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第37話 牡蠣は素焼きに限る
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ルベルス領に来て2か月もするとすっかり領民とも馴染んだ。
王都からの荷物も到着し、時期も「海開き」と言って浅瀬の部分でサメやクラゲが入ってこないように漁に使わなくなった網で柵をした部分で泳げるとなると、エクルドール侯爵家の従者たちは驚きながらも海で泳ぐ面白さを知った。
他にも河口なので高潮ではなく程よい高さの波が来るので、木の板に乗って波乗りを楽しむ領民に混じって従者も波乗りを楽しむ。
「旦那様はゆっくりして来いと言いましたけど、永住したいです」
すっかり魅了されてしまった者は本気で移住を考えて、王都に戻ろうとしない。
今日は領民の女性と一緒に頼んでいた布が届いたのでハサミを入れて包帯を作っている。布を切り、クルクルとロールにしていくのだが、戦闘では負傷する兵士の止血や輸送時の固定などにも使われるので包帯として作られた製品ではなく、布を頼みみんなで切るのだ。
それも経費削減の1つなのだが、今回はもう1つ新しい試みがあった。
ガーゼ上の包帯を作ろうと領で栽培している綿花で売り物にならないハネモノを集め、糸に撚り編んでいた。
「奥様って、18歳なんですか?」
「そうなの。奥様って感じではないですよね」
「そんな事ないですよ。ウォルス様のお母様は15歳で嫁がれたと聞きます」
「そうそう、お婆様は9歳だったよね」
――早っ!!まだお子様じゃないの――
今とは時代が違う。ウォルスの祖母となると生後数日で結婚も許されていた時代だ。勿論関係を持たない白い結婚の期間が設けられていた時代だが。
「それはそうと、奥様のポニー。ウチのポチの子供なんですよ」
「ポ、ポチ?」
「はい、生まれた時は小さかったんですけどね」
「小さい…」
ばん馬なので生まれた時からロバくらいの大きさがありそうな気がするのだが、見慣れて来るとやっぱり仔馬は小さいと思ってしまうのだろう。
ちなみに ばん馬のポニー。父親は1トン越えの大物なのだそうだ。
「そうそう!奥様の言ってた綿花!評判いいです」
「そうなの?良かった」
ルベルス領では綿花が主産業の1つにもなっているが、フワフワの綿花はおなじみの綿なので衣料品の糸として売りに出されていたが、頭を悩ませていたのは種だった。
フワフワのワタを取ると種が残る。翌年の収穫を見込んで植えるのだがどうしても余ってしまうのだ。
燃えやすいので海で漁をする時の篝火や、松明などに使ってきたが使い切れない。
クリスタは王太子妃と時折茶を楽しんでいたが、その時に綿花の種から綿実油を抽出すると食用油の他に、石鹸を作る際にも使えると隣国の話をしていた時に聞いた覚えがあった。
試しに圧搾してみると種から油が搾れた。
何度も漉して食用油として使うと油独特の「油です!」と主張する香りがなく素材の味がした。
石鹸作りに混ぜると、形成がしやすいのと使う時の泡立ちが良い。それまではムクロジを必死で泡立てていたが、面倒くさいと感じると不十分な手洗いになっていたが、この石鹼は泡立つのでそれが面白くて手洗いをする子供が増えたし、適当に洗うと泡が見えないので「ちゃんと洗いなさい」と注意をする目安にもなる。
田舎だからというのもあるが、医師はいても軍医で優先は兵士。
日々の体調管理も仕事のうちで流感は尤も警戒されていた事からクリスタ石鹸と名付けられて近日中に王都でも売り出される事が決まった。
編み物は意外に肩が凝るなとコキコキ首を回していると誰かがクリスタを呼ぶ。
「奥様~牡蠣っ!食べますぅ?」
「食べる!食べます!!」
船の停泊しない岩場になっている場所では引き潮の時間になると岩に張り付いている牡蠣と呼ばれる海産物を採取している。
生で食べられるのは新鮮な時だけで出荷は出来ないが領民がお裾分けで持ってきてくれるのだ。
王都でもオイスターソースの原料となるのでソースでは食べたことはあったが生で初めて食べた時の衝撃は言葉では言い表すことができない。
これを素焼きにするとまた絶品なのだ。
――食器が要らないって凄いわ――
網の上に牡蠣の殻ごと置いて焼く。領民の中には大豆を発酵させた液体をちょっと垂らす者もいるがクリスタはそのままがお勧めである。
王妃にもウォルスにも言われたけれど、確かにルベルス領にはお洒落な店はない。
服を作ろうと思えば隣の領地に行って頼まねばならないし、宝飾品はサンゴであったり真珠貝は出荷しているので加工場はあるが、宝飾品店はないのだ。
でも、花屋はなくてもちょっと散歩すれば時期の花が咲いているし、魚も獲れたての旬。
何より自然がいっぱいで、目も胃袋もいつも満腹である。
――どうして王女はこんないいところなのに嫌がったのかしら――
伯爵家というだけ
田舎というだけ
それだけで嫌だと言ったのなら、随分と勿体ない人生だなと思いつつ、網焼きの準備を始めた時だった。
「伝令!伝令ーッ!!」
ドドッドドッ。
兵士の騎乗するばん馬が走ると地面が揺れる。
何事かと全員に緊張が走った。
ウォルスも海上の警備計画を会議室で行っていたが、従者たちと階段を駆け下りてきた。
「領界の警邏隊より連絡!!所属不明の兵士約300。ルベルスに向かって侵攻中ッ」
「国王軍ではないのか?」
「いえ、武装兵100、騎乗50、歩兵150。何処にも所属のない兵士です」
ウォルスに伝令兵が伝えるとウォルスはその場にいる全員に指示を出した。
「応戦用意!街に入る前に迎え撃つッ!」
王都からの荷物も到着し、時期も「海開き」と言って浅瀬の部分でサメやクラゲが入ってこないように漁に使わなくなった網で柵をした部分で泳げるとなると、エクルドール侯爵家の従者たちは驚きながらも海で泳ぐ面白さを知った。
他にも河口なので高潮ではなく程よい高さの波が来るので、木の板に乗って波乗りを楽しむ領民に混じって従者も波乗りを楽しむ。
「旦那様はゆっくりして来いと言いましたけど、永住したいです」
すっかり魅了されてしまった者は本気で移住を考えて、王都に戻ろうとしない。
今日は領民の女性と一緒に頼んでいた布が届いたのでハサミを入れて包帯を作っている。布を切り、クルクルとロールにしていくのだが、戦闘では負傷する兵士の止血や輸送時の固定などにも使われるので包帯として作られた製品ではなく、布を頼みみんなで切るのだ。
それも経費削減の1つなのだが、今回はもう1つ新しい試みがあった。
ガーゼ上の包帯を作ろうと領で栽培している綿花で売り物にならないハネモノを集め、糸に撚り編んでいた。
「奥様って、18歳なんですか?」
「そうなの。奥様って感じではないですよね」
「そんな事ないですよ。ウォルス様のお母様は15歳で嫁がれたと聞きます」
「そうそう、お婆様は9歳だったよね」
――早っ!!まだお子様じゃないの――
今とは時代が違う。ウォルスの祖母となると生後数日で結婚も許されていた時代だ。勿論関係を持たない白い結婚の期間が設けられていた時代だが。
「それはそうと、奥様のポニー。ウチのポチの子供なんですよ」
「ポ、ポチ?」
「はい、生まれた時は小さかったんですけどね」
「小さい…」
ばん馬なので生まれた時からロバくらいの大きさがありそうな気がするのだが、見慣れて来るとやっぱり仔馬は小さいと思ってしまうのだろう。
ちなみに ばん馬のポニー。父親は1トン越えの大物なのだそうだ。
「そうそう!奥様の言ってた綿花!評判いいです」
「そうなの?良かった」
ルベルス領では綿花が主産業の1つにもなっているが、フワフワの綿花はおなじみの綿なので衣料品の糸として売りに出されていたが、頭を悩ませていたのは種だった。
フワフワのワタを取ると種が残る。翌年の収穫を見込んで植えるのだがどうしても余ってしまうのだ。
燃えやすいので海で漁をする時の篝火や、松明などに使ってきたが使い切れない。
クリスタは王太子妃と時折茶を楽しんでいたが、その時に綿花の種から綿実油を抽出すると食用油の他に、石鹸を作る際にも使えると隣国の話をしていた時に聞いた覚えがあった。
試しに圧搾してみると種から油が搾れた。
何度も漉して食用油として使うと油独特の「油です!」と主張する香りがなく素材の味がした。
石鹸作りに混ぜると、形成がしやすいのと使う時の泡立ちが良い。それまではムクロジを必死で泡立てていたが、面倒くさいと感じると不十分な手洗いになっていたが、この石鹼は泡立つのでそれが面白くて手洗いをする子供が増えたし、適当に洗うと泡が見えないので「ちゃんと洗いなさい」と注意をする目安にもなる。
田舎だからというのもあるが、医師はいても軍医で優先は兵士。
日々の体調管理も仕事のうちで流感は尤も警戒されていた事からクリスタ石鹸と名付けられて近日中に王都でも売り出される事が決まった。
編み物は意外に肩が凝るなとコキコキ首を回していると誰かがクリスタを呼ぶ。
「奥様~牡蠣っ!食べますぅ?」
「食べる!食べます!!」
船の停泊しない岩場になっている場所では引き潮の時間になると岩に張り付いている牡蠣と呼ばれる海産物を採取している。
生で食べられるのは新鮮な時だけで出荷は出来ないが領民がお裾分けで持ってきてくれるのだ。
王都でもオイスターソースの原料となるのでソースでは食べたことはあったが生で初めて食べた時の衝撃は言葉では言い表すことができない。
これを素焼きにするとまた絶品なのだ。
――食器が要らないって凄いわ――
網の上に牡蠣の殻ごと置いて焼く。領民の中には大豆を発酵させた液体をちょっと垂らす者もいるがクリスタはそのままがお勧めである。
王妃にもウォルスにも言われたけれど、確かにルベルス領にはお洒落な店はない。
服を作ろうと思えば隣の領地に行って頼まねばならないし、宝飾品はサンゴであったり真珠貝は出荷しているので加工場はあるが、宝飾品店はないのだ。
でも、花屋はなくてもちょっと散歩すれば時期の花が咲いているし、魚も獲れたての旬。
何より自然がいっぱいで、目も胃袋もいつも満腹である。
――どうして王女はこんないいところなのに嫌がったのかしら――
伯爵家というだけ
田舎というだけ
それだけで嫌だと言ったのなら、随分と勿体ない人生だなと思いつつ、網焼きの準備を始めた時だった。
「伝令!伝令ーッ!!」
ドドッドドッ。
兵士の騎乗するばん馬が走ると地面が揺れる。
何事かと全員に緊張が走った。
ウォルスも海上の警備計画を会議室で行っていたが、従者たちと階段を駆け下りてきた。
「領界の警邏隊より連絡!!所属不明の兵士約300。ルベルスに向かって侵攻中ッ」
「国王軍ではないのか?」
「いえ、武装兵100、騎乗50、歩兵150。何処にも所属のない兵士です」
ウォルスに伝令兵が伝えるとウォルスはその場にいる全員に指示を出した。
「応戦用意!街に入る前に迎え撃つッ!」
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