侯爵様、今更ながらに愛を乞われても

cyaru

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VOL:02   ニアって誰?

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時は少し、ほんの1時間ほど前に遡る。

その日は第2王子殿下と隣国王女の婚約が調った祝いのパーティーが開かれるため、ティタニアは何日ぶりかに顔を見た夫のアルマンドと共に会場に入場した。

ダンスを踊るかどうかは個人の判断。夫婦としてせねばならない事はこのパーティの主役である第2王子と婚約者となった隣国の王女に祝いの言葉を掛けることくらい。

入場して直ぐに侯爵家だったので挨拶は終わった。

アルマンドは特にティタニアに言葉も掛けず、会場の何処かに消えてしまった。フェリシアの元に行ったのだろうが詮索するだけ野暮だとティタニアは友人や取引相手の貴族当主夫妻と会話をして、人の熱でむせ返る会場から涼むためにバルコニーに出た。

『フェェェ~♡涼しい。生き返るぅ』

そう思って手摺に手をかけた時だった。

『もういい加減にしてくれよ!』
『なんですって?愛人のままでいてくれと言ったのは貴方でしょう?その対価よ。いい加減も何もないでしょう?』
『事あるごとに宝飾品が買えるわけがないだろう』
『今更そんな事をいうの?!こっちは我慢してるのよ』
『あぁ、もう面倒だ。ならこの関係はもう終わりだ。それなら我慢の必要もないだろう』


――折角気持ちいい風が吹いてるのに痴話喧嘩なんかやめてよね――

どこかで聞いた様な声。そんな気もしたが声を荒げるような場に出くわす事もあまりなく、言い合いをする男女が誰かなんて事も興味がなかったティタニアは静かに声から距離を取ろうとしたのだが、声の主はそうはさせてくれなかった。

男の方が先に会場内に戻ろうとしたようで、給仕にグラスをせがむ苛立った声がティタニアの背中に聞こえてきたのだが、少し遅れて女の罵声が飛んで来た。

『なんでアンタがこんな所にいるのよ!!』

振りむくと折角の可愛い顔が台無し。目を剥いて三角に吊り上がり、鼻の穴も限界まで広げ鼻息荒い女性がティタニアにズカズカと歩み寄って来た。

『こんなところ・・・お言葉で御座いますが王宮ですよ?今日のプラチナホールは装飾も見事で窓枠ですら――』
『そんな事!どうでもいいのよ!アンタさえいなければっ!!』
『な、何をなさるのです?!うわっ!!』


掴みかかりそうになった女性の手を体を捻ってかわしたまでは良かったけれど、不自然な態勢になり足を捻ってしまったティタニアは「転ぶ!」と思った瞬間に手を伸ばし手摺を掴もうとしたのだが、思った以上に手摺は拳にして1つ分低い位置にあって掴みそこない、勢いと反動も手伝って体は手摺を超えてしまったのだった。

『キャァァァー!』
『人が落ちたぞ!』

バルコニーに出る手前にいた貴族たちがその場を目撃し、声をあげた。

その声すらティタニアにはゆっくりと聞こえて「落ちたと思ったら助けなさいよ!」と体が落下している間に悪態をついてしまった。



★~★

寝台で目が覚めたティタニアは思った。

「生き返ったわ」

「奥様ぁ」ウルウルの涙目で側付侍女のメイリーンが無事の生還を祝ってくれる。

「あ痛たたた・・・」
「奥様!どこか痛いところ・・・全部ですよねっ」

――間違ってないわ。メイリーン。満点回答よ――

落下した場所がまだある程度の長さがある芝生だった事と、昨今の流行りのドレスはボリューム勝負のデザインでティタニアの体には詰め物をしないとユルユルなデザインだったため、全身にタオルを巻きつけているのが功を奏したのか骨折はなく打撲のみ。不幸中の幸いと言えるだろう。

――ほぼ無傷に近いなんて奇跡だわ―

打ち身や擦り傷はあるものの骨折もなく見えない部分も問題なく「お腹空いた」としっかり食べられるし、もしかすると離縁した後は遠い国で雑技団にでも入って食べて行けるのでは?と錯覚してしまうくらいに元気そのもの。

王宮からはまだ目覚めていない時に、なんと第2王子殿下と隣国の王女殿下が見舞いに来て、バルコニーの手摺の高さに問題があったと完全なる落ち度を認めてくれたおかげで治療費は王家持ち、多額の見舞金も頂いた。

――有難いお話ですわ。しめしめ・・・うふふ――

あり過ぎると問題も起きるが離縁後を考えると資産が増える事は悪いことではない。
王家からの見舞金はオルランディ侯爵家にも支払われるが、ティタニア個人にも支払われる。

しかしいつもとは違った空気をティタニアは感じた。
アルマンドがこの部屋どころか屋敷にいないのはいつもの事なのだが使用人達が口を揃えてティタニアに訴えてくる。

「今度と言う今度はもう愛想が尽きました!」
「寄りにも寄って・・・本当に図々しい!」

ティタニアの落ち方が奇跡に近く世話が出来ないからなのか?ではなく当然の如く王宮は大騒ぎになった。直ぐにオルランディ侯爵夫人である事は判明したのだが、会場の何処を探してもアルマンドの姿はなかったのだ。

原因となったあの女性がフェリシアである事は直ぐに取り押さえられたのでフェリシアの家からは謝罪にフェリシアの父と兄が訪れたと使用人は言うが・・・。

「追い返しましたよ。全く・・・どのツラ下げて来てるんだって!!」
「謝罪に来たのでしょう?」
「謝って済む事じゃありません。奥様のお怪我もですが第2王子殿下の祝いの場をぶち壊したんですから」


怒りをあらわにしている使用人だが、その怒りの矛先はまた別の場所にあった。


「いけません!旦那様!」
「何故だ?目を覚ましたと聞いたぞ?どうして邪魔をするんだ」

何ごと?と侍女のメイリーンと目を合わせるティタニアの前に現れたのは用が無ければ屋敷に来る事もないアルマンドだった。

70がもう目の前になった老体に鞭打って執事のボムスが手を広げてアルマンドを引き留めるが、若さも体力もあるアルマンドは簡単にボムスを振り切ってバッと両手を広げた。


「起き上がったりして大丈夫なのか?!」

両手を広げ、折角の整ったかんばせも涙と鼻水でグジュグジュで台無し。

「ニアが目覚めるまで生きた心地がしなかったよ」

ティタニアはアルマンドではなく、メイリーンに問うた。

「ニアって誰?」
「多分・・・奥様の事だと思います」
「へっ?」

愛称呼びなど婚約中からされた事もない。
ティタニアは思った。
「もしかしてバルコニーから落ちたのは私じゃなく、アルマンド?」


★~★
次は14時10分でぇぇす\(^0^)/
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