あなたの愛は気泡より軽い

cyaru

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第44話  木偶よりも手間のかかる男

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船の旅は2週間。

王太子とドウェインの部屋は静まり返っていた。余りにも静かなので船員が中の様子を小窓で確認をするが、王太子は椅子に腰かけて本を読んでいて、ドウェインは壁を背にして座り込み虚ろな目で1点を見つめていた。

2、3時間後に覗くと、王太子は本を読んでいるか、書き物をしているか。時に軽くストレッチをしていたがドウェインは微動だにせずやはり1点を見つめていた。

「ドウェイン。滞在は2カ月だ。色々と案内をしてくれるらしい」
「・・・・」
「国はこの先、穀物や鉱物、いろいろと提供するだけになるが、皆の助けになるような技術も見て帰ろう」
「・・・・」

王太子が何を問いかけてもドウェインは返事が出来なかった。
耳には声が聞こえているけれど、どこか遠くで言っている様でドウェインの頭の中にはアイリーンの言葉がずっとグルグルと回っていた。

アイリーンが太陽が上りきる前に海に入ったと聞かされたドウェインが声を出すのは夜明けだけ。
嗚咽を漏らし、アイリーンからの手紙を抱いて泣く時だけだった。

「ちょっとは食べないと体が持たないぞ」
「・・・・」
「手間がかかるな。私の息子の世話の方がまだ楽だ」
「・・・・」

王太子は食事もしようとしないドウェインの口を無理やり開けて、舌で潰せるものを放り込む。
鼻と口を手で塞げば飲み込むので繰り返した。

「これじゃどっちが従者かわからないな」

献花は帰りにすればよかったかと思いつつも、往路に2週間、2カ月滞在で復路に2週間。3か月後になればワスレナグサも枯れてしまうだろうから初日しかなかったのだ、どうこう言っても王家が生贄など愚策しか出せなかったのが悪いと王太子はドウェインの世話をしたのだった。


船が到着をした日。

ドウェインは相変わらずだったが、王太子は軍港の大きさ、設備、全てに目を見張った。
赤子の手をひねるものなんてものじゃない。

見たことも無い黒い物体が道を走っていて、車だと教えられかつてのアイリーンのように驚いた。

「馬車はないんですか?」
「馬車?ありますよ。結婚式とか観光用ですけど」

用途も全く違っていた。日常の移動手段で変わらないのは徒歩くらい。
自分の足で歩かない時に馬に騎乗するか馬車がこの国では車であったり、自転車という人力で動く2つの大きな輪の乗り物だった。


「では、こちらへ。調印式は3日後ですがしばらく滞在する宿までお送りします」
「何から何まで。ありがとう」

木偶よりも手間のかかるドウェインを車に押し込み、王太子は港町を車で宿まで移動した。

その途中だった。

「アイリーン?!」

ずっと黙って碌に食事もせず、声を出すのは夜明けに嗚咽だけだったドウェインが走る車の中から「アイリーンがいる!止めてくれ!」とガラスを叩き出した。

王太子が窓の外を見るも、行交う人の数は多くアイリーンは見つけられなかった。

「ドウェイン。気のせいだ」
「違う!見間違えるはずがない。アレはアイリーンです!お願いだ!止めてくれ!行ってしまう!アイリーンが行ってしまう!」
「ドウェイン!いい加減にするんだ!」

車内でドウェインは後部の窓に顔を張り付けたが、スピードもある車内からやっと見つけたアイリーンの姿はもう見つけられなかった。


☆~★

1回目の妊婦健診の日。
その日は朝から軍用の車両をよく見かけた。

「今日は軍用の車が沢山走ってるわね。何かあるのかしら?」
「どうだろう。艦船が戻ってき始めているからじゃないか?」
「それもそうね」

高台にある家の窓の外からは軍港がよく見える。いつもは5、6隻が停泊しているが今日は戦艦ではないけれど大型艦が係留されていて、数えてみれば16隻もあった。

「今日は健診の日だろう?大きくなってるかな」
「そんなに変わらないわ。だけど不思議ね。吐き気はずっとあるんだけど先生に診てもらえると思うと少し楽なの」

経産婦になれば産み月の手前まで月に1度の健診だが、初産婦は週に1度の健診をするように言われている。初めての妊娠、出産は不安だらけなので安心させるためでもある。

メレディスはレックスと話し合ってアイリーンの健診の日は打ち合わせを行わない事に決めた。
メレディスがアイリーンに付き添うからなのだが、アイリーンは1人で行けると言ってもメレディスが納得しないのだ。

健診の帰りにはアイリーンの具合次第になるけれど、ベビー用品店に寄る事になっている。
冊子には無理のない範囲で歩く事とあるので、距離もそんなにない事から2人は歩いて健診に向かった。

仲良く手を繋いで通りを歩く2人。
1台の軍用車両にかつての夫と王太子が乗車しており、すれ違った事などアイリーンは気付きもしなかった。
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