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第43話 ここは脳外科
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――やっぱりおかしいわ――
朝食を食べると感じる違和感。
大好きなコーンスープの味がおかしい。
パンの香ばしい香りが気持ち悪く感じる。
昨夜も今朝ほどではないにしても白身魚のフライがずっと胃に残っている気がしたし、油の香りが鼻から抜けなかった。
「どうした?ほとんど食べてないぞ?」
「なんだか調子が悪くて」
「大丈夫か?今日は造船会社は行かなくていい日だから医者に行くか?」
「ううん。昨日お昼に欲張ってパンを貰ったから食べ過ぎなのかも」
「食べ過ぎ…そう言えば夕食も少し残してたよな」
「メレディスが作ってくれるからとっても美味しいのよ?美味しくなかったとか嫌いだったとかそう言う事じゃないの。やっぱり欲張ったからだわ」
「じゃぁ胃薬…常備薬があったと思うから取って来る。待ってろ」
メレディスが薬を取りに隣の部屋に行くと、部屋の中の空気が動く。
「うっ…気持ち悪っ…」
アイリーンは吐き気がこみ上げて来てトイレに駆け込んだ。
その音にメレディスは薬を探すのをやめてアイリーンに駆け寄った。
「やっぱり医者に行こう」
背を撫でるメレディスの問いかけに応える余裕も無くアイリーンは吐き続け、口の中を濯いでも水の香りが気持ち悪くなってまた吐いてしまう。
メレディスは真っ青になってアイリーンを横抱きにすると先ずはお隣さんに駆け込んだ。
「すみません。車、出して貰えませんか。妻の様子がおかしいんです」
血相を変えたメレディスにお隣さんもビックリして直ぐに車を出してくれて一番近くにある診療所に駆け込んだのだが、軍医もしている女医は簡単な診察をした後、胸の音ではなく腹の音を聞いていた。
「えーっとご主人さん?来る前に薬とか飲ませた?」
「飲ませてません。飲ませようと――」
「そう、じゃぁあまり振動させないようにしてね」
「はいっ?あの妻の、妻の容体はっ?!」
「来る病院間違ってるわ。ここは脳外科なの。奥さん連れて行くのは産科よ。紹介状書いてあげるわ」
メレディスの脳内に「参加・酸化・賛歌」文字がグルグルと回るがそんな診療科は聞いたことが無くて混乱した。
☆~★
「おめでとうございます…でいいのよね?」
産科の医師も女性。祝福をされたメレディスは茫然とした。
「いいのよねッ!」
「は、はいっ!」
「薬はないわ。ってか、飲ませないで」
「でも気持ち悪いって吐いてて。吐き気止めとか…」
「不要です。酷いようなら連れて来て。点滴するわ。今は食べられるもの、飲めるものを取れる時に取る。いいわね?」
「今、酷いんですけど」
「(クワッ!)今は大丈夫!数値が語ってるわ」
「数値…はい、解りました」
「ホントに判ってる?暫くは右手と頑張りなさいよ?」
「右手…」
「左手でもいいけど奥さんはダメ。いいわね?」
釘を刺されても実感のないメレディスは産科の受付で妊婦さんが役所で発行してもらうマミィノートの申請書類や過ごし方の書かれた冊子を貰うと、一旦アイリーンを家に連れ帰り、寝かせて役所に出向いた。
「若いパパですね。おめでとうございます。こちらがマミィノートです。健診をする時は忘れずに。体調が良い時は近くの公民館などでマミィレッスンとか無料なのでご利用ください。後ろには健診時の割引券とかグッズの無料券もあるのでご利用くださいね。保健師も月に1回。お家に伺わせて頂きますね」
「は、はぁ…」
実感がないが、帰り道にベビー専用の洋品店の前を通りかかるとマミィノートと同じ絵のステッカーがあり、中を覗けば赤ちゃん連れの夫婦がベビーカーを選んでいた。
――ハッ!!俺、子供が出来るんだ――
そう思うと、一刻も早くアイリーンの傍にいてやらないと!!とメレディスは駆けだし、韋駄天の如く家までの道のりを全力で駆けて行った。
「アイリーン!!子供だ!子供が出来た!!」
バッと扉を開けてぐったりするアイリーンに叫ぶ。
「あと半年は…かかるけどね」
現実的なアイリーンの言葉が返ってきた。
☆~★
仕事にも行ける状態ではなくなったアイリーンは造船会社は退職するしかなかった。
育児が落ち着いたらまたおいでと言われたが、折角務めて皆とも仲良くやれていたが今、一番大事なのは母子ともに健康で出産をする事と言われ、休業ではなく退職を選んだのだ。
女性の働く職場は多くて結婚を機に退職する人は減ったが、出産はその後の育児もあるため退職する女性が多い。その分、国を挙げて復職時にはサポートやケアが受けられるようになっている。
リリーは仲良かったアイリーンの退職に号泣したが、妊娠と言う慶事に訳す仕事の事などすっかりどこかに飛んでしまっていたのだった。
朝食を食べると感じる違和感。
大好きなコーンスープの味がおかしい。
パンの香ばしい香りが気持ち悪く感じる。
昨夜も今朝ほどではないにしても白身魚のフライがずっと胃に残っている気がしたし、油の香りが鼻から抜けなかった。
「どうした?ほとんど食べてないぞ?」
「なんだか調子が悪くて」
「大丈夫か?今日は造船会社は行かなくていい日だから医者に行くか?」
「ううん。昨日お昼に欲張ってパンを貰ったから食べ過ぎなのかも」
「食べ過ぎ…そう言えば夕食も少し残してたよな」
「メレディスが作ってくれるからとっても美味しいのよ?美味しくなかったとか嫌いだったとかそう言う事じゃないの。やっぱり欲張ったからだわ」
「じゃぁ胃薬…常備薬があったと思うから取って来る。待ってろ」
メレディスが薬を取りに隣の部屋に行くと、部屋の中の空気が動く。
「うっ…気持ち悪っ…」
アイリーンは吐き気がこみ上げて来てトイレに駆け込んだ。
その音にメレディスは薬を探すのをやめてアイリーンに駆け寄った。
「やっぱり医者に行こう」
背を撫でるメレディスの問いかけに応える余裕も無くアイリーンは吐き続け、口の中を濯いでも水の香りが気持ち悪くなってまた吐いてしまう。
メレディスは真っ青になってアイリーンを横抱きにすると先ずはお隣さんに駆け込んだ。
「すみません。車、出して貰えませんか。妻の様子がおかしいんです」
血相を変えたメレディスにお隣さんもビックリして直ぐに車を出してくれて一番近くにある診療所に駆け込んだのだが、軍医もしている女医は簡単な診察をした後、胸の音ではなく腹の音を聞いていた。
「えーっとご主人さん?来る前に薬とか飲ませた?」
「飲ませてません。飲ませようと――」
「そう、じゃぁあまり振動させないようにしてね」
「はいっ?あの妻の、妻の容体はっ?!」
「来る病院間違ってるわ。ここは脳外科なの。奥さん連れて行くのは産科よ。紹介状書いてあげるわ」
メレディスの脳内に「参加・酸化・賛歌」文字がグルグルと回るがそんな診療科は聞いたことが無くて混乱した。
☆~★
「おめでとうございます…でいいのよね?」
産科の医師も女性。祝福をされたメレディスは茫然とした。
「いいのよねッ!」
「は、はいっ!」
「薬はないわ。ってか、飲ませないで」
「でも気持ち悪いって吐いてて。吐き気止めとか…」
「不要です。酷いようなら連れて来て。点滴するわ。今は食べられるもの、飲めるものを取れる時に取る。いいわね?」
「今、酷いんですけど」
「(クワッ!)今は大丈夫!数値が語ってるわ」
「数値…はい、解りました」
「ホントに判ってる?暫くは右手と頑張りなさいよ?」
「右手…」
「左手でもいいけど奥さんはダメ。いいわね?」
釘を刺されても実感のないメレディスは産科の受付で妊婦さんが役所で発行してもらうマミィノートの申請書類や過ごし方の書かれた冊子を貰うと、一旦アイリーンを家に連れ帰り、寝かせて役所に出向いた。
「若いパパですね。おめでとうございます。こちらがマミィノートです。健診をする時は忘れずに。体調が良い時は近くの公民館などでマミィレッスンとか無料なのでご利用ください。後ろには健診時の割引券とかグッズの無料券もあるのでご利用くださいね。保健師も月に1回。お家に伺わせて頂きますね」
「は、はぁ…」
実感がないが、帰り道にベビー専用の洋品店の前を通りかかるとマミィノートと同じ絵のステッカーがあり、中を覗けば赤ちゃん連れの夫婦がベビーカーを選んでいた。
――ハッ!!俺、子供が出来るんだ――
そう思うと、一刻も早くアイリーンの傍にいてやらないと!!とメレディスは駆けだし、韋駄天の如く家までの道のりを全力で駆けて行った。
「アイリーン!!子供だ!子供が出来た!!」
バッと扉を開けてぐったりするアイリーンに叫ぶ。
「あと半年は…かかるけどね」
現実的なアイリーンの言葉が返ってきた。
☆~★
仕事にも行ける状態ではなくなったアイリーンは造船会社は退職するしかなかった。
育児が落ち着いたらまたおいでと言われたが、折角務めて皆とも仲良くやれていたが今、一番大事なのは母子ともに健康で出産をする事と言われ、休業ではなく退職を選んだのだ。
女性の働く職場は多くて結婚を機に退職する人は減ったが、出産はその後の育児もあるため退職する女性が多い。その分、国を挙げて復職時にはサポートやケアが受けられるようになっている。
リリーは仲良かったアイリーンの退職に号泣したが、妊娠と言う慶事に訳す仕事の事などすっかりどこかに飛んでしまっていたのだった。
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