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第02話 ペルタスの借金
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ペルタスは床に突っ伏せ、額を床に擦りつけてアイリーンに懇願した。
「いったいどうしたの?お兄様」
「本当にっ!本当にすまないっ!頼まれてくれッ!!」
ペルタスは王都に行き、真面目に働いていたのだが同期の騎士に誘われるまま賭博に手を出してしまった。「博才がある」と周囲に煽てられて、勝てば大盤振る舞い、負ければ金貸しから金を借りてまた賭ける。いい気になり気が付いたら借金で首が回らなくなってしまった。
賭博に合法はなく全てにおいて違法。博打で金を使い果たしてしまい借金取りに追われる生活。隊の規律違反を犯してしまったペルタスはたった1年足らずで騎士を辞めねばならなくなった。
食べる物もなく、寝る場所も無い。
ペルタスは伯爵領に帰ろうと思ったのだが王都を出るにも関所で通行税にあたる金が必要。その金も無かった事から教会で寝る場所と食事が提供されると聞き、実に1年も教会で生活をしていたと言う。
「礼拝に来るご夫人を偶々助けたんだ」
馬車から降り、数段の階段を上ろうとした夫人が最後の1段で躓き転びそうになったところを掃除をしていたペルタスが助け、その縁で何度か礼拝の際に話をする機会があった。
寂しさもあったペルタスはつい夫人の優しい口調に相談をしてしまった。
「助けてもらおうとかそういうつもりはなくて・・・田舎には父と祖父母、妹がいると話をしてしまって・・・」
手紙一つ寄越さなかったペルタス。祖母が亡くなった事を知らせるためにアイリーンは騎士団に手紙を送ったのだが、その頃にはもう教会に世話になっていたため、ペルタスは祖母の死すら知らなかったのだ。
「でもそのご夫人が助けてくれたんでしょう?何故私に謝るの?」
「それが‥‥」
言い淀むペルタスに代わって父親が力なくアイリーンに理由を告げた。
「高利貸しからの借金を肩代わりする代わりにアイリーンを嫁にやると言ったらしい」
「えっ?!」
「違うんだ!最初は冗談だと思ってたんだ。借金は・・・借りた金は50万だったのに利息が利息を産んで500万位なってた。でも!なんとか自分で返そうと思ってた。肩代わりしてくれるなんて冗談としか思わなかったんだ!」
必死に否定をするペルタスだが、借りた元金が50万でも高利貸しから借りたのならあっという間に膨れ上がるのは子供でも分かる事。
そして事もあろうか‥‥
「こいつは金を立て替えて貰っただけでなく、図々しくもここに戻る費用も借りて・・・その金で博打にまた手を出したんだ」
「増えると思ったんだ!20万あったから半分で倍になると思っただけなんだ!」
「倍になるどころか全部スって、また借りたんだろう?」
「だって手土産の一つでもないとと・・・思った・・・から・・・」
「そんな手土産なんぞ要らんっ!出て行け!妹を金で売るなんぞ鬼畜にも劣・・・げほっげほっ」
黙って聞いていた祖父が堪えきれずに声を張り上げてしまい咽こんだ。
ペルタスの相談にも乗っていた夫人はペルタスの借金500万を肩代わりし、帰省費用として20万を2回貸した。その対価は妹のアイリーンを子息に嫁がせる事。
2回目の帰省費用を借りてしまったペルタスに「2週間以内に連れて来ない時は詐欺だと訴え出る」と言ったと言う。詐欺は平民であれば全額弁済しても懲役刑。
金を返しても騙した事実は覆らない。
そもそもで、金を返そうにもモストク伯爵家には金がない。
碌な産業も無いこの領地を担保に金を貸してくれる商会があるならとっくに借りている。父親のヤラカシで激怒した公爵家は「だからこそ」この領地だけは慰謝料の「お品書き」から外したのだ。
担保にすらならない領地しかないモストク伯爵家にペルタスが立て替えてもらった金を返す術はなかった。
問題はそれだけではない。
伯爵家という爵位を持つモストク伯爵家は詐欺で訴えられるであろうペルタスの刑が確定すれば領地も爵位も没収されて借金だけが残る。罪が確定するまでは領地を売る事も爵位を自ら国王陛下に返上する事も許されない。
今の時点で領地を売り、爵位を返上しても遡って無かった事にされてしまう。
何かと優遇されている貴族はペナルティも大きい。
領地を失えば祖父と父、アイリーンは住む場所も失うがそれは領民も同じ。
新しい領主の元で働けるかどうかは領主次第なので、出て行けと言われれば出ていくしかない。
と、なれば・・・残された道はアイリーンが嫁ぐ以外にない。
「息子も愚かなら孫も愚か。こんな事なら養子縁組なんぞするのではなかった。先祖代々引き継いできたからと・・・悔やまれてならない」
入り婿だった祖父も女伯爵となった祖母には家督相続について逆らえなかったのかも知れないが、アイリーンは家族の事よりも領民達の方が気がかりだった。
ただでさえ収益の上がらない土地。悪い噂は兎角足が速いもので、聞こえてくる噂の中にはこの領地を王都の水瓶にする為に開発工事の話が持ち上がっているとも聞く。
領主が借金で領地を手放したり、最悪ペルタスが有罪となれば領地は没収される。そうなれば国も領の持ち主と交渉をせずに済むので領民は着の身着のままで追い出されてしまうのは目に見えている。
アイリーンは覚悟を決めた。
「判りました。嫁ぎます。ですが!金輪際博打や借金には手を出さない。お兄様。約束してください」
「アイリーン・・・勿論だよ。でも…ごめん・・・ごめんよぅ・・・」
ぐすぐすと泣いて詫びる兄のペルタス。
父親は自身の過去の愚行もあっただろうが、金で事が済まない事態を引き起こし、突っ伏して咽び泣くペルタスに「謝るくらいなら!!」と怒声を浴びせ、手を振り上げたが祖父の声に阻まれた。
「お前が要らぬことをせなんだら!借金など余裕で返せたんだッ!」
困窮の原因を突きつけられて、モストク伯爵は振り上げた手を止めた。
幼い頃は判らなくても成長すれば貧しい暮らしの原因など誰に聞くともなく知ってしまうもの。現状を受け入れ、誰もモストク伯爵を責めることはなかったし、父を養子にと望んだ亡き祖母を問い詰める事もしなかった。
それはもう「今更」の事だし、責めて何が変わるわけでもない。
アイリーンは諭すように努めて静かに声を発した。
「お爺様、お父様、家族の為に嫁ぐのではありません。領民の為に嫁ぐのです」
アイリーンの声に祖父は「行かなくていい!」と言い残し奥の部屋に引き込んだ。
「いったいどうしたの?お兄様」
「本当にっ!本当にすまないっ!頼まれてくれッ!!」
ペルタスは王都に行き、真面目に働いていたのだが同期の騎士に誘われるまま賭博に手を出してしまった。「博才がある」と周囲に煽てられて、勝てば大盤振る舞い、負ければ金貸しから金を借りてまた賭ける。いい気になり気が付いたら借金で首が回らなくなってしまった。
賭博に合法はなく全てにおいて違法。博打で金を使い果たしてしまい借金取りに追われる生活。隊の規律違反を犯してしまったペルタスはたった1年足らずで騎士を辞めねばならなくなった。
食べる物もなく、寝る場所も無い。
ペルタスは伯爵領に帰ろうと思ったのだが王都を出るにも関所で通行税にあたる金が必要。その金も無かった事から教会で寝る場所と食事が提供されると聞き、実に1年も教会で生活をしていたと言う。
「礼拝に来るご夫人を偶々助けたんだ」
馬車から降り、数段の階段を上ろうとした夫人が最後の1段で躓き転びそうになったところを掃除をしていたペルタスが助け、その縁で何度か礼拝の際に話をする機会があった。
寂しさもあったペルタスはつい夫人の優しい口調に相談をしてしまった。
「助けてもらおうとかそういうつもりはなくて・・・田舎には父と祖父母、妹がいると話をしてしまって・・・」
手紙一つ寄越さなかったペルタス。祖母が亡くなった事を知らせるためにアイリーンは騎士団に手紙を送ったのだが、その頃にはもう教会に世話になっていたため、ペルタスは祖母の死すら知らなかったのだ。
「でもそのご夫人が助けてくれたんでしょう?何故私に謝るの?」
「それが‥‥」
言い淀むペルタスに代わって父親が力なくアイリーンに理由を告げた。
「高利貸しからの借金を肩代わりする代わりにアイリーンを嫁にやると言ったらしい」
「えっ?!」
「違うんだ!最初は冗談だと思ってたんだ。借金は・・・借りた金は50万だったのに利息が利息を産んで500万位なってた。でも!なんとか自分で返そうと思ってた。肩代わりしてくれるなんて冗談としか思わなかったんだ!」
必死に否定をするペルタスだが、借りた元金が50万でも高利貸しから借りたのならあっという間に膨れ上がるのは子供でも分かる事。
そして事もあろうか‥‥
「こいつは金を立て替えて貰っただけでなく、図々しくもここに戻る費用も借りて・・・その金で博打にまた手を出したんだ」
「増えると思ったんだ!20万あったから半分で倍になると思っただけなんだ!」
「倍になるどころか全部スって、また借りたんだろう?」
「だって手土産の一つでもないとと・・・思った・・・から・・・」
「そんな手土産なんぞ要らんっ!出て行け!妹を金で売るなんぞ鬼畜にも劣・・・げほっげほっ」
黙って聞いていた祖父が堪えきれずに声を張り上げてしまい咽こんだ。
ペルタスの相談にも乗っていた夫人はペルタスの借金500万を肩代わりし、帰省費用として20万を2回貸した。その対価は妹のアイリーンを子息に嫁がせる事。
2回目の帰省費用を借りてしまったペルタスに「2週間以内に連れて来ない時は詐欺だと訴え出る」と言ったと言う。詐欺は平民であれば全額弁済しても懲役刑。
金を返しても騙した事実は覆らない。
そもそもで、金を返そうにもモストク伯爵家には金がない。
碌な産業も無いこの領地を担保に金を貸してくれる商会があるならとっくに借りている。父親のヤラカシで激怒した公爵家は「だからこそ」この領地だけは慰謝料の「お品書き」から外したのだ。
担保にすらならない領地しかないモストク伯爵家にペルタスが立て替えてもらった金を返す術はなかった。
問題はそれだけではない。
伯爵家という爵位を持つモストク伯爵家は詐欺で訴えられるであろうペルタスの刑が確定すれば領地も爵位も没収されて借金だけが残る。罪が確定するまでは領地を売る事も爵位を自ら国王陛下に返上する事も許されない。
今の時点で領地を売り、爵位を返上しても遡って無かった事にされてしまう。
何かと優遇されている貴族はペナルティも大きい。
領地を失えば祖父と父、アイリーンは住む場所も失うがそれは領民も同じ。
新しい領主の元で働けるかどうかは領主次第なので、出て行けと言われれば出ていくしかない。
と、なれば・・・残された道はアイリーンが嫁ぐ以外にない。
「息子も愚かなら孫も愚か。こんな事なら養子縁組なんぞするのではなかった。先祖代々引き継いできたからと・・・悔やまれてならない」
入り婿だった祖父も女伯爵となった祖母には家督相続について逆らえなかったのかも知れないが、アイリーンは家族の事よりも領民達の方が気がかりだった。
ただでさえ収益の上がらない土地。悪い噂は兎角足が速いもので、聞こえてくる噂の中にはこの領地を王都の水瓶にする為に開発工事の話が持ち上がっているとも聞く。
領主が借金で領地を手放したり、最悪ペルタスが有罪となれば領地は没収される。そうなれば国も領の持ち主と交渉をせずに済むので領民は着の身着のままで追い出されてしまうのは目に見えている。
アイリーンは覚悟を決めた。
「判りました。嫁ぎます。ですが!金輪際博打や借金には手を出さない。お兄様。約束してください」
「アイリーン・・・勿論だよ。でも…ごめん・・・ごめんよぅ・・・」
ぐすぐすと泣いて詫びる兄のペルタス。
父親は自身の過去の愚行もあっただろうが、金で事が済まない事態を引き起こし、突っ伏して咽び泣くペルタスに「謝るくらいなら!!」と怒声を浴びせ、手を振り上げたが祖父の声に阻まれた。
「お前が要らぬことをせなんだら!借金など余裕で返せたんだッ!」
困窮の原因を突きつけられて、モストク伯爵は振り上げた手を止めた。
幼い頃は判らなくても成長すれば貧しい暮らしの原因など誰に聞くともなく知ってしまうもの。現状を受け入れ、誰もモストク伯爵を責めることはなかったし、父を養子にと望んだ亡き祖母を問い詰める事もしなかった。
それはもう「今更」の事だし、責めて何が変わるわけでもない。
アイリーンは諭すように努めて静かに声を発した。
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