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世界屈指の借金王
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王子宮に戻ってからもミカエルは上の空である。
「エル様、どうなさったの?」
「どうって‥‥いや、なんか…」
「借金の事でしたらご心配なく。ちゃんと返済計画も出来ております」
「60年ローンとか言うんじゃ…」
「まさか!そんな年齢までお考えですの?ならば保険のかけ替えをしなくては」
「あと、エル様は初年度は多分お小遣いしか渡せないと思いますがパイプラインの敷設工事は直ぐに着手しますしガスを売る先はもう決まっておりますの。初年度だけで3兆のうち半分は返済が終わりますわ。翌年には鉄道が部分的に開通しますから少しは配当を渡せますわね」
「配当?なんだそれは」
「株式会社にしますのよ?帝国一部上場企業にいきなりの参入ですわ。エル様は借金王でもありますがおそらくは3年のうちには世界でも5本の指に入る富豪になりますのよ?全て全体の7割の株式を所有しますからね。で、売り上げが出ればバルブン国にホースレースについては運営権を売り渡しますわ」
ウキウキと話をしてくるエリザベートだがミカエルは今一つ理解が出来ない。
「ちゃんと聞いていますの?」
「あ、うん…多分」
「多分ではダメで御座いましょう?それではこの国は救えません!」
「えっ?国を救う?」
「そうですわよ?ちゃんとお聞きになって?」
「判った。ちょっと理解は遅いかも知れないが聞くよ」
「ガスの売り上げがほぼ安定するのは5年後で御座います。それまでの期間にも庶民の生活水準は何もしなければそのままなのです。これはお判りになる?」
「わかるよ。今の苦しい生活は何もしなければ続くんだろう?」
「そうです。それで王子領に鉄道を敷いて外貨を稼ぐのです」
「そのためにはこの国の通貨の価値をあげる必要があります。今のレートで言えば隣国でパンを買うのにあちらではワンコイン。そのワンコインにするのにこちらは札束が必要なのです。外貨を稼ぎ、まずは…エル様が走り回った山を買い取りますわ」
「えっ??あの山を?何故」
「自然保護区にします。なんでもかんでも開発すれば良いものではありません。調査したところあの広大な領、と言っても平野面積は本当に少ない地…ですよね?」
「確かに…山しかないところだったけど」
「あの地は絶対に残さねばならないのです。地形的に見てもあの山岳地帯はこの国だけでなく世界的にも研究者にとってはお宝なのです。幾つか崖を見られたでしょう?何がありました?」
「何って…崖は崖だけど」
「困った人ですね。これを御覧なさいまし」
エリザベートは起伏図の他に世界地図に似たような図を出してくる。
「規模は大きくなりますが、世界は大陸の移動を繰り返しています。大陸と大陸がぶつかって出来たのがあの山岳地帯。そして移動してくる前に地殻変動を万年単位で繰り返した痕跡があの崖には残っています。縞々なのは都度隆起と沈降を繰り返したから。それがぶつかった時にググっと持ち上がり目で見られる状態なのです」
「そうなんだ‥‥凄いな」
「えぇ。それにほぼ手付かずですから動植物の生態研究の価値もあるんです。珍しいんですよ。内陸でそれが残っているのは。孤島などなら影響を受けにくいので幾つかありますけどね。
保護区にする事で各国から支援金を頂きます。研究費込の支援金。それで領民は山の手入れをして頂くのです。保全のための仕事をして頂きます。その為に近いうちには辺境の地へも学校を建設します。読み書きだけではなく語学も必要ですからね。大義名分がないと動けないのは国というシステムの悪いところですわ」
地図を見ながら、へぇ~ほぉ~と呟くミカエル。理解度は気にしてはいけない。
そしてパっと顔をあげエリザベートの手を握る。
「俺さ、リザを連れて行きたいところがあるんだ」
「まぁ、何処でしょうか」
「この地図にある小さい村なんだけどさ。結婚式の前の日までいて、こんなデカいウサギを獲ったんだ。で、叱られて馬を走らせて‥‥礼も言ってないから…ダメかな?」
「ダメではありませんが、今!は無理ですわね。エル様は手ぶらで行くつもりですの?」
「土産かぁ…そうだな。あるといいかな」
「でしょう?明日には世界の借金王になるんですもの。そんな姿は見せられませんわ」
「え…明日なの…怖いんだけど…」
「大丈夫です。わたくし1人なら2兆8000億しか借りられませんでしたの。エル様がいたから3兆という切りのいいお話になったのです」
「え?ちなみに俺単体ならどうだったのかな?」
「500億は貸して頂けたと思いますわ。わたくしが保証人になる事で2千億です」
「なんか‥‥桁が…違う気がするんだが」
「大丈夫です。わたくしの夫ですから3兆貸して頂けるのです。胸をお張りなさいまし」
「やっぱりディスられてるのかな…俺」
ショボンとなるミカエルの肩をパンっと勢いよく叩くエリザベート。
捨てられた子犬のような目で見上げると・・・。
「貸してくれると言う事はそれだけの価値があると言う事です。これを利息揃えて返し終わった時、エル様の信用が太陽に到達するほどに上がるのです!」
「そう言われれば…そうだな」
「ねっ?そしたら次は更に倍!」
「え?また借金するの?倍って…6兆?まるで博打みたいだな」
「大丈夫。その時は、はらたいらさんに全部!って賭けますわ」
「篠●教授じゃないだけマシか…」
「そこまでの博打は出来ませんわ。エル様が旦那様ってだけで無謀な賭けですもの♪」
待て!やはりディスられているのか?
困惑したミカエルにエリザベートはご褒美を忘れない。手綱はしっかり握るのである。
「世界屈指の借金王の妻になるんですもの。死亡保険金も増額してますわ(ちゅっ♡)」
柔らかい唇が触れた頬に思わず手をやるミカエル。
エリザベートからキスしてくれた?マジ?‥‥難しい話はすっぽり抜け落ちる。
流石ポンコツ王子である。
「そうそう、王子領への視察は5日後ですわ。新婚旅行ですわね」
「えっ?‥‥やった!リザと旅行だ」
「しっかりテントなどの野宿の準備はしてくださいませね?」
「はっ?宿屋じゃないのか?」
「何を言ってますの?エル様が何もしていないから宿屋などありませんわよ」
「じゃ、工事をしてる者はどこで寝泊まりを?」
「ふふっ。土木工事ならではの飯場ですわ。意外に快適らしいですわよ?」
何もしていないツケがついに目の当たりになるミカエル。
しかし野宿はお手の物。あれもしてあげようかな?これは笑ってくれるかな?
能天気である。
その頃、ミカエルの弟にあたる1人の王子宮では異国から来た護衛が正式採用された。
「よろしく頼むよ」
「ありがとうございます。殿下をお守りする事を誓います」
「ところで、住むところは決まったのかい?」
「明日でも手ごろなアパートメントを契約しようと思っています」
「ここの離れに空き部屋がある。そこでも構わないが」
「いえ、大事な妻がおりますのでご迷惑をおかけするわけにはまいりません」
「妻?‥‥君は妻帯者だったのか?」
「いえ、内縁と言いますか…籍は入れておりませんので」
しっかりと礼をして出て行くその背中を見送って王子は呟く。
「アイザック・マルペス・ロードン‥‥どんな声で啼くのかな。愉しみだ」
履歴書の配偶者ありの部分に蝋燭の炎をあてるとあっという間に灰になる履歴書。
「君はここで僕に愛されるんだよ?ロードン君…フフフ」
燃え尽きた履歴書の残骸を足で砕いていく。
窓の外を見ると第2王子と皇帝の一行が帰ってきたのが見える。
「兄上の妻‥‥目の前で兄上も嬲ってあげたくなるなぁ」
恐ろしい呟きは静かな執務室に消えて行った。
「エル様、どうなさったの?」
「どうって‥‥いや、なんか…」
「借金の事でしたらご心配なく。ちゃんと返済計画も出来ております」
「60年ローンとか言うんじゃ…」
「まさか!そんな年齢までお考えですの?ならば保険のかけ替えをしなくては」
「あと、エル様は初年度は多分お小遣いしか渡せないと思いますがパイプラインの敷設工事は直ぐに着手しますしガスを売る先はもう決まっておりますの。初年度だけで3兆のうち半分は返済が終わりますわ。翌年には鉄道が部分的に開通しますから少しは配当を渡せますわね」
「配当?なんだそれは」
「株式会社にしますのよ?帝国一部上場企業にいきなりの参入ですわ。エル様は借金王でもありますがおそらくは3年のうちには世界でも5本の指に入る富豪になりますのよ?全て全体の7割の株式を所有しますからね。で、売り上げが出ればバルブン国にホースレースについては運営権を売り渡しますわ」
ウキウキと話をしてくるエリザベートだがミカエルは今一つ理解が出来ない。
「ちゃんと聞いていますの?」
「あ、うん…多分」
「多分ではダメで御座いましょう?それではこの国は救えません!」
「えっ?国を救う?」
「そうですわよ?ちゃんとお聞きになって?」
「判った。ちょっと理解は遅いかも知れないが聞くよ」
「ガスの売り上げがほぼ安定するのは5年後で御座います。それまでの期間にも庶民の生活水準は何もしなければそのままなのです。これはお判りになる?」
「わかるよ。今の苦しい生活は何もしなければ続くんだろう?」
「そうです。それで王子領に鉄道を敷いて外貨を稼ぐのです」
「そのためにはこの国の通貨の価値をあげる必要があります。今のレートで言えば隣国でパンを買うのにあちらではワンコイン。そのワンコインにするのにこちらは札束が必要なのです。外貨を稼ぎ、まずは…エル様が走り回った山を買い取りますわ」
「えっ??あの山を?何故」
「自然保護区にします。なんでもかんでも開発すれば良いものではありません。調査したところあの広大な領、と言っても平野面積は本当に少ない地…ですよね?」
「確かに…山しかないところだったけど」
「あの地は絶対に残さねばならないのです。地形的に見てもあの山岳地帯はこの国だけでなく世界的にも研究者にとってはお宝なのです。幾つか崖を見られたでしょう?何がありました?」
「何って…崖は崖だけど」
「困った人ですね。これを御覧なさいまし」
エリザベートは起伏図の他に世界地図に似たような図を出してくる。
「規模は大きくなりますが、世界は大陸の移動を繰り返しています。大陸と大陸がぶつかって出来たのがあの山岳地帯。そして移動してくる前に地殻変動を万年単位で繰り返した痕跡があの崖には残っています。縞々なのは都度隆起と沈降を繰り返したから。それがぶつかった時にググっと持ち上がり目で見られる状態なのです」
「そうなんだ‥‥凄いな」
「えぇ。それにほぼ手付かずですから動植物の生態研究の価値もあるんです。珍しいんですよ。内陸でそれが残っているのは。孤島などなら影響を受けにくいので幾つかありますけどね。
保護区にする事で各国から支援金を頂きます。研究費込の支援金。それで領民は山の手入れをして頂くのです。保全のための仕事をして頂きます。その為に近いうちには辺境の地へも学校を建設します。読み書きだけではなく語学も必要ですからね。大義名分がないと動けないのは国というシステムの悪いところですわ」
地図を見ながら、へぇ~ほぉ~と呟くミカエル。理解度は気にしてはいけない。
そしてパっと顔をあげエリザベートの手を握る。
「俺さ、リザを連れて行きたいところがあるんだ」
「まぁ、何処でしょうか」
「この地図にある小さい村なんだけどさ。結婚式の前の日までいて、こんなデカいウサギを獲ったんだ。で、叱られて馬を走らせて‥‥礼も言ってないから…ダメかな?」
「ダメではありませんが、今!は無理ですわね。エル様は手ぶらで行くつもりですの?」
「土産かぁ…そうだな。あるといいかな」
「でしょう?明日には世界の借金王になるんですもの。そんな姿は見せられませんわ」
「え…明日なの…怖いんだけど…」
「大丈夫です。わたくし1人なら2兆8000億しか借りられませんでしたの。エル様がいたから3兆という切りのいいお話になったのです」
「え?ちなみに俺単体ならどうだったのかな?」
「500億は貸して頂けたと思いますわ。わたくしが保証人になる事で2千億です」
「なんか‥‥桁が…違う気がするんだが」
「大丈夫です。わたくしの夫ですから3兆貸して頂けるのです。胸をお張りなさいまし」
「やっぱりディスられてるのかな…俺」
ショボンとなるミカエルの肩をパンっと勢いよく叩くエリザベート。
捨てられた子犬のような目で見上げると・・・。
「貸してくれると言う事はそれだけの価値があると言う事です。これを利息揃えて返し終わった時、エル様の信用が太陽に到達するほどに上がるのです!」
「そう言われれば…そうだな」
「ねっ?そしたら次は更に倍!」
「え?また借金するの?倍って…6兆?まるで博打みたいだな」
「大丈夫。その時は、はらたいらさんに全部!って賭けますわ」
「篠●教授じゃないだけマシか…」
「そこまでの博打は出来ませんわ。エル様が旦那様ってだけで無謀な賭けですもの♪」
待て!やはりディスられているのか?
困惑したミカエルにエリザベートはご褒美を忘れない。手綱はしっかり握るのである。
「世界屈指の借金王の妻になるんですもの。死亡保険金も増額してますわ(ちゅっ♡)」
柔らかい唇が触れた頬に思わず手をやるミカエル。
エリザベートからキスしてくれた?マジ?‥‥難しい話はすっぽり抜け落ちる。
流石ポンコツ王子である。
「そうそう、王子領への視察は5日後ですわ。新婚旅行ですわね」
「えっ?‥‥やった!リザと旅行だ」
「しっかりテントなどの野宿の準備はしてくださいませね?」
「はっ?宿屋じゃないのか?」
「何を言ってますの?エル様が何もしていないから宿屋などありませんわよ」
「じゃ、工事をしてる者はどこで寝泊まりを?」
「ふふっ。土木工事ならではの飯場ですわ。意外に快適らしいですわよ?」
何もしていないツケがついに目の当たりになるミカエル。
しかし野宿はお手の物。あれもしてあげようかな?これは笑ってくれるかな?
能天気である。
その頃、ミカエルの弟にあたる1人の王子宮では異国から来た護衛が正式採用された。
「よろしく頼むよ」
「ありがとうございます。殿下をお守りする事を誓います」
「ところで、住むところは決まったのかい?」
「明日でも手ごろなアパートメントを契約しようと思っています」
「ここの離れに空き部屋がある。そこでも構わないが」
「いえ、大事な妻がおりますのでご迷惑をおかけするわけにはまいりません」
「妻?‥‥君は妻帯者だったのか?」
「いえ、内縁と言いますか…籍は入れておりませんので」
しっかりと礼をして出て行くその背中を見送って王子は呟く。
「アイザック・マルペス・ロードン‥‥どんな声で啼くのかな。愉しみだ」
履歴書の配偶者ありの部分に蝋燭の炎をあてるとあっという間に灰になる履歴書。
「君はここで僕に愛されるんだよ?ロードン君…フフフ」
燃え尽きた履歴書の残骸を足で砕いていく。
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