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セレスタンの苛立ち
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突然に王家から発表された内容に民衆は首を傾げた。
「シルヴェーヌ様はセレスタン殿下の嫁さんになるんじゃなかったのか?」
「旦那の名前が入れ替わってねぇか?セレスタン殿下は身を引くってなんじゃそら?」
「あんなに仲良さそうだったのに、弟に譲るってどうかね?女はモノじゃないんだよ」
「身を引くなら3年も4年も引っ張ってやるなよって思うのは俺だけ?」
「なんかさ、良いとこ取りって気がするよ。俺が父親なら殴ってるな」
過去にセレスタンが「良い事も悪い事も全て民の声なら」と始めた啓蒙活動。
忖度のない民の声を聞きたいというパフォーマンスを広く周知させていた。
啓蒙活動と聞けば聞こえはいいが、セレスタンには功績がありその功績を掴み取るまでの言動に民衆も貴族も心を揺さぶられて、ネガティブな意見は滅多に見られなかった。
批判的な意見や声が無かったわけではないが、実際全ての意見や声にセレスタンが目を通すわけではない。数万寄せられた意見の中で余程改善が必要と思われる意見は議題にもなり得る事から従者たちが選別をした。
そのような意見は反論と言うよりも改善の傾向があり、批判的な受け止め方をする内容ではなかった。
民衆の多くは学園や家庭教師がついて【学】を習得している訳ではない。
なので、【意見】と言っても【個人感情】を聞き取った内容が多かった。
隣国との国境線問題は長く【戦】の意味も含んでおり、それが無くなった事は喜ばしく民衆はいつもセレスタンを褒めたたえる言葉を答えた。
20年、30年と経てばそれも希薄となるが10年程度ではそうそう変わらない。
【ポジティブな声】【褒めたたえる声】が大勢を占めるのが解っていて始めた活動なのだから当然ではあるが、心地よい賛美の声にセレスタンはいつもその報告を聞く時間を楽しみにしていた。
しかし、今回の婚約破棄における騒動。
セレスタンには本当に【忖度】がない民衆の声が従者によって届けられた。
週に1度の報告は当然国王にも報告をされる。
4回目、つまり1か月経っても益々燃料投下されたように炎上していく王家への声。尾鰭の付いた噂は内容がエスカレートしていた。
国王はセレスタンとディオンに最後まで責任を持てと言ったが【人の噂も七十五日】とセレスタンは3カ月は動かない事に決めた。ディオンはアデライドがべったりと纏わりつきそれどころではなかった。
3カ月経つ頃には収集がつかなくなり、少数ではあるがセレスタンの耳に【王家不要論】が報告されるまでに至ってしまった。
「これを言ったのは何処の誰だ!私が即位するまで地下牢に入れておけ。真っ先に首を刎ねてやるッ」
白目も真っ赤に充血したセレスタンは幾つか届けられた声を1つ聞くたびに体を震わせてついに最後の【王家不要】の言葉に激昂したセレスタンは執務机のテーブルの上の物品を綺麗に床に叩き落した。
「お前たちの仕事は何だ?私にこんな声がありますと嫌がらせをしているのか!」
「そんなつもりは…週ごとに集計して多かった意見を毎回上から20程報告をしているだけです。今までとはなんら変わらぬ順位を選んで報告をしております」
「だが嘘ばかりだろう!どうして私がシルヴェーヌを幽閉した事になってるんだ!」
「そう言われましても…民の声ですから噂も入っております。それは以前も同じでしたよ?隣国との条約が結べたのは殿下が神の子だから、神から天啓を受けた選ばれた者だからという声も言ってみれば噂です。好意的な意見とは逆ではありますが、それも報告しろと仰ったのは殿下ですよ」
「黙れ!黙れ!黙れ!もういい!お前はクビだ!失せろッ」
セレスタンは従者から上がって来る報告を見るたび「おかしい」と呟く。
考えていた流れでは、「真実の愛」を後押しして結ばれた2人のキューピッドととして【寛容な国王】【博愛の国王】と認知されるための第一歩となるはずだった。
あの夜会以降、シルヴェーヌは表舞台から姿を消した。クディエ公爵家にも帰っておらずどこにいたかと言えば王妃の宮、つまりセレスタンの母親の宮だった。
シルヴェーヌ同様に王妃も体調を崩し、公務を1カ月ほど休んでいた。
王妃が公務に復帰して2か月、つまり夜会から3か月経ってもシルヴェーヌは消息不明だった。
セレスタンですら、クディエ公爵家にシルヴェーヌが戻っておらず行方が判ったのは夜会から3か月が過ぎた頃、母親である王妃の言葉から知ったのだ。
王妃の宮に見舞いだとしても国王以外の立入りは禁止され、徹底した箝口令が布かれていた。王太子であるセレスタンでさえ蚊帳の外だったという事である。
夜会から丁度100日を経過した日。
セレスタンとディオンは父である国王の部屋に呼ばれた。
そこにはそれぞれの母である王妃と側妃も先に入室をしていた。
それだけではなく4大公爵家の当主が揃って椅子に座っていた。その中にはシルヴェーヌの養父であるランヴェルもいた。その隣には議会の議長、副議長など議会で役職のある貴族もずらりと顔を揃えていた。
ただならぬ空気にセレスタンとディオンは【すわ、廃嫡か?】と息を飲んだ。
「シルヴェーヌ様はセレスタン殿下の嫁さんになるんじゃなかったのか?」
「旦那の名前が入れ替わってねぇか?セレスタン殿下は身を引くってなんじゃそら?」
「あんなに仲良さそうだったのに、弟に譲るってどうかね?女はモノじゃないんだよ」
「身を引くなら3年も4年も引っ張ってやるなよって思うのは俺だけ?」
「なんかさ、良いとこ取りって気がするよ。俺が父親なら殴ってるな」
過去にセレスタンが「良い事も悪い事も全て民の声なら」と始めた啓蒙活動。
忖度のない民の声を聞きたいというパフォーマンスを広く周知させていた。
啓蒙活動と聞けば聞こえはいいが、セレスタンには功績がありその功績を掴み取るまでの言動に民衆も貴族も心を揺さぶられて、ネガティブな意見は滅多に見られなかった。
批判的な意見や声が無かったわけではないが、実際全ての意見や声にセレスタンが目を通すわけではない。数万寄せられた意見の中で余程改善が必要と思われる意見は議題にもなり得る事から従者たちが選別をした。
そのような意見は反論と言うよりも改善の傾向があり、批判的な受け止め方をする内容ではなかった。
民衆の多くは学園や家庭教師がついて【学】を習得している訳ではない。
なので、【意見】と言っても【個人感情】を聞き取った内容が多かった。
隣国との国境線問題は長く【戦】の意味も含んでおり、それが無くなった事は喜ばしく民衆はいつもセレスタンを褒めたたえる言葉を答えた。
20年、30年と経てばそれも希薄となるが10年程度ではそうそう変わらない。
【ポジティブな声】【褒めたたえる声】が大勢を占めるのが解っていて始めた活動なのだから当然ではあるが、心地よい賛美の声にセレスタンはいつもその報告を聞く時間を楽しみにしていた。
しかし、今回の婚約破棄における騒動。
セレスタンには本当に【忖度】がない民衆の声が従者によって届けられた。
週に1度の報告は当然国王にも報告をされる。
4回目、つまり1か月経っても益々燃料投下されたように炎上していく王家への声。尾鰭の付いた噂は内容がエスカレートしていた。
国王はセレスタンとディオンに最後まで責任を持てと言ったが【人の噂も七十五日】とセレスタンは3カ月は動かない事に決めた。ディオンはアデライドがべったりと纏わりつきそれどころではなかった。
3カ月経つ頃には収集がつかなくなり、少数ではあるがセレスタンの耳に【王家不要論】が報告されるまでに至ってしまった。
「これを言ったのは何処の誰だ!私が即位するまで地下牢に入れておけ。真っ先に首を刎ねてやるッ」
白目も真っ赤に充血したセレスタンは幾つか届けられた声を1つ聞くたびに体を震わせてついに最後の【王家不要】の言葉に激昂したセレスタンは執務机のテーブルの上の物品を綺麗に床に叩き落した。
「お前たちの仕事は何だ?私にこんな声がありますと嫌がらせをしているのか!」
「そんなつもりは…週ごとに集計して多かった意見を毎回上から20程報告をしているだけです。今までとはなんら変わらぬ順位を選んで報告をしております」
「だが嘘ばかりだろう!どうして私がシルヴェーヌを幽閉した事になってるんだ!」
「そう言われましても…民の声ですから噂も入っております。それは以前も同じでしたよ?隣国との条約が結べたのは殿下が神の子だから、神から天啓を受けた選ばれた者だからという声も言ってみれば噂です。好意的な意見とは逆ではありますが、それも報告しろと仰ったのは殿下ですよ」
「黙れ!黙れ!黙れ!もういい!お前はクビだ!失せろッ」
セレスタンは従者から上がって来る報告を見るたび「おかしい」と呟く。
考えていた流れでは、「真実の愛」を後押しして結ばれた2人のキューピッドととして【寛容な国王】【博愛の国王】と認知されるための第一歩となるはずだった。
あの夜会以降、シルヴェーヌは表舞台から姿を消した。クディエ公爵家にも帰っておらずどこにいたかと言えば王妃の宮、つまりセレスタンの母親の宮だった。
シルヴェーヌ同様に王妃も体調を崩し、公務を1カ月ほど休んでいた。
王妃が公務に復帰して2か月、つまり夜会から3か月経ってもシルヴェーヌは消息不明だった。
セレスタンですら、クディエ公爵家にシルヴェーヌが戻っておらず行方が判ったのは夜会から3か月が過ぎた頃、母親である王妃の言葉から知ったのだ。
王妃の宮に見舞いだとしても国王以外の立入りは禁止され、徹底した箝口令が布かれていた。王太子であるセレスタンでさえ蚊帳の外だったという事である。
夜会から丁度100日を経過した日。
セレスタンとディオンは父である国王の部屋に呼ばれた。
そこにはそれぞれの母である王妃と側妃も先に入室をしていた。
それだけではなく4大公爵家の当主が揃って椅子に座っていた。その中にはシルヴェーヌの養父であるランヴェルもいた。その隣には議会の議長、副議長など議会で役職のある貴族もずらりと顔を揃えていた。
ただならぬ空気にセレスタンとディオンは【すわ、廃嫡か?】と息を飲んだ。
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