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第24話 我儘な王子様
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プロテウスがゼウスと一緒に朝早くから出かけるようになって1週間。
悶々とした気持ちを抱えながらロベルトはコーディリアの家の玄関の前に立っていた。
扉の向こう側に人がいるとは思わなかったコーディリアがどこかに出かけるのか籠を持って勢いよく扉を開けた。外開きの扉は途中までしか開かず「おかしいわね」コーディリアはグイグイと扉を押す。
不思議な事に扉は押せば押すほど押し返してくる。
扉の前に物でも置いてしまったのか。
――だとすればどうやって扉を閉じたの?――
コーディリアは些細な疑問を抱き、覗き込むようにして扉の外側を見た。
「あら、ロベルト殿下。どうなさったのです」
「リア、出かけるのか?」
「えぇ。ゼウスの所にお昼を届けようと思いまして」
ゼウスに昼食を届けるのは毎日の事ではないものの、今日が初めてでもない。
ロベルトは「ゼウスにと言いながらアイツだろう?」心の中にどす黒い嫉妬が沸き上がった。
「僕は届けるよ。山にいるんだろう?」
「いえ。行った先で用事もありますし、帰りにフェルト人形の進捗も見ておきたいので結構ですわ」
「僕が行くと言ってる!大人しく籠を渡せよ」
「殿下を使いになど出来ません。それに私も用件があると言ったでしょう?」
「その用件がっ!!プロテウスに会うことだろう?この昼食だってプロテウスに食べさせるんだろう?」
「そうですよ?彼はお客様です。食費も頂いていますし届ける人間はここに私しかいませんから」
「どうして僕には何もしてくれないのに!金だって旅費は僕が何とかすると言ってもリアは断ったじゃないか。どうして僕はダメでプロテウスなら受け入れてるんだよ!僕はあんな粗末な家に追い出しておきながらプロテウスにはリアの使っていた部屋を使わせて!酷いじゃないか!」
ロベルトはこの1週間。ロベルトとプロテウスの待遇の差を感じていた。
ゼウスは相変わらず来てくれるけれど、言いようのない疎外感はどうしても感じてしまう。
自分の方がリアとは付き合いが長いのに。
自分の方がリアと出会ったのは早いのに。
自分の方が婚約者と言う特別な関係を持っていたのに。
後からポッと出のプロテウスに何もかもが奪われて行くような気がして気ばかりが焦ってしまう。
遂に耐えきれずにコーディリアに会いに来てしまった。
「だって殿下は私のお客様ではありません。言った筈です。領に住みたいと願うのであればご自由にと。領主は少人数の場合、領で住まう事を希望する国民を断ってはならないと取り決めがあるのです。知らない訳ではありませんでしょう?」
「知ってるよ。知ってるけどっ!」
「ロベルト殿下が廃屋を住まいとしている事に私が異を唱えましたか?」
「唱えてないよ。でもっ!プロテウスを滞在させるなら僕だってこの家に住まわせてくれたって良いじゃないか!金なら払うよ。言い値で払う!」
「あのですね、そもそもで前提が違う事にはお気づきになられていないのですか?」
「前提って…。僕が王子でアイツが公爵家の次男だって事?」
――うーん。この人、バカなの?――
ロベルトが王子であることを引き合いにするのなら捨て置いている現状でコーディリアは不敬に問われてしまうだろう。客人と言えど立場だけで見ればプロテウスの方が格下なのだからロベルトを優遇すべきとなってしまう。
しかしプロテウスは事業でウーラヌス領に来ているのであって、個人の意思で自由に何をする訳でもないロベルトとは違うのである。
これがロベルトも国の施策でウーラヌス領に来ているのであればコーディリアも対応は求められる。
今のロベルトは嫉妬と我儘の塊ににしか見えなかった。
――この人、辺境に送られて一体何を学んできたの?――
ゼロではない。
多少は人として成長した部分はあるのだが、ロベルトを見ていてコーディリアは思う。
――結局、人ってそうそう変われるものじゃないんだわ――
更にコーディリアには「どうしてロベルトがここに来たのか」まだよく解かっていない。
ロベルトが廃嫡をされて身一つで裸一貫。人生を本当にリセットされてこの地でやり直すと言う事であれば、手を貸すこともやぶさかではないが、レクリエーションの一環、単にアウトドアを楽しむためにやってきたようなもの。
第3王子と言う立場を持ったままなのだから、ちゃんとしたところで寝泊まりしたいのなら出来る領に移ればいいだけのこと。移住をほのめかすので「好きにすれば?」としか言えないのだ。
過去の事は以前にロベルトに伝えたようにコーディリアは本当に詫びてもらう事はない。
確かに婚約者でなければ怪我をする事もなかっただろうし、兄も失踪しなくて済んだだろうし、父も早世しなかったかも知れないが、全てが結果論でありロベルトは間接的な原因の1つでしかない。
コーディリアにロベルトを恨む気持ちは全くない。
同様に過去と同じ轍を踏まぬように関係を1から構築するつもりもない。
なんと説明をしようか。
頭の中で言葉を選ぶコーディリアだったが、要らぬ心配だったよう。
「解った。じゃぁ王都に戻るよ」
「左様で御座いますか」
「あぁ。戻って父上に仕事を貰ってくる。それなら文句はないだろう!」
――すん…そういう事じゃないんだけど――
どうだ!とばかりに鼻を鳴らすロベルトを見たコーディリアの心の中は寒風が吹き抜ける。
ロベルトがどんな理解をしたか知りたくもないが、プロテウスと同じ待遇を望むために王都に戻り役目を貰ってくると言い出した。
――つける薬がないって本当ね――
悶々とした気持ちを抱えながらロベルトはコーディリアの家の玄関の前に立っていた。
扉の向こう側に人がいるとは思わなかったコーディリアがどこかに出かけるのか籠を持って勢いよく扉を開けた。外開きの扉は途中までしか開かず「おかしいわね」コーディリアはグイグイと扉を押す。
不思議な事に扉は押せば押すほど押し返してくる。
扉の前に物でも置いてしまったのか。
――だとすればどうやって扉を閉じたの?――
コーディリアは些細な疑問を抱き、覗き込むようにして扉の外側を見た。
「あら、ロベルト殿下。どうなさったのです」
「リア、出かけるのか?」
「えぇ。ゼウスの所にお昼を届けようと思いまして」
ゼウスに昼食を届けるのは毎日の事ではないものの、今日が初めてでもない。
ロベルトは「ゼウスにと言いながらアイツだろう?」心の中にどす黒い嫉妬が沸き上がった。
「僕は届けるよ。山にいるんだろう?」
「いえ。行った先で用事もありますし、帰りにフェルト人形の進捗も見ておきたいので結構ですわ」
「僕が行くと言ってる!大人しく籠を渡せよ」
「殿下を使いになど出来ません。それに私も用件があると言ったでしょう?」
「その用件がっ!!プロテウスに会うことだろう?この昼食だってプロテウスに食べさせるんだろう?」
「そうですよ?彼はお客様です。食費も頂いていますし届ける人間はここに私しかいませんから」
「どうして僕には何もしてくれないのに!金だって旅費は僕が何とかすると言ってもリアは断ったじゃないか。どうして僕はダメでプロテウスなら受け入れてるんだよ!僕はあんな粗末な家に追い出しておきながらプロテウスにはリアの使っていた部屋を使わせて!酷いじゃないか!」
ロベルトはこの1週間。ロベルトとプロテウスの待遇の差を感じていた。
ゼウスは相変わらず来てくれるけれど、言いようのない疎外感はどうしても感じてしまう。
自分の方がリアとは付き合いが長いのに。
自分の方がリアと出会ったのは早いのに。
自分の方が婚約者と言う特別な関係を持っていたのに。
後からポッと出のプロテウスに何もかもが奪われて行くような気がして気ばかりが焦ってしまう。
遂に耐えきれずにコーディリアに会いに来てしまった。
「だって殿下は私のお客様ではありません。言った筈です。領に住みたいと願うのであればご自由にと。領主は少人数の場合、領で住まう事を希望する国民を断ってはならないと取り決めがあるのです。知らない訳ではありませんでしょう?」
「知ってるよ。知ってるけどっ!」
「ロベルト殿下が廃屋を住まいとしている事に私が異を唱えましたか?」
「唱えてないよ。でもっ!プロテウスを滞在させるなら僕だってこの家に住まわせてくれたって良いじゃないか!金なら払うよ。言い値で払う!」
「あのですね、そもそもで前提が違う事にはお気づきになられていないのですか?」
「前提って…。僕が王子でアイツが公爵家の次男だって事?」
――うーん。この人、バカなの?――
ロベルトが王子であることを引き合いにするのなら捨て置いている現状でコーディリアは不敬に問われてしまうだろう。客人と言えど立場だけで見ればプロテウスの方が格下なのだからロベルトを優遇すべきとなってしまう。
しかしプロテウスは事業でウーラヌス領に来ているのであって、個人の意思で自由に何をする訳でもないロベルトとは違うのである。
これがロベルトも国の施策でウーラヌス領に来ているのであればコーディリアも対応は求められる。
今のロベルトは嫉妬と我儘の塊ににしか見えなかった。
――この人、辺境に送られて一体何を学んできたの?――
ゼロではない。
多少は人として成長した部分はあるのだが、ロベルトを見ていてコーディリアは思う。
――結局、人ってそうそう変われるものじゃないんだわ――
更にコーディリアには「どうしてロベルトがここに来たのか」まだよく解かっていない。
ロベルトが廃嫡をされて身一つで裸一貫。人生を本当にリセットされてこの地でやり直すと言う事であれば、手を貸すこともやぶさかではないが、レクリエーションの一環、単にアウトドアを楽しむためにやってきたようなもの。
第3王子と言う立場を持ったままなのだから、ちゃんとしたところで寝泊まりしたいのなら出来る領に移ればいいだけのこと。移住をほのめかすので「好きにすれば?」としか言えないのだ。
過去の事は以前にロベルトに伝えたようにコーディリアは本当に詫びてもらう事はない。
確かに婚約者でなければ怪我をする事もなかっただろうし、兄も失踪しなくて済んだだろうし、父も早世しなかったかも知れないが、全てが結果論でありロベルトは間接的な原因の1つでしかない。
コーディリアにロベルトを恨む気持ちは全くない。
同様に過去と同じ轍を踏まぬように関係を1から構築するつもりもない。
なんと説明をしようか。
頭の中で言葉を選ぶコーディリアだったが、要らぬ心配だったよう。
「解った。じゃぁ王都に戻るよ」
「左様で御座いますか」
「あぁ。戻って父上に仕事を貰ってくる。それなら文句はないだろう!」
――すん…そういう事じゃないんだけど――
どうだ!とばかりに鼻を鳴らすロベルトを見たコーディリアの心の中は寒風が吹き抜ける。
ロベルトがどんな理解をしたか知りたくもないが、プロテウスと同じ待遇を望むために王都に戻り役目を貰ってくると言い出した。
――つける薬がないって本当ね――
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