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第19話 慕われているのか、ディスられているのか
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ぶちっ!ぶちっ!「なんなの。信じられない!」
ぶちっ!ぶちっ!「失礼にも程があるわ!」
ぶちっ!ぶちっ!「いきなりなんだってのよ!」
苛ついてしまったブリュエットは野草を見つけると千切って籠に放り込む。
そこに公爵夫妻の使用する離れに用があり、戻る途中のミモザが通りかかった。
「奥様?どうなさったんです?」
「んぁ?・・・あ、ミモザさん」
何時になく荒れ気味のブリュエット。いつもなら丁寧に野草を採取しているのに力任せに引き抜いたり千切ったりしていたので泥も跳ねて顔や服に飛び散っている。
「軍手をしてから作業で御座いましたでしょう?ほら、爪に土も入っていますよ」
「いいんですよ。そもそも軍手を使ってるのが違ってたんですから」
公爵家に来る前のブリュエットは庭とは別に仕事への行き帰りに土手などで野草を集めていた。手を保護する物など何もなかったのだ。
公爵家に住まう事になってからは、使用人達のケアもあって「働く人の手」である事は変わらないけれど、軍手を使ったり、小さなスコップを使ったりと手の保護はしていた。
「何かございましたか?」
「何かってほどじゃないんだけど…」
「若旦那様でしょうか?」
「判るの?」
「えぇ。明らかに態度が違いますし…先日の大掃除で使用人達も困惑していますから」
ジョゼフィーヌ関連の品を売った金はかなりの額になり、取り敢えずは現状で働く使用人の人数で割り、退職金とする事が決まったばかり。
そして現在ブリュエットは知らないが、オクタヴィアンは部屋にブリュエットを即興で描かせた絵を枕元に飾り、本宅にオクタヴィアンの妻が住まうための部屋を改装するために準備中。
ミモザも「壁紙をどうしたらいいか」「調度品はどうしよう」と相談をされて「本人に聞くのが一番」と返した。
出会いは世間一般で言う恋愛結婚でもないし、貴族では当たり前の政略辛みの結婚でもないけれど次の当主となる夫妻が仲良くやっていくのは悪い事ではないし、使用人たちもブリュエットで良いんじゃないか?との声も高まっている。
当人の中が良いのは勿論だが、使用人も一枚岩になるのはとても良い事だ。
「申し訳ございません。私が勝手な返事をしてしまい若旦那様も勘違いの上に早とちりをして先走ってしまったのでしょう。こう思うと猪突猛進!って周囲が見えなくなるのが玉に瑕。欠点でもありますが唯一の長所でもあるのです」
――ミモザさん、さらっとディスってない?――
ブリュエットは敢えてオクタヴィアンを知ろうとは思わなかったので情報はないに等しい。
しかし、ミモザの言葉通りだとすれば変態気質の見え隠れするストーキング行為も、今日の行動も何となく見えてくる。
「あの…若旦那様って人の言葉を鵜呑みにしちゃう・・・とか?」
「まぁ!そんなに深く若旦那様を判って下さっているなんて!その通りなのです」
――ただの確認だけど、そこまで肯定されると不安しかないんだけど――
「言葉は悪いのですが、若旦那様は世間知らずのボンボンと申しますか、公爵子息という御立場から若旦那様を叱れる人間もほぼいなかったのです」
「ご両親は叱らなかったのですか?私は幼い頃に死別しましたが𠮟られたなって記憶もあるんですけど」
ブリュエットが幼い頃にブリュエット以外の家族は全員事故で亡くなった。伯爵家だったからなのか、それとも子供の躾には厳しい人だったのか。今となってはそれを知る事は出来ないけれど失敗をした時に「どうして失敗をしたのか、よく考えなさい」とそれまでの行動を見直す事を言われた事を思い出す。
と、言ってもまだ6、7歳なので叱られた気がするだけかも知れない。
判るのは両親に言われていた時と、伯父夫婦の罵声を浴びせる叱責を受ける時の気持ちは全く異なっていた事くらい。
「公爵夫妻は若旦那様には興味がないのです。無事に成長して自分たちが引退する時に家督を継げるようになっていればいいので。若旦那様は講師に言われた通りにやれば褒められる。そして周囲も若旦那様が上手く立ち回れば、自分への評価として返ってきます。よい事ではあるんですけども…こう言ってはなんですが繰り返すうちに若旦那様は周囲の言葉が正しいと無条件に受け入れる性格になり、周囲は結果的に若旦那様が高評価をしてもらわねばならないので負担が大きくなっていったのです」
――なるほど…お膳立てを完璧にしなきゃいけないものね――
「その点・・・こう言ってはなんですが元婚約者のご令嬢はカンフル剤になるかと周囲は期待したのです。ご令嬢の言葉も頭から信じ込んであれやこれやと散財をされておられました。収支をみてこれではいけないと気付くのを待ったのですが…待つだけではダメでした。くっ!!悔しいかな散財を散財と思わせない資金があったんです」
――金持ちの金銭感覚が狂ってるのはこういうことね――
「しかし、転機が訪れました。元婚約者が何故か逃げ出し奥様がやって来た事です。若旦那様にはやっと人を無条件に信じる事の怖さが判ったのです。どんなに仲が良くても、信頼し合ってるとしても人は裏切る時はあっさりと裏切るものですからね」
「そうですね。かなり好きだったみたいですし」
「しかし、奥様!奥様なら若旦那様を変えられます。いえ、変えたのです。酷い事をしてしまったのにここに留まった奥様を盗み見・・・いえ、覗き見・・・いえ、奥様を知る事で変わったのです」
――知ってたんだ…皆知ってたんだ――
「申し訳ございません。猪突猛進な所もありますが一線を超える事が出来るほどの気概もない若旦那様でしたので、静観をしていたんです。奥様の力で調教・・・いえ、ヘタレで甘え腐った根性も叩き直して頂けると!あぁいうタイプは尻に敷いて手のひらで転がせば結果を喜んで持って来るのです」
――ミモザさん・・・それ鬼嫁思考だから――
「言葉も思考も気概も足らない若旦那様と思えば可愛いものです。きっと若旦那様の言動に御腹立ちとは思いますが、こういう人間だと前置きをして話をしてみて頂けませんか?」
――こういう人間って…仮夫さん。舐められてるわね――
しかし、扱い方が解ればあの言動も理解出来ない訳ではない。
ただ憂さ晴らしに暴言を吐き捨てるクレーマーとは違うのだから話をすれば折り合いをつける落としどころもあるかも知れない。
いつもより泥だらけになった籠の中の野草を見てブリュエットは「面倒臭い人だな」と思いつつも小屋に戻る事にしたのだった。
ぶちっ!ぶちっ!「失礼にも程があるわ!」
ぶちっ!ぶちっ!「いきなりなんだってのよ!」
苛ついてしまったブリュエットは野草を見つけると千切って籠に放り込む。
そこに公爵夫妻の使用する離れに用があり、戻る途中のミモザが通りかかった。
「奥様?どうなさったんです?」
「んぁ?・・・あ、ミモザさん」
何時になく荒れ気味のブリュエット。いつもなら丁寧に野草を採取しているのに力任せに引き抜いたり千切ったりしていたので泥も跳ねて顔や服に飛び散っている。
「軍手をしてから作業で御座いましたでしょう?ほら、爪に土も入っていますよ」
「いいんですよ。そもそも軍手を使ってるのが違ってたんですから」
公爵家に来る前のブリュエットは庭とは別に仕事への行き帰りに土手などで野草を集めていた。手を保護する物など何もなかったのだ。
公爵家に住まう事になってからは、使用人達のケアもあって「働く人の手」である事は変わらないけれど、軍手を使ったり、小さなスコップを使ったりと手の保護はしていた。
「何かございましたか?」
「何かってほどじゃないんだけど…」
「若旦那様でしょうか?」
「判るの?」
「えぇ。明らかに態度が違いますし…先日の大掃除で使用人達も困惑していますから」
ジョゼフィーヌ関連の品を売った金はかなりの額になり、取り敢えずは現状で働く使用人の人数で割り、退職金とする事が決まったばかり。
そして現在ブリュエットは知らないが、オクタヴィアンは部屋にブリュエットを即興で描かせた絵を枕元に飾り、本宅にオクタヴィアンの妻が住まうための部屋を改装するために準備中。
ミモザも「壁紙をどうしたらいいか」「調度品はどうしよう」と相談をされて「本人に聞くのが一番」と返した。
出会いは世間一般で言う恋愛結婚でもないし、貴族では当たり前の政略辛みの結婚でもないけれど次の当主となる夫妻が仲良くやっていくのは悪い事ではないし、使用人たちもブリュエットで良いんじゃないか?との声も高まっている。
当人の中が良いのは勿論だが、使用人も一枚岩になるのはとても良い事だ。
「申し訳ございません。私が勝手な返事をしてしまい若旦那様も勘違いの上に早とちりをして先走ってしまったのでしょう。こう思うと猪突猛進!って周囲が見えなくなるのが玉に瑕。欠点でもありますが唯一の長所でもあるのです」
――ミモザさん、さらっとディスってない?――
ブリュエットは敢えてオクタヴィアンを知ろうとは思わなかったので情報はないに等しい。
しかし、ミモザの言葉通りだとすれば変態気質の見え隠れするストーキング行為も、今日の行動も何となく見えてくる。
「あの…若旦那様って人の言葉を鵜呑みにしちゃう・・・とか?」
「まぁ!そんなに深く若旦那様を判って下さっているなんて!その通りなのです」
――ただの確認だけど、そこまで肯定されると不安しかないんだけど――
「言葉は悪いのですが、若旦那様は世間知らずのボンボンと申しますか、公爵子息という御立場から若旦那様を叱れる人間もほぼいなかったのです」
「ご両親は叱らなかったのですか?私は幼い頃に死別しましたが𠮟られたなって記憶もあるんですけど」
ブリュエットが幼い頃にブリュエット以外の家族は全員事故で亡くなった。伯爵家だったからなのか、それとも子供の躾には厳しい人だったのか。今となってはそれを知る事は出来ないけれど失敗をした時に「どうして失敗をしたのか、よく考えなさい」とそれまでの行動を見直す事を言われた事を思い出す。
と、言ってもまだ6、7歳なので叱られた気がするだけかも知れない。
判るのは両親に言われていた時と、伯父夫婦の罵声を浴びせる叱責を受ける時の気持ちは全く異なっていた事くらい。
「公爵夫妻は若旦那様には興味がないのです。無事に成長して自分たちが引退する時に家督を継げるようになっていればいいので。若旦那様は講師に言われた通りにやれば褒められる。そして周囲も若旦那様が上手く立ち回れば、自分への評価として返ってきます。よい事ではあるんですけども…こう言ってはなんですが繰り返すうちに若旦那様は周囲の言葉が正しいと無条件に受け入れる性格になり、周囲は結果的に若旦那様が高評価をしてもらわねばならないので負担が大きくなっていったのです」
――なるほど…お膳立てを完璧にしなきゃいけないものね――
「その点・・・こう言ってはなんですが元婚約者のご令嬢はカンフル剤になるかと周囲は期待したのです。ご令嬢の言葉も頭から信じ込んであれやこれやと散財をされておられました。収支をみてこれではいけないと気付くのを待ったのですが…待つだけではダメでした。くっ!!悔しいかな散財を散財と思わせない資金があったんです」
――金持ちの金銭感覚が狂ってるのはこういうことね――
「しかし、転機が訪れました。元婚約者が何故か逃げ出し奥様がやって来た事です。若旦那様にはやっと人を無条件に信じる事の怖さが判ったのです。どんなに仲が良くても、信頼し合ってるとしても人は裏切る時はあっさりと裏切るものですからね」
「そうですね。かなり好きだったみたいですし」
「しかし、奥様!奥様なら若旦那様を変えられます。いえ、変えたのです。酷い事をしてしまったのにここに留まった奥様を盗み見・・・いえ、覗き見・・・いえ、奥様を知る事で変わったのです」
――知ってたんだ…皆知ってたんだ――
「申し訳ございません。猪突猛進な所もありますが一線を超える事が出来るほどの気概もない若旦那様でしたので、静観をしていたんです。奥様の力で調教・・・いえ、ヘタレで甘え腐った根性も叩き直して頂けると!あぁいうタイプは尻に敷いて手のひらで転がせば結果を喜んで持って来るのです」
――ミモザさん・・・それ鬼嫁思考だから――
「言葉も思考も気概も足らない若旦那様と思えば可愛いものです。きっと若旦那様の言動に御腹立ちとは思いますが、こういう人間だと前置きをして話をしてみて頂けませんか?」
――こういう人間って…仮夫さん。舐められてるわね――
しかし、扱い方が解ればあの言動も理解出来ない訳ではない。
ただ憂さ晴らしに暴言を吐き捨てるクレーマーとは違うのだから話をすれば折り合いをつける落としどころもあるかも知れない。
いつもより泥だらけになった籠の中の野草を見てブリュエットは「面倒臭い人だな」と思いつつも小屋に戻る事にしたのだった。
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