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第12話 しつこい手紙、待ちわびた手紙
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「お嬢様、またですよ」
「しつこいわね」
「返事の貰えない手紙を出し続ける男って粘着ぅ。きンもっ!」
メイドのメルルが自分で腕を抱いて気持ち悪がった。
オリビア王女は1カ月ほど無視を続ければ呼び出しの手紙を送ってくることは無くなったが、ライエンからは3日と空けずに手紙が届く。
どれも封を切らずにゼルバ公爵家に送り返しているので内容は判らないが推測は出来る。
最初の頃は「何故手紙を読まない」と封も切ってない手紙が返却された事についての苦情。
それが続くと泣き落とし。
泣き落としも聞かないとなれば逆キレ。
逆キレも無視されているとなるとここ数回は公爵家の家紋の透かしが入った封筒を使っている事から事業の話だろう。
何とかしてコンタクトを取りたい意図が見え見えなのだ。
この作戦に打って出たのは王太子妃の助言からである。
「王族がどうして冷たいと言われるか、お判り?」
「民のために働いているのは判るけれど、万人の言葉を聞き入れて貰えるわけではないですし、聞き入れて貰えても全てではないので聞き届けられなかった部分があるからでしょうか」
王太子妃は笑った。
「身分のあるものは何をしたところで悪く言われる生き物だからよ」
「そんな!」
「憤ってくれて嬉しいわ。でもね、やられっぱなしでもないの」
「それはどういう」
「王族だって人間だもの。聞くに値しない声には対処法があるのよ」
「対処法…ですか」
「えぇ。無関心。無関心って簡単そうで難しいのよ?妃教育で習った時は驚いたものだわ」
屋敷に戻りマーサやメルルに問うてみれば「無関心は堪える」と口を揃えた。なんなら「嫌ってくれた方がずっといい」という声まで聞こえる。
12年間は無駄に長くはない。婚約をしたのは6歳なので難しい言葉を覚え、文字を覚え。多感な思春期だってライエンと婚約者だったので情はある。
しかしクリスタは何でも言う事を聞いてくれる母親ではないし、思い通りに動いてくれる人形でもない。
人間だから意見が食い違うのも当たり前だが、今まではまだ「ライエンの考え」なのでクリスタなりに落としどころを付けて受け入れてきた。
許せなかったのは「オリビアの言葉が正しい」と押し付けた事だ。
クリスタの意見も聞いてその上でオリビアの方が正しいと判断をしたのならまだ許せた。
たったそれだけで?と言われようが狭量と言われようが構わない。
クリスタはその言葉でライエンを見限った。
「割れた食器は金継ぎをしても割れたことに変わりはないのよ」
誰に言うともなくクリスタは呟いた。
「芸術になるものも一部にはありますけどね?」
呟きにメルルが反応するとクリスタはクスっと笑った。
心の中で「滅多にないけど」と囁いて。
届くのがしつこい手紙だけかと思えば違う封書もあった。
差出人の署名はなかったが蝋封から王太子殿下からだと気がついたクリスタは「ようやく」小さく声を漏らし封を切った。
「お嬢様、嬉しそうですね」
「あら?そう見えたかしら」
「見えますとも。このマーサ、何年お嬢様のお傍にいるとお思いで?」
「18年かしら」
「いいえ。もうすぐ19年。お嬢様が奥様のお腹で元気に暴れていた頃からですよ」
「マーサは騙せないわね。見ていいわ。婚約がやっと白紙になるのが決まったのよ」
<< 白紙ですか?! >>
部屋にいた全員が声を合わせた。全員が破棄若しくは解消になりゼルバ公爵家から詫び状が届くと考えていたからである。そこにまさかの白紙。
確かに縁がなかった事になるのは僥倖だが、しっくりこない。
ガツンとやり返してやるべきと言い出す使用人もいた。
「いいのよ。破棄でこちらもダメージを負うのなんてバカバカしいもの」
「でも結局はお嬢様も痛手は負うんですよ?」
「その通りね。でも白紙で負う痛手は例えるなら擦り傷、破棄は致命傷よ。これからは婚約そのものが公的になかった事になるんだから、陰でコソコソ言われても根も葉もない誹謗中傷と噂を口にした者を訴える事だって出来るわ」
クリスタは白紙で良いと思っている。
これからの人生に関わって来られるのは迷惑としか思えなかった。
「3日後、登城するわ。準備をお願い」
「登城ですか?」
「えぇ。ついでに3日後。戻る頃にお客様が見える予定だからその準備もお願い」
「お客様?王太子殿下とご一緒にお帰りになるのですか?」
「違うわよ。夫が迎えに来てくれるそうなの」
<< お、夫ぉぉ?! >>
鼻歌を歌い始めたクリスタと対比してマーサも含んだ使用人はあんぐりと口が開いたまま塞がらなかった。
「しつこいわね」
「返事の貰えない手紙を出し続ける男って粘着ぅ。きンもっ!」
メイドのメルルが自分で腕を抱いて気持ち悪がった。
オリビア王女は1カ月ほど無視を続ければ呼び出しの手紙を送ってくることは無くなったが、ライエンからは3日と空けずに手紙が届く。
どれも封を切らずにゼルバ公爵家に送り返しているので内容は判らないが推測は出来る。
最初の頃は「何故手紙を読まない」と封も切ってない手紙が返却された事についての苦情。
それが続くと泣き落とし。
泣き落としも聞かないとなれば逆キレ。
逆キレも無視されているとなるとここ数回は公爵家の家紋の透かしが入った封筒を使っている事から事業の話だろう。
何とかしてコンタクトを取りたい意図が見え見えなのだ。
この作戦に打って出たのは王太子妃の助言からである。
「王族がどうして冷たいと言われるか、お判り?」
「民のために働いているのは判るけれど、万人の言葉を聞き入れて貰えるわけではないですし、聞き入れて貰えても全てではないので聞き届けられなかった部分があるからでしょうか」
王太子妃は笑った。
「身分のあるものは何をしたところで悪く言われる生き物だからよ」
「そんな!」
「憤ってくれて嬉しいわ。でもね、やられっぱなしでもないの」
「それはどういう」
「王族だって人間だもの。聞くに値しない声には対処法があるのよ」
「対処法…ですか」
「えぇ。無関心。無関心って簡単そうで難しいのよ?妃教育で習った時は驚いたものだわ」
屋敷に戻りマーサやメルルに問うてみれば「無関心は堪える」と口を揃えた。なんなら「嫌ってくれた方がずっといい」という声まで聞こえる。
12年間は無駄に長くはない。婚約をしたのは6歳なので難しい言葉を覚え、文字を覚え。多感な思春期だってライエンと婚約者だったので情はある。
しかしクリスタは何でも言う事を聞いてくれる母親ではないし、思い通りに動いてくれる人形でもない。
人間だから意見が食い違うのも当たり前だが、今まではまだ「ライエンの考え」なのでクリスタなりに落としどころを付けて受け入れてきた。
許せなかったのは「オリビアの言葉が正しい」と押し付けた事だ。
クリスタの意見も聞いてその上でオリビアの方が正しいと判断をしたのならまだ許せた。
たったそれだけで?と言われようが狭量と言われようが構わない。
クリスタはその言葉でライエンを見限った。
「割れた食器は金継ぎをしても割れたことに変わりはないのよ」
誰に言うともなくクリスタは呟いた。
「芸術になるものも一部にはありますけどね?」
呟きにメルルが反応するとクリスタはクスっと笑った。
心の中で「滅多にないけど」と囁いて。
届くのがしつこい手紙だけかと思えば違う封書もあった。
差出人の署名はなかったが蝋封から王太子殿下からだと気がついたクリスタは「ようやく」小さく声を漏らし封を切った。
「お嬢様、嬉しそうですね」
「あら?そう見えたかしら」
「見えますとも。このマーサ、何年お嬢様のお傍にいるとお思いで?」
「18年かしら」
「いいえ。もうすぐ19年。お嬢様が奥様のお腹で元気に暴れていた頃からですよ」
「マーサは騙せないわね。見ていいわ。婚約がやっと白紙になるのが決まったのよ」
<< 白紙ですか?! >>
部屋にいた全員が声を合わせた。全員が破棄若しくは解消になりゼルバ公爵家から詫び状が届くと考えていたからである。そこにまさかの白紙。
確かに縁がなかった事になるのは僥倖だが、しっくりこない。
ガツンとやり返してやるべきと言い出す使用人もいた。
「いいのよ。破棄でこちらもダメージを負うのなんてバカバカしいもの」
「でも結局はお嬢様も痛手は負うんですよ?」
「その通りね。でも白紙で負う痛手は例えるなら擦り傷、破棄は致命傷よ。これからは婚約そのものが公的になかった事になるんだから、陰でコソコソ言われても根も葉もない誹謗中傷と噂を口にした者を訴える事だって出来るわ」
クリスタは白紙で良いと思っている。
これからの人生に関わって来られるのは迷惑としか思えなかった。
「3日後、登城するわ。準備をお願い」
「登城ですか?」
「えぇ。ついでに3日後。戻る頃にお客様が見える予定だからその準備もお願い」
「お客様?王太子殿下とご一緒にお帰りになるのですか?」
「違うわよ。夫が迎えに来てくれるそうなの」
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