44 / 52
第44話 木偶よりも手間のかかる男
しおりを挟む
船の旅は2週間。
王太子とドウェインの部屋は静まり返っていた。余りにも静かなので船員が中の様子を小窓で確認をするが、王太子は椅子に腰かけて本を読んでいて、ドウェインは壁を背にして座り込み虚ろな目で1点を見つめていた。
2、3時間後に覗くと、王太子は本を読んでいるか、書き物をしているか。時に軽くストレッチをしていたがドウェインは微動だにせずやはり1点を見つめていた。
「ドウェイン。滞在は2カ月だ。色々と案内をしてくれるらしい」
「・・・・」
「国はこの先、穀物や鉱物、いろいろと提供するだけになるが、皆の助けになるような技術も見て帰ろう」
「・・・・」
王太子が何を問いかけてもドウェインは返事が出来なかった。
耳には声が聞こえているけれど、どこか遠くで言っている様でドウェインの頭の中にはアイリーンの言葉がずっとグルグルと回っていた。
アイリーンが太陽が上りきる前に海に入ったと聞かされたドウェインが声を出すのは夜明けだけ。
嗚咽を漏らし、アイリーンからの手紙を抱いて泣く時だけだった。
「ちょっとは食べないと体が持たないぞ」
「・・・・」
「手間がかかるな。私の息子の世話の方がまだ楽だ」
「・・・・」
王太子は食事もしようとしないドウェインの口を無理やり開けて、舌で潰せるものを放り込む。
鼻と口を手で塞げば飲み込むので繰り返した。
「これじゃどっちが従者かわからないな」
献花は帰りにすればよかったかと思いつつも、往路に2週間、2カ月滞在で復路に2週間。3か月後になればワスレナグサも枯れてしまうだろうから初日しかなかったのだ、どうこう言っても王家が生贄など愚策しか出せなかったのが悪いと王太子はドウェインの世話をしたのだった。
船が到着をした日。
ドウェインは相変わらずだったが、王太子は軍港の大きさ、設備、全てに目を見張った。
赤子の手をひねるものなんてものじゃない。
見たことも無い黒い物体が道を走っていて、車だと教えられかつてのアイリーンのように驚いた。
「馬車はないんですか?」
「馬車?ありますよ。結婚式とか観光用ですけど」
用途も全く違っていた。日常の移動手段で変わらないのは徒歩くらい。
自分の足で歩かない時に馬に騎乗するか馬車がこの国では車であったり、自転車という人力で動く2つの大きな輪の乗り物だった。
「では、こちらへ。調印式は3日後ですがしばらく滞在する宿までお送りします」
「何から何まで。ありがとう」
木偶よりも手間のかかるドウェインを車に押し込み、王太子は港町を車で宿まで移動した。
その途中だった。
「アイリーン?!」
ずっと黙って碌に食事もせず、声を出すのは夜明けに嗚咽だけだったドウェインが走る車の中から「アイリーンがいる!止めてくれ!」とガラスを叩き出した。
王太子が窓の外を見るも、行交う人の数は多くアイリーンは見つけられなかった。
「ドウェイン。気のせいだ」
「違う!見間違えるはずがない。アレはアイリーンです!お願いだ!止めてくれ!行ってしまう!アイリーンが行ってしまう!」
「ドウェイン!いい加減にするんだ!」
車内でドウェインは後部の窓に顔を張り付けたが、スピードもある車内からやっと見つけたアイリーンの姿はもう見つけられなかった。
☆~★
1回目の妊婦健診の日。
その日は朝から軍用の車両をよく見かけた。
「今日は軍用の車が沢山走ってるわね。何かあるのかしら?」
「どうだろう。艦船が戻ってき始めているからじゃないか?」
「それもそうね」
高台にある家の窓の外からは軍港がよく見える。いつもは5、6隻が停泊しているが今日は戦艦ではないけれど大型艦が係留されていて、数えてみれば16隻もあった。
「今日は健診の日だろう?大きくなってるかな」
「そんなに変わらないわ。だけど不思議ね。吐き気はずっとあるんだけど先生に診てもらえると思うと少し楽なの」
経産婦になれば産み月の手前まで月に1度の健診だが、初産婦は週に1度の健診をするように言われている。初めての妊娠、出産は不安だらけなので安心させるためでもある。
メレディスはレックスと話し合ってアイリーンの健診の日は打ち合わせを行わない事に決めた。
メレディスがアイリーンに付き添うからなのだが、アイリーンは1人で行けると言ってもメレディスが納得しないのだ。
健診の帰りにはアイリーンの具合次第になるけれど、ベビー用品店に寄る事になっている。
冊子には無理のない範囲で歩く事とあるので、距離もそんなにない事から2人は歩いて健診に向かった。
仲良く手を繋いで通りを歩く2人。
1台の軍用車両にかつての夫と王太子が乗車しており、すれ違った事などアイリーンは気付きもしなかった。
王太子とドウェインの部屋は静まり返っていた。余りにも静かなので船員が中の様子を小窓で確認をするが、王太子は椅子に腰かけて本を読んでいて、ドウェインは壁を背にして座り込み虚ろな目で1点を見つめていた。
2、3時間後に覗くと、王太子は本を読んでいるか、書き物をしているか。時に軽くストレッチをしていたがドウェインは微動だにせずやはり1点を見つめていた。
「ドウェイン。滞在は2カ月だ。色々と案内をしてくれるらしい」
「・・・・」
「国はこの先、穀物や鉱物、いろいろと提供するだけになるが、皆の助けになるような技術も見て帰ろう」
「・・・・」
王太子が何を問いかけてもドウェインは返事が出来なかった。
耳には声が聞こえているけれど、どこか遠くで言っている様でドウェインの頭の中にはアイリーンの言葉がずっとグルグルと回っていた。
アイリーンが太陽が上りきる前に海に入ったと聞かされたドウェインが声を出すのは夜明けだけ。
嗚咽を漏らし、アイリーンからの手紙を抱いて泣く時だけだった。
「ちょっとは食べないと体が持たないぞ」
「・・・・」
「手間がかかるな。私の息子の世話の方がまだ楽だ」
「・・・・」
王太子は食事もしようとしないドウェインの口を無理やり開けて、舌で潰せるものを放り込む。
鼻と口を手で塞げば飲み込むので繰り返した。
「これじゃどっちが従者かわからないな」
献花は帰りにすればよかったかと思いつつも、往路に2週間、2カ月滞在で復路に2週間。3か月後になればワスレナグサも枯れてしまうだろうから初日しかなかったのだ、どうこう言っても王家が生贄など愚策しか出せなかったのが悪いと王太子はドウェインの世話をしたのだった。
船が到着をした日。
ドウェインは相変わらずだったが、王太子は軍港の大きさ、設備、全てに目を見張った。
赤子の手をひねるものなんてものじゃない。
見たことも無い黒い物体が道を走っていて、車だと教えられかつてのアイリーンのように驚いた。
「馬車はないんですか?」
「馬車?ありますよ。結婚式とか観光用ですけど」
用途も全く違っていた。日常の移動手段で変わらないのは徒歩くらい。
自分の足で歩かない時に馬に騎乗するか馬車がこの国では車であったり、自転車という人力で動く2つの大きな輪の乗り物だった。
「では、こちらへ。調印式は3日後ですがしばらく滞在する宿までお送りします」
「何から何まで。ありがとう」
木偶よりも手間のかかるドウェインを車に押し込み、王太子は港町を車で宿まで移動した。
その途中だった。
「アイリーン?!」
ずっと黙って碌に食事もせず、声を出すのは夜明けに嗚咽だけだったドウェインが走る車の中から「アイリーンがいる!止めてくれ!」とガラスを叩き出した。
王太子が窓の外を見るも、行交う人の数は多くアイリーンは見つけられなかった。
「ドウェイン。気のせいだ」
「違う!見間違えるはずがない。アレはアイリーンです!お願いだ!止めてくれ!行ってしまう!アイリーンが行ってしまう!」
「ドウェイン!いい加減にするんだ!」
車内でドウェインは後部の窓に顔を張り付けたが、スピードもある車内からやっと見つけたアイリーンの姿はもう見つけられなかった。
☆~★
1回目の妊婦健診の日。
その日は朝から軍用の車両をよく見かけた。
「今日は軍用の車が沢山走ってるわね。何かあるのかしら?」
「どうだろう。艦船が戻ってき始めているからじゃないか?」
「それもそうね」
高台にある家の窓の外からは軍港がよく見える。いつもは5、6隻が停泊しているが今日は戦艦ではないけれど大型艦が係留されていて、数えてみれば16隻もあった。
「今日は健診の日だろう?大きくなってるかな」
「そんなに変わらないわ。だけど不思議ね。吐き気はずっとあるんだけど先生に診てもらえると思うと少し楽なの」
経産婦になれば産み月の手前まで月に1度の健診だが、初産婦は週に1度の健診をするように言われている。初めての妊娠、出産は不安だらけなので安心させるためでもある。
メレディスはレックスと話し合ってアイリーンの健診の日は打ち合わせを行わない事に決めた。
メレディスがアイリーンに付き添うからなのだが、アイリーンは1人で行けると言ってもメレディスが納得しないのだ。
健診の帰りにはアイリーンの具合次第になるけれど、ベビー用品店に寄る事になっている。
冊子には無理のない範囲で歩く事とあるので、距離もそんなにない事から2人は歩いて健診に向かった。
仲良く手を繋いで通りを歩く2人。
1台の軍用車両にかつての夫と王太子が乗車しており、すれ違った事などアイリーンは気付きもしなかった。
1,191
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
可愛らしい人
はるきりょう
恋愛
「でも、ライアン様には、エレナ様がいらっしゃるのでは?」
「ああ、エレナね。よく勘違いされるんだけど、エレナとは婚約者でも何でもないんだ。ただの幼馴染み」
「それにあいつはひとりで生きていけるから」
女性ながらに剣術を学ぶエレナは可愛げがないという理由で、ほとんど婚約者同然の幼馴染から捨てられる。
けれど、
「エレナ嬢」
「なんでしょうか?」
「今日の夜会のパートナーはお決まりですか?」
その言葉でパートナー同伴の夜会に招待されていたことを思い出した。いつものとおりライアンと一緒に行くと思っていたので参加の返事を出していたのだ。
「……いいえ」
当日の欠席は著しく評価を下げる。今後、家庭教師として仕事をしていきたいと考えるのであれば、父親か兄に頼んででも行った方がいいだろう。
「よければ僕と一緒に行きませんか?」
私があなたを好きだったころ
豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」
※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。
【完結】私が誰だか、分かってますか?
美麗
恋愛
アスターテ皇国
時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった
出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。
皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。
そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。
以降の子は妾妃との娘のみであった。
表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。
ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。
残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。
また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。
そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか…
17話完結予定です。
完結まで書き終わっております。
よろしくお願いいたします。
お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ
月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。
泣くのも違う。怒るのも違う。
ただ静かに消えよう。
そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。
画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。
相手に気付かれた? 見られた?
「未練ある」って思われる!?
恐怖でブロックボタンを連打した夜。
カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる