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異母兄弟
しおりを挟むコホンと誰かが咳ばらいをした音にセレスタンとディオンは慌てて国王、王妃に礼をして着席をする。「揃いましたかね」と誰に問うでもなく議会の議長が声を出した。
ピリリと張りつめた空気の中で議長は国王に丁寧な礼をした。
「国王陛下、お言葉をお願いいたします」
場の集まりとは言え、時候の挨拶から入るが常の議長が全てを飛ばし要件からだという事は、決定事項だと言う事だ。
書類を手に内容を読んでいる風で国王の視線は異母兄弟に向けられて書面は見ていない。
「王太子セレスタンは廃嫡。その身柄をクディエ公爵家への移籍とする。同子女であるシルヴェーヌは第二王子ディオンと10日以内に婚姻とし婚姻の日をもってクディエ公爵家からは離籍、身柄は王妃預かりとし、第二王子ディオン、現在の婚約者バイエ侯爵家子女アデライドは教育の終了をもって側妃とする。側妃召し上げ時にはシルヴェーヌの身柄をディオンの籍に移す」
国王の声に反応して顔を上げたのはセレスタンとディオンのみ。
王妃も側妃も眉1つ、いや髪の毛、睫毛の一本微動だにしなかった。
「お、お待ちください!それでは王太子不在となるではありませんか!父上は私を見捨てるのか?!国に対しての貢献は認めてはくださらないのですか!」
「そうですよ!父上。私は異母兄上だからシルヴェーヌと支えようと!それに異母兄上が廃嫡なのなら私が繰り上がりで王太子、ひいては父上の後を継いで――」
「黙れ!痴れ者がっ!」
セレスタンとディオンは腰が浮くほど驚いた。
それまで叱られても今ほどの威圧を感じる事はなかった国王の声に体が浮いたのだ。
夜会で目を血走らせて激昂してはいたが、その時の比ではない。
「国王である私が決定し、ここにいる国を支える者達が満場一致で賛成をした。うぬらの意見など取るに足らぬ。慈悲で教えてやろう。王太子は第三王子マクスウェルに決定している。お前たちが気を揉む必要は微塵もない。お前たちに国を任せるくらいなら今すぐ王政を廃し隣国の属国となったほうが遥かにマシだ。マクスウェルがいて良かったな?」
「そんなっ!マクスウェルはまだ2歳ではありませんか!慣例に則るなら父上はあと数年で引退のはず!成人するまで父上が続投する事になるではありませんか」
「セレスタン。それが解っていて何故愚行を繰り返した。何も知らんと思ったか?王族、貴族と言うのは有事の際はその首を潔く差し出し民を守るからこそ立場があるのだ。その立場を強固にするのが婚姻。王族、貴族の個人の感情など民の生活の前には取るに足らぬ」
クディエ公爵家に移籍となった事よりもセレスタンは【廃嫡】という自分の予定にはなかった未来にその場に崩れ落ちた。その姿に憐みを向けた国王と王妃の瞳には【親の情】は全くなかった。
国を統べるのに個人の感情を引き合いに出しては何事も進まない。
個や私を犠牲にして成り立つ国の為政者は【民の父母】だが【王子の父母】ではない。そんな国王が2度の過ちを犯した。1つ目の過ちはセレスタンの功績によるアデライドとの婚約解消だった。
王家にしてみればスポンサーでもあるバイエ侯爵家が離れないのならどうでも良かった。
納税額が歳入の1割を占めるという事は、それなりに影響力があるという事。
国と言う母体を軸に置けば婚約者はどちらの王子でも問題なかった。
同時期にアデライドがセレスタンではなくディオンに傾倒した事から認められた婚約解消だが、セレスタンにしてみれば【成功体験】になってしまった。
聡い王子だったからこそ早々に王太子となり、個や私ではなく立場故の物だと理解してくれているものだと思ったがそうではなかった。
そして国王は2つ目の過ちを犯した。それがセレスタンとシルヴェーヌの婚約だった。
当時のシルヴェーヌは可もなく不可もない令嬢で年齢的には丁度と言うだけの合格点。領地に療養と言う事で、学問やマナーなどは【アデライドと比べて】少し上なら問題ないという認識だった。
蓋を開けてみればシルヴェーヌは出来が良すぎた。
我が子であれば、王子であれば間違いなく次の国王に選定しただろう。
成功体験から天狗になったセレスタンの鼻を折るのは容易に想像できたが、シルヴェーヌの性格からセレスタンは相手を認め、受け入れて【共生】を選ぶだろうと考えてしまった。
だが、失敗だった。
断罪や拒絶をするならまだ【人】としての感情だと理解が出来たが【策略】で嵌めるなど予想だにしていなかった。
国王の犯した2つの過ちは【親心】を出してしまった事だった。
――3つめの過ちは犯さぬよう――
「バイエ侯爵令嬢が不出来なのは婚約解消の理由にはならん。だが己の考えを貫いた姿勢は認める。勘違いをするな。婚約を解消しシルヴェーヌ嬢との婚約を結んだのはお前のためではない。王命ではあるがこれも王家と貴族の契約だ。お前たちの惚れた腫れたの事情など鑑みる必要もない。儂が続投するのはお前達の尻拭いだ。父として最初で最後に仕事だが、皆が認めてくれた。感謝せよ」
セレスタンは今度こそ崩れた体勢から床に突っ伏して声をあげ、拳で床を何度も叩いた。
「父上ぇ‥嫌です…無理ですよぅ…アデライドに教育なんて」
「心配しておらん。教育を受けるのはお前ではない。アデライド嬢だ」
「そんな…じゃぁ…私が立太子するのは無理ではないですか」
「案ずるな。誰もお前に期待もしておらん。他国の者もいる場での失態。己が被害者と思うな。一番の被害者はシルヴェーヌ嬢だと言う事を肝に銘じておけ」
突き放すような国王の言葉にディオンは母親である側妃の顔を見た。
目が合う瞬間に顔を背けた母はソファから立ち上がり、国王と王妃に一礼するとディオンを振り返る事もなく退室していった。
アデライドに教育を修了させるなど、泥人形に言葉を教える方がまだ簡単だ。
側妃たるに十分とアデライドが認められる日など訪れるはずも無い。
蒼白になるディランに王妃が去り際、声をかけた。
「夫ですから恋しく思う日もあるでしょう。シルに問い、わたくしが許可をすれば面会も出来ましょう。目の当たりにした真実の愛の行く末が小説の続刊を待つよりも楽しみになる日が来ようとはの?」
扇で隠された口から出た言葉にディオンは浮きかけた腰がズンとソファに沈み込んだ。退室した王妃の背がとうに見えなくなっても扉の方向を見つめたまま動けなかった。
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