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第33話 もう1つの再会
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繁華街を歩くロベルトは突然1人の女性に呼び止められた。
「久しぶり」と笑顔を向けて来るのは過去の記憶を辿らなくても直ぐに誰なのか理解できた。
「レティ?!」
「良かったぁ。人違いだったらどうしようかなって思ったけど、やっぱりオーラが違うわね」
オーラが違うと言われてもピンとこない。
ロベルトはかれこれ1時間ほどこの繁華街を端から端まで何往復かしたけれど、自分が王子だと誰も気が付かないのか、明らかに「金、持ってません」な感じだからか、娼館や飲み屋への呼子をしているサンドイッチマンですらスルーだったのだ。
「ね?暇なの?私そろそろ抜けられるからご飯行かない?」
「食事か。どこか予約してあるのか?」
「予約?そんなわけないでしょ。でもロベルトなら顔パスで行けるでしょう?」
行けるかどうかと問われればおそらく行けるだろう。
予約をしていなくても、席も用意してくれるだろうし、それなりの料理も提供してくれるはず。
だが、ロベルトには行けない理由があった。
金を持っていないので、支払いをどうするかとなれば当然王宮に請求が回る。店によってはすぐさま王宮に問い合わせをするだろうから折角抜け出してきたのに連れ戻されてしまう危険がある。
もしかするともう影はどこかでこの光景も見ているかもしれないが、ロベルトとしては真夜中にこそこそと抜け出せば見つけてくださいと言うようなものなので、裏をかいて夕方に抜け出してきたのだ。
「すまない。腹は減ってないんだ。他を当たってくれないか」
「何よ。つまんないわね。食べなくてもお酒くらいいいでしょ?なんだったらボトル入れてよ。私、この店でキャバ嬢してるのよ」
「キャバ嬢?レティが?」
「そうよ?悪い?誰のおかげでキャバ嬢なんかしてると思ってるのよ。ちょっとは責任感じなさいって。こっちは懲役まで行ったんだから」
――それは自業自得だろう?――
まるでロベルトが悪いのに自分はトバッチリで迷惑を被ったとでも言いたいのかレティシアは懲役に行った詫びをしろとせがんでくる。
レティシアの性格からしてこのままだと離してもらえないと感じたロベルトは「換金できる場所はないか」とレティシアに問うた。
指輪ならそれなりの金になるし、売ったところで城に戻ればいくらでも替えはある。
――仕方ない。今回は城に戻るしかないか――
どうせ抜け出したと知られたとしても、夕方にちょっと市井でも歩こうと思っただけ、通用しそうな言い訳を考えた。
――ってなると夜中じゃなくてラッキーだったな――
明らかに各業種の店の営業も終わった時刻に市井散策の言い訳は通用しないがまだ十分に言い訳のできる時間帯。出直すことは幾らでも出来るとレティシアと一緒に買い取り店に行き、指輪を売った。
「ね?幾らになった?」
「どうだっていいだろ。で?どの店だっけ?」
「ここよ。安くしとくわ。いつでも来て良いわよ」
――今回だけだけどな。二度目はねぇよ――
店の中は女性の甘えたような声と、鼻を突く香水の香りが充満していた。
薄暗い明かりの中で、隣のブースにいる女性と男性を見てロベルトはぎょっとした。
父親よりもまだ年上の男性が、10代か20代前半の女の子に膝枕をしてもらい恍惚とした表情を浮かべていたのだ。髪色よりも頭皮の色の方がはっきりしている薄い髪を撫でで貰って「ママァ」と男性客が甘えている。
――いや、どうみたって祖父と孫だろ!――
つっこみたいが、レティシアに「座って」と着席を促されてロベルトは渋々腰を下ろした。
座るなりレティシアはロベルトに「お金、貸してくれない?」と切り出した。
「は?」
「だからぁ。お金、貸してくれない?頂戴って言ってるんじゃないわ。貸してほしいの」
だが、レティシアの身に付けているドレスは布は少なくてもそれなりの値段がしそうなドレス。金を貸してと言う人間が着るような安物でないのは確かだった。
「そんな服じゃなくちゃんとした服を買うくらいはあるだろう?」
「ん?このドレス?これは店のものよ。自分で買える訳ないじゃない。貸してもらってるのよ」
「そうなのか」
「え?まさかロベルト、こういうお店って初めてなの?辺境で遊びまわってたんじゃないの?」
「初めてだよ。飲み屋はあったけどこういう飲み屋じゃなかったし」
「ふーん。で?貸してくれる?困ってるのよ。取り敢えず…これでどうかな?」
レティシアはパッと手を広げてパーの形を取ってみせた。
「5万?まぁ‥いいけど」
「何言ってるのよ。指1本で1千万よ」
「はぁっ?!5千万?冗談はやめてくれよ」
「えぇーっ。じゃぁ…これでどう?」
今度は人差し指と中指を立ててⅤサイン。つまり2千万を貸せと言い出した。
――普通に無理だろ。頭、バグってるんじゃないのか?――
ロベルトが「無理」と短く答えるとレティシアは距離を詰めてきた。
おもむろにロベルトの手を掴むと足の付け根にロベルトの手を触れさせてニヤリと笑う。
「担保も取っていいわ。楽しませてあげる」
「や、やめてくれよ。レティ相手にそんな事出来るわけがないっ!」
「大丈夫。ロベルトはただ寝転がってれば気持ちよくなるから」
ロベルトはレティシアが何を担保にしようとしているのかは直ぐに判ったが、生まれてこの方一度もレティシアをそんな目で見た事もない。当然そんな「気」になれる筈もない。
サータン王国の話を蹴るにしても関係を持ってしまう事の危険性くらい理解は出来ていた。
「やめろって」
拒むロベルトにレティシアは更に距離を詰めてきた。
「久しぶり」と笑顔を向けて来るのは過去の記憶を辿らなくても直ぐに誰なのか理解できた。
「レティ?!」
「良かったぁ。人違いだったらどうしようかなって思ったけど、やっぱりオーラが違うわね」
オーラが違うと言われてもピンとこない。
ロベルトはかれこれ1時間ほどこの繁華街を端から端まで何往復かしたけれど、自分が王子だと誰も気が付かないのか、明らかに「金、持ってません」な感じだからか、娼館や飲み屋への呼子をしているサンドイッチマンですらスルーだったのだ。
「ね?暇なの?私そろそろ抜けられるからご飯行かない?」
「食事か。どこか予約してあるのか?」
「予約?そんなわけないでしょ。でもロベルトなら顔パスで行けるでしょう?」
行けるかどうかと問われればおそらく行けるだろう。
予約をしていなくても、席も用意してくれるだろうし、それなりの料理も提供してくれるはず。
だが、ロベルトには行けない理由があった。
金を持っていないので、支払いをどうするかとなれば当然王宮に請求が回る。店によってはすぐさま王宮に問い合わせをするだろうから折角抜け出してきたのに連れ戻されてしまう危険がある。
もしかするともう影はどこかでこの光景も見ているかもしれないが、ロベルトとしては真夜中にこそこそと抜け出せば見つけてくださいと言うようなものなので、裏をかいて夕方に抜け出してきたのだ。
「すまない。腹は減ってないんだ。他を当たってくれないか」
「何よ。つまんないわね。食べなくてもお酒くらいいいでしょ?なんだったらボトル入れてよ。私、この店でキャバ嬢してるのよ」
「キャバ嬢?レティが?」
「そうよ?悪い?誰のおかげでキャバ嬢なんかしてると思ってるのよ。ちょっとは責任感じなさいって。こっちは懲役まで行ったんだから」
――それは自業自得だろう?――
まるでロベルトが悪いのに自分はトバッチリで迷惑を被ったとでも言いたいのかレティシアは懲役に行った詫びをしろとせがんでくる。
レティシアの性格からしてこのままだと離してもらえないと感じたロベルトは「換金できる場所はないか」とレティシアに問うた。
指輪ならそれなりの金になるし、売ったところで城に戻ればいくらでも替えはある。
――仕方ない。今回は城に戻るしかないか――
どうせ抜け出したと知られたとしても、夕方にちょっと市井でも歩こうと思っただけ、通用しそうな言い訳を考えた。
――ってなると夜中じゃなくてラッキーだったな――
明らかに各業種の店の営業も終わった時刻に市井散策の言い訳は通用しないがまだ十分に言い訳のできる時間帯。出直すことは幾らでも出来るとレティシアと一緒に買い取り店に行き、指輪を売った。
「ね?幾らになった?」
「どうだっていいだろ。で?どの店だっけ?」
「ここよ。安くしとくわ。いつでも来て良いわよ」
――今回だけだけどな。二度目はねぇよ――
店の中は女性の甘えたような声と、鼻を突く香水の香りが充満していた。
薄暗い明かりの中で、隣のブースにいる女性と男性を見てロベルトはぎょっとした。
父親よりもまだ年上の男性が、10代か20代前半の女の子に膝枕をしてもらい恍惚とした表情を浮かべていたのだ。髪色よりも頭皮の色の方がはっきりしている薄い髪を撫でで貰って「ママァ」と男性客が甘えている。
――いや、どうみたって祖父と孫だろ!――
つっこみたいが、レティシアに「座って」と着席を促されてロベルトは渋々腰を下ろした。
座るなりレティシアはロベルトに「お金、貸してくれない?」と切り出した。
「は?」
「だからぁ。お金、貸してくれない?頂戴って言ってるんじゃないわ。貸してほしいの」
だが、レティシアの身に付けているドレスは布は少なくてもそれなりの値段がしそうなドレス。金を貸してと言う人間が着るような安物でないのは確かだった。
「そんな服じゃなくちゃんとした服を買うくらいはあるだろう?」
「ん?このドレス?これは店のものよ。自分で買える訳ないじゃない。貸してもらってるのよ」
「そうなのか」
「え?まさかロベルト、こういうお店って初めてなの?辺境で遊びまわってたんじゃないの?」
「初めてだよ。飲み屋はあったけどこういう飲み屋じゃなかったし」
「ふーん。で?貸してくれる?困ってるのよ。取り敢えず…これでどうかな?」
レティシアはパッと手を広げてパーの形を取ってみせた。
「5万?まぁ‥いいけど」
「何言ってるのよ。指1本で1千万よ」
「はぁっ?!5千万?冗談はやめてくれよ」
「えぇーっ。じゃぁ…これでどう?」
今度は人差し指と中指を立ててⅤサイン。つまり2千万を貸せと言い出した。
――普通に無理だろ。頭、バグってるんじゃないのか?――
ロベルトが「無理」と短く答えるとレティシアは距離を詰めてきた。
おもむろにロベルトの手を掴むと足の付け根にロベルトの手を触れさせてニヤリと笑う。
「担保も取っていいわ。楽しませてあげる」
「や、やめてくれよ。レティ相手にそんな事出来るわけがないっ!」
「大丈夫。ロベルトはただ寝転がってれば気持ちよくなるから」
ロベルトはレティシアが何を担保にしようとしているのかは直ぐに判ったが、生まれてこの方一度もレティシアをそんな目で見た事もない。当然そんな「気」になれる筈もない。
サータン王国の話を蹴るにしても関係を持ってしまう事の危険性くらい理解は出来ていた。
「やめろって」
拒むロベルトにレティシアは更に距離を詰めてきた。
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