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第35話 たった3時間
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城にドウェインが到着をした時、門道には松明が幾つも掲げられ足元を照らしていた。足元に転がっているのは来週に開催される王太子夫妻主催の夜会の飾りつけ。
無造作に転がされている事から、余程の緊急事態である事が判る。
騎乗し走り抜けたドウェインを開口一番に国王は怒鳴りつけた。
「何をしているんだ!」
「な、何をと仰せられても!」
「貴様だけだ!侯爵家の当主でのこのことこの場にやってきたのは!」
侯爵家は4家。辺境伯家も4家。それぞれが連絡を取り合って国を守っているのだが、早馬が国王に知らせをもたらすよりも早くに辺境伯家から知らせを受けた侯爵家当主は私兵を召集し既に王都のはずれに向かわせていた。
ただし文書ではなく異常を知らせる狼煙での報告なので、大事を取っての意味合いは強かったが。
ブランジネ侯爵家にも知らせは来たのだ。
しかし、ドウェインが宝鏡とアイリーンの捜索の方に力を入れていて、他の知らせは「緊急」「至急」と書かれていても平和な世が200年以上続いた事もあって、武具の買い替えや修理、食料などの配給を多くしてほしいと常日頃から要請がきていたので催促だろうと後回しにしていた。
第1報を持って駆けてきた騎士はやっとまともに話せる状態になり、見たままの状況を語った。
「海が真っ黒な船で覆いつくされておりました」
「報告では50を超えるとあるが短い文章だ。もっと子細が知りたいが…」
「峠を越え、馬を乗り換える時なのですが、轟音が致しました。私が発つ直前に宿場町に到着した商人が大きな水柱が天に届くほど上がったと」
その場にいた者が全員息を飲んだ。
天にも届くとなれば竜巻。大きな音はするし水柱に見えなくもない。
大砲や艦砲射撃など言葉すら知らない国王たちにはそれ以上の想像が出来なかったが、神の如く恐ろしい力を持っているのだろうと想像だけは出来た。
「竜巻を操るのでしょうか?」
「お伽噺でもあるまいに魔法でも繰り出したと?寝言は寝て言え」
出遅れてしまったドウェインは今から兵を召集し、向かわせても間に合わないと判断され王宮の周囲を護衛する事を命じられた。
「大事を取って城の大門を閉じるべきです」
「そんな事をしたら民衆が騒ぎ出すぞ」
「点検だと言えば良いんです。大きな門ですから丁番が古くなり付け替えをするのだと」
慌てふためいているのはまだ一部の人間だけ。ここで敵が攻めてきたと民衆まで騒ぎになってしまうと収拾がつかなくなる。民衆には秘匿をしたまま取り敢えず城の大門を閉じた。
静かだったのはたった3日。
進軍した軍隊が王都に入ってきたのだ。海岸線から10日で王都に辿り着くなど異例の早さなんて言葉では言い表せないスピード。第1報をもたらした早馬が到着して3日後なのだ。
エンジンの轟音を立てながらトラックが何台も停車するとそこから武装した兵士が銃剣を手に下りて来る。
トラックの重みに耐えきれず美しく敷き詰められた石畳はぐちゃぐちゃ。
停車したトラックの横をまた別のトラックが通り過ぎていく。
国王は城の門を閉ざしたことでどうにかなるとタカを括っていた。
門を閉じる事を勧めたドウェインに褒美まで考え、「この門はかつての戦いでも破られたことはない」と豪語したが、門の上にある見張り番は目を疑う光景を見た。
1人の兵士が門の前でなにやら小さい箱を置き、去っていく。
「あれは何だ?」
「攻めて来たのではなく交易をするため?貢物か?」
暢気な事を喋っていると「ドゴーン!!」爆音とともに火に混じって土と石が舞い上がった。
発破の一撃で大きな門が吹き飛び、障害物が無くなるとガタガタと足元の悪さに揺れを大きくしながらも数代のトラックが堂々と門道を壊しながら進んでいった。
トラックが停車をすると、武装した兵士が何人も降り立ち、剣を構える騎士の足元に発砲すると後ろにいた騎士たちは下がるふりをしながら逃げ出し、更に空に向かって数発発砲すると剣を構えていた騎士は腰を抜かした。
それでも剣を構える騎士に近くにあった木を狙って発砲すればごっそりと幹が抉れる。
騎士は降参する以外に手がなかった。
剣を交えるのは近接戦。離れた位置からの攻撃には手も足も出ないからだ。
★~★
「話し合いをするしかない」
屈辱だったが、勝てる見込みのない戦をしても無駄に命が消えていくだけ。
国王や王太子たちは今までの戦と同じで自分たちの命を差し出せば国の名前が消えても民衆は助かるものだと信じ、話し合いをする事を望んだ。
「我々は無駄なお喋りをするためにわざわざ燃料を焚いて来た訳ではない」
「で、では、何が望みだ?」
「望みだ?口の利き方から学んで貰いたいが、1は1と頭の凝り固まった老害に教える時間が勿体ない」
「我々は何をすればよいのだ‥‥ろうか」
指揮官は大理石のテーブルの天板に咥えていた葉巻を押し付けて捩じり、火を消した。
「この国は我々が統治下におくことが決まっている。全ての生産物は速やかに本国に送る。その為に…港湾を整備しろ。解っていると思うがこれは話し合いではない。決定したことを通達しているのだ。前時代的に国王一族の首を撥ねて誰が満足する?後始末が大変なだけの野蛮なショーなど時間の無駄だ」
圧倒的な武力の前に成す術もなく、軍隊が王都に入ってたった3時間で国は制圧されてしまった。
無造作に転がされている事から、余程の緊急事態である事が判る。
騎乗し走り抜けたドウェインを開口一番に国王は怒鳴りつけた。
「何をしているんだ!」
「な、何をと仰せられても!」
「貴様だけだ!侯爵家の当主でのこのことこの場にやってきたのは!」
侯爵家は4家。辺境伯家も4家。それぞれが連絡を取り合って国を守っているのだが、早馬が国王に知らせをもたらすよりも早くに辺境伯家から知らせを受けた侯爵家当主は私兵を召集し既に王都のはずれに向かわせていた。
ただし文書ではなく異常を知らせる狼煙での報告なので、大事を取っての意味合いは強かったが。
ブランジネ侯爵家にも知らせは来たのだ。
しかし、ドウェインが宝鏡とアイリーンの捜索の方に力を入れていて、他の知らせは「緊急」「至急」と書かれていても平和な世が200年以上続いた事もあって、武具の買い替えや修理、食料などの配給を多くしてほしいと常日頃から要請がきていたので催促だろうと後回しにしていた。
第1報を持って駆けてきた騎士はやっとまともに話せる状態になり、見たままの状況を語った。
「海が真っ黒な船で覆いつくされておりました」
「報告では50を超えるとあるが短い文章だ。もっと子細が知りたいが…」
「峠を越え、馬を乗り換える時なのですが、轟音が致しました。私が発つ直前に宿場町に到着した商人が大きな水柱が天に届くほど上がったと」
その場にいた者が全員息を飲んだ。
天にも届くとなれば竜巻。大きな音はするし水柱に見えなくもない。
大砲や艦砲射撃など言葉すら知らない国王たちにはそれ以上の想像が出来なかったが、神の如く恐ろしい力を持っているのだろうと想像だけは出来た。
「竜巻を操るのでしょうか?」
「お伽噺でもあるまいに魔法でも繰り出したと?寝言は寝て言え」
出遅れてしまったドウェインは今から兵を召集し、向かわせても間に合わないと判断され王宮の周囲を護衛する事を命じられた。
「大事を取って城の大門を閉じるべきです」
「そんな事をしたら民衆が騒ぎ出すぞ」
「点検だと言えば良いんです。大きな門ですから丁番が古くなり付け替えをするのだと」
慌てふためいているのはまだ一部の人間だけ。ここで敵が攻めてきたと民衆まで騒ぎになってしまうと収拾がつかなくなる。民衆には秘匿をしたまま取り敢えず城の大門を閉じた。
静かだったのはたった3日。
進軍した軍隊が王都に入ってきたのだ。海岸線から10日で王都に辿り着くなど異例の早さなんて言葉では言い表せないスピード。第1報をもたらした早馬が到着して3日後なのだ。
エンジンの轟音を立てながらトラックが何台も停車するとそこから武装した兵士が銃剣を手に下りて来る。
トラックの重みに耐えきれず美しく敷き詰められた石畳はぐちゃぐちゃ。
停車したトラックの横をまた別のトラックが通り過ぎていく。
国王は城の門を閉ざしたことでどうにかなるとタカを括っていた。
門を閉じる事を勧めたドウェインに褒美まで考え、「この門はかつての戦いでも破られたことはない」と豪語したが、門の上にある見張り番は目を疑う光景を見た。
1人の兵士が門の前でなにやら小さい箱を置き、去っていく。
「あれは何だ?」
「攻めて来たのではなく交易をするため?貢物か?」
暢気な事を喋っていると「ドゴーン!!」爆音とともに火に混じって土と石が舞い上がった。
発破の一撃で大きな門が吹き飛び、障害物が無くなるとガタガタと足元の悪さに揺れを大きくしながらも数代のトラックが堂々と門道を壊しながら進んでいった。
トラックが停車をすると、武装した兵士が何人も降り立ち、剣を構える騎士の足元に発砲すると後ろにいた騎士たちは下がるふりをしながら逃げ出し、更に空に向かって数発発砲すると剣を構えていた騎士は腰を抜かした。
それでも剣を構える騎士に近くにあった木を狙って発砲すればごっそりと幹が抉れる。
騎士は降参する以外に手がなかった。
剣を交えるのは近接戦。離れた位置からの攻撃には手も足も出ないからだ。
★~★
「話し合いをするしかない」
屈辱だったが、勝てる見込みのない戦をしても無駄に命が消えていくだけ。
国王や王太子たちは今までの戦と同じで自分たちの命を差し出せば国の名前が消えても民衆は助かるものだと信じ、話し合いをする事を望んだ。
「我々は無駄なお喋りをするためにわざわざ燃料を焚いて来た訳ではない」
「で、では、何が望みだ?」
「望みだ?口の利き方から学んで貰いたいが、1は1と頭の凝り固まった老害に教える時間が勿体ない」
「我々は何をすればよいのだ‥‥ろうか」
指揮官は大理石のテーブルの天板に咥えていた葉巻を押し付けて捩じり、火を消した。
「この国は我々が統治下におくことが決まっている。全ての生産物は速やかに本国に送る。その為に…港湾を整備しろ。解っていると思うがこれは話し合いではない。決定したことを通達しているのだ。前時代的に国王一族の首を撥ねて誰が満足する?後始末が大変なだけの野蛮なショーなど時間の無駄だ」
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