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第20話 なんとも無責任
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「で、オリビアは間違いなくライエンが娶るのだな?」
「伯爵家が嫌だとか言っておりましたので、元公爵家子息との縁談なのです。本人も本望でしょう」
それはつまりオリビアを完全に王家から切り離す決定に等しいが問題はオリビアの血だった。男爵家となれば警備も薄くなる。オリビアを引き取らざるを得なかった時のようにその血を欲しがる者が出て来てしまう懸念があった。
「父上の考えている事などお見通しです。オリビアの血でしょう?何の問題もありませんよ」
問題がないなんてことはあり得ない。
国王は目を見開いて王太子を見たが、王太子は言葉に自信を持っていた。
「まさかオリビアを生涯幽閉にする気か?」
「しませんよ。幽閉をしている間の食料、牢番の給料、原資は何だと思っているんです?しかも男爵家の当主夫妻を何の罪状で幽閉するんですか?あの2人に使う血税などありません。ドブに捨てるわけでもないのに」
「ならどうやって。どう守ると言うのだ。兵士も付けないのだろう?」
オリビアを王家から切り離すのは良いとしても、そのままにはしておけるはずがない。
「我も陛下のお言葉には一理あると思うのだけれど‥そうそう。とても優秀で剣の嗜みもあり、時間を持て余す者がおる故、任せてみてはどうかしらね?陛下」
そんな者がいたのか?国王は首を傾げたが、王妃も自信たっぷりで「陛下もご存じのはず」と涼し気な顔で言う。国王にはライエンがそこまで剣の腕があるとは思えなかったし、知る限りで該当する人物を思い浮かべる事は出来なかった。
王家からオリビアは切り離されるのだから、私兵の費用はライエンとオリビアが払う事になる。
しかしオリビアは養子とは言え庶子扱いなので王女であっても予算は付けられていないし、ライエンの私財は慰謝料に充てられる。とてもそんな剣の嗜みがある護衛を雇えるとは思えなかった。
しかし「知らない」とは言えず「ではその者に任せるとしよう」安易に返事をしてしまった。
「あぁ、良かった。人は何もしないと呆けてしまうと聞きます。父上も大事なオリビアを間近で守れますし、その目で間違いが起こらないかも確認が出来ますよ。どうせ祝いも出せないんでしょう?なら護衛をしてやれば宜しいではないですか」
「ま、まさか私?私か?」
「今も暇を持て余しておられますし、王族で唯一オリビア大事と声をあげておりましたよね。良いんですよ?こちらに一任頂いても。美酒の1杯で済むんですから」
王太子は「可愛い娘夫婦と水入らずで暮らせる家も用意した」と地図を広げた。
国王とライエン、そしてオリビアに用意をされる屋敷は長く使われていない王都の中でも貧民窟に近い一画で、治安の悪さに目を瞑り、利便性、快適さを望まなければ住めなくもない。
領地もなく、事業も1から。
ライエンの私財はアテに出来ず、当面の生活資金は国王の持つ僅かな私財。
贅沢をすれば半年弱、倹しく暮らせば1年、爪に火を点すように生きれば2年は持つ。
当然受け入れられないが、国王は地図に引かれた破線を見て気がついた。
「こ、これは3年のうちに開発区域になる地域ではないか!」
「それが何か?3年と言わず2年で成果を出し、引っ越せばいいでしょう」
国王はやっと悟った。
これは退位をしろと促されているのだと。
「くっ。解った。退位をする。私は退くから…蟄居をさせてくれまいか」
国王は王太子に譲位する事を決めた。
「結局オリビアの事は最後まで面倒を見ないのですね。なんとも無責任な」
「何と言われてもいい。私にはこんな生活を送ることは出来ない」
国王は地図を見たくもないとテーブルに手を滑らせ、床に落とした。
「いいでしょう。但し!2代続けて不祥事を起こされては困ります。使用人は男性のみ、食事や待遇はこれまで父上が残した成果に合わせたものとします」
「っっっ?!」
「何か問題でも?」
先王と同じと思われるのが嫌だったのか、何か言いたげな国王だったがそれ以上の言葉を発しても聞き届けられることはないと観念し、言われるがままを受け入れた。
「だが、オリビアの血はどうすると言うのだ」
「問題ないと言ったはずです」
王太子は同意を求めるように王妃を見た。
「ふふっ。何のために我があの者の言い分を論破する為の使用人を付けたとお思い?」
「まさか…」
「日々の1滴も毎日、毎食となれば臓腑もどうなっておるやら」
王妃は最初から始末をしろと言っていた。
使用人がオリビアの世話はとてもできないと言ってきた時に国王が対処をしていれば違ったかも知れないが、何もしなかったが故に、王妃が対応するしかなかった。
王妃が対応するなら当然考えられたこと。
「人任せにした時間はもう戻りませぬ故に」
妖艶に微笑む王妃に国王は何も言えなかった。
4日後、広く国民に国王が病に伏した事が発表されたのだった。
「伯爵家が嫌だとか言っておりましたので、元公爵家子息との縁談なのです。本人も本望でしょう」
それはつまりオリビアを完全に王家から切り離す決定に等しいが問題はオリビアの血だった。男爵家となれば警備も薄くなる。オリビアを引き取らざるを得なかった時のようにその血を欲しがる者が出て来てしまう懸念があった。
「父上の考えている事などお見通しです。オリビアの血でしょう?何の問題もありませんよ」
問題がないなんてことはあり得ない。
国王は目を見開いて王太子を見たが、王太子は言葉に自信を持っていた。
「まさかオリビアを生涯幽閉にする気か?」
「しませんよ。幽閉をしている間の食料、牢番の給料、原資は何だと思っているんです?しかも男爵家の当主夫妻を何の罪状で幽閉するんですか?あの2人に使う血税などありません。ドブに捨てるわけでもないのに」
「ならどうやって。どう守ると言うのだ。兵士も付けないのだろう?」
オリビアを王家から切り離すのは良いとしても、そのままにはしておけるはずがない。
「我も陛下のお言葉には一理あると思うのだけれど‥そうそう。とても優秀で剣の嗜みもあり、時間を持て余す者がおる故、任せてみてはどうかしらね?陛下」
そんな者がいたのか?国王は首を傾げたが、王妃も自信たっぷりで「陛下もご存じのはず」と涼し気な顔で言う。国王にはライエンがそこまで剣の腕があるとは思えなかったし、知る限りで該当する人物を思い浮かべる事は出来なかった。
王家からオリビアは切り離されるのだから、私兵の費用はライエンとオリビアが払う事になる。
しかしオリビアは養子とは言え庶子扱いなので王女であっても予算は付けられていないし、ライエンの私財は慰謝料に充てられる。とてもそんな剣の嗜みがある護衛を雇えるとは思えなかった。
しかし「知らない」とは言えず「ではその者に任せるとしよう」安易に返事をしてしまった。
「あぁ、良かった。人は何もしないと呆けてしまうと聞きます。父上も大事なオリビアを間近で守れますし、その目で間違いが起こらないかも確認が出来ますよ。どうせ祝いも出せないんでしょう?なら護衛をしてやれば宜しいではないですか」
「ま、まさか私?私か?」
「今も暇を持て余しておられますし、王族で唯一オリビア大事と声をあげておりましたよね。良いんですよ?こちらに一任頂いても。美酒の1杯で済むんですから」
王太子は「可愛い娘夫婦と水入らずで暮らせる家も用意した」と地図を広げた。
国王とライエン、そしてオリビアに用意をされる屋敷は長く使われていない王都の中でも貧民窟に近い一画で、治安の悪さに目を瞑り、利便性、快適さを望まなければ住めなくもない。
領地もなく、事業も1から。
ライエンの私財はアテに出来ず、当面の生活資金は国王の持つ僅かな私財。
贅沢をすれば半年弱、倹しく暮らせば1年、爪に火を点すように生きれば2年は持つ。
当然受け入れられないが、国王は地図に引かれた破線を見て気がついた。
「こ、これは3年のうちに開発区域になる地域ではないか!」
「それが何か?3年と言わず2年で成果を出し、引っ越せばいいでしょう」
国王はやっと悟った。
これは退位をしろと促されているのだと。
「くっ。解った。退位をする。私は退くから…蟄居をさせてくれまいか」
国王は王太子に譲位する事を決めた。
「結局オリビアの事は最後まで面倒を見ないのですね。なんとも無責任な」
「何と言われてもいい。私にはこんな生活を送ることは出来ない」
国王は地図を見たくもないとテーブルに手を滑らせ、床に落とした。
「いいでしょう。但し!2代続けて不祥事を起こされては困ります。使用人は男性のみ、食事や待遇はこれまで父上が残した成果に合わせたものとします」
「っっっ?!」
「何か問題でも?」
先王と同じと思われるのが嫌だったのか、何か言いたげな国王だったがそれ以上の言葉を発しても聞き届けられることはないと観念し、言われるがままを受け入れた。
「だが、オリビアの血はどうすると言うのだ」
「問題ないと言ったはずです」
王太子は同意を求めるように王妃を見た。
「ふふっ。何のために我があの者の言い分を論破する為の使用人を付けたとお思い?」
「まさか…」
「日々の1滴も毎日、毎食となれば臓腑もどうなっておるやら」
王妃は最初から始末をしろと言っていた。
使用人がオリビアの世話はとてもできないと言ってきた時に国王が対処をしていれば違ったかも知れないが、何もしなかったが故に、王妃が対応するしかなかった。
王妃が対応するなら当然考えられたこと。
「人任せにした時間はもう戻りませぬ故に」
妖艶に微笑む王妃に国王は何も言えなかった。
4日後、広く国民に国王が病に伏した事が発表されたのだった。
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