王太子殿下の願いを叶えましょう

cyaru

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第20話  国を乗っ取るつもりはさらさらない

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不敵に笑うアリステラ。兄は空恐ろしさも感じた。

「国を買うと言っても国土を買う訳じゃないの。国債と商会を買い取るのよ」
「国債?!こんな国の国債なんか買ってどうするんだ。紙グズ同然じゃないか」


アリステラはジト目になった。

「お兄様、紙屑って…一応自国、母国ですわよ?と、言いながらわたくしもこの国の国債など買う気はサラサラに御座いませんわ。紙屑の方がまだ火種に使えますもの」


今度は兄が「考えている事が俺以上じゃないか」ジト目になった。


「国債を買うのは隣国の4国。そして各国で先ずはシェアNO10から8までを買収。するとNO6の売上高に匹敵する。つまり8番目までを纏める事で6番目、いえ、5番目に躍り出るわ」

「その後はどうする。おそらく上位は警戒を始めるだろう。2番手と4番手が手を組んだらどうする?」

「3番手と手を組めばいいじゃない。業界で1番手になる必要はないのよ。国債も持っているんだから売り上げと合わせれば実質の1番手。悪くても2番手にはなれる。問題が起きた時に矢面に立たねばならない表の1番手なんてなりたいとも思わないわ。頼まれてもごめんよ」

「じゃぁアンドレアス殿下の件はどうするんだ?推しているんだろう?」

「勿論。きっと今頃王妃殿下が躍起になってると思うわ。フンッ。とんだ女狐よ。ここに来た時も間者を片田舎の雇われ御者に扮装させて。探りを入れようだなんて甘いわ。だから利用してあげるの」

「御者に扮装させて送り込んできていたのか」



カタタン領に来た時の事を思いだし、フンフンと鼻息を荒くするアリステラ。

カタタン領は王都から早馬を飛ばしても2週間以上はかかる地。普通の乗合馬車や商隊の馬車に乗せて貰ってもアリステラがやってきた時と同じく3週間はかかる。

狭いようで広い領土は端に行くに従って隣国の言葉が混じったりして所謂「訛り」が出る。
雇われ御者は馬車の馬を交換する宿場町から次の馬交換の宿場町を行ったり来たり。言葉に詰まる事も無くアリステラとコンフィーの言葉を聞き、通じる言葉を返せるはずが無い。

おそらくは登城しなくなった頃にアリステラが身を寄せそうな場所に間者を飛ばしたのだろう。それが出来るのは国王か王妃。ルシアーノも出来ただろうが幸いにしてルシアーノはジェセニアの事で手一杯だろうし、先に手を回す事が出来るような男ならコチ侯爵家での失態も回避しただろう。

ルシアーノがジェセニアに傾倒をし始めて、王妃の態度が変わったことくらいアリステラも気が付いていた。以前のままであれば執務が全て丸投げされた時に、そのままにはしなかっただろうし、3分の1を難なくこなすようになっていたとは言え、残りの3分の2も回って来たとなれば、定期的な茶会が1回になったとて、わざわざセッティングした茶会に観劇は過労死しろと言っているに等しい。

おそらく王妃は何処かの領地に身を寄せてアリステラが事を起こそうとするのを警戒したのだろうとアリステラは推測した。

――間違ってはいないんだけど、詰めが甘いのよ――


「女狐王妃はね、元々ルシアーノ殿下にはあまり目をかけていなかったし、下の3人とは扱いも違っていたから、ある程度は考えたはずよ。だから王女殿下擁立ありきと餌を撒いたのよ。法整備と根回しに時間を食うのは判りきってる。これは陛下を誘導する作戦。きっと今頃「なんでだ?」って考えているかも知れないわね。陛下も仕事が出来る方じゃなかったから」

「だから叔父上に低位貴族を纏めさせて殿下を推し、父上には女性王族の即位もありきと匂わせたのか」


アリステラはくすっと笑うとまた立ち上がり、書棚から幾つかファイルを抜き取った。
それを兄の前に広げる。書かれているのは周辺4国の刑法。

「念には念を入れて調べてあるわ。予想通りなら女狐はアンドレアス殿下擁立に向かってまっしぐら。撒いた餌にがっつりとかぶり付いて針が食い込んでくれていれば、糸を巻けば釣り上がる。でも子供には罪はないわ」


アリステラはおどけた表情をして軽く肩をすくめた。


「女性王族でも良いの。4国とも女性王族に対しては極刑がないもの。で、もう1つ。未成年にも極刑はないの。だからどっちでも良かったのよ。王女殿下を推すのもあり。でも男子継承の世の中で最適とは言えない。時間がかかるもの。よく言うでしょ?鉄は熱いうちに打てと。好機を逃す可能性は高いけど…保険も必要よ」

「つまりはだ。この国が欲しいのではなく、アンドレアス殿下を即位させて後ろで操るのも目的ではないと?」

「アンドレアス殿下には即位して頂く。それを後ろから操るのはわたくしじゃなくお父様の仕事。でもね?傀儡にはしないわよ?立派な国王になって頂くわ。そこはお父様も判っているはず。お兄様、勘違いしないで。わたくし、国を統べる気はないの。さっきの事業と一緒。矢面に立つ位置に上り詰めて良いことなんか1つも無いわ。だって天辺を取ったらあとは落ちるだけだもの。ふふっ」


兄はアリステラが経済的に隣国である4つの国で発言権を持ち、場合によっては経済封鎖もチラつかせて国を乗っ取ろうとしているのかと考えていたが、少し違ったようで安心をした。

「なら、ゴードマン公爵家の名は出さず、このままアンドレアス殿下を推しても問題ないんだな?」
「ないわ。むしろ上手いこと事が進むのに女狐が喜ぶわね。せめて石灰の切り出しが始まるまでは夢を見て貰わないと、夢から覚めた時に絶望しないでしょう?」

「父上も言っていたが、つくづく・・・男に生まれなくて良かったな」
「女でも楽しみはあり――」


アリステラの言葉に被せるように勢いよく扉が開き、プレサーブスがアリステラを呼んだ。


「お嬢様!大変です!」
「どうしたの。そんなに慌てて。急がなくてもそこまで広い屋敷じゃないのに」
「何を暢気な事を!峠に向かって早馬が駆けていると!」
「早馬?お父様かしら?」
「いえ、旦那様でしたら単騎で早馬を駆けさせる事は御座いません」

あの御者に扮した間者が王家に知らせを持ち込めばアリステラがカタタン領にいる事はもう筒抜けだろう。が、必要最低限の荷物しか持たず、路銀も僅か。

ともすればゴードマン公爵家から放逐されたとも見られるように移動をしたのだが裏目に出てしまったか。アリステラは思った以上に王妃が狡猾だったのかと首を傾げた。

だが、そうなれば単騎の早馬は合点がいかない。
首根っこを掴むつもりなら、白も黒とごり押して騎士団を編成し、罪人を捕らえるようにやって来るだろう。


カタタン領で雇い入れた従者がまたアリステラの部屋に駆け込んできた。

「反射鏡の知らせです!早馬が峠に入ったと!」
「もう?!どんな走らせ方をしているのかしら」

言葉でなくてもある程度定型文を作っておけば陽の光を鏡に捕え、配備している兵士や領民に光の点滅で知らせるようにしたアリステラ。雨天時や夜間は使用できないが夜は月明かりの中、早馬を飛ばす者はいない。

「出方が読めないわ。取り敢えず石灰山である事を気付かれないようにして頂戴」
「畏まりました」

カタタン領の小さな屋敷に緊張が走る。
アリステラの兄も遠乗り用の腰当てを胴体に巻きつけると「また来る」と裏口に向かった。
密にゴードマン公爵家と連絡を取り合っている事を知られるのを避ける為である。

旧小麦畑に出る道とはまた違う道を通って街道に向かう兄をアリステラは見送り、そのままの速度ならあと30分もしないうちに到着するであろう早馬に意識を向けた。
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