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cyaru

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第32話  オベロンとの再会

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幌馬車を乗り継ぎ、幾つ目かの宿場町でオベロンは馬車を降りた。

この先は暫く野宿をしながら開拓はされているが細い山道を歩き、3つ山を越えた先にある宿場町でまた幌馬車に乗る。

予定では幌馬車はその馬車が最後になり、あとは歩いてアプルッス山の麓に添ってウーラヌス領まで歩く。

「じゃぁ兄ちゃん、気ぃつけてなぁ」

「はい。皆様もお達者で」

旅は道連れ世は情けと言うが、数日の幌馬車の旅では皆に仲間意識が芽生える。
絶対的な安全はなく、魔獣が襲ってくる事もあれば野盗に襲われる事もある。

幌馬車の御者だけでなく客も皆が交代で火の番をしたり、水場では野営の準備や水汲みをして助け合う。オベロンも偶々一緒の幌馬車になった御者や乗客と仲良くなったが、別れの時間はやってくる。

生きて2度目に出会う事はないかも知れないが、姿が見えなくなるまで皆が手を振ってオベロンを見送ってくれた。

「よし、あと少しだ」

オベロンは背中に背負った荷物をよいしょと背負い直して山道を歩き始めた。


かなり歩き、今日はここで野宿をしようと河原で焚火をするために石を積み上げていると子供の声がした。

「この辺りに村があったかな?」

オベロンがウーラヌス領に行く時は小ぶりな馬車が通れる道をゆっくりと進んだので、今歩いてきた道ではなかった。なので、少し離れたところに村はあったとは記憶しているが子供が来られるような距離ではないのにな?と声をする方向を立ち上がって眺めた。


「おじさん、しっかりして。お水汲んでくるからさ」

「ゼウス、お水もだけど火を起こさなきゃ。川の水はそのまま飲んではダメよ」

「解ってるよ」


夫婦なのか若い男女と子供が1人。
夫と思われる男性はフラフラで半分ほどの大きさしかない女性がなんとか支えていた。

「どうされました!!」

オベロンは大声で呼びかけた。
ただ、オベロンの居る方向が彼らからすると風下になっているので声が聞こえなかったのかこちらを向くことはなかった。

まだ石は組み始めたばかりだったので、オベロンは荷物を手にすると家族連れの方に小走りになって近寄った。


「すまない・・世話をかけてしまったな」

「だからちゃんと火を入れないとって。生焼けだったんですよ。お腹はもう大丈夫?」

「あぁ、さっき治癒を入れてもらったからかなり楽になった」

「今日、明日はここで休みましょう。到着が遅れても大丈夫よ」

「すまない…うっ!痛たた」

「横になって。お腹、触れるわよ?」

「ダメだ。シャツの隙間から手を入れるだけにしてくれ」

「またそんな事を。治癒はちゃんと患部に手を当てないと!問題ない部分に治癒をするとそこが傷ついてしまうのよ?」


プロテウスは昼食用に捕獲したマイマイツムリを調理したのだが、マイマイツムリは毒は持っていなくてもかなりの確率で寄生虫がいる。黒焦げ寸前まで火を入れて食べるのが鉄則だったが、焼きが甘かったようで現在腹の中で寄生虫が大暴れしている。その痛みはアニサキスによる痛みの数倍に匹敵する。

面倒なのはこの寄生虫は体内で衝撃波を与えて駆除するしかない。便の中に混じったり嘔吐しても排出をされず、体の中から全ての水分を吸いつくし、宿主がカラカラに干乾びればまた外の世界に出て新しい宿主を探す。

マイマイツムリは生き物の死骸を清掃する魔獣。その時にまた寄生虫を取り込んでしまうのだ。
見て気分の良い食事風景ではないものの、綺麗さっぱり食べてしまうので掃除魔獣とも呼ばれている。

コーディリアの治癒で体内の寄生虫を駆除したいのだが、プロテウスは頑としてシャツを脱がないので「このあたりかな?」とボタンを1つだけ外して手を入れてコーディリアが感覚で探し当てるしかない。


プロテウスを寝かせ、コーディリアが介抱する。
そこにゼウスが水筒に水を汲み戻ってきた。

「どうされたんです?何かお手伝いしましょうか」

オベロンは親切心から声をかけた。

「ありがとうございま―――お兄様?!」

「えっ?!リアじゃないか!何故ここに?」

6年前はまだ少女だったコーディリアはすっかり大人の女性になっていてもオベロンにはコーディリアだと解った。

コーディリアも無精髭だらけで髪も伸び後ろで一纏めにしていて、頬骨が強調される痩せ方をしていても兄のオベロンだと直ぐに解った。

ただ、ここにいる事がお互い信じられない。

「リア、コーディリアだよな?見間違う筈がない!」

感動の兄妹、6年ぶりの再会かと思われたが…。


「いったい6年も何処をほっつき歩いていたんです!お兄様がいなくなってどれだけ心配したか!もう死んだと諦めたのになんでこんな時に!!どうしてもっと早く!!お父様がどんな!どんな思いでっ!!」

バシバシとコーディリアは手に触れる河原の石をオベロンに向かって投げつけて来た。

「痛い!っ!おい!危ないって!投げるのやめろって」

「お兄様のばかっ!私がどんな思いで領地に行ったと思ってるの!!」

「解った、解ったから!合わせる顔がなかったんだよ!先ず石を投げるのやめよ?なっ?」

「合わせる顔ですって?大した美丈夫でもないのに出し惜しみしてどうするのよ!!」

「出し惜しみじゃ――痛っ!危なっ!石を投げるのやめてくれって」

「避けてんじゃないわよ!そこに座りなさいッ!」


プロテウスだけでなくゼウスもこんなに感情を露わにするコーディリアを初めて見て驚いた。

ゼウスは「あのおじさん、石を避けるの上手だな」

プロテウスは「本気で怒らせるのだけはやめよう」と思ったのだった。
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