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第14話 場が凍り付く
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「大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄ると、気を飛ばしたはずの男性はパチッと目を開いた。
「あの、大丈夫ですか?お部屋を用意しますので休まれてくださいませ」
「俺、もう死んでるのか」
「兄貴っ!何言ってんだよ。生きてるよ!まだ天使の羽は生えてねぇよ!」
「生きてる…え?現実…」
「そうだよ!兄貴っ!起きろよ!ガツンと言ってやるんだろ!」
――あぁ、やっぱり何か言われるんだわ――
クリスタは解っていたこととは言え、真に愛する女性と結ばれる筈だったのに相手が変わった。マリンシー伯爵に「迎え入れるけれど家族ではない」と告げられるのだろう、そう感じた。
むくりと起き上がったはず。なのにこれはどういう事だろう。
クリスタは何度も意図的に瞬きをしたが、どうやら現実らしい。
何時の間に?頭の中で先ほどの出来事を思い返す。
部屋に入った途端、ソファの男性は茶を放り投げソファの背凭れに隠れたかと思うと気絶した。
「あの…」
「座り心地が悪いか?でも中心部が熱を持っているから挟み込むしかないんだ」
――どういう状況?挟み込む?――
気がつけばクリスタは男性に膝で抱かれていたのだ。
そしてクリスタの手をニギニギしながら時折手の平や手首の香りをスンスンと嗅がれていた。
「ちゅ、中心部の熱とは…ご体調が宜しくない?」
こんな時、なんて問えばいいのか判らない。
頭の中では膝抱っこの状況から抜け出さねばならないと解っているが、咄嗟過ぎて体が反応しないし、脳内は混乱した。
「俺とした事が。君以外のメスをあてがわれるなら海に沈めようと思っていたが、沈めるのはそんな恐ろしい事を考えていた俺の考えだ。領に帰ったら海溝に沈めて来るから聞かなかった事にしてくれ」
「無理です(しっかり聞いちゃったし、そもそもで言わないでよ)」
「解っている。愛する君の無理や無茶、時に無謀を受け入れるのは俺の務めだ」
――やばい。この人、全然話が通じない?――
「あぁ…君が妻…生きてて良かった。あの日、振り返れば君がいた。あの日から俺の魂は、いや俺の全ては君に雁字搦めにされて身動き1つ出来なかったんだ」
雁字搦めと言いながら握った手、指先をちゅっちゅと吸っているのは気のせいだろうか。
ついでにクリスタの手を頬に当てて「手のひらの柔さが癖になる」と怖い事を言い始める。
――しっかり動いてるけど?雁字搦めってどこの事?――
「部屋を用意してくれているのか…明日まで待てそうにない」
「あ、あのっ」
「なんだいハニー」
「ハっ、ハニィィ??」
「あはっ。他の呼び名が良かったか?スィート?ベイブ?」
「あのっ!!マリンシー様!!」
「固いのは俺の中心部だけでいい。俺の事はウォルスと」
「ウォルス様、取り敢えず――」
「ぬぉっ?!俺の名がっ!!愛らしい唇を震わせ音となったなんて!!もう達きそうだ」
3人の従者も主が暴走を始めたのを悟ったようで、3人かかりでクリスタとウォルスを引き剥がしにかかると、断末魔のような雄叫びをウォルスはあげた。
「俺からぁ!!俺からベイブを取り上げるなァァーッ」
「兄貴っ!落ち着いてください!初見ですよ!初見っ!」
「俺には初見じゃない!何度も夢の中で愛を語り合ったっ!」
<< 知るか! >>
安心できる要素は皆無に見えてクリスタには1つだけ安心できる要素が見つかった。
「取り敢えず邪険には扱われることはなさそうかしら」
「真逆が激しそうですけど」
メルルは細い目をして羽交い絞めにされるマリンシー伯爵を見た。
夕方になり帰宅したエクルドール侯爵夫妻とクリスタの兄は玄関を入ってすぐに不思議な光景を見た。
何重にもなった茣蓙に荒縄でグルグル巻きにされた男が1人床に転がされていた。
「こ、これは…ハッ!!マリンシー伯爵っ?!何をしてるんだ。この方は怪しげな者でもないし、暴漢でも変質者でもないんだぞ!」
使用人は思った。
――旦那様、その全てが当てはまっています――と。
このままでは日付を超える前にクリスタを襲ってしまいそうだというので、従者3人が率先してマリンシー伯爵をぐるぐる巻きにした。
ちなみに茣蓙で巻いて身動きを封じてくれと泣いて頼んだのがそのマリンシー伯爵である。
慌てて駆け寄ると、気を飛ばしたはずの男性はパチッと目を開いた。
「あの、大丈夫ですか?お部屋を用意しますので休まれてくださいませ」
「俺、もう死んでるのか」
「兄貴っ!何言ってんだよ。生きてるよ!まだ天使の羽は生えてねぇよ!」
「生きてる…え?現実…」
「そうだよ!兄貴っ!起きろよ!ガツンと言ってやるんだろ!」
――あぁ、やっぱり何か言われるんだわ――
クリスタは解っていたこととは言え、真に愛する女性と結ばれる筈だったのに相手が変わった。マリンシー伯爵に「迎え入れるけれど家族ではない」と告げられるのだろう、そう感じた。
むくりと起き上がったはず。なのにこれはどういう事だろう。
クリスタは何度も意図的に瞬きをしたが、どうやら現実らしい。
何時の間に?頭の中で先ほどの出来事を思い返す。
部屋に入った途端、ソファの男性は茶を放り投げソファの背凭れに隠れたかと思うと気絶した。
「あの…」
「座り心地が悪いか?でも中心部が熱を持っているから挟み込むしかないんだ」
――どういう状況?挟み込む?――
気がつけばクリスタは男性に膝で抱かれていたのだ。
そしてクリスタの手をニギニギしながら時折手の平や手首の香りをスンスンと嗅がれていた。
「ちゅ、中心部の熱とは…ご体調が宜しくない?」
こんな時、なんて問えばいいのか判らない。
頭の中では膝抱っこの状況から抜け出さねばならないと解っているが、咄嗟過ぎて体が反応しないし、脳内は混乱した。
「俺とした事が。君以外のメスをあてがわれるなら海に沈めようと思っていたが、沈めるのはそんな恐ろしい事を考えていた俺の考えだ。領に帰ったら海溝に沈めて来るから聞かなかった事にしてくれ」
「無理です(しっかり聞いちゃったし、そもそもで言わないでよ)」
「解っている。愛する君の無理や無茶、時に無謀を受け入れるのは俺の務めだ」
――やばい。この人、全然話が通じない?――
「あぁ…君が妻…生きてて良かった。あの日、振り返れば君がいた。あの日から俺の魂は、いや俺の全ては君に雁字搦めにされて身動き1つ出来なかったんだ」
雁字搦めと言いながら握った手、指先をちゅっちゅと吸っているのは気のせいだろうか。
ついでにクリスタの手を頬に当てて「手のひらの柔さが癖になる」と怖い事を言い始める。
――しっかり動いてるけど?雁字搦めってどこの事?――
「部屋を用意してくれているのか…明日まで待てそうにない」
「あ、あのっ」
「なんだいハニー」
「ハっ、ハニィィ??」
「あはっ。他の呼び名が良かったか?スィート?ベイブ?」
「あのっ!!マリンシー様!!」
「固いのは俺の中心部だけでいい。俺の事はウォルスと」
「ウォルス様、取り敢えず――」
「ぬぉっ?!俺の名がっ!!愛らしい唇を震わせ音となったなんて!!もう達きそうだ」
3人の従者も主が暴走を始めたのを悟ったようで、3人かかりでクリスタとウォルスを引き剥がしにかかると、断末魔のような雄叫びをウォルスはあげた。
「俺からぁ!!俺からベイブを取り上げるなァァーッ」
「兄貴っ!落ち着いてください!初見ですよ!初見っ!」
「俺には初見じゃない!何度も夢の中で愛を語り合ったっ!」
<< 知るか! >>
安心できる要素は皆無に見えてクリスタには1つだけ安心できる要素が見つかった。
「取り敢えず邪険には扱われることはなさそうかしら」
「真逆が激しそうですけど」
メルルは細い目をして羽交い絞めにされるマリンシー伯爵を見た。
夕方になり帰宅したエクルドール侯爵夫妻とクリスタの兄は玄関を入ってすぐに不思議な光景を見た。
何重にもなった茣蓙に荒縄でグルグル巻きにされた男が1人床に転がされていた。
「こ、これは…ハッ!!マリンシー伯爵っ?!何をしてるんだ。この方は怪しげな者でもないし、暴漢でも変質者でもないんだぞ!」
使用人は思った。
――旦那様、その全てが当てはまっています――と。
このままでは日付を超える前にクリスタを襲ってしまいそうだというので、従者3人が率先してマリンシー伯爵をぐるぐる巻きにした。
ちなみに茣蓙で巻いて身動きを封じてくれと泣いて頼んだのがそのマリンシー伯爵である。
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