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第20話 理解を超えた行動
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プロテウスが農夫と共にコーディリアがいると言う洗浄小屋に向かおうとしたとき、ガサッと木の葉が音を立てて目の前にロベルトが立ちはだかった。
「お前、ロベルトじゃないか!なんでここに?」
プロテウスはウーラヌス領にロベルトが滞在しているとは全く思ってもいなかった。
突然目の前に出てきたロベルトにプロテウスは飛び上がるくらい驚いた。
ロベルトが6年間、辺境で魔獣駆除に従事させられたことは知っていた。
最近になってまだ許された訳ではなかったけれど、辺境の地から呼び戻されたのも知っていたがウーラヌス領にいるとは思わなかった。
少しばかりプロテウスが混乱してしまったのは仕方がない。
プロテウスにしてみればロベルトはここにいてはいけない人間なのだ。
プロテウスの困惑を他所にロベルトは至って普通に話しかけてきた。
「プロテウス、何をしに来たんだ」
何と答えようか迷ったが、プロテウスは嘘ではないのだから事業を理由にしようと決めた。
「何って。事業だよ。羊毛は綿花と同じく需要があるからな。王都に戻れば陛下にも事業の届は出しているから隠すまでもないが、ウーラヌス家の主要産業は羊毛だ。提携をするための先触れも出してある。そういうお前はなんでここにいるんだ?」
「リアがいるからさ」
「え?」
プロテウスは自分の耳が「リアがいるからさ」以外の部分を遮断してしまったのかと首を傾げる。
――いやいや、待てよ?――
百歩譲ってコーディリアとロベルトが婚約関係にあるのなら単に会いに来た、それだけの理由でここに居ても不思議ではないが、婚約は解消と言う名の破棄になったのは周知の事実。
何が嬉しくてわざわざ遠い道のりを王子が出張って元婚約者の住まう領地まで来なければならないのか。2人の現状の関係性からすればロベルトが来るのではなくコーディリアを城に呼び寄せるのが正解だ。
プロテウスは口元を手で覆い、ともすれば危うく過呼吸になり兼ねないと心を落ち着かせる。
常識的に考えて、先ずここにロベルトがいる。
そこに大きな問題がある。
罰を与えられても廃籍をされていないと言う事は、ロベルトにはまだ王子としての使い道があると国王が判断しているに他ならない。
――陛下がロベルトをここに遣わせたのか――
その考えが違っているのは「リアがここにいるから」と答えたロベルトにあっさりと否定されてしまった。
残っている理由は考えたくないが「私情」だ。
――いくらロベルトがバカとしてもだ!――
廃嫡されていればまだしも王家に籍があるのにあり得ない事だ。
ちらりと横目でロベルトを見るとロベルトは全く気が付いていないのか、それとも解っての行動なのか。
どちらにしてもプロテウスの理解を超えている。
プロテウスは何か自分の聞かされていない事があり、ロベルトがここにいるのか?もう一度聞き直した。
「すまない。ロベルト。何故ここにいるんだ?」
「言っただろう。僕はリアが領住まいになったからここに来たんだ」
「なんでまた?」
「決まっているだろう。やり直すためだ」
「やり直す…ふむ」
プロテウスはやはりロベルトの言葉の意味が解らない。
さっき百歩譲ったが、もう一度百歩譲るとしよう。
ロベルトは第3王子なのだ。王家が一旦なかった事にした約束をもう一度結ぶことはまずあり得ない。
特にロベルトとコーディリアの婚約は王命によるものだった。
婚約解消となった時に手続きに時間がかかったのは「王命まで出したが判断を誤った」と王家が認めた事になるため、各方面に根回しが必要だったからである。
誤りを正すのは大事な事だが、為政者が決めた事を簡単に「間違ってました」とすると混乱が生じる。
なので、法律などを制定した時に誤りがあってもその条文は欠番にはならず、但書で新たに「~~の限りではない」など回避する手段を付け加えるのだ。
婚約解消で幕引きになっていたはずなのに、ここにきてロベルトが「やり直す」となれば、ロベルトは廃嫡されていない第3王子なのだからその言葉には重みがある。
つまり、
「間違ったと認めた事が間違い」とまた判断が覆った事になってしまう。
プロテウスはここにロベルトがいる理由が国としての施策などに寄るものなのであれば、「ない寄りのあり」かと思ったがどうやら単にロベルトの独断で私情によるものだと解るとロベルトに近づき、肩を組んで耳元で小さく囁いた。
「ロベルト、聞かなかった事にするし、お前はここにいなかった、見なかった事にする。大人しく王都に戻るんだ」
もう25歳なのだから私的な感情で元婚約者の元にやってくる事がどれだけおかしなことなのか。プロテウスとしてはロベルトが言葉の意味を理解してくれると信じて言葉を掛けた。
だからまさか…。
「リアとやり直すために来たと言っただろう!何言ってるんだよ」
解ってなかった事に絶句した。
救いは道案内をしてくれる農夫がロベルトの事を王子だとは知らない事だ。
プロテウスはここはやり過ごすしかないとロベルトには気が付かなかった事にして洗浄小屋に行こうと農夫に「お願いします」と先導を促した。
「おい、待てよ!話の途中だろうが!」
ロベルトが立ち去ろうとするプロテウスの腕を掴んだまでは良かったが、プロテウスはその手を振り払ったものだから2人の間の空気がビキっと音を立てた。
「ロベルト、お前と話すような事はない。もう一度言う。直ぐに王都に帰るんだ」
「なんでお前にそんな事を決められなきゃならないんだ」
――ダメだ。こいつ、全然わかってない――
「お前、ロベルトじゃないか!なんでここに?」
プロテウスはウーラヌス領にロベルトが滞在しているとは全く思ってもいなかった。
突然目の前に出てきたロベルトにプロテウスは飛び上がるくらい驚いた。
ロベルトが6年間、辺境で魔獣駆除に従事させられたことは知っていた。
最近になってまだ許された訳ではなかったけれど、辺境の地から呼び戻されたのも知っていたがウーラヌス領にいるとは思わなかった。
少しばかりプロテウスが混乱してしまったのは仕方がない。
プロテウスにしてみればロベルトはここにいてはいけない人間なのだ。
プロテウスの困惑を他所にロベルトは至って普通に話しかけてきた。
「プロテウス、何をしに来たんだ」
何と答えようか迷ったが、プロテウスは嘘ではないのだから事業を理由にしようと決めた。
「何って。事業だよ。羊毛は綿花と同じく需要があるからな。王都に戻れば陛下にも事業の届は出しているから隠すまでもないが、ウーラヌス家の主要産業は羊毛だ。提携をするための先触れも出してある。そういうお前はなんでここにいるんだ?」
「リアがいるからさ」
「え?」
プロテウスは自分の耳が「リアがいるからさ」以外の部分を遮断してしまったのかと首を傾げる。
――いやいや、待てよ?――
百歩譲ってコーディリアとロベルトが婚約関係にあるのなら単に会いに来た、それだけの理由でここに居ても不思議ではないが、婚約は解消と言う名の破棄になったのは周知の事実。
何が嬉しくてわざわざ遠い道のりを王子が出張って元婚約者の住まう領地まで来なければならないのか。2人の現状の関係性からすればロベルトが来るのではなくコーディリアを城に呼び寄せるのが正解だ。
プロテウスは口元を手で覆い、ともすれば危うく過呼吸になり兼ねないと心を落ち着かせる。
常識的に考えて、先ずここにロベルトがいる。
そこに大きな問題がある。
罰を与えられても廃籍をされていないと言う事は、ロベルトにはまだ王子としての使い道があると国王が判断しているに他ならない。
――陛下がロベルトをここに遣わせたのか――
その考えが違っているのは「リアがここにいるから」と答えたロベルトにあっさりと否定されてしまった。
残っている理由は考えたくないが「私情」だ。
――いくらロベルトがバカとしてもだ!――
廃嫡されていればまだしも王家に籍があるのにあり得ない事だ。
ちらりと横目でロベルトを見るとロベルトは全く気が付いていないのか、それとも解っての行動なのか。
どちらにしてもプロテウスの理解を超えている。
プロテウスは何か自分の聞かされていない事があり、ロベルトがここにいるのか?もう一度聞き直した。
「すまない。ロベルト。何故ここにいるんだ?」
「言っただろう。僕はリアが領住まいになったからここに来たんだ」
「なんでまた?」
「決まっているだろう。やり直すためだ」
「やり直す…ふむ」
プロテウスはやはりロベルトの言葉の意味が解らない。
さっき百歩譲ったが、もう一度百歩譲るとしよう。
ロベルトは第3王子なのだ。王家が一旦なかった事にした約束をもう一度結ぶことはまずあり得ない。
特にロベルトとコーディリアの婚約は王命によるものだった。
婚約解消となった時に手続きに時間がかかったのは「王命まで出したが判断を誤った」と王家が認めた事になるため、各方面に根回しが必要だったからである。
誤りを正すのは大事な事だが、為政者が決めた事を簡単に「間違ってました」とすると混乱が生じる。
なので、法律などを制定した時に誤りがあってもその条文は欠番にはならず、但書で新たに「~~の限りではない」など回避する手段を付け加えるのだ。
婚約解消で幕引きになっていたはずなのに、ここにきてロベルトが「やり直す」となれば、ロベルトは廃嫡されていない第3王子なのだからその言葉には重みがある。
つまり、
「間違ったと認めた事が間違い」とまた判断が覆った事になってしまう。
プロテウスはここにロベルトがいる理由が国としての施策などに寄るものなのであれば、「ない寄りのあり」かと思ったがどうやら単にロベルトの独断で私情によるものだと解るとロベルトに近づき、肩を組んで耳元で小さく囁いた。
「ロベルト、聞かなかった事にするし、お前はここにいなかった、見なかった事にする。大人しく王都に戻るんだ」
もう25歳なのだから私的な感情で元婚約者の元にやってくる事がどれだけおかしなことなのか。プロテウスとしてはロベルトが言葉の意味を理解してくれると信じて言葉を掛けた。
だからまさか…。
「リアとやり直すために来たと言っただろう!何言ってるんだよ」
解ってなかった事に絶句した。
救いは道案内をしてくれる農夫がロベルトの事を王子だとは知らない事だ。
プロテウスはここはやり過ごすしかないとロベルトには気が付かなかった事にして洗浄小屋に行こうと農夫に「お願いします」と先導を促した。
「おい、待てよ!話の途中だろうが!」
ロベルトが立ち去ろうとするプロテウスの腕を掴んだまでは良かったが、プロテウスはその手を振り払ったものだから2人の間の空気がビキっと音を立てた。
「ロベルト、お前と話すような事はない。もう一度言う。直ぐに王都に帰るんだ」
「なんでお前にそんな事を決められなきゃならないんだ」
――ダメだ。こいつ、全然わかってない――
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