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鍛錬
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「本日はここまでです。特に言及する事は御座いません」
「ご指導ありがとうございました」
王子妃教育を始めてみれば、シルヴェーヌの水準は王太子妃教育も履修済みと同等。それまでアデライドに手を焼いてきた講師たちはこんどは教える事がないと手をあげた。
それでもシルヴェーヌは12歳の誕生日を間近にした少女。
自らが教えを乞い、王妃教育に着手していた。
座学が終わり、次は護身のための体術と剣術。非力そうに見えるがそれは碌に食べていないだけで力が無ければ無いなりにシルヴェーヌは相手の力を受け流す術は身につけていた。
「このような技をどちらで身につけられたのです?」
「はい、騎士団長様、わたくしはつい先日まで公爵領で育ちましたのでそちらで。田舎では山菜を採りに行って滑落をしても、川の淀みに嵌っても、獣と遭遇しても頼れるのは己1人と習いました」
「では泳げるとでも?」
「はい、長い時間は体温を奪われてしまいますので難しいですけれど、ドレスを着た状態で水に落ちても浮く術は実際衣類を着用したままで教えて頂きました。ただ、川と湖は経験が御座いますが王宮にある池のように流れがないものは経験が御座いません」
「まさかと思いますが騎乗も問題なく?」
「確実では御座いませんが…王都の馬はどれも鞍やハミ、鐙が御座いますが領の馬にはそのようなものが御座いませんでしたので、鬣を掴み、足で馬の腹を押したり撫でたりでの調整です。早馬のような速度では走らせたことは御座いません。ですが、走らせながら弓を引く事も出来ますわ」
「なんと!?弓まで?」
「と、申しましても夕食用のウサギやイノシシなどを手製の鏃を使っての素人狩猟で御座います。犬などは使いませんので仕留めれば山ネズミだった事も御座います」
「それは是非、狩りにお誘いしたいものです」
「ウフフ。野兎のように一目散に走って逃げるか、穴兎のように穴に隠れてお待ちしております」
騎士たちと歓談をしているところにクロヴィスがやって来た。
本日の日程は全て終えているので何かの時間に遅れると言う事はないのだが、クロヴィスは毎回騎士団での鍛錬時には迎えにやって来るのだ。
「困りますね」
「本日はこの後の予定はなく公爵家の馬車が迎えに来るまでまだ2刻はあるかと。何かございましたか?」
「いえ、遅かったので」
「それは失礼を致しました。直ぐに片づけを致します」
「クディエ公爵令嬢。クロは色々と心配性なんですよ」
騎士団長がクロディスの背中を思い切り叩けば一同が笑いはじめる。
耳まで赤くしたクロヴィスは抵抗はするものの和やかな雰囲気に囲まれる。
片づけを済ませたシルヴェーヌは男装の麗人のように騎士服に身を包み、腰には重量の軽いサーベルを帯剣したままでクロヴィスと長い廊下を歩いていく。
初見の日、感じたようにクロヴィスは体罰を日常的に受けて成長をしていた。
シルヴェーヌは背中にはなかったし、叩かれるのはポインターだった為か痣が消えれば少し肌の色に沈着している部分はあるものの、リベイラ公爵夫人が言ったようにコルセットの端が当たる部分はコルセットでも擦れるため、それが体罰によるものかは判別がはっきりとはできなかった。
しかし、クロヴィスは違った。背中一面には鞭で打たれた痕が爛れたように残っているという。クロヴィスはトラント公爵の遠戚の子で、トラント公爵の元にはまもなく養子縁組をして正式に籍に入る。
結果を出さない者は不要だと、厳しく躾けられて育った。
セレスタンの側近となった事で鞭で打たれる事は無くなったようだが暑い日でも、長そでを着ているのは【見苦しいものを見せたくない】からだといった。
似たような経験を持つシルヴェーヌとクロヴィスが打ち解けるのは早かった。
しかしながら、シルヴェーヌはセレスタンの婚約者。一線を超えたり疑いを持たれるような距離感を取る事はなかった。
最初は虐待と言う共通点がある事をお互い慰め合うだけだったが、絶対に口にしたり表情に出す事は許されないが、お互いを心に思い合うようにもなった。
なので余計に物理的には距離を取ってしまう。
騎士団の鍛錬が終わった後、本来なら迎えには行かなくても問題は無い。
そうしているのは王太子セレスタンの命だった。
王妃教育が始まってからは首謀者はバイエ侯爵家と思われるが、シルヴェーヌに接触をしてくる貴族子女が増えたのである。小さなことでも綻びとなればそれが大事につながる。
セレスタンとシルヴェーヌは従者だけでなく国王、王妃も気をもむほどに仲があまり良くなかった。会話も業務的な会話ばかりで年齢に応じた初々しさも恥じらいも全く感じられない。
シルヴェーヌはセレスタンの考えが解らなかった。
「ご指導ありがとうございました」
王子妃教育を始めてみれば、シルヴェーヌの水準は王太子妃教育も履修済みと同等。それまでアデライドに手を焼いてきた講師たちはこんどは教える事がないと手をあげた。
それでもシルヴェーヌは12歳の誕生日を間近にした少女。
自らが教えを乞い、王妃教育に着手していた。
座学が終わり、次は護身のための体術と剣術。非力そうに見えるがそれは碌に食べていないだけで力が無ければ無いなりにシルヴェーヌは相手の力を受け流す術は身につけていた。
「このような技をどちらで身につけられたのです?」
「はい、騎士団長様、わたくしはつい先日まで公爵領で育ちましたのでそちらで。田舎では山菜を採りに行って滑落をしても、川の淀みに嵌っても、獣と遭遇しても頼れるのは己1人と習いました」
「では泳げるとでも?」
「はい、長い時間は体温を奪われてしまいますので難しいですけれど、ドレスを着た状態で水に落ちても浮く術は実際衣類を着用したままで教えて頂きました。ただ、川と湖は経験が御座いますが王宮にある池のように流れがないものは経験が御座いません」
「まさかと思いますが騎乗も問題なく?」
「確実では御座いませんが…王都の馬はどれも鞍やハミ、鐙が御座いますが領の馬にはそのようなものが御座いませんでしたので、鬣を掴み、足で馬の腹を押したり撫でたりでの調整です。早馬のような速度では走らせたことは御座いません。ですが、走らせながら弓を引く事も出来ますわ」
「なんと!?弓まで?」
「と、申しましても夕食用のウサギやイノシシなどを手製の鏃を使っての素人狩猟で御座います。犬などは使いませんので仕留めれば山ネズミだった事も御座います」
「それは是非、狩りにお誘いしたいものです」
「ウフフ。野兎のように一目散に走って逃げるか、穴兎のように穴に隠れてお待ちしております」
騎士たちと歓談をしているところにクロヴィスがやって来た。
本日の日程は全て終えているので何かの時間に遅れると言う事はないのだが、クロヴィスは毎回騎士団での鍛錬時には迎えにやって来るのだ。
「困りますね」
「本日はこの後の予定はなく公爵家の馬車が迎えに来るまでまだ2刻はあるかと。何かございましたか?」
「いえ、遅かったので」
「それは失礼を致しました。直ぐに片づけを致します」
「クディエ公爵令嬢。クロは色々と心配性なんですよ」
騎士団長がクロディスの背中を思い切り叩けば一同が笑いはじめる。
耳まで赤くしたクロヴィスは抵抗はするものの和やかな雰囲気に囲まれる。
片づけを済ませたシルヴェーヌは男装の麗人のように騎士服に身を包み、腰には重量の軽いサーベルを帯剣したままでクロヴィスと長い廊下を歩いていく。
初見の日、感じたようにクロヴィスは体罰を日常的に受けて成長をしていた。
シルヴェーヌは背中にはなかったし、叩かれるのはポインターだった為か痣が消えれば少し肌の色に沈着している部分はあるものの、リベイラ公爵夫人が言ったようにコルセットの端が当たる部分はコルセットでも擦れるため、それが体罰によるものかは判別がはっきりとはできなかった。
しかし、クロヴィスは違った。背中一面には鞭で打たれた痕が爛れたように残っているという。クロヴィスはトラント公爵の遠戚の子で、トラント公爵の元にはまもなく養子縁組をして正式に籍に入る。
結果を出さない者は不要だと、厳しく躾けられて育った。
セレスタンの側近となった事で鞭で打たれる事は無くなったようだが暑い日でも、長そでを着ているのは【見苦しいものを見せたくない】からだといった。
似たような経験を持つシルヴェーヌとクロヴィスが打ち解けるのは早かった。
しかしながら、シルヴェーヌはセレスタンの婚約者。一線を超えたり疑いを持たれるような距離感を取る事はなかった。
最初は虐待と言う共通点がある事をお互い慰め合うだけだったが、絶対に口にしたり表情に出す事は許されないが、お互いを心に思い合うようにもなった。
なので余計に物理的には距離を取ってしまう。
騎士団の鍛錬が終わった後、本来なら迎えには行かなくても問題は無い。
そうしているのは王太子セレスタンの命だった。
王妃教育が始まってからは首謀者はバイエ侯爵家と思われるが、シルヴェーヌに接触をしてくる貴族子女が増えたのである。小さなことでも綻びとなればそれが大事につながる。
セレスタンとシルヴェーヌは従者だけでなく国王、王妃も気をもむほどに仲があまり良くなかった。会話も業務的な会話ばかりで年齢に応じた初々しさも恥じらいも全く感じられない。
シルヴェーヌはセレスタンの考えが解らなかった。
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