1 / 24
第01話 秘密と、嘘と、裏切りと
しおりを挟む
クラリッサ・モルスは苛立っている。
何に苛立っているかと言えば婚約者のエミリオの言動にそろそろ我慢も限界を突破しつつある日々を送っているのだ。
★~★
クラリッサとエミリオの婚約はお互いが8歳の時に両親同士が友人であった事から「いないよりはいいよね」という軽いノリで10年前に決められたもの。
お互いの両親も親が決めた婚約者で、そのまま婚姻となった。
マッチングが良かったのか相思相愛。だから子供達もそうなると信じて疑わない。
当初はなんの問題もなかった。
ちょっと浮ついた所はあるけれど、騎士に憧れて騎士試験に合格したエミリオはその後も地味に己を磨き、次に行われるトーナメント戦の結果では下っ端から1段階上の副班長になれるかも知れない。
社交よりも本を読むのが好きなクラリッサは女性には珍しく学問が好きで女性採用枠があれば文官試験にも余裕で合格するレベル。
女性でも家の経営をするのが当たり前になって来た昨今。クラリッサなら安心して領地経営を任せられると家庭教師の太鼓判付きである。
お互いの家もそこまで裕福でもなくどちらが上だと張り合う事もない。誕生日の贈り物が小遣いの範囲内で買える安物だったとしても文句もなく、時に喧嘩もしたけれど仲良くやって来た。
エミリオが変わってしまったのは1年ほど前。
「はぁ…なんだかなぁ」
「どうしたの?溜息なんかついて。今度のトーナメント戦の山が悪かったの?」
騎士団に所属するエミリオ。トーナメント戦で上位8位までに入れば昇進が近づく。ポイント制も導入した騎士団では一定数までポイントが達すると昇進に近づく。
筆記の昇格試験合格が25ポイント。トーナメントは1位が8ポイントで8位は1ポイント。他には日々の勤務態度や検挙率もだが、「立っていればいい」雑務の無料相談の護衛で暇との格闘戦を乗り切ると付与されたりもする。
現在の副団長は46歳だが、筆記がからきし。コツコツ貯めたポイントで亀昇進と言われたが昇り詰めた人でもある。
騎士の昇格に必要なポイントは現金化も出来る。1ポイント1万パナ。これは安全な王都に勤務する騎士には退団後に退職金代わりにもなるし、医療費は全額自己負担なのでその時は引き出して医療費に充てる事も出来る。
役職がつけばポイントが減らされるのではなく通過点扱いで、誰もが役職を目指すのは役職に応じてポイントの付与は倍々となるからである。
ちなみに、亀昇格の副団長。現時点で退職しても騎士ポイントは3870ポイントほどあるのでポイントと同じ額だけ単位を万にした退職金がある計算になる。
ヒラや班長、伍長のままで当主の仕事を兼務し、退職金が出る頃には子供に爵位も譲ってのんびりした老後を送る騎士も結構多い。
前回は惜しくもこれに勝ち残れば8位!だったが負けてしまったエミリオなのでその事で悩んでいるのかとクラリッサは思ったが違っていた。
「なんかさぁ。お前、パッとしないよな」
「どう言う意味よ」
「なんていうかさぁ。華がないんだよ」
「それは私の製造元である両親に言ってくれる?」
「言える訳ないじゃん。あ~でもなぁ…お前、トーナメント戦観に来なくていいよ」
「どうして?昼食持って行かなくていいってこと?」
「いや、なんか俺の応援がお前って思うと萎えるし、恥ずかしい」
「はぁっ?!いいわ。行かない!頼まれても行ってあげない!」
その時は声を荒げながらも、剣を手に強そうに見える騎士だからこそ力の差を見せつけられるトーナメント戦で苦戦したり、負けたりすると結構傷つくもの。焦りから来る苛立ちだろう、嫌味も他の誰かを目の前のクラリッサに重ねただけだろうとクラリッサは思ったし、友人にその事を言うと「クラリッサの事を他の男に見られたくないのよ。独占欲強い」と言われてクラリッサもその気になって気恥ずかしくもなった。。
しかし、もうエミリオの心境の変化はこの時から始まっていた。
「恥ずかしい」その言葉は独占欲などではなく、文面の通りだったのだ。
以後、段々とクラリッサを蔑ろにしたり、ただ文句を言うだけだったり。
クラリッサの中に「あれ?」と思う事が増えた。
デートの行き先はどちらからともなく「どこ行こうか?」と話し合って決めていたのに、いつの間にかエミリオが決めてチケットの購入や待ち合せ方などセッティングし終わった後に伝えられるようになり・・・。
「今日のデートなしな」
「何言ってるの?また?!今回はおば様が観劇のチケット取ってくださったんでしょう?」
「頼んでおいたからな。ほら、チケット出せ」
「リオの分は持ってるじゃない。いいわよ。私1人で観に行くし」
「そうじゃないよ。今ならまだ換金できる。出せよ!ほら!俺の親が買ったチケットだろ」
前日や当日になってエミリオから直接キャンセルを言われる事が続いた。
エミリオは親に「クラリッサが観たいって」「クラリッサが行きたいって」とクラリッサをダシにして事前にチケットや事前予約、先払い、それらが数時間前のキャンセルなら満額~半額で返金されるものばかりを選んで事前に用意させていた。
悪い事は続かない。エミリオは観覧席の中でも10段階の上から3番目に高価なペア特別席のチケットを母親に買わせていた。
今までで親を騙し、買わせていた物の中で一番高価なチケットだった。
その日は運が良いのか悪いのか。エミリオの母親はショッピングをする為に街に出ていた。
その店に来るはずのない人間が数人の令嬢と共にきゃっきゃ話しながら入店してきた。クラリッサである。
クラリッサは「いつものように」エミリオがドタキャンをしたので友人と気分転換に買い物に来たという。そこで初めてここ数か月、エミリオがデートを計画的にキャンセルしていた事を知ったのだ。
エミリオには都度「どうだった?」と聞けば「楽しんでた」「ありがとう」と返されていたのでまさかキャンセルしているとは思わなかった。
そう言えばとエミリオの母には思い当たる事があった。
クラリッサはエミリオが「明日は仕事になった」とデートがキャンセルになった事を何度か告げていた。
騎士の仕事は突発的な事もあるのでシフトを組まれてはいるが不定期でもある。
「仕事なら仕方ないわね」と流したのだが、そうではなかったのだ。
何度も続けばクラリッサもデートの前日にエミリオが来ると「あぁまたか」と諦めてエミリオの親に言う事も無くなった。
今回は本当に楽しみにしていた流行りの歌劇。クラリッサは1人ででも観に行きたかったがそれも叶わず、友人とショッピングで気晴らしに来ていたのだ。
「どう言う事なの?クラリッサは観劇には行ってないそうじゃないの」
「五月蠅いな。仕事になったんだよ」
「待ちなさい!話は終わってないわよ」
エミリオは問い詰める母親が面倒になり言い合いになった。
「俺には好きな女がいるんだよ!邪魔しないでくれ!」
「リ、リオっ!なんて事を!この事をクラリッサは知っているの?」
「言ってないから知らねぇんじゃねぇの?」
「何て不義理な事を・・・お父様にも、いえ、モルス伯にもこの事を・・・」
「余計なことすんな!いちいち口出しすんな!」
この時、エミリオの母が思ったのは「この事を隠さないと」だった。
軽い気持ちで婚約を結んで10年。エミリオもクラリッサも19歳になった。
今から次の相手を探すのは無理だし、何よりもエミリオが良からぬことをしているのは明白で軽い気持ちの婚約とは言え、この時期になれば婚約破棄の有責となった時に支払う慰謝料はそれなりの額になる。
丁度エミリオの弟が昨年開校した国で初めての学問施設、王立学園に入学する入試も近い。こんな不祥事が表沙汰になれば筆記試験の結果がどんなに良くても面接で落とされるし、慰謝料を払う事で入学金や授業料の支払いも出来なくなってしまう。
エミリオの年代は学園に入学する年齢を超えているので入学は出来ない。
自らが騎士になると選んで騎士にはなったエミリオだが、弟には法外な額を出し学園に行かせるのにと兄弟で扱いが違うと拗ねてしまったのか。
悩んだエミリオの母は「そのうち落ち着く」「いずれは結婚するんだし」とクラリッサが嫁いでくる頃になればエミリオも目を覚ますだろう、ここを乗り切れば!!と、この事を隠し通す事にしたのだった。
何に苛立っているかと言えば婚約者のエミリオの言動にそろそろ我慢も限界を突破しつつある日々を送っているのだ。
★~★
クラリッサとエミリオの婚約はお互いが8歳の時に両親同士が友人であった事から「いないよりはいいよね」という軽いノリで10年前に決められたもの。
お互いの両親も親が決めた婚約者で、そのまま婚姻となった。
マッチングが良かったのか相思相愛。だから子供達もそうなると信じて疑わない。
当初はなんの問題もなかった。
ちょっと浮ついた所はあるけれど、騎士に憧れて騎士試験に合格したエミリオはその後も地味に己を磨き、次に行われるトーナメント戦の結果では下っ端から1段階上の副班長になれるかも知れない。
社交よりも本を読むのが好きなクラリッサは女性には珍しく学問が好きで女性採用枠があれば文官試験にも余裕で合格するレベル。
女性でも家の経営をするのが当たり前になって来た昨今。クラリッサなら安心して領地経営を任せられると家庭教師の太鼓判付きである。
お互いの家もそこまで裕福でもなくどちらが上だと張り合う事もない。誕生日の贈り物が小遣いの範囲内で買える安物だったとしても文句もなく、時に喧嘩もしたけれど仲良くやって来た。
エミリオが変わってしまったのは1年ほど前。
「はぁ…なんだかなぁ」
「どうしたの?溜息なんかついて。今度のトーナメント戦の山が悪かったの?」
騎士団に所属するエミリオ。トーナメント戦で上位8位までに入れば昇進が近づく。ポイント制も導入した騎士団では一定数までポイントが達すると昇進に近づく。
筆記の昇格試験合格が25ポイント。トーナメントは1位が8ポイントで8位は1ポイント。他には日々の勤務態度や検挙率もだが、「立っていればいい」雑務の無料相談の護衛で暇との格闘戦を乗り切ると付与されたりもする。
現在の副団長は46歳だが、筆記がからきし。コツコツ貯めたポイントで亀昇進と言われたが昇り詰めた人でもある。
騎士の昇格に必要なポイントは現金化も出来る。1ポイント1万パナ。これは安全な王都に勤務する騎士には退団後に退職金代わりにもなるし、医療費は全額自己負担なのでその時は引き出して医療費に充てる事も出来る。
役職がつけばポイントが減らされるのではなく通過点扱いで、誰もが役職を目指すのは役職に応じてポイントの付与は倍々となるからである。
ちなみに、亀昇格の副団長。現時点で退職しても騎士ポイントは3870ポイントほどあるのでポイントと同じ額だけ単位を万にした退職金がある計算になる。
ヒラや班長、伍長のままで当主の仕事を兼務し、退職金が出る頃には子供に爵位も譲ってのんびりした老後を送る騎士も結構多い。
前回は惜しくもこれに勝ち残れば8位!だったが負けてしまったエミリオなのでその事で悩んでいるのかとクラリッサは思ったが違っていた。
「なんかさぁ。お前、パッとしないよな」
「どう言う意味よ」
「なんていうかさぁ。華がないんだよ」
「それは私の製造元である両親に言ってくれる?」
「言える訳ないじゃん。あ~でもなぁ…お前、トーナメント戦観に来なくていいよ」
「どうして?昼食持って行かなくていいってこと?」
「いや、なんか俺の応援がお前って思うと萎えるし、恥ずかしい」
「はぁっ?!いいわ。行かない!頼まれても行ってあげない!」
その時は声を荒げながらも、剣を手に強そうに見える騎士だからこそ力の差を見せつけられるトーナメント戦で苦戦したり、負けたりすると結構傷つくもの。焦りから来る苛立ちだろう、嫌味も他の誰かを目の前のクラリッサに重ねただけだろうとクラリッサは思ったし、友人にその事を言うと「クラリッサの事を他の男に見られたくないのよ。独占欲強い」と言われてクラリッサもその気になって気恥ずかしくもなった。。
しかし、もうエミリオの心境の変化はこの時から始まっていた。
「恥ずかしい」その言葉は独占欲などではなく、文面の通りだったのだ。
以後、段々とクラリッサを蔑ろにしたり、ただ文句を言うだけだったり。
クラリッサの中に「あれ?」と思う事が増えた。
デートの行き先はどちらからともなく「どこ行こうか?」と話し合って決めていたのに、いつの間にかエミリオが決めてチケットの購入や待ち合せ方などセッティングし終わった後に伝えられるようになり・・・。
「今日のデートなしな」
「何言ってるの?また?!今回はおば様が観劇のチケット取ってくださったんでしょう?」
「頼んでおいたからな。ほら、チケット出せ」
「リオの分は持ってるじゃない。いいわよ。私1人で観に行くし」
「そうじゃないよ。今ならまだ換金できる。出せよ!ほら!俺の親が買ったチケットだろ」
前日や当日になってエミリオから直接キャンセルを言われる事が続いた。
エミリオは親に「クラリッサが観たいって」「クラリッサが行きたいって」とクラリッサをダシにして事前にチケットや事前予約、先払い、それらが数時間前のキャンセルなら満額~半額で返金されるものばかりを選んで事前に用意させていた。
悪い事は続かない。エミリオは観覧席の中でも10段階の上から3番目に高価なペア特別席のチケットを母親に買わせていた。
今までで親を騙し、買わせていた物の中で一番高価なチケットだった。
その日は運が良いのか悪いのか。エミリオの母親はショッピングをする為に街に出ていた。
その店に来るはずのない人間が数人の令嬢と共にきゃっきゃ話しながら入店してきた。クラリッサである。
クラリッサは「いつものように」エミリオがドタキャンをしたので友人と気分転換に買い物に来たという。そこで初めてここ数か月、エミリオがデートを計画的にキャンセルしていた事を知ったのだ。
エミリオには都度「どうだった?」と聞けば「楽しんでた」「ありがとう」と返されていたのでまさかキャンセルしているとは思わなかった。
そう言えばとエミリオの母には思い当たる事があった。
クラリッサはエミリオが「明日は仕事になった」とデートがキャンセルになった事を何度か告げていた。
騎士の仕事は突発的な事もあるのでシフトを組まれてはいるが不定期でもある。
「仕事なら仕方ないわね」と流したのだが、そうではなかったのだ。
何度も続けばクラリッサもデートの前日にエミリオが来ると「あぁまたか」と諦めてエミリオの親に言う事も無くなった。
今回は本当に楽しみにしていた流行りの歌劇。クラリッサは1人ででも観に行きたかったがそれも叶わず、友人とショッピングで気晴らしに来ていたのだ。
「どう言う事なの?クラリッサは観劇には行ってないそうじゃないの」
「五月蠅いな。仕事になったんだよ」
「待ちなさい!話は終わってないわよ」
エミリオは問い詰める母親が面倒になり言い合いになった。
「俺には好きな女がいるんだよ!邪魔しないでくれ!」
「リ、リオっ!なんて事を!この事をクラリッサは知っているの?」
「言ってないから知らねぇんじゃねぇの?」
「何て不義理な事を・・・お父様にも、いえ、モルス伯にもこの事を・・・」
「余計なことすんな!いちいち口出しすんな!」
この時、エミリオの母が思ったのは「この事を隠さないと」だった。
軽い気持ちで婚約を結んで10年。エミリオもクラリッサも19歳になった。
今から次の相手を探すのは無理だし、何よりもエミリオが良からぬことをしているのは明白で軽い気持ちの婚約とは言え、この時期になれば婚約破棄の有責となった時に支払う慰謝料はそれなりの額になる。
丁度エミリオの弟が昨年開校した国で初めての学問施設、王立学園に入学する入試も近い。こんな不祥事が表沙汰になれば筆記試験の結果がどんなに良くても面接で落とされるし、慰謝料を払う事で入学金や授業料の支払いも出来なくなってしまう。
エミリオの年代は学園に入学する年齢を超えているので入学は出来ない。
自らが騎士になると選んで騎士にはなったエミリオだが、弟には法外な額を出し学園に行かせるのにと兄弟で扱いが違うと拗ねてしまったのか。
悩んだエミリオの母は「そのうち落ち着く」「いずれは結婚するんだし」とクラリッサが嫁いでくる頃になればエミリオも目を覚ますだろう、ここを乗り切れば!!と、この事を隠し通す事にしたのだった。
2,199
あなたにおすすめの小説
あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
【完結】転生したら悪役継母でした
入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。
その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。
しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。
絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。
記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。
夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。
◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆
*旧題:転生したら悪妻でした
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする
夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、
……つもりだった。
夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。
「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」
そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。
「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」
女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。
※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。
ヘンリック(王太子)が主役となります。
また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
【完結】イアンとオリエの恋 ずっと貴方が好きでした。
たろ
恋愛
この話は
【そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします】の主人公二人のその後です。
イアンとオリエの恋の話の続きです。
【今夜さよならをします】の番外編で書いたものを削除して編集してさらに最後、数話新しい話を書き足しました。
二人のじれったい恋。諦めるのかやり直すのか。
悩みながらもまた二人は………
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる