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VOL:08 安っぽい女
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この時ほどアルマンドの足が重く感じる帰宅はなかった。
屋敷に戻れば愛しいフェリシアが笑顔で迎えてくれるというのに、その笑顔すら造り物の仮面を被っているのではと思ってしまった。
「あら?今日は早かったのね。ねぇ~聞いてよ~。先日オープンした調香店なんだけど可愛いのいっぱいあって選びきれなかったの」
「そう。大変だったね」
「大変どころじゃないわ。全部買おうかと思ったら店員が売ってくれないのよ。失礼しちゃうわ」
「売ってくれない?金の問題か?」
店が販売を拒否するとなれば支払いが滞っているなど噂になってしまい貴族としては致命傷となる。しかし先日目を通した報告書ではフェリシアが色々と買い物をした店の清算済みを示す領収書はきちんと添付されていた。
「お金がないんじゃないのよ。ホンット聞いてよ!」
「何をだ?」
「この香りとこの香りは相反するものなのでぇ、既に片方をお持ちの場合はお売り出来ませぇん・・・って言うのよ?こっちは金を払うんだから放っておいてほしいと思わない?」
店員がそんな間抜けな話し方をするのだろうかと思いつつも、口真似を大げさにして見せるフェリシアをアルマンドはどこか遠い目で見てしまった。
フェリシアが憤るその調香店は2週間前にオープンした新しい店で王族も使用するような高価な物から一般庶民でも手に取りやすい安価なものまで幅広く取り扱っているとあって連日大盛況の店で入店するにも整理券を手に入れての抽選をしている店の事である。
平民にも広く受け入れられているのは例え王族であっても抽選にハズレればその日の入店は叶わないと徹底されている事で、初日こそ入店できる権利を手に入れたものに金を掴ませた貴族がいたが2日目からは当選者に限るとその場での入店となった事でより選民思考がない店として周知された店。
それまで香水と言えば貴族の夫人が主に使用していて、夫人付きの使用人などは空き瓶などを貰えるだけでも飛び上がって喜ぶのが香水という品の位置づけだった。
その店では人間に少量つけて香りを楽しむものから雑貨とも言える芳香剤的なものまで取り扱っている。部屋に置いておけば部屋が花などの香りに包まれたり、衣類を洗濯する際に洗い終わって濯いだ後に少量垂らすと生乾きなどの不快な香りが消えたり、乾ききっていても汗を衣類が吸った時にほんのりと芳香剤の香りがしたりする。
布製品に使用したり部屋置きにしたする商品の香りは強くなく「そう言えば香ってる」と感じる優しい香り。
決して殿様商売をしている訳ではなく、どちらかと言えば薄利多売。
店のコンセプトは【香りを楽しむ毎日を】で庶民の小遣いでも裕福なひと時を感じられるのが売り。
「せっかくこの私が行ってあげたのに!このプチプレゼントも先着なのよ?開店から100人までなんて知った事じゃないわ。来た客全部に配りなさいよって話よね!」
「先着と決められているのなら仕方ないだろう」
「何言ってるのよ。この私がッ!わざわざ足を運んだのよ?見返りがあって当然でしょう?」
バン!とテーブルに叩きつけたのは開店セールをしているというチラシだった。
――乱暴だな。それに何様なんだ?だいたい買い物だって自分の金じゃないだろうに――
アルマンドはそう考えてしまった自分に驚いた。今までフェリシアの我儘は腐るほど聞いてきたし、中には理不尽だと感じる物言いもあったけれど何様だと思った事まではなかった。
アルマンドは憤慨するフェリシアから視線を外し叩きつけたチラシを手に取った。
文字が読めない平民用に描かれた絵は、売り物が香水であり、安いものはパン2個より安く買えると直ぐに読み取れる。
洗濯用や部屋の芳香剤を意味する挿絵もあり広く万人に向けて配られたのだろうが、文字が読めるアルマンドは店の名前や代表者の名前を見て息を飲んだ。
そこには「ティタニア」とあった。
姓は書かれていなかったが代表者の名前が記載されていた。
文字が読めれば書かれている内容もより詳細に解る。
香水と言う液体だけでなく、容れ物となる容器にも拘り使用後も一輪挿しなどに使える容器もあれば軟膏タイプのものは小物入れとしても使える。
使用した後、夫人達が使用人に空き瓶を与えて喜ばれていたが、貰った使用人達はその空き瓶をさりげなく部屋に飾る事で一種のステイタスも得ていた。
この店の空き容器はそれまでの空き容器の使い方もさることながら、色違いで容器を集めたり、重ね合わせた時にコンパクトに収納できるその形も売りの1つだと気が付いた。
――収集癖も刺激するようにしているのか――
これは儲けるはずだとアルマンドは唸った。
が、同時に幾つか手に入れたという香水を隣で振りまくフェリシアには辟易としてしまう。
さっきまで憤っていたのにこの変わりよう。
あんなに可愛かったのに隣に腰を下ろす女が酷く俗物的で魅力も半減いや消滅して見えてしまった。
1つの物を売る時にその品への満足感の他に次回の購買にもつなげる工夫をしているティタニアと、手に入れるだけ手に入れて、満足げにその時だけを楽しむフェリシア。
――なんて安っぽい女なんだろう――
思い起こせば結婚し、まだ新婚だというのにティタニアから何かをして欲しい、買って欲しいと言われた事は一度もなく、隣で次はアレだコレだと思案するフェリシアと比べてしまう。
――ティタニアだったら――
比べてはいけないと思っても気がつけば比べてしまう。
それが繰り返されていくとアルマンドの中にフェリシアという存在が希薄、いや無くても良いのだと考えが結論となって居座った。
★~★
次は22時10分。
その次はニャンニャーン22時22分どぇぇす(*´▽`*)
屋敷に戻れば愛しいフェリシアが笑顔で迎えてくれるというのに、その笑顔すら造り物の仮面を被っているのではと思ってしまった。
「あら?今日は早かったのね。ねぇ~聞いてよ~。先日オープンした調香店なんだけど可愛いのいっぱいあって選びきれなかったの」
「そう。大変だったね」
「大変どころじゃないわ。全部買おうかと思ったら店員が売ってくれないのよ。失礼しちゃうわ」
「売ってくれない?金の問題か?」
店が販売を拒否するとなれば支払いが滞っているなど噂になってしまい貴族としては致命傷となる。しかし先日目を通した報告書ではフェリシアが色々と買い物をした店の清算済みを示す領収書はきちんと添付されていた。
「お金がないんじゃないのよ。ホンット聞いてよ!」
「何をだ?」
「この香りとこの香りは相反するものなのでぇ、既に片方をお持ちの場合はお売り出来ませぇん・・・って言うのよ?こっちは金を払うんだから放っておいてほしいと思わない?」
店員がそんな間抜けな話し方をするのだろうかと思いつつも、口真似を大げさにして見せるフェリシアをアルマンドはどこか遠い目で見てしまった。
フェリシアが憤るその調香店は2週間前にオープンした新しい店で王族も使用するような高価な物から一般庶民でも手に取りやすい安価なものまで幅広く取り扱っているとあって連日大盛況の店で入店するにも整理券を手に入れての抽選をしている店の事である。
平民にも広く受け入れられているのは例え王族であっても抽選にハズレればその日の入店は叶わないと徹底されている事で、初日こそ入店できる権利を手に入れたものに金を掴ませた貴族がいたが2日目からは当選者に限るとその場での入店となった事でより選民思考がない店として周知された店。
それまで香水と言えば貴族の夫人が主に使用していて、夫人付きの使用人などは空き瓶などを貰えるだけでも飛び上がって喜ぶのが香水という品の位置づけだった。
その店では人間に少量つけて香りを楽しむものから雑貨とも言える芳香剤的なものまで取り扱っている。部屋に置いておけば部屋が花などの香りに包まれたり、衣類を洗濯する際に洗い終わって濯いだ後に少量垂らすと生乾きなどの不快な香りが消えたり、乾ききっていても汗を衣類が吸った時にほんのりと芳香剤の香りがしたりする。
布製品に使用したり部屋置きにしたする商品の香りは強くなく「そう言えば香ってる」と感じる優しい香り。
決して殿様商売をしている訳ではなく、どちらかと言えば薄利多売。
店のコンセプトは【香りを楽しむ毎日を】で庶民の小遣いでも裕福なひと時を感じられるのが売り。
「せっかくこの私が行ってあげたのに!このプチプレゼントも先着なのよ?開店から100人までなんて知った事じゃないわ。来た客全部に配りなさいよって話よね!」
「先着と決められているのなら仕方ないだろう」
「何言ってるのよ。この私がッ!わざわざ足を運んだのよ?見返りがあって当然でしょう?」
バン!とテーブルに叩きつけたのは開店セールをしているというチラシだった。
――乱暴だな。それに何様なんだ?だいたい買い物だって自分の金じゃないだろうに――
アルマンドはそう考えてしまった自分に驚いた。今までフェリシアの我儘は腐るほど聞いてきたし、中には理不尽だと感じる物言いもあったけれど何様だと思った事まではなかった。
アルマンドは憤慨するフェリシアから視線を外し叩きつけたチラシを手に取った。
文字が読めない平民用に描かれた絵は、売り物が香水であり、安いものはパン2個より安く買えると直ぐに読み取れる。
洗濯用や部屋の芳香剤を意味する挿絵もあり広く万人に向けて配られたのだろうが、文字が読めるアルマンドは店の名前や代表者の名前を見て息を飲んだ。
そこには「ティタニア」とあった。
姓は書かれていなかったが代表者の名前が記載されていた。
文字が読めれば書かれている内容もより詳細に解る。
香水と言う液体だけでなく、容れ物となる容器にも拘り使用後も一輪挿しなどに使える容器もあれば軟膏タイプのものは小物入れとしても使える。
使用した後、夫人達が使用人に空き瓶を与えて喜ばれていたが、貰った使用人達はその空き瓶をさりげなく部屋に飾る事で一種のステイタスも得ていた。
この店の空き容器はそれまでの空き容器の使い方もさることながら、色違いで容器を集めたり、重ね合わせた時にコンパクトに収納できるその形も売りの1つだと気が付いた。
――収集癖も刺激するようにしているのか――
これは儲けるはずだとアルマンドは唸った。
が、同時に幾つか手に入れたという香水を隣で振りまくフェリシアには辟易としてしまう。
さっきまで憤っていたのにこの変わりよう。
あんなに可愛かったのに隣に腰を下ろす女が酷く俗物的で魅力も半減いや消滅して見えてしまった。
1つの物を売る時にその品への満足感の他に次回の購買にもつなげる工夫をしているティタニアと、手に入れるだけ手に入れて、満足げにその時だけを楽しむフェリシア。
――なんて安っぽい女なんだろう――
思い起こせば結婚し、まだ新婚だというのにティタニアから何かをして欲しい、買って欲しいと言われた事は一度もなく、隣で次はアレだコレだと思案するフェリシアと比べてしまう。
――ティタニアだったら――
比べてはいけないと思っても気がつけば比べてしまう。
それが繰り返されていくとアルマンドの中にフェリシアという存在が希薄、いや無くても良いのだと考えが結論となって居座った。
★~★
次は22時10分。
その次はニャンニャーン22時22分どぇぇす(*´▽`*)
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