫌いの王弟殿下に懐かれてしまった

cyaru

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第01話  秘密と、嘘と、裏切りと

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クラリッサ・モルスは苛立っている。

何に苛立っているかと言えば婚約者のエミリオの言動にそろそろ我慢も限界を突破しつつある日々を送っているのだ。


★~★

クラリッサとエミリオの婚約はお互いが8歳の時に両親同士が友人であった事から「いないよりはいいよね」という軽いノリで10年前に決められたもの。

お互いの両親も親が決めた婚約者で、そのまま婚姻となった。
マッチングが良かったのか相思相愛。だから子供達もそうなると信じて疑わない。

当初はなんの問題もなかった。
ちょっと浮ついた所はあるけれど、騎士に憧れて騎士試験に合格したエミリオはその後も地味に己を磨き、次に行われるトーナメント戦の結果では下っ端から1段階上の副班長になれるかも知れない。

社交よりも本を読むのが好きなクラリッサは女性には珍しく学問が好きで女性採用枠があれば文官試験にも余裕で合格するレベル。

女性でも家の経営をするのが当たり前になって来た昨今。クラリッサなら安心して領地経営を任せられると家庭教師の太鼓判付きである。

お互いの家もそこまで裕福でもなくどちらが上だと張り合う事もない。誕生日の贈り物が小遣いの範囲内で買える安物だったとしても文句もなく、時に喧嘩もしたけれど仲良くやって来た。


エミリオが変わってしまったのは1年ほど前。

「はぁ…なんだかなぁ」
「どうしたの?溜息なんかついて。今度のトーナメント戦の山が悪かったの?」

騎士団に所属するエミリオ。トーナメント戦で上位8位までに入れば昇進が近づく。ポイント制も導入した騎士団では一定数までポイントが達すると昇進に近づく。

筆記の昇格試験合格が25ポイント。トーナメントは1位が8ポイントで8位は1ポイント。他には日々の勤務態度や検挙率もだが、「立っていればいい」雑務の無料相談の護衛で暇との格闘戦を乗り切ると付与されたりもする。

現在の副団長は46歳だが、筆記がからきし。コツコツ貯めたポイントで亀昇進と言われたが昇り詰めた人でもある。

騎士の昇格に必要なポイントは現金化も出来る。1ポイント1万パナ。これは安全な王都に勤務する騎士には退団後に退職金代わりにもなるし、医療費は全額自己負担なのでその時は引き出して医療費に充てる事も出来る。

役職がつけばポイントが減らされるのではなく通過点扱いで、誰もが役職を目指すのは役職に応じてポイントの付与は倍々となるからである。

ちなみに、亀昇格の副団長。現時点で退職しても騎士ポイントは3870ポイントほどあるのでポイントと同じ額だけ単位を万にした退職金がある計算になる。

ヒラや班長、伍長のままで当主の仕事を兼務し、退職金が出る頃には子供に爵位も譲ってのんびりした老後を送る騎士も結構多い。


前回は惜しくもこれに勝ち残れば8位!だったが負けてしまったエミリオなのでその事で悩んでいるのかとクラリッサは思ったが違っていた。

「なんかさぁ。お前、パッとしないよな」
「どう言う意味よ」
「なんていうかさぁ。華がないんだよ」
「それは私の製造元である両親に言ってくれる?」
「言える訳ないじゃん。あ~でもなぁ…お前、トーナメント戦観に来なくていいよ」
「どうして?昼食持って行かなくていいってこと?」
「いや、なんか俺の応援がお前って思うと萎えるし、恥ずかしい」
「はぁっ?!いいわ。行かない!頼まれても行ってあげない!」

その時は声を荒げながらも、剣を手に強そうに見える騎士だからこそ力の差を見せつけられるトーナメント戦で苦戦したり、負けたりすると結構傷つくもの。焦りから来る苛立ちだろう、嫌味も他の誰かを目の前のクラリッサに重ねただけだろうとクラリッサは思ったし、友人にその事を言うと「クラリッサの事を他の男に見られたくないのよ。独占欲強い」と言われてクラリッサもその気になって気恥ずかしくもなった。。

しかし、もうエミリオの心境の変化はこの時から始まっていた。
「恥ずかしい」その言葉は独占欲などではなく、文面の通りだったのだ。

以後、段々とクラリッサを蔑ろにしたり、ただ文句を言うだけだったり。
クラリッサの中に「あれ?」と思う事が増えた。

デートの行き先はどちらからともなく「どこ行こうか?」と話し合って決めていたのに、いつの間にかエミリオが決めてチケットの購入や待ち合せ方などセッティングし終わった後に伝えられるようになり・・・。

「今日のデートなしな」
「何言ってるの?また?!今回はおば様が観劇のチケット取ってくださったんでしょう?」
「頼んでおいたからな。ほら、チケット出せ」
「リオの分は持ってるじゃない。いいわよ。私1人で観に行くし」
「そうじゃないよ。今ならまだ換金できる。出せよ!ほら!俺の親が買ったチケットだろ」

前日や当日になってエミリオから直接キャンセルを言われる事が続いた。

エミリオは親に「クラリッサが観たいって」「クラリッサが行きたいって」とクラリッサをダシにして事前にチケットや事前予約、先払い、それらが数時間前のキャンセルなら満額~半額で返金されるものばかりを選んで事前に用意させていた。


悪い事は続かない。エミリオは観覧席の中でも10段階の上から3番目に高価なペア特別席のチケットを母親に買わせていた。
今までで親を騙し、買わせていた物の中で一番高価なチケットだった。

その日は運が良いのか悪いのか。エミリオの母親はショッピングをする為に街に出ていた。

その店に来るはずのない人間が数人の令嬢と共にきゃっきゃ話しながら入店してきた。クラリッサである。

クラリッサは「いつものように」エミリオがドタキャンをしたので友人と気分転換に買い物に来たという。そこで初めてここ数か月、エミリオがデートをにキャンセルしていた事を知ったのだ。

エミリオには都度「どうだった?」と聞けば「楽しんでた」「ありがとう」と返されていたのでまさかキャンセルしているとは思わなかった。

そう言えばとエミリオの母には思い当たる事があった。
クラリッサはエミリオが「明日は仕事になった」とデートがキャンセルになった事を何度か告げていた。

騎士の仕事は突発的な事もあるのでシフトを組まれてはいるが不定期でもある。
「仕事なら仕方ないわね」と流したのだが、そうではなかったのだ。

何度も続けばクラリッサもデートの前日にエミリオが来ると「あぁまたか」と諦めてエミリオの親に言う事も無くなった。

今回は本当に楽しみにしていた流行りの歌劇。クラリッサは1人ででも観に行きたかったがそれも叶わず、友人とショッピングで気晴らしに来ていたのだ。

「どう言う事なの?クラリッサは観劇には行ってないそうじゃないの」
「五月蠅いな。仕事になったんだよ」
「待ちなさい!話は終わってないわよ」

エミリオは問い詰める母親が面倒になり言い合いになった。

「俺には好きな女がいるんだよ!邪魔しないでくれ!」
「リ、リオっ!なんて事を!この事をクラリッサは知っているの?」
「言ってないから知らねぇんじゃねぇの?」
「何て不義理な事を・・・お父様にも、いえ、モルス伯にもこの事を・・・」
「余計なことすんな!いちいち口出しすんな!」

この時、エミリオの母が思ったのは「この事を隠さないと」だった。

軽い気持ちで婚約を結んで10年。エミリオもクラリッサも19歳になった。
今から次の相手を探すのは無理だし、何よりもエミリオが良からぬことをしているのは明白で軽い気持ちの婚約とは言え、この時期になれば婚約破棄の有責となった時に支払う慰謝料はそれなりの額になる。

丁度エミリオの弟が昨年開校した国で初めての学問施設、王立学園に入学する入試も近い。こんな不祥事が表沙汰になれば筆記試験の結果がどんなに良くても面接で落とされるし、慰謝料を払う事で入学金や授業料の支払いも出来なくなってしまう。

エミリオの年代は学園に入学する年齢を超えているので入学は出来ない。
自らが騎士になると選んで騎士にはなったエミリオだが、弟には法外な額を出し学園に行かせるのにと兄弟で扱いが違うと拗ねてしまったのか。

悩んだエミリオの母は「そのうち落ち着く」「いずれは結婚するんだし」とクラリッサが嫁いでくる頃になればエミリオも目を覚ますだろう、ここを乗り切れば!!と、この事を隠し通す事にしたのだった。
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