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VOL:03 自分の事は自分で
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翌日もアルマンドの訪問は続く。
朝、朝食の時間を終えてさしたる怪我も無かったティタニアは侍女のメイリーンと共に今日の予定である執務をしようとしたのだが、執務室にアルマンドがやって来たのだ。
「本日は何かご予定がありましたか?」
「予定とはあってないようなものだ。どうだ?庭の花も見頃の箇所を散策しないか?」
思わずメイリーンと顔を見合わせるのも仕方のないこと。
確かに庭の花は庭師が手入れをしてくれるので水仙や菜の花が見頃ではある。
ティタニアは花を愛でるのも楽しいと思うが、それをアルマンドと共に楽しみたいか?となれば首を傾げる。
「申し訳ございませんが、本日中に纏めておかねばならない書類も御座いますので。庭の花の見頃ではなく貴方様は何の御用で来られたのです?」
そう、アルマンドとティタニアは夫婦ではあるものの実家の事業が終われば離縁をする約束のある夫婦でいがみ合う必要はないが、私的に仲を深めねばならない関係でもない。
「つれない事を言うなよ。今日で結婚して156日目の記念日じゃないか」
――156日で記念日?――
そんな記念日を作っていたら毎日が記念日になってしまう。
世の中には事あるごとに記念日を作りたがる者もいるとティタニアは聞いた事はあるが、ティタニア自身が年に一度の誕生日の祝いですら煩わしいと感じているの記念日を増やされても迷惑なだけだ。
「奥様・・・宜しいでしょうか」
ボムスがティタニアにそっと耳打ちをする。顔色からして良い話ではないのだろうなと思いつつティタニアはメイドの入れた茶を必要以上に褒めてティタニアに「そう思わないか?」と同意を求めるアルマンドを置いて部屋を出た。
「どうしたの?」
「どうしたも何も・・・旦那様はお連れ様とお住まいになっていた屋敷を引き払うように指示を出したようです」
「引き払う?新しく家を買ったというの?」
「いえ、どうやら・・・ここに」
「嘘でしょ・・・悪い冗談だよと言ってくれない?」
先代のオルランディ侯爵家の当主、つまりアルマンドの両親は王都には住まいを置いておらず小さな領地に引き籠った。だからこそのやりたい放題とも言える言動を繰り返していたアルマンドだがここにきて何の心境の変化があったと言うのか。
「どうやら・・・お連れ様と喧嘩をなさったようです」
「喧嘩?やめてよ~夫婦喧嘩は犬も食べないというのに」
「奥様。その場合は奥様が喧嘩相手となってしまいます」
「頭が痛くなって来たわ・・・」
「大丈夫ですか?昨日の今日で無理をされるからですよ」
「物理的な痛みじゃないわ。精神的に心にこう‥‥グワァァ!って感じなのよ」
頭を抱えるが、抱えてばかりはいられない。
オルランディ侯爵家の当主が本来片付けねばならない書類は山積みとなっていて決済の順番を待っている。そもそもはアルマンドが片付ける仕事なのだがフェリシアと遊興に耽る日々を過ごしたことで自分のすべき仕事だと思っていないのだろう。
それまでも月に1、2回だが金が無くなれば執事経由で連絡が来ていた。
働きもせずに遊ぶだけだと痛みを感じないからか庶民が1年間必死で働いて得る金額を半月で使い切る。使い切るのは手元にある現金で、そのほかに飲食店などからは請求書が回ってくる。
アルマンドがフェリシアと住んでいる屋敷の使用人もオルランディ侯爵家の使用人のため給料の支払いもせねばならない。ティタニアは想定していた倍の金額を稼がねば事業以前にオルランディ侯爵家の経営が出来なくなってしまう事に結婚してから直面した。
――自分の事は自分でしてくれないかしら――
と考えたものの結局は割り切って受け入れた。
それはアルマンドの為というよりも、離縁した時に経営のノウハウを知っていれば新興貴族などに対してコンサルタント業的な事も出来る。
離縁する際には手切れ金とも言える慰謝料が入るのだから働かなくても問題はないが小遣い程度の金が不定期でも得られるのは悪いことではない。
ティタニアは割り切ったのだ。
書面上の夫であるだけのアルマンドの為ではなく、兄や弟、そして30年後の自分の為に働こうと。30年後と言えば50代になっていて我が子を抱く事は叶わずとも孤児院から養子でも迎えて楽しく暮らす。
今でも離縁が出来ない訳ではないが、離縁となれば実家の事業がとん挫する可能性もある。
身を犠牲にするのではなく、その事業も本来当主のアルマンドが指揮をとらねばならないがフェリシアで忙しいのでティタニアが取っているのだが、案外楽しいのだ。
親の世代では「女だてらに」と言われたが今は男性も女性も同様に働き、同様に評価をされる時代になった。何より相棒が気心も知れた兄なのも心強い。
事業も10年後の難所工事を抜ければあとは残務処理に近い。
こんな大事業も放蕩する夫、アルマンドの妻で無ければ出来ない事だと思えば損ではなく得にも思える。
今はまだ結婚してアルマンドが指揮をとっていると思っている貴族もいるが、そんなものは数年のうちに何もしなくても考えを改める事になるだろう。
なんせ今ですら事業の事をアルマンドに問うてもアルマンドが答えられる訳ではない。わざわざ「私がやってるんです」と声をあげなくても時間が解決してくれる問題だった。
「ここに引っ越してくるつもりかしら」
「そのようです」
「そうすると使用人の数も倍になるわね。人員整理も必要だわ」
「あちらに居てもらえると何かと便利なのですが」
ボムスの言葉の通りである。
夫婦でありながらも完全な別居だからこそ成り立っている。使用人を解雇するより働く場を与えて給金を払った方が丸く収まるのだ。
「話をしてみるわ。あちらの住まいを解約するのは待つようにパトリックに伝えて」
パトリックとはアルマンド付の執事。煩わしい手続きはパトリックに丸投げしているであろうことは容易に察しが付く。
――なんで私が向こうの生活まで気にかけないといけないかなぁ――
こちらへの引っ越しを阻止するべくティタニアはアルマンドと対話するため部屋に戻った。
★~★
次は16時10分どぇす(;^ω^)
朝、朝食の時間を終えてさしたる怪我も無かったティタニアは侍女のメイリーンと共に今日の予定である執務をしようとしたのだが、執務室にアルマンドがやって来たのだ。
「本日は何かご予定がありましたか?」
「予定とはあってないようなものだ。どうだ?庭の花も見頃の箇所を散策しないか?」
思わずメイリーンと顔を見合わせるのも仕方のないこと。
確かに庭の花は庭師が手入れをしてくれるので水仙や菜の花が見頃ではある。
ティタニアは花を愛でるのも楽しいと思うが、それをアルマンドと共に楽しみたいか?となれば首を傾げる。
「申し訳ございませんが、本日中に纏めておかねばならない書類も御座いますので。庭の花の見頃ではなく貴方様は何の御用で来られたのです?」
そう、アルマンドとティタニアは夫婦ではあるものの実家の事業が終われば離縁をする約束のある夫婦でいがみ合う必要はないが、私的に仲を深めねばならない関係でもない。
「つれない事を言うなよ。今日で結婚して156日目の記念日じゃないか」
――156日で記念日?――
そんな記念日を作っていたら毎日が記念日になってしまう。
世の中には事あるごとに記念日を作りたがる者もいるとティタニアは聞いた事はあるが、ティタニア自身が年に一度の誕生日の祝いですら煩わしいと感じているの記念日を増やされても迷惑なだけだ。
「奥様・・・宜しいでしょうか」
ボムスがティタニアにそっと耳打ちをする。顔色からして良い話ではないのだろうなと思いつつティタニアはメイドの入れた茶を必要以上に褒めてティタニアに「そう思わないか?」と同意を求めるアルマンドを置いて部屋を出た。
「どうしたの?」
「どうしたも何も・・・旦那様はお連れ様とお住まいになっていた屋敷を引き払うように指示を出したようです」
「引き払う?新しく家を買ったというの?」
「いえ、どうやら・・・ここに」
「嘘でしょ・・・悪い冗談だよと言ってくれない?」
先代のオルランディ侯爵家の当主、つまりアルマンドの両親は王都には住まいを置いておらず小さな領地に引き籠った。だからこそのやりたい放題とも言える言動を繰り返していたアルマンドだがここにきて何の心境の変化があったと言うのか。
「どうやら・・・お連れ様と喧嘩をなさったようです」
「喧嘩?やめてよ~夫婦喧嘩は犬も食べないというのに」
「奥様。その場合は奥様が喧嘩相手となってしまいます」
「頭が痛くなって来たわ・・・」
「大丈夫ですか?昨日の今日で無理をされるからですよ」
「物理的な痛みじゃないわ。精神的に心にこう‥‥グワァァ!って感じなのよ」
頭を抱えるが、抱えてばかりはいられない。
オルランディ侯爵家の当主が本来片付けねばならない書類は山積みとなっていて決済の順番を待っている。そもそもはアルマンドが片付ける仕事なのだがフェリシアと遊興に耽る日々を過ごしたことで自分のすべき仕事だと思っていないのだろう。
それまでも月に1、2回だが金が無くなれば執事経由で連絡が来ていた。
働きもせずに遊ぶだけだと痛みを感じないからか庶民が1年間必死で働いて得る金額を半月で使い切る。使い切るのは手元にある現金で、そのほかに飲食店などからは請求書が回ってくる。
アルマンドがフェリシアと住んでいる屋敷の使用人もオルランディ侯爵家の使用人のため給料の支払いもせねばならない。ティタニアは想定していた倍の金額を稼がねば事業以前にオルランディ侯爵家の経営が出来なくなってしまう事に結婚してから直面した。
――自分の事は自分でしてくれないかしら――
と考えたものの結局は割り切って受け入れた。
それはアルマンドの為というよりも、離縁した時に経営のノウハウを知っていれば新興貴族などに対してコンサルタント業的な事も出来る。
離縁する際には手切れ金とも言える慰謝料が入るのだから働かなくても問題はないが小遣い程度の金が不定期でも得られるのは悪いことではない。
ティタニアは割り切ったのだ。
書面上の夫であるだけのアルマンドの為ではなく、兄や弟、そして30年後の自分の為に働こうと。30年後と言えば50代になっていて我が子を抱く事は叶わずとも孤児院から養子でも迎えて楽しく暮らす。
今でも離縁が出来ない訳ではないが、離縁となれば実家の事業がとん挫する可能性もある。
身を犠牲にするのではなく、その事業も本来当主のアルマンドが指揮をとらねばならないがフェリシアで忙しいのでティタニアが取っているのだが、案外楽しいのだ。
親の世代では「女だてらに」と言われたが今は男性も女性も同様に働き、同様に評価をされる時代になった。何より相棒が気心も知れた兄なのも心強い。
事業も10年後の難所工事を抜ければあとは残務処理に近い。
こんな大事業も放蕩する夫、アルマンドの妻で無ければ出来ない事だと思えば損ではなく得にも思える。
今はまだ結婚してアルマンドが指揮をとっていると思っている貴族もいるが、そんなものは数年のうちに何もしなくても考えを改める事になるだろう。
なんせ今ですら事業の事をアルマンドに問うてもアルマンドが答えられる訳ではない。わざわざ「私がやってるんです」と声をあげなくても時間が解決してくれる問題だった。
「ここに引っ越してくるつもりかしら」
「そのようです」
「そうすると使用人の数も倍になるわね。人員整理も必要だわ」
「あちらに居てもらえると何かと便利なのですが」
ボムスの言葉の通りである。
夫婦でありながらも完全な別居だからこそ成り立っている。使用人を解雇するより働く場を与えて給金を払った方が丸く収まるのだ。
「話をしてみるわ。あちらの住まいを解約するのは待つようにパトリックに伝えて」
パトリックとはアルマンド付の執事。煩わしい手続きはパトリックに丸投げしているであろうことは容易に察しが付く。
――なんで私が向こうの生活まで気にかけないといけないかなぁ――
こちらへの引っ越しを阻止するべくティタニアはアルマンドと対話するため部屋に戻った。
★~★
次は16時10分どぇす(;^ω^)
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