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最終話 まさかのムービングゴールポスト
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疑惑が払拭されたことで、トイプドール商会との事業提携による靴の中敷きの商品開発も無事に公表が出来た。
人とは現金なもので、会場に入った時に嫌な視線を向けた来た者も王妹の孫が絡んだ寸劇も見た事もあってシルフィの冷感ショールに興味を示してくる。
注文もそれなりの数を受けたのだがしっくりこない。
「なんだか…やりきれないわ」
「商売だと思って割り切らないと。社交界なんてこんなものだよ」
「そうだけどっ!そうだけどっ!!んむっ?」
「フィア。美味しい?」
フンフンとやり場のない怒りを露わにするシルフィの口の中にロイスは合鴨のローストを放り込んだ。
――美味しいんだけど…もう1枚いいかな?――
視線が合鴨のローストをサーチし始める。
すかさずロイスは小皿に盛ったローストをシルフィに見せた。
「肉っ!肉だぁ」
「好きだよね。いつも安い肉ばかりでごめんな」
「それは良いの。こういうところの食事と日々の食事を一緒にしちゃだめ」
「もう1枚食べるかい?」
「食べるけど、自分で食べられますよ」
「まぁ、そう言わず。夫の楽しみでもあるんだからさ」
――少々、図に乗ってませんかね?――
★~★
翌日から工房にはアシェル男爵家の工房に残っていた使用人たちが家族と一緒にやってきた。
順番に部屋を割り当てていくと、単身者がどうしても1人余ってしまう。
「やっぱり、私が出なきゃだめかな?」
「お嬢様にはちゃんと夫人の部屋っていう立派な部屋があるでしょうに。掃除もしっかり!私たちが済ませてますよ」
「えぇーっ。このサイズが丁度だったのに」
シルフィは広い部屋は落ち着かないのだ。結局広い部屋をあてがってもらっても使う部分は限られてくるので、単身者用の部屋のサイズがしっくりくる。
夫人の部屋は間に夫婦の寝室を挟んでその向こう側はロイスの部屋。
部屋が足らないのならゴネても仕方がない。いい仕事をしてもらうにはちゃんと部屋もないとモチベーションは上がらないのだ。
他に手ごろな部屋はないかと探してみるが、一気に増えた職人と職人の家族でラーリ伯爵家の部屋は埋まってしまい、空いているのは倉庫くらい。
倉庫でもいいかなと思うが、掃除道具などを置いているのでシルフィが使ってしまうと掃除道具などの置き場所が無くなってしまう。
仕方なく夫人の部屋に移動する事にして荷物をカバンに詰めて扉を開けると。
「待ってたよ。部屋が広すぎるって言ってたと聞いてね」
「そうですね。無駄に広いんですよ」
「いい案があるんだ」
「工事でもするんですか?2室にするとか?」
「いや、この部屋を2人で使えばいいんだよ」
「2人?私にルームメイトがいると?」
「うん。誰だと思う?」
――めっちゃ嫌な気がするんだけど。まさか?――
満面の笑みのロイスは親指を立てて「僕!」と指さす。
そして、「ほら」と手で示す方向には既にロイスの荷物が運び込まれていた。
「いやいや、ロイスさんの部屋はどうするんですか!」
「ロイスじゃなくロイ。ロイね?」
「・・・・(どうでもいい)」
「僕の部屋と夫婦の寝室はグレイスが足を踏み入れただろう?だから改装するんだ」
「は?それだけのことで?勿体ないでしょうに。まだ使える部屋なのに!」
「僕が嫌なんだ。出来れば屋敷も建て直したいんだけど、先に経営を立て直す方が先だし、お金が出来たら郊外の広い屋敷を買って引っ越ししようと思うんだ。郊外なら工房ももっと広くとれるし、みんなの部屋も必要だろう?子供は大きくなるから独り立ちするまで一人部屋ってのも欲しいと思うんだ。僕の部屋と夫婦の寝室、これで簡易に区切れば8人は部屋が取れるよ。クローゼットも扉の位置を変えればもう2人追加だ」
「それもそうですね…って!!家を買う?!何言ってるんです!」
「直ぐじゃないよ。経営がちゃんと立て直しできたらだよ。借金をしてまでの事じゃないけど、いくら世帯用の部屋でも狭くなる。働いてくれる職人だけじゃなく、いずれ巣立っていく彼らの子供たちにもちゃんと部屋を割り当てたいんだ。庭も広かったら増築をしようとしたときに土地を探す必要もない。野菜や薬草とかも育てるスペースを分けられるだろう?なにより中心部より郊外の方が固定不動産税は安いんだ。皆に還元できる!」
うーん‥‥シルフィは考えた。ロイスの言葉も御尤も。子供は何時までも赤子ではないので15年もすれば大人のサイズに成長をする。
言っている事は本当にありがたいが…同時に思う「本当に理由はそれだけ?」
「ん?どうした?」
「理由は本当にそれだけですの?」
「あ~‥‥あるけど、怒らない?」
「内容に寄ります」
「内容か。実は‥こうやって次の目標を建てたら…現状には満足出来てないって事だからフィアが離縁せずにいてくれるかなって…思ったんだ」
「それって郊外に引っ越しをしたらまた目標が出来るんですよね?」
「そうだね。次は工房専用の土地を買って…」
「終わらないじゃないの!ずーっと満足できないままになっちゃう!」
ロイスはクスっと笑ってシルフィから荷物を受け取り、シルフィの手をフリーにすると受け取った荷物を床に置いた。
そして、ギュッと抱きしめた。
「ちょ、ちょっと!何してんですか!!」
「今、エネルギーを蓄積中。ちょっと待ってくれ」
「何のエネルギー?!」
ロイスの腕の中でじたばたと暴れるシルフィだったが、「満タンになった」と離してくれた。
「フィア。妻の座は不満だと思う。でも僕はフィアの夫の座に満足をしたい」
「私、離縁できないじゃないの!!」
「うーん…満足したら離縁。そこがゴールだから。頑張ろうな」
「すっごい騙されている気がする‥実は策士だったとか?!」
「さぁ?どうだろう?」
じぃぃっとロイスを見ると自信たっぷりそうに言ってはいるが瞳が揺れている。不安なのだ。
――こういうところが!!あぁ!!もう!!――
「解った。ロイには負けたわ」
「僕こそいつもフィアには負けっぱなしだ」
そう言いながらも見えない筈、無いはずなのにロイスのお尻の後ろでは尻尾がわっさわっさと揺れている気がしたシルフィ。
――くっ!早いところ満足して離縁してやるんだから!――
そう思ったのに5年後、第一子が生まれたのはなんでだろう。
Fin
★~★
読んで頂きありがとうございました<(_ _)>
人とは現金なもので、会場に入った時に嫌な視線を向けた来た者も王妹の孫が絡んだ寸劇も見た事もあってシルフィの冷感ショールに興味を示してくる。
注文もそれなりの数を受けたのだがしっくりこない。
「なんだか…やりきれないわ」
「商売だと思って割り切らないと。社交界なんてこんなものだよ」
「そうだけどっ!そうだけどっ!!んむっ?」
「フィア。美味しい?」
フンフンとやり場のない怒りを露わにするシルフィの口の中にロイスは合鴨のローストを放り込んだ。
――美味しいんだけど…もう1枚いいかな?――
視線が合鴨のローストをサーチし始める。
すかさずロイスは小皿に盛ったローストをシルフィに見せた。
「肉っ!肉だぁ」
「好きだよね。いつも安い肉ばかりでごめんな」
「それは良いの。こういうところの食事と日々の食事を一緒にしちゃだめ」
「もう1枚食べるかい?」
「食べるけど、自分で食べられますよ」
「まぁ、そう言わず。夫の楽しみでもあるんだからさ」
――少々、図に乗ってませんかね?――
★~★
翌日から工房にはアシェル男爵家の工房に残っていた使用人たちが家族と一緒にやってきた。
順番に部屋を割り当てていくと、単身者がどうしても1人余ってしまう。
「やっぱり、私が出なきゃだめかな?」
「お嬢様にはちゃんと夫人の部屋っていう立派な部屋があるでしょうに。掃除もしっかり!私たちが済ませてますよ」
「えぇーっ。このサイズが丁度だったのに」
シルフィは広い部屋は落ち着かないのだ。結局広い部屋をあてがってもらっても使う部分は限られてくるので、単身者用の部屋のサイズがしっくりくる。
夫人の部屋は間に夫婦の寝室を挟んでその向こう側はロイスの部屋。
部屋が足らないのならゴネても仕方がない。いい仕事をしてもらうにはちゃんと部屋もないとモチベーションは上がらないのだ。
他に手ごろな部屋はないかと探してみるが、一気に増えた職人と職人の家族でラーリ伯爵家の部屋は埋まってしまい、空いているのは倉庫くらい。
倉庫でもいいかなと思うが、掃除道具などを置いているのでシルフィが使ってしまうと掃除道具などの置き場所が無くなってしまう。
仕方なく夫人の部屋に移動する事にして荷物をカバンに詰めて扉を開けると。
「待ってたよ。部屋が広すぎるって言ってたと聞いてね」
「そうですね。無駄に広いんですよ」
「いい案があるんだ」
「工事でもするんですか?2室にするとか?」
「いや、この部屋を2人で使えばいいんだよ」
「2人?私にルームメイトがいると?」
「うん。誰だと思う?」
――めっちゃ嫌な気がするんだけど。まさか?――
満面の笑みのロイスは親指を立てて「僕!」と指さす。
そして、「ほら」と手で示す方向には既にロイスの荷物が運び込まれていた。
「いやいや、ロイスさんの部屋はどうするんですか!」
「ロイスじゃなくロイ。ロイね?」
「・・・・(どうでもいい)」
「僕の部屋と夫婦の寝室はグレイスが足を踏み入れただろう?だから改装するんだ」
「は?それだけのことで?勿体ないでしょうに。まだ使える部屋なのに!」
「僕が嫌なんだ。出来れば屋敷も建て直したいんだけど、先に経営を立て直す方が先だし、お金が出来たら郊外の広い屋敷を買って引っ越ししようと思うんだ。郊外なら工房ももっと広くとれるし、みんなの部屋も必要だろう?子供は大きくなるから独り立ちするまで一人部屋ってのも欲しいと思うんだ。僕の部屋と夫婦の寝室、これで簡易に区切れば8人は部屋が取れるよ。クローゼットも扉の位置を変えればもう2人追加だ」
「それもそうですね…って!!家を買う?!何言ってるんです!」
「直ぐじゃないよ。経営がちゃんと立て直しできたらだよ。借金をしてまでの事じゃないけど、いくら世帯用の部屋でも狭くなる。働いてくれる職人だけじゃなく、いずれ巣立っていく彼らの子供たちにもちゃんと部屋を割り当てたいんだ。庭も広かったら増築をしようとしたときに土地を探す必要もない。野菜や薬草とかも育てるスペースを分けられるだろう?なにより中心部より郊外の方が固定不動産税は安いんだ。皆に還元できる!」
うーん‥‥シルフィは考えた。ロイスの言葉も御尤も。子供は何時までも赤子ではないので15年もすれば大人のサイズに成長をする。
言っている事は本当にありがたいが…同時に思う「本当に理由はそれだけ?」
「ん?どうした?」
「理由は本当にそれだけですの?」
「あ~‥‥あるけど、怒らない?」
「内容に寄ります」
「内容か。実は‥こうやって次の目標を建てたら…現状には満足出来てないって事だからフィアが離縁せずにいてくれるかなって…思ったんだ」
「それって郊外に引っ越しをしたらまた目標が出来るんですよね?」
「そうだね。次は工房専用の土地を買って…」
「終わらないじゃないの!ずーっと満足できないままになっちゃう!」
ロイスはクスっと笑ってシルフィから荷物を受け取り、シルフィの手をフリーにすると受け取った荷物を床に置いた。
そして、ギュッと抱きしめた。
「ちょ、ちょっと!何してんですか!!」
「今、エネルギーを蓄積中。ちょっと待ってくれ」
「何のエネルギー?!」
ロイスの腕の中でじたばたと暴れるシルフィだったが、「満タンになった」と離してくれた。
「フィア。妻の座は不満だと思う。でも僕はフィアの夫の座に満足をしたい」
「私、離縁できないじゃないの!!」
「うーん…満足したら離縁。そこがゴールだから。頑張ろうな」
「すっごい騙されている気がする‥実は策士だったとか?!」
「さぁ?どうだろう?」
じぃぃっとロイスを見ると自信たっぷりそうに言ってはいるが瞳が揺れている。不安なのだ。
――こういうところが!!あぁ!!もう!!――
「解った。ロイには負けたわ」
「僕こそいつもフィアには負けっぱなしだ」
そう言いながらも見えない筈、無いはずなのにロイスのお尻の後ろでは尻尾がわっさわっさと揺れている気がしたシルフィ。
――くっ!早いところ満足して離縁してやるんだから!――
そう思ったのに5年後、第一子が生まれたのはなんでだろう。
Fin
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