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第15話 女主人
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シルフィーは茫然とした。
「こんなの…考えてたのと違う。全然違うじゃない!」
狂ったように床を転がりまわるドウェインは数人の使用人たちに抱えられて部屋に運ばれていった。
「奥様、こちらへ」と先導されてついた先は夫人の部屋。
入るなり、あまりのセンスの無さと古臭さが際立つ家具や調度品が揃えられた部屋に絶句した。
「ドレスは夕方、侯爵家お抱えの仕立て屋が採寸に参ります」と言うので、張り手に腹への蹴りへの恨みもあるし、抜けた髪の毛の本数だけドレスを作ってやる!と意気込んだ。
採寸は確かにされた。今までドウェインにオネダリしてデートの時に買ってもらった簡単な採寸ではなく本当に体の隅々まで、測られていない部位がないくらいに細かく採寸はされたがデザインなどは全く聞いて貰えなかった。
どんな生地でどんなデザインで、何着、そんな事は一切シルフィーの意見は言う間も無かった。
「ねぇ、どんなドレス?」
「申し訳ございません。私は茶の係ですので、ご衣裳については聞かされておりません」
「チッ。使えないわね。ま、いいわ。ねぇ。足、揉んでよ」
「申し訳ございません。私はお茶の係ですので、お体に触れることは許されておりません」
決まり文句を並べる茶の係に苛立ったシルフィーは「もういい。あんたはクビ!」指を刺して言い放つと茶の係の使用人は体を90度に追って「承知いたしました」と茶葉がまだポットの中で蒸らしている途中なのにワゴンを置いて部屋を出て行ったっきり戻ってこなかった。
次にやってきたのは男性の執事。
「こちらの返答をお願いします」
「ナニコレ」
「各家から茶会の誘い、招待状で御座います」
「そんなの解らないわ」
「では説明を致しますので、手にお取りください」
「お取りくださいって…こんなの説明してたら夜が明けるわよ」
シルフィーにはもう1つ問題があった。字が読めないのだ。説明をされて耳から入った言葉を理解できても文字にする事は出来ない。読み書きは習ったことも無いのだ。
だから厚さにして7,8cmはありそうな束になった封書を逐一説明されても表紙の文字すら解らない。
読めるようになったとしてもこんなものをしなければならないのなら、したい事をする時間など無くなってしまう。
――冗談じゃないわ。なんで私が?!――
執事は「妃殿下もお人が悪い」と心で呟いた。
何故なら今、シルフィーに先ず手渡された封書の差出人は王太子妃。
蝋封をしていれば差出人の名前は書かないが、キッチリ書いてある。
封になった蝋封を指でカリカリと剥がし頬を膨らませているので文字は読めないと執事は判断した。
「社交はして頂かねばなりません。説明をしますので」
「うっさい!私が女主人なんでしょう?こんなのしなくていいわ」
「それでは困ります」
「困る使用人がいるなら辞めて貰っていいわよ。女主人に面倒をかける使用人なんか必要ないわ!」
「左様でございますか」
「な、なによ…」
「承知いたしました」
「え‥‥あ、えっと…待って、待ってよ」
先ほどの茶の係と同じように執事も体を折って礼をする。その後ろで扉の脇に控えていた女性のメイドと思しき使用人も体を折っていた。
――ホントに辞めちゃうなんてないわよね?――
焦るシルフィーだったが、執事もメイドも頭をあげると静かに部屋から出て行った。
――ど、どうしよう。まさかホントに?違うよね?――
冷や汗が流れたが、2時間ほどすると扉がノックされた。
「奥様、お食事のご用意が整いました」
ホッとしたシルフィーだったが、シルフィーが考えていた程度の仕事しかしない女主人などこの世にはいない。
使用人たちの冷ややかな視線を浴びてシルフィーは食事の席についたが、終ぞドウェインが向かいに、いや食事室に来ることはなかった。
「こんなの…考えてたのと違う。全然違うじゃない!」
狂ったように床を転がりまわるドウェインは数人の使用人たちに抱えられて部屋に運ばれていった。
「奥様、こちらへ」と先導されてついた先は夫人の部屋。
入るなり、あまりのセンスの無さと古臭さが際立つ家具や調度品が揃えられた部屋に絶句した。
「ドレスは夕方、侯爵家お抱えの仕立て屋が採寸に参ります」と言うので、張り手に腹への蹴りへの恨みもあるし、抜けた髪の毛の本数だけドレスを作ってやる!と意気込んだ。
採寸は確かにされた。今までドウェインにオネダリしてデートの時に買ってもらった簡単な採寸ではなく本当に体の隅々まで、測られていない部位がないくらいに細かく採寸はされたがデザインなどは全く聞いて貰えなかった。
どんな生地でどんなデザインで、何着、そんな事は一切シルフィーの意見は言う間も無かった。
「ねぇ、どんなドレス?」
「申し訳ございません。私は茶の係ですので、ご衣裳については聞かされておりません」
「チッ。使えないわね。ま、いいわ。ねぇ。足、揉んでよ」
「申し訳ございません。私はお茶の係ですので、お体に触れることは許されておりません」
決まり文句を並べる茶の係に苛立ったシルフィーは「もういい。あんたはクビ!」指を刺して言い放つと茶の係の使用人は体を90度に追って「承知いたしました」と茶葉がまだポットの中で蒸らしている途中なのにワゴンを置いて部屋を出て行ったっきり戻ってこなかった。
次にやってきたのは男性の執事。
「こちらの返答をお願いします」
「ナニコレ」
「各家から茶会の誘い、招待状で御座います」
「そんなの解らないわ」
「では説明を致しますので、手にお取りください」
「お取りくださいって…こんなの説明してたら夜が明けるわよ」
シルフィーにはもう1つ問題があった。字が読めないのだ。説明をされて耳から入った言葉を理解できても文字にする事は出来ない。読み書きは習ったことも無いのだ。
だから厚さにして7,8cmはありそうな束になった封書を逐一説明されても表紙の文字すら解らない。
読めるようになったとしてもこんなものをしなければならないのなら、したい事をする時間など無くなってしまう。
――冗談じゃないわ。なんで私が?!――
執事は「妃殿下もお人が悪い」と心で呟いた。
何故なら今、シルフィーに先ず手渡された封書の差出人は王太子妃。
蝋封をしていれば差出人の名前は書かないが、キッチリ書いてある。
封になった蝋封を指でカリカリと剥がし頬を膨らませているので文字は読めないと執事は判断した。
「社交はして頂かねばなりません。説明をしますので」
「うっさい!私が女主人なんでしょう?こんなのしなくていいわ」
「それでは困ります」
「困る使用人がいるなら辞めて貰っていいわよ。女主人に面倒をかける使用人なんか必要ないわ!」
「左様でございますか」
「な、なによ…」
「承知いたしました」
「え‥‥あ、えっと…待って、待ってよ」
先ほどの茶の係と同じように執事も体を折って礼をする。その後ろで扉の脇に控えていた女性のメイドと思しき使用人も体を折っていた。
――ホントに辞めちゃうなんてないわよね?――
焦るシルフィーだったが、執事もメイドも頭をあげると静かに部屋から出て行った。
――ど、どうしよう。まさかホントに?違うよね?――
冷や汗が流れたが、2時間ほどすると扉がノックされた。
「奥様、お食事のご用意が整いました」
ホッとしたシルフィーだったが、シルフィーが考えていた程度の仕事しかしない女主人などこの世にはいない。
使用人たちの冷ややかな視線を浴びてシルフィーは食事の席についたが、終ぞドウェインが向かいに、いや食事室に来ることはなかった。
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