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第42話 短い手紙
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王太子を追いかけて部屋に飛び込んだドウェインは不敬などどうでもいい。王太子の二の腕を掴み、前後に揺すった。
「殿下、どういう事なんです?何故アイリーンに献花を?死んだって事ですか?!何故?」
「落ち着け。と言っても無理だろうが」
「落ち着いています。お願いです。殿下はアイリーンの事をまるで知らないかのように言いましたよね?どういう事なんですか!」
「ドウェイン」
錯乱しそうに、いや錯乱しているドウェインに王太子は真っすぐ目を見て名を呼んだ。
動きを止めたドウェインに王太子は静かに言った。
「先に言っておく。これは彼女が選んだ事だ。国として生贄を求めたのは事実だがぎりぎりの直前になって気が変わっても咎める事も罰する事も無い。それを告げた上で彼女が選んだことだ」
生贄とショッキングな言葉にドウェインの目が見開き、王太子の二の腕を掴む手に力が入った。
「長く海が荒れて、国として海を鎮めるために生贄を捧げる事を決めた。何人か娘を使ってくれと申し出る家はあったが、彼女だけが無理やりではなく自主的に申し出て来たんだ」
「自主的に?あり得ません!!」
「本当にあり得ないと言い切れるか?」
「言い切れます!私はアイリーンを愛しているしアイリーンだって同じ気持ちなんです」
「そうかな?彼女が申し入れてきたのはお前が侯爵家に長い愛人遊びから戻る3カ月も前の事だったぞ」
「え」小さな声と同時にドウェインの手が王太子の二の腕からスルリと落ちた。
「彼女の友人も妃も侯爵家の使用人も皆が止めた。考え直せと何度も言った。だが彼女の気持ちは変わらなかった。何故だかわかるか?」
「私が‥‥不貞をしていた事、やはり知っていたのですか?」
「そんな言葉を吐くと言う事は見せつけていたか。最低だな」
「そんな事はしていません!家令に…言われたんです、侯爵家にいた者は知っていると…」
「そうか。彼女は言ったんだよ」
「何を…言ったんですか」
王太子はひと呼吸おいて告げた。
「ドウェインには真に愛する女性が出来た。自分が身を引くのが一番だ。痕跡が残ればお前が愛する女もいい気はしない。だから全てを消す、生まれた事すら消すのだとな」
「違う!違う…アイリーン!私はっアイリーン以外は愛せないのに!!」
「本当にそうか?彼女はお前が別の女に愛の言葉を囁く場を見たんだ。その後は…女に物を買えば請求が何処に来るか。考えもしない程に溺れたのだろう?」
「違いますっ!!私は!!」
「言い訳を吐く相手が違うだろう。尤も…言い訳も謝罪も今となっては出来ないがな。これは家令から預かった手紙だ。家令の手に負えなくなれば渡してくれと頼まれたそうだ。真実の愛の相手が傍に居れば不要だったようだと言われたが」
王太子の差し出した封書。ドウェインには見覚えがあった。
アイリーンが大切な人にだけ出す手紙に使っていた封書だ。
封を切るとほんの少し。ドウェインでなければ気が付かない僅か。アイリーンの香りがした。
震える手で中の便せんを取り出すが、震えが大きく「あ、あ、あ」母音を漏らすだけでドウェインは文字が読めなかった。
「しっかりしろ」
王太子は向かい合ってドウェインの手首を掴んだ。
揺れが小さくなり、ドウェインの目にアイリーンの書いた文字が飛び込んできた。
☆~☆
ドウェイン。
真に愛する女性との幸せが得られた事を、誰よりも祝福しています。
結婚おめでとうございます。
お幸せに。
☆~☆
短い文章だが、インクのない文字が幾つも重なっているのは書いては破り、書いては破りとしたのだろう。
照明に窪みが文字を見せると何も書かれていない白紙の部分に「愛して」「幸せだった」そんな文字が見えた時、罵倒する文字が並んでいれば。責める言葉であれば。どれくらい許された気になっただろう。
ドウェインは愚かな行いを悔い、涙が溢れて止まらなくなった。
ふとアイリーンの声がした気がして、もう遠く離れた王太子が花を投げ入れた方を振り返る。
【他に愛する人が出来たらちゃんと言って】
【私は貴方の足かせになりたくない】
ドウェインの耳にアイリーンの言葉が聞こえた。
「私っ…私はっ…なんてことを…アイリーン、アイリ…ウアァァァーッ!!」
「祝いの言葉だが、これはお前を諭す手紙だな。手が付けられなくった時に渡せとは。彼女らしいな」
バッと立ち上がったドウェインは船室から出て行こうとしたが王太子はドウェインの腕を掴んで首をゆっくり横に振った。
「殿っ…殿下っ…離してくださいっ!アイリーンがこんな広い海で!!たった1人でっ!!」
「ドウェイン。自死など考えるなッ!!本当に愛しているのならお前だけでもずっと弔ってやらねば彼女の事を人はいずれ忘れていくのだぞ」
王太子に腕を掴まれたままドウェインはその場に崩れ落ちた。
「アァァーッ…アイリッ…アイリーンッ!ガハァーッウグワァー」
「殿下、どういう事なんです?何故アイリーンに献花を?死んだって事ですか?!何故?」
「落ち着け。と言っても無理だろうが」
「落ち着いています。お願いです。殿下はアイリーンの事をまるで知らないかのように言いましたよね?どういう事なんですか!」
「ドウェイン」
錯乱しそうに、いや錯乱しているドウェインに王太子は真っすぐ目を見て名を呼んだ。
動きを止めたドウェインに王太子は静かに言った。
「先に言っておく。これは彼女が選んだ事だ。国として生贄を求めたのは事実だがぎりぎりの直前になって気が変わっても咎める事も罰する事も無い。それを告げた上で彼女が選んだことだ」
生贄とショッキングな言葉にドウェインの目が見開き、王太子の二の腕を掴む手に力が入った。
「長く海が荒れて、国として海を鎮めるために生贄を捧げる事を決めた。何人か娘を使ってくれと申し出る家はあったが、彼女だけが無理やりではなく自主的に申し出て来たんだ」
「自主的に?あり得ません!!」
「本当にあり得ないと言い切れるか?」
「言い切れます!私はアイリーンを愛しているしアイリーンだって同じ気持ちなんです」
「そうかな?彼女が申し入れてきたのはお前が侯爵家に長い愛人遊びから戻る3カ月も前の事だったぞ」
「え」小さな声と同時にドウェインの手が王太子の二の腕からスルリと落ちた。
「彼女の友人も妃も侯爵家の使用人も皆が止めた。考え直せと何度も言った。だが彼女の気持ちは変わらなかった。何故だかわかるか?」
「私が‥‥不貞をしていた事、やはり知っていたのですか?」
「そんな言葉を吐くと言う事は見せつけていたか。最低だな」
「そんな事はしていません!家令に…言われたんです、侯爵家にいた者は知っていると…」
「そうか。彼女は言ったんだよ」
「何を…言ったんですか」
王太子はひと呼吸おいて告げた。
「ドウェインには真に愛する女性が出来た。自分が身を引くのが一番だ。痕跡が残ればお前が愛する女もいい気はしない。だから全てを消す、生まれた事すら消すのだとな」
「違う!違う…アイリーン!私はっアイリーン以外は愛せないのに!!」
「本当にそうか?彼女はお前が別の女に愛の言葉を囁く場を見たんだ。その後は…女に物を買えば請求が何処に来るか。考えもしない程に溺れたのだろう?」
「違いますっ!!私は!!」
「言い訳を吐く相手が違うだろう。尤も…言い訳も謝罪も今となっては出来ないがな。これは家令から預かった手紙だ。家令の手に負えなくなれば渡してくれと頼まれたそうだ。真実の愛の相手が傍に居れば不要だったようだと言われたが」
王太子の差し出した封書。ドウェインには見覚えがあった。
アイリーンが大切な人にだけ出す手紙に使っていた封書だ。
封を切るとほんの少し。ドウェインでなければ気が付かない僅か。アイリーンの香りがした。
震える手で中の便せんを取り出すが、震えが大きく「あ、あ、あ」母音を漏らすだけでドウェインは文字が読めなかった。
「しっかりしろ」
王太子は向かい合ってドウェインの手首を掴んだ。
揺れが小さくなり、ドウェインの目にアイリーンの書いた文字が飛び込んできた。
☆~☆
ドウェイン。
真に愛する女性との幸せが得られた事を、誰よりも祝福しています。
結婚おめでとうございます。
お幸せに。
☆~☆
短い文章だが、インクのない文字が幾つも重なっているのは書いては破り、書いては破りとしたのだろう。
照明に窪みが文字を見せると何も書かれていない白紙の部分に「愛して」「幸せだった」そんな文字が見えた時、罵倒する文字が並んでいれば。責める言葉であれば。どれくらい許された気になっただろう。
ドウェインは愚かな行いを悔い、涙が溢れて止まらなくなった。
ふとアイリーンの声がした気がして、もう遠く離れた王太子が花を投げ入れた方を振り返る。
【他に愛する人が出来たらちゃんと言って】
【私は貴方の足かせになりたくない】
ドウェインの耳にアイリーンの言葉が聞こえた。
「私っ…私はっ…なんてことを…アイリーン、アイリ…ウアァァァーッ!!」
「祝いの言葉だが、これはお前を諭す手紙だな。手が付けられなくった時に渡せとは。彼女らしいな」
バッと立ち上がったドウェインは船室から出て行こうとしたが王太子はドウェインの腕を掴んで首をゆっくり横に振った。
「殿っ…殿下っ…離してくださいっ!アイリーンがこんな広い海で!!たった1人でっ!!」
「ドウェイン。自死など考えるなッ!!本当に愛しているのならお前だけでもずっと弔ってやらねば彼女の事を人はいずれ忘れていくのだぞ」
王太子に腕を掴まれたままドウェインはその場に崩れ落ちた。
「アァァーッ…アイリッ…アイリーンッ!ガハァーッウグワァー」
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