あなたが教えてくれたもの

cyaru

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第31話  知識は最高の武器

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王都行きが決まった翌日、プロテウスは木の枝や板を使って背負子の作成に取り掛かった。

何が出来るのか不思議そうに見るゼウスに「当ててみろ」と問題を出してみるがゼウスだけでなくコーディリアもまさか背負子を作っているとは思わなかった。

「これを一体どうするの?」

ゼウスが不思議がるのも当然だが、プロテウスは山の天候が変わりやすい事も考慮し、何と標高8000mを超える山を来た時と同じように越えるため、背負子にコーディリアとゼウスを乗せて更なる時間短縮をすると言う。

「山頂近くは氷点下も2桁だからな。一応火魔法で暖は取れるが燃やすための酸素も薄いんだ。来る時は4日かかって超えたんだが1度来た道は把握しているから半日で越えられると思うよ」

「そこまで限界に挑戦しなくていいんですよ?」

「いや、王都までの道のりは1日でも短縮したい。旅は意外に疲れるものだからな」

住んでいる者ですら山頂制覇をしたいとは思わないのに敢えて過酷なルートを選ぶプロテウスにはちょっと付いていけない。

「大丈夫。付いてこなくていいんだ。背負っていくから」

――全然大丈夫な気がしない思考なんだけど――

だが、背負子で背負われてみてその意味が分かった。プロテウスは火魔法の使い手。

「こんな使い方があるんですね」

「わぁ!凄い!早い!!」

寒さを感じるどころか揺れすら感じないのは防寒のためにプロテウスは2人を背負ったまま自身を火球で包んだ。

周囲との温度差が出来て風が巻き起こる。
上昇気流を利用して斜面を駆けあがる。

火球の中が熱いかと言えば適温。魔獣の中には高速で移動しながら炎や氷を吐いて攻撃してくる個体もあるので、どうすれば手早く片付けられるかを試行錯誤したうえで考えついた技なんだと自慢げに教えてくれた。

川を渡るときは蓮の葉を強化魔法で破れないように魔力で覆った後、蓮の葉の上に乗り込む。
またもや火魔法を今度は進みたい方向と反対に噴射させると、爆発力で前に進んでいく。

「おじさんって実は凄いんだね」

「そうかな。どうすれば効率的に崖の上から急降下できるか?とか水の中に引っ張り込まれた時に息が切れる前に殲滅させるには?とかいろいろと試したんだ。だけど気を付けろよ?鳥獣の魔獣のキメラノドンの足に掴まれたらあっという間に上空1万mまで連れていかれるし、ダイオウカンスっていうイカの仲間がいるんだが足に吸盤があってな。藻掻いている間に水深200mまで引っ張り込まれる。どっちも空気の圧力とか水圧で肺が潰れるからな。何度も死にかけたよ」

――壮絶だけど普通じゃそんな経験しないから――

生き残る方法は?とゼウスが聞くと「簡単だ」と言う。

「相手の弱点を知る事さ。そうすれば対峙した時点で勝率はこちらが上回ってる」

王都までも食事は現地調達。
ウーラヌスラビットの毒抜きも知っていたようにプロテウスは一撃で色んな魔獣を仕留め、血抜きに毒抜きと的確に処理をしていく。

どうすれば美味しく食べられるか。そして仲間の魔獣を呼び寄せずに済むかも熟知していた。

「おじさん、すごいね」

「そうか?でもこんな経験、何の役にも立たないと思ってるよ。魔獣だって瘴気にあてられているから凶暴化する事が解ってるんだ。瘴気が浄化出来れば熊とか虎とか出会うと危険な動物のように住み分けをする事で共存できるはずなんだ」

「そんな事も判るんだね。凄いや」

「討伐はただやっつけるだけじゃなく生け捕りにして研究もするからな。知ってるか?ウーラヌスラビットだって300年前はクロコダイルボーン並みに強力な毒を吐く魔獣だったんだ。当時は大きさも幼生で2mはあったそうだ」

「えぇーっ?!あの大人しいウーラヌスラビットが?!」

「そうだ。でも動物だって人間だって何万年も昔から同じじゃない。進化をしてるんだ。たった300年ほどでここまでの進化をする魔獣なんだからまた新しい進化を遂げるんじゃないかな。完全に無毒なウサギになるとかね。魔獣から作られた薬だってあるんだぞ」

「そんなのあったかな」

「切り傷にふさげそうの軟膏を塗るだろう?ふさげそうは食虫職物で魔獣だったんだ」

「そうなんだ。おじさん、物知りなんだね。僕、知らなかったよ」

「知らない事があるなら学べばいい。本を読んだり知っている人に聞いたり。知識は重さの無い最高の武器になるんだ。だから討伐をする時はどんな魔獣なのか、知るために勉強するんだ。無意味な殺生は魔獣だってされたくはないだろうからね」

「そっかぁ。おじさん、僕ね…お姉ちゃんやおじさんと違って魔法が使えないんだ。だからお手伝いを頑張らないとって思ったけど、いっぱい勉強すれば魔獣と仲良く暮らせる世界に出来るかな」

「そうだなぁ。魔獣もペットとして飼ってる人もいるから正しい生態を知れば仲良く暮らせる日が来るかもな」

「だよねっ!だよねっ!僕、勉強頑張るよ!沢山頑張って皆を助けるんだ」


ゼウスは自身の出自を知っている。コーディリアが「嘘は良くない」と理解が出来るようになった時に教えたからだが、それでも卑屈になったりしないのはコーディリアが態度を変えず接してきたからだろう。

自分は魔法が使えない。コーディリアが領民の治癒をしている時も見ている事しか出来なかったゼウスはプロテウスの言葉に魔法が使えなくても知識と言う武器を身に付ければコーディリアのように誰からも頼られるようになれるんだと知り、まだ見たことがない王都の街と未来に思いを馳せた。
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