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第25話 関係は1歩進んで万歩下がる
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「ごめん…みっともない所をみせてしまった」
今も部屋の中にシルフィと2人きりだと思うと、胸の拍動が激しいがロイスは部屋に戻り椅子に腰かけると落ち着きを取り戻した。
「寒いのに上着も着ずに工房に行ったからかしら。流感も流行りだしていますし休息を取るのが一番ですわね」
寝台の準備をしてくれるシルフィの姿を見て、言葉を聞きながらロイスは自分の気持ちに問いかける。
==僕は…彼女に惹かれているんだな==
屈辱的な言葉をかけてしまったのに、シルフィは何時だってロイスには優しい。
シルフィが来てからは今まで知らなかった事を知った。
食事は席についただけではありつけるものではない事。
これまでしてきた執務は執務とは言えないようなものだった事。
清潔な寝具で寝られるのは洗濯をしてくれる人がいるからだと言う事。
自分だけでシャツを着られた日。ロイスの中には感動があった。
たったそれだけと笑わそうだが、ロイスは被ればいいだけの肌着すら自分で着た事はなかった。
胸のボタンを留めるのに1時間半かかったのは今では笑い話。
シルフィはロイスが何も出来なくても笑わなかったし、シフト表は「見やすい!解りやすい!」と褒めてくれた。
一緒に生活をする事で大金は手に入ったけれど、贅沢をする訳ではない。
グレイスだったら…と考えてみる。
父から小遣いだと渡された日は必ずグレイスの元に行き、グレイスの欲しがるものを買ってやった。
翌月にはもう引き出しの中でごっちゃにつっこまれている品は日の目を見る事もない。
それでも「そんなものだ」と思って新しい物を買い与えた。
金額は張るけれど、美味しいと評判の店に行きグレイスと食事をした。
金額が金額だけに確かに美味しかった。
けれど…。
「つまみ食いが一番おいしい」と言いながら「うっ!中がまだ固い!」と一緒に芋をつまみ食いした時の方が美味しかったし、着飾らなくてもシルフィはいつも笑顔でロイスには宝石以上に輝いて見えた。
社交用のドレスだってやっと先月シルフィは買ったけれど、それすら教会のバザーで売られていたもので、手を入れないといけないのにシルフィは大事に手入れをしている。
==ちゃんとしないと==
ロイスは椅子から立ち上がると寝台をそろそろ整え終わるシルフィの元に歩み寄った。
「シルフィ」
「へ?‥あれ?呼び捨てでしたっけ?」
「僕の事もロイス、いや、ロイって呼んでくれないか?」
「嫌ですけど?」
まさかの即答お断りだった。
「さ、さ、寝てください。風邪は引き始めにどう対応するかが大事なんです。今夜はパン粥にしときますね」
「あの、シルフィ。話が‥」
「話は風邪を治した後です。あんな高熱、よく立っていられましたよね。精神論はもう流行らないんですよ?歌にもあるじゃないですか」
「歌?そんな歌あったっけ?」
「よぉく考えよぅ~健康は大事だよ~♪」
「それ、お金」
「あ、あら、違った?あ、こっちだった。体はひっとつぅ!体はひっとつぅ!♪」
「それ、地球な」
「‥‥寝なさい」
デレてはいないが、歌った事で恥ずかしくなり頬を赤くするシルフィに「可愛いな」とロイスはポロリ。言葉を零してしまった。
サッと木彫りのトーテムポールを手に取ったシルフィ。
魔除けになるとバザーでおまけに貰った逸品である。
「可愛いですよね。見る人によっては!ですけどっ!」
グイっとトーテムポールをロイスに抱かせてシルフィは「パン粥作ってきます」と部屋を出て行った。
「あはは。失敗しちゃったな。どうすればいいかな?」
ロイスはトーテムポールに語り掛けたが答えは返ってこない。
流感などではないが、体を包むこの熱は多分、一生冷める事はないのかも知れないと思いながらシルフィがパン粥を持ってきてくれた時のために寝台に潜り込み、トーテムポールを添い寝させた。
疲れていたのかも知れないし、もしかすると本当に風邪を引いてしまったのか。
寝落ちをしてしまったロイスだったが、目を覚ますと同時に飛び起きた。
「もぉ、言ってくれれば私がいつでも添い寝するのにぃ♡」
添い寝をしたはずのトーテムポールは床に転がっていて、隣には下着姿のグレイスが添い寝をしていたのだ。
「なんでだ?!ど、どうしてここに?」
ロイスの頭は混乱した。
グレイスは尖らせた唇に指を咥える仕草をしながら上目使いで迫ってくる。
「ロイスの部屋なら知ってるし」
「どうやって入ったんだっ!」
「備えあれば患いなしって言うでしょう?ずっと前に鍵を借りて複製したの。えへっ♡」
==えへ♡じゃないだろう!==
さも当たり前のように「鍵を渡してくれないロイスが悪いの」とさらにグレイスは距離を詰めて来る。
「やっと入れた♡いつもお仕事の部屋ばかりで詰まんないと思ってたの」
「待て、だとしても…どうしてそんな格好を?」
「愛し合うものが寝台でする事なんて1つよ。でも全部脱ぐとがっついてるみたいでしょう?脱がせる喜びっていうのも男性はあるじゃない?残しておいてあげたのよ?色んな男性とも付き合ったけど‥みんな私の体だけ。やっぱり私にはロイス、貴方だけって気が付いたの」
下着姿のグレイスはロイスの胸をドン!突き飛ばすと馬乗りになってきた。
「やめろ!」
「やぁだ」
ガチャリ。
運が悪い時はとことん悪い。
扉を開けたのはパン粥を持ってきたシルフィだったのだ。
寝台であられもない恰好のグレイスに馬乗りにされたロイス。
シルフィはしばし硬直していたが、まるで時間を巻き戻すかのようにそのまま後ろに下がり、パタンと扉を閉じた。
今も部屋の中にシルフィと2人きりだと思うと、胸の拍動が激しいがロイスは部屋に戻り椅子に腰かけると落ち着きを取り戻した。
「寒いのに上着も着ずに工房に行ったからかしら。流感も流行りだしていますし休息を取るのが一番ですわね」
寝台の準備をしてくれるシルフィの姿を見て、言葉を聞きながらロイスは自分の気持ちに問いかける。
==僕は…彼女に惹かれているんだな==
屈辱的な言葉をかけてしまったのに、シルフィは何時だってロイスには優しい。
シルフィが来てからは今まで知らなかった事を知った。
食事は席についただけではありつけるものではない事。
これまでしてきた執務は執務とは言えないようなものだった事。
清潔な寝具で寝られるのは洗濯をしてくれる人がいるからだと言う事。
自分だけでシャツを着られた日。ロイスの中には感動があった。
たったそれだけと笑わそうだが、ロイスは被ればいいだけの肌着すら自分で着た事はなかった。
胸のボタンを留めるのに1時間半かかったのは今では笑い話。
シルフィはロイスが何も出来なくても笑わなかったし、シフト表は「見やすい!解りやすい!」と褒めてくれた。
一緒に生活をする事で大金は手に入ったけれど、贅沢をする訳ではない。
グレイスだったら…と考えてみる。
父から小遣いだと渡された日は必ずグレイスの元に行き、グレイスの欲しがるものを買ってやった。
翌月にはもう引き出しの中でごっちゃにつっこまれている品は日の目を見る事もない。
それでも「そんなものだ」と思って新しい物を買い与えた。
金額は張るけれど、美味しいと評判の店に行きグレイスと食事をした。
金額が金額だけに確かに美味しかった。
けれど…。
「つまみ食いが一番おいしい」と言いながら「うっ!中がまだ固い!」と一緒に芋をつまみ食いした時の方が美味しかったし、着飾らなくてもシルフィはいつも笑顔でロイスには宝石以上に輝いて見えた。
社交用のドレスだってやっと先月シルフィは買ったけれど、それすら教会のバザーで売られていたもので、手を入れないといけないのにシルフィは大事に手入れをしている。
==ちゃんとしないと==
ロイスは椅子から立ち上がると寝台をそろそろ整え終わるシルフィの元に歩み寄った。
「シルフィ」
「へ?‥あれ?呼び捨てでしたっけ?」
「僕の事もロイス、いや、ロイって呼んでくれないか?」
「嫌ですけど?」
まさかの即答お断りだった。
「さ、さ、寝てください。風邪は引き始めにどう対応するかが大事なんです。今夜はパン粥にしときますね」
「あの、シルフィ。話が‥」
「話は風邪を治した後です。あんな高熱、よく立っていられましたよね。精神論はもう流行らないんですよ?歌にもあるじゃないですか」
「歌?そんな歌あったっけ?」
「よぉく考えよぅ~健康は大事だよ~♪」
「それ、お金」
「あ、あら、違った?あ、こっちだった。体はひっとつぅ!体はひっとつぅ!♪」
「それ、地球な」
「‥‥寝なさい」
デレてはいないが、歌った事で恥ずかしくなり頬を赤くするシルフィに「可愛いな」とロイスはポロリ。言葉を零してしまった。
サッと木彫りのトーテムポールを手に取ったシルフィ。
魔除けになるとバザーでおまけに貰った逸品である。
「可愛いですよね。見る人によっては!ですけどっ!」
グイっとトーテムポールをロイスに抱かせてシルフィは「パン粥作ってきます」と部屋を出て行った。
「あはは。失敗しちゃったな。どうすればいいかな?」
ロイスはトーテムポールに語り掛けたが答えは返ってこない。
流感などではないが、体を包むこの熱は多分、一生冷める事はないのかも知れないと思いながらシルフィがパン粥を持ってきてくれた時のために寝台に潜り込み、トーテムポールを添い寝させた。
疲れていたのかも知れないし、もしかすると本当に風邪を引いてしまったのか。
寝落ちをしてしまったロイスだったが、目を覚ますと同時に飛び起きた。
「もぉ、言ってくれれば私がいつでも添い寝するのにぃ♡」
添い寝をしたはずのトーテムポールは床に転がっていて、隣には下着姿のグレイスが添い寝をしていたのだ。
「なんでだ?!ど、どうしてここに?」
ロイスの頭は混乱した。
グレイスは尖らせた唇に指を咥える仕草をしながら上目使いで迫ってくる。
「ロイスの部屋なら知ってるし」
「どうやって入ったんだっ!」
「備えあれば患いなしって言うでしょう?ずっと前に鍵を借りて複製したの。えへっ♡」
==えへ♡じゃないだろう!==
さも当たり前のように「鍵を渡してくれないロイスが悪いの」とさらにグレイスは距離を詰めて来る。
「やっと入れた♡いつもお仕事の部屋ばかりで詰まんないと思ってたの」
「待て、だとしても…どうしてそんな格好を?」
「愛し合うものが寝台でする事なんて1つよ。でも全部脱ぐとがっついてるみたいでしょう?脱がせる喜びっていうのも男性はあるじゃない?残しておいてあげたのよ?色んな男性とも付き合ったけど‥みんな私の体だけ。やっぱり私にはロイス、貴方だけって気が付いたの」
下着姿のグレイスはロイスの胸をドン!突き飛ばすと馬乗りになってきた。
「やめろ!」
「やぁだ」
ガチャリ。
運が悪い時はとことん悪い。
扉を開けたのはパン粥を持ってきたシルフィだったのだ。
寝台であられもない恰好のグレイスに馬乗りにされたロイス。
シルフィはしばし硬直していたが、まるで時間を巻き戻すかのようにそのまま後ろに下がり、パタンと扉を閉じた。
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