元伯爵令嬢の嫁ぎ先は醜男と名高い辺境伯様です

cyaru

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♡婚約破棄をなかった事に?

急な来客だと言うので、玄関に出向いてみればそろそろ元婚約者になろうというプリング公爵家のブルース様が蒼白な顔色で立っておられます。

何事かと用件を聞いて耳を疑いました。


『ツリピオニー。すまないが婚約解消を取り消してくれないか』


ブルース様から【婚約を解消して欲しい】とお願いがあったのが3週間前。日めくりカウントダウンカレンダーもあと6、7枚で無事完了を迎えるという喜びに沸いた日々を送っているというのに何という事なのでしょうか。


わたくしのファータ伯爵家、そしてブルース様のプリング公爵家では共に婚約の解消を了承し、その手続きが進んでおりました。面倒な事に当事者同士、そしてその両親全てが同意をしても書面での手続きにはどうしても最短で1カ月は時間がかかってしまうのです。


『それが‥‥ファータ伯爵家にとってもこの婚約、いや婚姻をする事は大変有意義な事だと気が付いたんだ』


ブルース様やにはそうで御座いましょう。
金蔓となる家が1つ減るかどうかなのですから切実な問題でしょう。


『ツリピオニーの魔力が低い事も、使える魔法があまり役に立たない事も僕は全てを受け入れる覚悟だ』


さりげなく笑顔でわたくしを貶しているブルース様。
確かにわたくしの魔力は多くありませんし、使える魔法も土系統の魔法がメインなので役には立たないでしょうけども余りにも失礼な物言いだと気が付かないのでしょうか。


第一王子は婚約者である侯爵家のご令嬢を冷遇し、平民の女性に傾倒されたのです。

筆頭公爵家に並ぶほどの財力のある侯爵家を蔑ろにした代償は大きく、今まだ王子でいられるのは王妃殿下の御子であるからというだけ。その王妃様の実家は10年前の水害、そして続いた冷害での飢饉と大きな打撃を受け王妃様の実家が廃家となる事は恥だとそれ以来国庫から支援を受けて青色吐息状態。

王妃殿下は金のある侯爵家の令嬢を無理やり王命に等しい状態で婚約者としたものの、当の王子が浮気をしたとなれば侯爵家が見限るのも必然。
婚約が半年前に正式に解消になってからは侯爵家からそれまで工面させていた運営費や支度金も払われなくなり、王妃殿下のドレスや第一王子の装いが新調されなくなっただけでなく、宮の運営にも支障をきたしているとか。

王妃殿下は第一王子を産まれた後、産後の肥立ちが悪く次のお子様が望めない事から側妃様が召し上げられたのですが、ライバル関係で犬猿の仲である王妃殿下と側妃様。王城は殺伐とした雰囲気だと聞き及んでいます。

第二王子は側妃様と国王陛下とのお子様でまだ10歳。
早々にこの国に見切りを付けていた筆頭公爵家のご令嬢だった側妃様は御子である第二王子と隣国の王女殿下と婚約を取り付けており、第二王子は隣国で家を興す予定だったのです。
けれどここにきて第一王子が役に立たないとなれば次の国王は第二王子にという話が勢力を持っても不思議では御座いません。


立太子するにも後ろ盾が無くなった第一王子。後ろ盾が無くなれば日々の生活も圧迫されるのだと何故気が付かなかったのか不思議でなりません。

側近の方々の家にその分を負担しろと言っておられるようですがまさに無理難題でございましょう。彼らも婚約が解消や破棄となっておりますし、第一王子が立太子となった際には宰相と言われたボルテス様の侯爵家は慰謝料で領地を手放したそうですから来年には貴族名鑑に家名があるかどうかの瀬戸際とも聞きます。

何が嬉しくて我が娘を蔑ろにした上で金だけ寄越せと言っている男と結婚をさせようとおもう家があるでしょうか。そこも気が付かないとは学業を疎かにしただけではなし得ない域に生息をされているのでしょう。



『プリング様、今になって何のお話ですの。あと1週間もあれば生涯をかけてお守りすると誓われた平民女性を堂々とお守りする立場になる事が出来ますのに』


馬鹿馬鹿しい話だと、この場にいる意味を見出せません。
わたくしは侍女と護衛に目くばせをして、立ち去ろうとしましたがブルース様の「待ってくれ」という声にブルース様を見やりました。


『話を二転三転させて悪いと感じている、で、申し訳ないんだが…』

『まだ何かございますの?』

『この解消の解消は君が言い出した事にしてくれないか』


これは異なことを申されます。
解消を言い出したのはブルース様で、解消の解消を言い出したのもブルース様。

わたくしは、初回の婚約解消には同意を致しましたが、解消の解消には不同意ですのにわたくしから言い出した事にしろと?ブルース様の中ではもう婚約解消がなかった事になっているようです。
この方の頭の中身は一体どんな花が咲き乱れているのでしょう。

ブルース様の握った手は汗でも絞り出しておられるかしらと思うほどに力強く握られています。こちらとしては、あと1週間ほどでやっと解消なのだという思いで胸がいっぱいですのに。


『お断りいたします。婚約は解消。もう決まった事です。公爵様からは5年間の慰謝料も既に頂いております』

『えっ?慰謝料?どういう事だ』

『どういうも何も‥‥わたくしに贈ったという名目でドレス、宝飾品、旅行などされておられますよね。返せるものは返してほしいと貴方様の執事さんが来られましたので公爵様にも時間を取って頂き確認をしましたの。仕立て屋にあったパターンやトルソーにわたくしの名前が御座いましたが、本人のわたくしとは全くサイズが異なっておりました。宝飾品店の支配人だけでなく店員もわたくしの顔を誰一人知らないなど購入額からしてあり得ません。他家の者の名を勝手に使うという事がどれほどの重罪がご存じですの?そのため慰謝料を支払って頂いたのです。あぁ唯一頂いた誕生日のカードは5枚お返し致しました』


顔色が悪くなられておりますが、どうなさったのでしょう。


『ご用件がそれだけでしたらお引き取りを』

『悪かった。勝手に名前を使って。だが!最後の頼みだと思って…この通り!』


最後の頼みは良いのですが、ブルース様のお願いを聞いてあげるほどわたくしはブルース様に何かをされた事はないのです。だいたい最後のお願い、最後の頼みと言うのを言い出す人は同じことを何度も繰り返し、いったい何時が最後なのだと問いたくなる思考をされているのです。

話をするだけ無駄だと感じたわたくしは今度こそ、カーテシーを取って護衛の元に向かおうと致しました。


『こんなに頼んでいるのに…ならば…傷物になれば…』


不穏な声が聞こえると同時に腰に帯剣されていた剣が抜かれる音がします。
狂気の目にゾクリと足がすくみ、背後の護衛の剣が抜かれ駆け寄る音と侍女の金切り声が聞こえた瞬間肩口から脇腹にかけて冷たい感触が走り、庇う間もなくわたくしは仰向けに倒れました。

『お嬢様っ!お嬢様っ!!誰か!誰か!!』

侍女が叫びながらわたくしの体の上に覆いかぶさったのです。
耳元で大声で叫んでいるのだとは感じるのですが、聞こえる声はどんどん小さくなりわたくしは意識を手放したのです。
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