王子妃シャルノーの憂鬱

cyaru

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襲われた第一王子

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「シャルノー。す、す、す‥‥好きだ」
「は?」
「愛っ…愛してる。大好きだ。俺はシャルノーなしでは、間違いなく生きていけない」

パチン! 「痛っとわぁい…ウグゥ…」

その場に額を押さえて蹲るチェザーレ。
シャルノーのデコピンが原因である。指懸垂までする指から繰り出されたデコピン。
その痛さはタップすら出来ない想像を絶する痛さである。

「何かと思えば、妻に向かって求婚の練習ですの?」
「違う。ちゃんと伝えておきたかった。本当にだらしなくて、どうしようもない俺だけど!」
「お兄様に言われたのでしょう?言われなければいつも通りだったのでは?」
「そうだったと思う。義兄上には感謝しかない」

「やっぱりね。で?ついでですわ。洗いざらいお話しくださいますの?」
「期待をしている内容とは違うかも知れないが話すよ」
「数少ない女性遍歴を語られる妻…これも経験ですわね」
「期待には添えそうにない、そんな遍歴はない」
「あら、残念」


チェザーレはシャルノーの前に跪き、手を取った。

「また失敗すると思う。でも約束する。浮気だけは絶対にしない。失敗するのは甘さからくる事で…その…見直す事にした。その度にまた怒らせたり呆れさせたりすると思う。でも…何処にも行かないでくれ。臣籍降下をして離縁が出来る様になっても同意は出来ない。シャルノーを失うくらいなら…」

「死ぬとでも?なら死ねばよろしいのでは?」

「いや、死ぬのはダメだ。シャルノーを失うくらいなら全てを捨ててついていく」

「えっ?付きまとい宣言ですの?それって犯罪ですわ」

「サウスノア王国にはまだ法がないから、急いで作らないといけないな」

「いけないな…って!他人事のように!そんなのだから殿下は――ファッ!」

突然立ち上がったチェザーレはシャルノーを抱きしめた。
お腹に圧力をかけられないので上半身を少し倒した姿勢だが、チェザーレの両手はシャルノーの背に回された。

「殿下じゃない。チェザーレ。出来れば愛称をつけて呼んでくれ」

「ポチ?‥‥いえチェビ?」

「犬かよ…ま、シャルノーが呼ぶなら他の者にはそう呼ばせないからいいか」


意外と強気に出たらシャルノーって大人しいな?とチェザーレは調子に乗ってシャルノーの頬を両手で覆い、唇を合わせようと首を傾けて近づけた。

ガッ!

「痛い!痛い!シャルノー!痛いよ」
「捩じってるんですから痛くないほうがおかしいですわ」

甘かった。頬を覆った手を片方取られ、思い切り捩じられて現在腕が逆を向いている。

「本当に悪かった、やり直したいと思うのなら行動なさいな」
「判ってる。判ってるって!シャルノー!痛いって」
「何度も何度も!捩じってるんですから痛くないほうがおかしいと申しましたでしょう」

「するって。するってば」
「出来なければ別居の範囲を広げますわよ」
「今も部屋は別で、これ以上どう広げるというんだ!」
「国内別居?いえ、大陸内別居、惑星内別居も視野に入れております」
「嘘だろ…惑星内別居って見つけられないじゃないか!」
「大丈夫です。どこかの空の下にいるのは確かです」


翌日、リンドベルト監修のもとチェザーレの執務室の出入り口扉が付け替えられた。

「フェルナンド兄上がトテポロ帝国から買い付けた最新型だ。このカードを差して…ほれ。ここを見るんだ」

ピッピッピ―♪

「これでいいんですか?これだけで?」
「魔石に角膜認証というのをさせたんだ。部屋に入る時はこの小窓を見る。認証されてない者は部屋には入れない。鍵も要らないから落として鍵のレスキュー隊に来てもらう必要もない」

チェザーレと専属執事のジョゼフ、そして国王の3人だけが登録をされた。
リンドベルトは登録に必要なカードを暖炉にくべた。

「これで3人以外がこの部屋に入る時は、3人のうち誰かが招き入れる時となった」

「あの、ジョゼフが退職して別の従者になる時は…」

リンドベルトの目が泳ぐ。ポンとチェザーレの肩を叩いてにこやかに告げた。

「トテポロ帝国から職人を呼べ」
「マジですか」
「それしか方法はない。ま、それだけ鉄壁だって事だ。ハーハッハッハ」

困った時は笑って誤魔化す。これもリンドベルトの奥義の一つである。



その3日後、リンドベルトは奥義も伝授出来たと満面の笑みでイーストノア王国に帰国の途についた。


だが、これで終わるはずがない。

そろそろリンドベルトが国境を超えたかという頃、警告鐘という緊急事態を知らせる鐘の音が響き渡った。同時にチェザーレの執務室の扉が激しく音を立てる。専属執事のジョゼフが対応に向かい、扉を開けた。


「大変です。第一王子殿下が城内で…城内で…賊に刺されました」
「何だって?どうして賊が城内にいるのだ!」
「何者かが手引きをしたと思われます。塔から鐘を鳴らし、全ての外門は閉じました」
「わかった。すぐ行く。場所は何処だ」
「それが…陛下の執務室に向かう回廊で…剣には毒も確認されました」


チェザーレは窓の外を見た。
国王の執務室に向かう回廊は両側に庭園がある。その庭園は離宮に向かう小道に途中で合流するのだ。

「殿下!」
「判っている」

もう1人の異母兄、第二王子は王子妃の取り調べもあり西の塔に幽閉となっている。実質の処刑である。取り調べが終わり次第、第二王子は「経過や理由はどうあれ己の妃がした事」だと毒杯を賜る事になっている。

そして第一王子が刃に倒れた。残った王子はチェザーレのみである。
例え敷地が同じだと言っても城を離れることは出来なかった。

「ジョゼフ。離宮に行って警戒を布くよう伝えてくれ」
「よろしいのですか?殿下が行かれた方が良いのでは?」

「まさか。王族の務めを何とすると額を潰されるわ。離宮に産婆の経験がある者がいなければキャシーに探すよう伝えてくれ。特に王宮からの者はジョゼフが出た後、誰一人離宮に入れるなと伝えてくれ」

「畏まりました」

ジョゼフとチェザーレが部屋を出た後、扉がパタンと閉じた。



慌ただしく従者が廊下を言ったり来たする騒ぎの中、侍女が1人チェザーレの部屋のドアノブに手を掛けた。

ガチャガチャ…

「何で開かないの?おかしいわ。あ、鍵、鍵を忘れて…え?あれ?」

扉の前で合鍵を手に鍵穴を探すのはヴィアナ。
侍女に扮し、入り込んだはいいのだが肝心の部屋に入れなければ意味がない。
警備が強化されてやっと入り込めたのだ。

今日こそ既成事実を作ると侍女のお仕着せの下は何もつけていない。
時間短縮のために薬も塗り込んできたのだ。
体も火照るが、それ以上に時間もないのに鍵穴がない事に頭も血が上って火照ってくる。

「ないない!どうして鍵の穴がないの!」

ヴィアナは必死で気が付かなかった。
後に王宮を守る憲兵が立っていた事に。
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