あなたの愛は気泡より軽い

cyaru

文字の大きさ
41 / 52

第41話  告げられた事実

しおりを挟む
生まれて初めて乗船する軍艦はまるで陸にいるかのように揺れる事も無い。
大波を超えると ”エアーポケットに落ちる感じ” と船員に説明をされたがエアーポケットの経験もないし初めて聞く言葉なので想像も出来なかった。

「こちらが船にいる間、利用して頂く船室です」

案内された部屋はタコ部屋のような場所に放り込まれると思ったのに離宮であてがわれた部屋よりも立派だった。

テーブルの上には固定具があって、テーブルの上に食器などを置いた時に横滑りさせないものだと説明を受けた。

気になったのは開かない窓の枠が棚になっていて、置かれていた物体。

「これは、なんです?」
「ラジオですよ。ここは…どうでしょうか。貸してみてください。電波拾えるかも知れません」
「ラジオ?電波?」

王太子と声を揃えて驚いていると、ザーザーと聞こえる音の中に僅かに人の声がした気がした。さらに船員がネジのような突起を弄ると…。

「☆#&%9―――」

何を言っているかは聞き取れなかったが、ハッキリと人の声と判る音が聞こえた。

「こ、声?人の声ですよね?」
「えぇ。ラジオですからね。国に近くなればもっとはっきり聞こえますよ」
「その箱に小人が入っているのではなく?!」
「ハハハ。入っていませんよ。音を電波に乗せているんです。ラジオは受信機ですから電波を拾えば聞こえるんです」

――サッパリ解らない。人が入っているんじゃないのか?――

船員からラジオを受け取り、振ってみたり目を凝らして中を見てみるが王太子もドウェインも理解が追い付かなかった。

「こんな摩訶不思議な道具を使いこなす国を相手には何をしても勝てそうにないな」
「そうですね」
「それはそうと…」

王太子は船員に出航したあとで、櫓を漕いで4,5時間の地点に来たら教えて欲しいこと、その時に甲板に出たい事を伝えた。

「何をするんです」
「弔いです。花も持ってきたので」
「献花ですか…船長に聞いてきます。もしかすると花は無理かも知れません。花束とか投げる習慣のある国もあるんですけど、結局ゴミなので海洋投棄はわが国では禁止されているんです」


船員が2人を部屋に残し出て行くとドウェインは王太子に問うた。
王太子が渓谷であったり、事故のあった街道に献花をする事はあったけれど櫓を漕いで4、5時間となると陸地の見える場所ではないし、漁に出た漁師が命を落としたのなら合同慰霊祭があるのでそちらに献花をしていたはず。

「献花って…どなたかお知り合いが?」
「知り合いになるかな。ただ…こんな事態になった以上申し訳ないと思ってな」
「はぁ。でも花なんて持ってきてましたか?」
「妃に聞いてな。好きだった花を持ってきた。海に献花すると言っても切り花ではないからダメかも知れないな」
「献花なのに切り花ではないんですか」
「小さくてね」

王太子はそう言うけれど、王太子もドウェインも荷物は少ない。この部屋の中にあるのだが花らしきものは見える範囲になかった。

船が出航すると小窓から景色が流れていくので動いているのだなと判る。あとは音だ。ドッドッドとトラックのエンジン音にも似ている大きな音が足元から響いて来た。

コンコンコン。

扉がノックされて先ほどの船員が顔を出した。

「船長から許可が下りました。但し花は包んでいる紙などがあれば外してください。花だけでお願いします。櫓で4、5時間でしたらあっという間で、サブリーナ島の手前になるので間もなくです」
「ありがとう。助かるよ」

王太子は船員に礼を言うと荷物に近づき、紐で縛った封を解くと蓋を開けた。

「オルゴール…ですか?」
「いや、娘の宝石箱だ。入れ物が無くてな。時期ではないから探すのが大変だった」

両手の手のひらサイズの宝石箱なので切り花であるならコスモスやマーガレットの花の部分だけが入っている大きさだ。既に手折っているのでもう萎びているだろうと思いつつドウェインは王太子の後ろをついて甲板に出た。

相当のスピードで船は走っているので、髪が風に棚引く。

「こちらへ。ここからなら海に花を投げ入れやすいと思います」

船員の声に王太子は大事に抱えた宝石箱の蓋を開けた。

「ほんの少し。土が付いているんだが構わないだろうか」
「そうですね。その程度なら…一応私は見なかった事にします」
「助かる。ありがとう」

中を覗き込んだ船員と入れ替わりに王太子の隣に並んだドウェインは宝石箱の中を見て息が止まった。

「殿下。その花は…」
「ワスレナグサ。彼女が大好きだった花だ」
「彼女…って…」

王太子は宝石箱から指先で掬うようにワスレナグサを取り出すと海に投げ入れた。
静かに目を閉じ、黙とうを捧げるとドウェインを見た。

「君の妻だったアイリーン・ブランジネ侯爵夫人だ」
「ど、どうして…何故なんです?!殿下!教えてください!」
「部屋に戻ろう。君の家にいた家令から手紙も預かっている。彼女が君宛に書いた手紙だ」

王太子は先に部屋に戻ったが、ドウェインは王太子の背中と花を投げ入れた海を交互に見て王太子の姿が中に消えると慌てて追いかけて行った。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

私があなたを好きだったころ

豆狸
恋愛
「……エヴァンジェリン。僕には好きな女性がいる。初恋の人なんだ。学園の三年間だけでいいから、聖花祭は彼女と過ごさせてくれ」 ※1/10タグの『婚約解消』を『婚約→白紙撤回』に訂正しました。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

処理中です...