あなたが教えてくれたもの

cyaru

文字の大きさ
46 / 47

最終話  あなたも教えられないもの

しおりを挟む
カラカラ。

ウーラヌス領に住まうプロテウスの朝は早い。

「はぁ~今朝も寒いな」

コーディリアは朝までたっぷりとプロテウスの愛を受け入れる役目を果たしたので爆睡中。
最近では「しつこい!」と言われる事もあるけれど、2人の仲はとても良い。

事業も順調で、チモシーは早生品種にした事で出荷の回数が2回増えた。

「ディア。今日は谷の向こうに行ってくるよ」

「うぅ~ん・・もうちょっと寝かせてぇ」

「まだ寝てていい。朝食はパンとスープを温めて食べるんだぞ?」

「はぁーぃ」

今日は谷の向こうにある牧草地を焼き畑するのである。プロテウスの火魔法を使えばあっという間に焼け野原になる。それまで焼き畑をしたかったが谷から吹き上げてくる風に炎が煽られて山火事になるのでしたくても出来なかった。

魔法はとても便利で境界となる部分だけ温度を下げて温度差で風の壁を作れば延焼が防げる。
痩せてしまった牧草地も焼き畑をしたあとに、コーディリアが土魔法で養分を注入し、水魔法で湿らせれば肥沃な土地に生まれ変わる。

「はぁ~長閑だねぇ」

「義兄上、何を暢気な事を。ネプトヌス公爵家から新しい発注も来てたでしょうに」

「あ~。何とか生産は間に合いそうだよ。いやぁ羊毛って需要あるよねぇ」

「そりゃそうでしょう。寝具に衣類。ぬいぐるみもですし最近は医療用のコットンも不足していて洗浄して再利用できないか研究してくれと要請も来てるんですよ。しっかり稼いでくださいよ」

「あ~。そうなんだけどさ。その前に女性の口説き方教えてくれないか?」

「は?女性?いや…俺、1回しか経験ないんで参考になるかどうか解らないですよ」

「その1回が難攻不落を落としただろう?あのじゃじゃ馬を乗りこなすんだから義弟上は優秀だよ」

「失礼な。ディアは繊細でじゃじゃ馬とはかけ離れ――てるような…当たってる様な‥」


コーディリアは意外と我が強い。
「こう!」と決めたら猪突猛進なところもあるのだ。

先月は水量が落ちているので川を抜く!と言い出すし、アプルッス山は越えるのが大変だからトンネルを抜くとも言った。

どちらも国家事業並みの予算が必要でウーラヌス伯爵家では対応しきれない。

ポヤポヤしているオベロンだが情報通でもある。
何処からそんな情報を?とも思うが船で各国と商売をしているジャピター子爵が情報源らしいが王都よりも早く知ることが出来るネタは近隣の領主から「羊毛じゃなく情報を売ってくれ」と頭を下げられることもある。

レティシアは処刑が執行されたが、公開処刑にもかかわらず見物客はまばらで事件や事故、ゴシップを売りにする販売紙の小さな枠にすら掲載されなかった。

プロテウスはまだ牢にいると思っていたのでオベロンから知らされた時は大層驚いた。


「そういえばサータン王国。女王の床渡りが終わったそうだよ」

「へぇ、そうなんですね…って?え?床渡り?」

「頑張ってるみたいだね。筒入り子種が廊下を走るとか言われてたけど他国の人間と女王が閨を共にしたってサータン王国は大騒ぎらしいよ」

「そうなんですか。殿下、頑張ってんな」

「そ、だから義弟も頑張れ。で?女性の口説き方、教えてくれよぅ~」

「うーん。誠心誠意ですかねぇ。冗談はなしで真面目に口説く。それしかないと思いますが」

「なるほど。やってみよう」


オベロンの相手が誰なのか。プロテウスは知らないのだが遂にオベロンにも春が来ると思えば嬉しくもなる。
浮足立ってその日は快調に焼き畑を熟し、帰宅をすると何故か昼に必殺技を伝授したオベロンが床に正座をしてコーディリアの特大雷をお見舞いされていた。

「あの…ただいま」

「テウスッ!貴方もです!お兄様の隣に座りなさい!」

「え?な、なんで?俺、なんかした?」

「何かした?じゃありません!いいですか?このボンクラ兄さまにいったい何を吹き込んでくれちゃってるの!」

「え?え?いや、ちょっと解らないんだけど」

聞けばオベロンの意中の君は人妻。
年齢もオベロンのダブルスコアで御年58歳。

冗談かと思ったら本気の求婚で、しかも隣に夫がいたというオチまで付いている。

「義兄上!なんてことを!」

「いやいや教えてもらった通りに誠心誠意!だったんだ」

「それ、誠心誠意って言いませんよ。相手は未婚にしときましょうよ」

「無理。彼女じゃないと無理。一応、プロテウスの助言通り50年後も気が変わらなかったらと言質は取ってきた」

「ご、50年後・・」

それはもうお断りに等しいんじゃないかと思うが、まさか相手が人妻だとは思わず。
知っていたら全力で止めたのにオベロンと一緒にコーディリアに叱られる始末。

――迂闊に人に教えちゃいけない――

プロテウスはそう心に誓った。


オベロンに子供が出来るのはほぼ絶望的なので、コーディリアとプロテウスに子供が出来、希望するならウーラヌス伯爵家を継がせる。そんな話も現実味を帯びた頃、定期的に届くゼウスからの手紙が届いた。

「元気にやってるみたいね。でも、どうしよう」

「どうしたんだ?」

「ゼウスに日記の内容は記憶しとくって約束したんだけど、あまりにも専門用語が多すぎて覚えられないわ」

見せてくれたノートは読み方すら「なんて読む?」と「κかっぱ」「μミュー」「ξグザイ」など聞かれても困る。

教えたくても教えられない事もあるのだと知った2人。
ゼウスが帰ってきた時、コーディリアはなんと誤魔化そうか、今から考える事にしたのだった。

Fin

お付き合い頂きありがとうございました<(_ _)>
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

嫌いなところが多すぎるなら婚約を破棄しましょう

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミリスは、婚約者ジノザに蔑まれていた。 侯爵令息のジノザは学園で「嫌いなところが多すぎる」と私を見下してくる。 そして「婚約を破棄したい」と言ったから、私は賛同することにした。 どうやらジノザは公爵令嬢と婚約して、貶めた私を愛人にするつもりでいたらしい。 そのために学園での評判を下げてきたようだけど、私はマルク王子と婚約が決まる。 楽しい日々を過ごしていると、ジノザは「婚約破棄を後悔している」と言い出した。

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

処理中です...